2話:後悔……否、航海の果てにたどり着いた希望の大地 ☆彡
「うぅ……」
ソナタは頭を振った。
伴って、髪からパラパラと乾いた砂粒が落ちる。
「やっぱり、巨大烏賊には勝てなかったよ……」
意識を無くす直前の光景が、ソナタの脳裏に蘇った。
嵐の中始まった強制バトル、敵は体高15mのイカ。
13階梯の魔術を使ってもノーダメージの上、
ワンパン1000万点の10連続攻撃、キャストタイムは1.5秒という鬼畜仕様、勝てるわけがなかった。
その上、既にHP0で倒れたソナタに向かい、
「くっ、なんという強敵……」
(おいおい……)
何故か絶たれない意識の中、バグとしか思えないセリフに突っ込みを入れるソナタだが、イカのご乱行は止まらない。
「もう、殺られる前に……やるしかない!」
(…………)
「奥義……!」
あまりにもアホな展開に、「こいつ、なんて名前の奥義を使うんだろうなあ」等と他人事のように考えたソナタ。
だが、
――バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!
突如、技名も叫ばず始まった乱打。
(えっ!)
バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ……
(け、結局、技名叫ばないのかよ! だったら「奥義!」とか思わせ振りに叫ぶなよなっ!)
イカは、否、某運営会社の新入社員が適当に作ったというスクリプトは、軽く斜め下を突き抜けた。
乱打を受けて崩壊していく船。
マストが、帆が、舳先が、材料であるところの木材、布切れ、鉱物片へと回帰していく。
自動操縦式のご都合主義ゆえに、乗組員がいないのは不幸中の幸いだが。
その苛烈極まりないトドメにより、意識が漸くホワイトアウトしはじめるソナタ。
(や……やっと終わったか……)
アホな茶番劇からさっさと解放されるべく、これ幸いと意識を手放した。
そして、目を覚ませば、波の音、蒼い空、白い砂浜、椰子と思われる南国の植物。
どうやら無事に新大陸にたどり着いたようであるし、まあ、酷い目にあったが結果オーライ、そう思っていた。
――の、だが。
「わ! 変な土座衛門が起き上ったぞ!」
「ほんとだ! 突っついてやれ、つんつん」
「無様な姿を動画取って、上げるンゴ~~」
(一体なんなんだこのクソガキ共は……っ!)
一難去ってまた一難だ。
倒れていたソナタは、数人の子供に細い流木で突かれたり、スマホの様なマジックアイテムで醜態を録画されたりしていた様だった。
――がばっ!
起き上がると、今度こそ、白い砂がパールピンクのドレスシャツや黒革のズボンから勢いよく剥落した。
「あ! ……な、なんだよ、やる気か、此奴!」
「でけぇ、巨人だ! 巨人女だ!」
「ま、負けないンゴ!」
「……」
身長170センチのソナタは、まだ5,6歳と見える子供たちからは非常に大きく見えたらしい。
精神性は男であるから、別に女としての仮初の身体を褒められたいという気持ちは微塵も無いが、
クソガキ達の態度には段々と腹が立ってきた。
(少し、教育的指導を施そうか?)
相も変わらずつんつんとうざったらしい攻撃を加える子供たちに白目を向けた時だった。
「こぉらぁっ!」
凛、とした声が砂浜に隣接する南国植物の茂みの向こうから。
「げ、リーゼ姉ちゃんだ!」
「うるせえのが来た!」
「戦略的撤退ンゴ、負けたわけでは無いンゴ!」
すると、子ども達は口ぐちに悔し紛れの雑言を吐きながら蜘蛛の子を散らして逃げ出していった。
(……浦島、太郎?)
