15、1人でなんて
前回は、体調不良でも歌わなきゃならない、という話をした。
代役なんてないのだから仕方がない。
歌い手の私に代役がないように、伴奏者にも代役はない。
リサイタルのプログラムには、歌う私だけではなく、もれなく伴奏者の名前もプロフィールも載せる。
つまり、名前が書いてあるということは、私が歌い伴奏者が弾かなければならないということだ。
ところが、過去に何度か伴奏者が急病でこられなかったことがある。
ほとんどの場合は、急病だろうが何だろうが息も絶え絶え弾いてくれるけれど、どうしても来られないことがある。伴奏者だって人間だ。
しょうがない。
今回は、歌いません。ということになった。あれは悲しかった。まあ、内輪のコンサートだったし、出演者は私だけではなかったので、仕方がないと割り切ることもできたけれど。
一度は、他の歌い手の伴奏者に当日急きょ頼んで歌わせてもらった。
慣れない伴奏者と本番一発合わせ。ものすごーく緊張した。
歌えなくはないけれど、緊張度が違う。お互いに「合わせなきゃ」というのがありありと浮かびあがる張りつめ度が半端ない。
それでもなんとかできるところがプロなのだろう。
しかし、どんなにプロでも、1人では歌えないのが声楽家、なのだ。




