21、ピアノのふた
ふたを閉めるのが好きな子の話が出たので、その子がいかにふたを閉めるかを書こうと思う。
まずレッスンのはじめに聴音をする。
聴音は、聞くだけなので、ピアノのふたを開ける必要はない。
だけど開ける。まず座ったら開けるのが男子だから。
「まだ開けなくて良いよ。はい、閉めて~」
というと、ソーっとふたを閉める。
しかもいたずらっ子のようにキョロキョロと大きな目をして私を見る。
カタンと言わない絶妙な閉め方をする。
そして、無音でふたが閉まるとその子と私で
「おお~」と、言う。
これが“儀式”だったりもする。
1、聴音をして、ふたをあけて、テクニックの練習をする。
2、楽譜を見てピアノを弾く。
3、合格する、とシールを貼る。
4、シールを貼る時に、ピアノの中にシールが落ちてしまうことが多いので
「ふた閉めて」
と言うと、また“儀式”がある。
次の曲を弾くために2に戻る。合格するとシールが貼れる。シールが貼れるとふたを閉められるので、儀式が増える。
合格がしたくて練習をしてくる子は多いが、ふたを閉めたいために練習をしてくる子はこの子だけである。
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話しは変わるが、私の伴奏者は、幼稚園児の子どもがいて、その子がエラいやんちゃ。
お母さんがピアノを弾いていると、いきなりすごい勢いでふたを閉めるらしい。
「本気で指が危険」
ということで、彼女は自分の高級グランドピアノのふたを、ガムテープで開けっ放しに固定してある。
たかがふた。されど蓋。




