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転生魔王の日常

作者: 鈴音
掲載日:2015/01/16

新しいゲームを買い、早くしたいがために、凄い勢いで自転車を漕いでたら、あっさり交通事故で死んでしまいました。

最悪ー!

せめて、ゲームをしてから死にたかったー!

そして、気がつくと、私は魔王に転生してました。


真っ黒で、装飾品もないがらんとした王の間の、玉座に座り、私は暇してた。

「ねえ、暇なんだけど。フェンネル君」

私は隣にいた自称魔王の従順な僕の魔族に暇潰ししてもらうことにした。

だって、彼が、「お待ちしていました、魔王様」って、私を出迎えてくれたし。

「ですから、人間どもを滅ぼしに行きましょうよー」

フェンネル君は綺麗な顔を歪ませながら、私にいつもと同じことを言った。

あーあ、せっかくの綺麗な顔が台無し。


フェンネル君は、魔族なのに、姿は人間とはあまり変わらず、美形でスタイルが良い。頭にある角さえ、気にしなければ、イケメン。

上級魔族は人形になれるとか。

実際、魔王の私も前世の姿とあまり変わらない。頭の角以外は。

何、この角。

いらないんだけど。

「魔王様ー」

フェンネル君はまた困ったように、呼び掛けた。

彼は魔族の割には、押しが弱く、ワンコみたいな従順な性格だ。

「嫌。だって、めんどい」

確かに、ネット小説とかで、異世界転生を好きで読んでたよ。

でも、実際そうなると、面倒くさいよ。

しかも、魔王って。

私には人間滅ぼして、世界征服したいとか野望ないし。


それより、ゲームしたい。

ネットしたい。

漫画、小説読みたい。

っていうか、魔王にならなくても良かったから、死ぬ前に買ったゲームしたいー!

「はあ、お腹すいた」

心の中で叫んでいると、疲れた。

「では、料理を用意しますね」

「また、とかげの唐揚げとか嫌。鶏肉の唐揚げがいいー! というか、日本食!スイーツ食べたい!」

魔族故の食事にうんざりして、私は日本食が懐かしくなった。

ああ、日本人だった私に戻りたい。

「しかし、人間の食事など……」

「嫌ー! 食べたいー!」

ただをこねる我が儘な私に、困った表情をしたフェンネル君は頭を抱えて考えた結果、こう言った。

「分かりました。人間のコックというものを連れてきます」

彼は頭の角を魔術で隠すと、悪魔みたいな羽を生やして、窓から飛んでいった。

なんだか、もう慣れたね。

頭の角とか、魔術とか、悪魔みたいな羽とか。

驚いていたのは最初だけ。

私も魔術を教えてもらい、興奮してた時期が懐かしい。

魔術を使いなれた今は、退屈なだけ。

あ、フェンネル君が帰ってきた。

早いね。

なんか、泣きそうな顔のおじさんを連れてきた。

白い服着てるし、多分コックだね。


「あー、美味しいー! やっぱりこれこれ!」

あれから怯えているコックさんに、フェンネル君が更に脅しつつ、私がお願いしつつ、鶏の唐揚げ、サラダ、タルトに生クリームたっぷりのケーキ、チョコレートクッキーとかたくさん作ってもらった。

魔王は太る心配ないから、最高!

「あ、フェンネル君ありがとう! 食べる?」

「結構です」

お礼に私が唐揚げを差し出すと、フェンネル君はため息をつきながら、首を横に振った。

美味しいのに、食べないんだ。

もったいない。

「お気に召したようで、良かったです。その、それで、私は一体いつ帰してもらえるのでしょうか?」

びくびくしながら、コックさんが言ってきた。

「えー? 帰っちゃうの? コックさん帰ったら、フェンネル君がこの料理作れる?」

「無理です」

フェンネル君には珍しく迷わず即答してきた。

「コックさん! 此処にいて? そんで、私に毎日食事作ってください!」

私のお願いに、コックさんは真っ青な顔で固まってしまった。

「魔王様。人間がいたら、食べられますよ?」

「え? 誰に?」

「私以外の魔族に、です。人間は魔族の好物ですから。私は食べる気が起きませんが」

わぁお。こわーい!

