5、夏休みに突然
あす君が小学2年生になる時、お引越しをした。
急にお引越しをしたため、近所にお友だちがいなくて、放課後遊べない。夏休みも遊ばない。
これではいかん。
夏休みは、いつもできないことをするように、学校からのお手紙にも書いてあった。
よし、ピアノを弾こう!
ということで、突然その夏はピアノを教えた。
後にも先にも、私からピアノを弾けと言ったのは、この時だけだったはず。
簡単な曲(ブルグミュラーの曲)を、週に1曲仕上げるつもりで、まあ、余裕を持って4曲選び、1日2時間弾くように命じてみた。
1曲目、アラベスク。(アラベスクというのは、アラビア風のという意味)
2年生くらいになると、ピアノを習っている子はみんな弾く、あの有名な曲。多分、学校の音楽室で誰でも聞いたこと、あるんじゃないかなー。
あす君は、それが気に入ったらしい。
しかし!
あす君は、非常に不器用だった。あの速い16分音符を1週間で仕上げられるはずがない。
そして集中力が15分しかない。
15分毎に1枚シールを貼って、1日8枚分、頑張って弾きつづけるあす君。
やっとのことで、夏休みが終わる頃には、ノートはぎっしりとシールが並び、あす君のアラベスクも完成した。
その1曲がものすごく大変だった。
やっぱり、我が子のピアノを見てやるのは、これっきりにする、と誓った母だった。




