16、きれいな手
どのお母さんも、ピアノを弾く時は手をきれいに、ということを知っているので、家を出る前になるべく手を洗って来てくださる。ありがたい。
とはいえ、相手は小学生又は幼稚園男子。
うちに来た途端に
「せんせー、見てー!へんな石~!」
ああ、石?じゃなくて、それは煉瓦のかけらだね。どこで見つけたんだろう?
「そこで、見つけたんです。すみません、先生」
と、お母さんがその子から石を受け取って隠す。
だけど、手は石を掴んだ手。
せっかく洗って来てくれても、ウチの直前で石を触ることなど、いくらでもある。
ということで、速攻トイレで手を洗う生徒さん。
手だけではなく、全身が汚れている場合もある。
「うぎゃー!」
泣きながら、ウチに入ってくる生徒さん。
見ると、顔面に土がついている。良く見れば膝も血が出ていて、手も泥だらけ。
どうしたー!
「そこで転んだんです」
うわ~、ソコで転ぶか。
だから、ウチに入ってきた瞬間から大泣き状態でドロドロ。
「よしよし、こっちおいで」
普段は入れない居間に行き、顔と手足を拭いてやり、血が出ているところを消毒して、絆創膏を貼ってあげる。
「痛いの痛いの、飛んでけー!ほ~ら、もうあんなところまで飛んでっちゃったよ」
「ほんとだー!せんせー、すごーい」
ちなみに、コレ、程度の差こそあれ、ほぼ毎月誰かしらやらかしてくれる。