コックさんも震えだしちゃった。

「じゃあ、食べられないように、命令書出しておくね。名前付きで」

私の名前付きの命令書には、魔族の皆さんは逆らえないらしい。

もし、逆らおうとしたなら、魔王の魔力で消滅しちゃうとか。

これも充分恐い話か。

素早く書いた命令書を、コックに渡した。

「これで、食べられないからね。あ、それと、貴方の料理に必要な物は皆に必ず用意してもらえるようにしたから。毎日、別の料理をお願いします。たまには、私のお願いも聞いて、料理を作って欲しいです」

コックさんは、相変わらず真っ青な顔だけど、コクコクと凄い勢いでうなずいていたので、大丈夫でしょ。

「という訳で、フェンネル君。コックさんに部屋をよろしく。なんか困っていたら、世話してあげて」

「……分かりました」

なんか不満そうだったけど、フェンネル君はコックさんを連れていった。


それからは毎日、コックさんのおかげで、美味しい食事にありつけ、満足な日々を過ごしていた。

コックさんも、最初はびくびくしてたけど、段々慣れてきたのか、料理を食べる私の顔を嬉しそうに見るようになった。

どうやら、コックさんは王宮の料理人だったらしい。

ただ、色々規則やらうるさくて、好きに料理作れなくて、うんざりしてたとか。

そんな時に、フェンネル君にさらわれたらしい。

私の下では、好きなように料理作れるから、嬉しいとまで言ってくれた。

しかも、この世界にはない日本食を、私の分かりにくい説明で作ってくれた。

コックさんがいい人過ぎて、なんか無理矢理連れてきて、すいません、我が儘ですいませんって、謝っちゃうぐらいだ。

コックさんは、むしろありがとうって、お礼を言ってくれた。

私はこんないい人の料理を、フェンネル君達にも食べて欲しくて、無理に食べさせると、意外に好評だった。

魔族達にも人気になったおかげで、命令書がなくても、コックさんは食べられなくなった。

食べようとする魔族がいると、コックさんの料理を気に入ってる他の魔族が守ってくれるからだ。

そんな感じで、コックさんもこの生活に馴染んできた頃、嵐は唐突にやって来た。


その日は、私がコックさんにケーキのタワーを頼んでいた。

「真央様。頼まれていたケーキのタワーができました」

コックさんとケーキのタワーを一緒に運んできたフェンネル君がやって来た。

ちなみに、真央は私の名前。

魔王に引っかけた名前って訳じゃないよ。

前世の名前です。

魔王の名前は自分で決めていいってフェンネル君が言うから、そうした。

コックさんの名前も聞こうかと思ったけど、下手に人間の名前を呼ぶと、どんな命令も従わせてしまうらしいので、やめた。

あくまで、コックさんにはお願いという形で、料理を作ってもらっているし。

人間が魔王の名前を呼ぶのも危険らしいが、私が大丈夫なので、大丈夫でしょ。

「わぁー! 凄ーい!」

夢にまで見たケーキのタワー!

