2、ウチの梅干し
私が小さなころ、ウチは農家だった。小さな梅農家。
夏の梅農家は大忙し。子どもの手も借りるほど。
いくつもの大きな樽に、いっぱいの梅と、真っ赤なつけ汁が入っている。それを、真夏の炎天下に干す。
庭いっぱいに何枚もゴザを敷いて、つけ汁からあげて水けをきると、ゴザの上にバラバラと干していく。
しょっぱい汁が好きで、ちょっとでも指を舐めようものなら、爺ちゃんがすごい勢いで怒鳴る。
「コラァ!」
舐めません。すみません。
ささくれがあると痛い。
真夏の我が家の庭は、梅干しだらけだった。なかなかの壮観。
夕立が来ると、大急ぎで取り込まなければならない。洗濯物よりも先!
それくらい、梅干しに雨は天敵。
子どもだった私も、もちろん駆り出されて手際よく梅干しを救出していた。
ちょうどそのころ、巷ではピンクレディが流行っていた。
私と年子の姉は、毎日のように縁側で歌い踊り、ちょっとしたミニコンサートを催していた。
聞き手は「梅干し」たち。
無言で私と姉のデュエットを聞き、美味しくなっていく梅干したち。
よく、植物やお酒にモーツアルトを聞かせると美味しくなるなんて言うけど、ウチの梅干しは私たちのデュエット仕込み。さぞや美味しかろう。