浴びるほどケーキを食べるのが夢だったけど、太るのを気にして、前世ではできなかった。

「美味しそうですねぇ」

今ではすっかりコックさんの料理の虜になったフェンネル君が、ケーキのタワーをキラキラした目で見つめていた。

そんな私達を見て、コックさんは満足そうな顔をした。

しかし、またもや、私の夢は叶わなかった。

突然、扉を破ってきた炎がケーキのタワーを少しも残さず焼き尽くしてしまったのだ。

「ちょっ、ケーキ!! 私のケーキのタワー!!」

コックさんもフェンネル君さえもただ茫然とそれを眺めていた。

「魔王!! 覚悟しろ!」

そんな声とともに、乱暴に扉を蹴破りながら、やってきた集団があった。

いかにも、魔法使いという黒いローブを着た男と、立派な鎧を着た騎士、後ろには無駄に美形な男、その隣には可愛らしい女の子が、剣を握って立っていた。

「勇者が来たからには、もうお前もおしまいだ!」

騎士が偉そうに叫んだ。

女の子以外は全員力強くうなずいた。

女の子はちょっとうんざりしてる。

あ、なんか可哀想。

「魔王様、勇者ですって。大変ですよ! 皆を呼びましょうよ」

固まっていたフェンネル君が、我に帰って、焦ったように言ってきた。

「いい」

「え、でも」

何か言いかけたフェンネル君は、私の怒りに気づいたのか口を閉ざした。

久し振りに、コックさんが怯えてる。

すいません、コックさん。

でも、どうしても許せないから。

「さっき、火球を打ち込んできたのは誰?」

「は?」

私の質問に、勇者ご一行は怪訝な顔をした。

「さっき、火球を打ち込んできたのは誰だって聞いてるだろうが、答えんかい!」

思わず前世の口調が口から漏れた。

「私ですが。あ、当たりました? 怪我はしてないようですが、こんなものに当たるとは魔王も大したことはありませんね」

黒いローブの魔法使いが、嫌味ったらしく答えた。

「お前かー!!」

私は恐い顔ですっ飛んで行った。

ローブ男は何やら呪文を唱え、魔法を使ってきたが、私はそれらを全部無効にし、魔法を使えないように魔術をかけた。

そして、頭に拳骨を力一杯落とした。魔法使いは気を失った。

「全く、ケーキを無駄にして! せっかくコックさんが作ってくれたのに! 食べ物の恨みは恐いんだからね!!」

私は文句を言いながら、周りを見渡した。

「で、あんた達は何しに来たの?」

さっきの勢いはどこへやら、すっかり怯えてしまった男性陣を押しのけ、女の子が口を開いた。

「宮廷料理人を取り返しに来たんです。あと、魔王退治。私は勇者らしくて」

女の子は真剣な顔で言った。

「え? コックさんを取り返しに?」

私は思わずコックさんを見た。

コックさんはビクッと体を震わせた。

「ええ。そうです」

女の子は真剣にうなずいた。


私は思わず、吹き出した。

「ぶっ、あははは! 囚われのお姫様じゃなくて、囚われのコックさんを救いに来たのー!」

ダメだ。

笑える!

「ええー! 何それー! おかしー!」

腹を抱えて笑いだした私を、茫然と皆が見ていた。

いや、ただ一人だけ私に賛同してくれた人がいた。

「ですよね! おかしいですよね! いくらなんでも、王子や王女じゃなくて、コックって! しかも、わざわざ異世界から私を呼び寄せて! 魔王討伐とか!」

私に事情を説明してくれた女の子だった。

どうやら、彼女が勇者らしい。

話が止まらなくなった彼女によると、いきなりこの世界に召還されて、勇者として訓練させられ、あれよあれよと魔王討伐の旅に出されたとか。

嫌だったのに聞いてくれなかったとか、元の世界に帰して欲しいのに、してくれなかったとか。

散々愚痴を言うと、彼女は最後にこう言った。

「私は、家でゲームをしたかったのに!」

私はその言葉に反応した。

「貴方もゲームするの?」

「え? はい」

唐突な私の質問に、彼女はきょとんとうなずいたが、次の瞬間、目を見開いた。

「え? ええー!! 魔王もゲームするのー!」

「ええ。というか、前世の私が。ゲームを買った帰りに交通事故に遭って、魔王に転生したの」

「そ、そうなんだあ」

「あ、貴方、私の遺品を預かって、これ、貼ってくれるって約束するなら。元の世界に戻してあげてもいいよ?」

私は懐から魔方陣を書いた紙を差し出した。

異世界から前世の私の物は取り出せなかった。

ただし、調べた結果、魔王の魔方陣が書かれた物は、どこでも呼び出せるらしい。

試して見たかったが、異世界に行ける道は開けても、帰る道は開けないので、試そうにもできなかったのだ。

「ホントに!?」

食い付いてきた勇者ちゃんに、私は力強くうなずいた。

「あ、ついでに、ゲーム友達になってくれると嬉しいんだけど」

「いいよ! というか、私も欲しかったんだよね! ゲーム友達!」

「あ、恐くない? この角とか」

「全然!」

私と勇者ちゃんの間で、話はどんどん進み、勇者ちゃんは私の親友ということで、両親から私の漫画からゲームまで預かってくれることになった。

ついでに、私の名前入りの手紙も渡したので、両親に怪しまれる心配なし。

お父さん、お母さん、私はこの世界で元気なので、私のことは気にせず、楽しく暮らしてください。


「ちょっ、ちょっと待て!」

私達の話に割り込んだ無粋な人がいた。

あの、無駄に美形な男だ。

正直、フェンネル君の方が格好良い。色々な意味で。

「優衣、本当に帰るのか?」

「ガルシア王子。今までお世話になりました!」

勇者ちゃんは優衣って名前らしい。

あと、美形君は王子だったのね。

優衣ちゃんは笑顔で、王子に別れを告げた。

王子はショックを受けた顔で一瞬固まったが、慌てて引き留めた。

「待ってくれ! 優衣! 俺は君のことが好きなんだ!」

あら、大胆な告白ね。

「ごめんなさい。私は友達だと思ってました」

あっさりと振られた王子の代わりに、騎士が口を開いた。

「じゃあ、俺はどうだ? 魔王王子よりいいだろ? 優衣!」

あら、優衣ちゃん、モテモテ。

ただし、騎士はうっとうしいし、ナルシストっぽいから、私は嫌ね。

「ごめんなさい。私はうっとうしい男だと思ってました」

「なっ!」

意外と毒舌な優衣ちゃんの言葉に、騎士がショックを受けたように、真っ赤な顔で口をパクパクさせた。

「ガルシア王子だけが、私の友達です」

その言葉に立ち直った王子は、まだ食い下がる。

「だったら、俺にチャンスをくれないか? 恋人になるチャンスを」

「え? でも、もう私帰りますし」

「あ、でも、優衣ちゃんにはまだ魔王城に来てもらうから、王子君が魔王城に来るなら会えるよ?」

ちょっと王子が可哀想になったから、私はそう言った。

「優衣ちゃんにはゲーム友達として、何度か来てもらう気だし。多分魔方陣があれば、この魔王城には来れるはずだし」

「分かった! では、またな! 優衣!」

王子はそう言うと、仲間を急き立てて

潔く去っていった。

「えー、困るー! 魔王様ー」

「あ、私の名前は真央だから」

「真央って魔王様らしいね」

「それ、言わないで。あ、コックさん! 悪いけど、ケーキのタワー作り直してー! お願いします!」


そうして、私は優衣ちゃんというゲーム仲間と、ゲーム、漫画を手に入れた。

王子は相変わらず懲りずに、優衣ちゃんを口説きに来ているし、ゲーム仲間にもなった。果てには、魔王城に住み出した。

フェンネル君もゲーム仲間に加わり、コックさんがケーキを用意し、小さなパーティーみたいになる。

コックさんも、美味しそうに食べてくれる相手が増えて、嬉しそうだし。

私は暇が潰れて、万事解決!


この後、王子が生け贄として魔王城に行くことで魔王が世界征服をやめた、という伝説が作られることを私は知り、知らない人は勝手だね、と呆れたのだった。


終わり

突然、思い立って書きました。

本当は、オタク転生魔王と、オタク召還勇者が友達になる話だけだったんですが。

書いているうちに、コックさんがやけに目立ってしまいました。

あ、コックさんを救いに来たという勇者達の言葉は魔王退治のための口実です。

ただ単に、魔王が恐ろしくて、王族達は退治したかったけど、理由もなく、勇者召還も、魔王退治もできないので、さらわれたコックさんを大義名分に使っただけです。

勇者、優衣とガルシア王子の恋の行方は皆さんで想像してください。

短いですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

活動報告に、彼らの設定が書いてますので、暇潰し程度に読んでいただけたらと思います。

ありがとうございました!


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