助けた亀は自分、そして彼が招待すべき浦島は、
「はぁ、はぁ、……もうっ! あの子達ったら!」
小柄な少女であった。
「!?」
栗色の髪と瞳が印象的な美しい少女。にも関わらず、若い娘ながらに質素な衣服。
近辺の漁民の娘であろうか。
だが、ソナタが驚いたのはそこではない。
「獣……耳?」
24時間ログイン不可を忌避して新大陸への遭難イベントに挑まなかった、ゲームが無いと死んじゃう系中毒患者ソナタ。
(他の攻略組の知り合いに直通ゲートを開いてもらおうと考えていた)
そんな彼がゲーム・現実を通じて初めて出会った新大陸の少女の頭には、なんとウサギの耳が生えていたのであった。
(そう言えば、クソガキ共の頭にもなんか違和感あったな……)
耳、として思い出すと思い当たった。
こちらを兎耳とすると、あちらは犬耳だが。
そうしてみると成る程、新大陸には多様な獣人族が暮らしているようだ。
「あの……大丈夫ですか?」
「ええ、まあ」
「ごめんなさい、あの子達ったらホントにもう!」
「あはは、助かりました。あ、俺……私はソナタっていいます。旅の魔術師なのですが、船が難波してしまって途方に暮れていたところで」
でなければ児童虐待に手を染めるところでした、との言葉は飲み込み、手を差し出すソナタ。
受けて遠慮がちな手が、ふに、と添えられた。
「遅れました。私はシフォニア……と申します」
「シフォニアさんですか、素敵なお名前ですね」
「!?」
社交辞令半分の返しに過剰反応を示した少女は誉められ慣れていないのだろうか。
彼女はビクリ、と電気ショックを与えられたかの如く身動ぎした。
――それが、良くなかった
急激な動きを示す少女の身体のとある一点が異常な挙動を示したのだ。三秒先のラッキースケベも見逃さないソナタの動体視力はこれに全自動で反応する。
(こ、これは!)
そして、彼は驚愕した。
――なんと、敵はG級であったのだ。
けしからんことこの上無い。
双丘の巨大要塞に、是非とも威力偵察を敢行せねばとの使命感が沸き起こるソナタ軍曹。
であるが、本当におタッチすると社会的に死亡して第一村人とのファーストコンタクトにおっ……失敗し再び浦島の助けを待ちながらクソガキのサンドバッグに逆戻りするのは必定であり、故に自粛した。
そもそも、少女の体にTSしてからというもの、彼の肉体は男性的リビドーを惹起する事は無かったが、一方で思春期の脳は春満開、暴発寸前なのだ。
――それにしても、女の体とはここまでポーカーフェイスが可能なものなのか。
ソナタは舌を巻いた。
脳ミソはまっピンクでありながら、顔は冷静を崩さず、視界もさりげない自身がある。お陰で偵察が露見し社会的に(以下略)の心配もないのだ。
「あの……」
「ん?」
そんなラチも無いことを考えていると、少女はおずおずといた様子で、上目遣いにソナタを見上げていた。
癖の無い真っ直ぐな可愛らしさに、ソナタの胸がときん、と鳴った。
「やっぱり、変ですよね、私……」
「?」
どういうことだろうか。
ソナタがいぶかしんでいると、一度ぎゅっと目をつむった少女は意を決した様子で口を開いた。
「胸が!」
「へ?」
刹那にソナタの胃の奥からヒヤリ、としたものがかけ上った。
嫌な予感しかしない……。
「胸、私の、変ですよね? その……大きすぎて気になってます、よね? ……さっきからっ!」
「ブッ!」
ソナタ三等兵の偵察行為は大失敗である。
邪な視線が確りバレていた、という事実に、ピンク色に染まった脳内が急速に燃え尽き、真っ白な灰になる。
そなた は しんでしまった(しゃかいてきに)
――bad end 2 「おっぱいには勝てなかったよ」
――contiue?
脳裏に浮かぶゲームオーバー画面に茫然自失である。
「はぁ、大きすぎて不恰好なのは分かってるんですが……」
「男性からは露骨な視線も有りますし……正直、気持ち悪くって」
が、そんな彼を余所に、悩める少女は特に咎めることも無く心の内を明かし始めた。
「はぁ……」
ポヨン、とした問題の柔らかみに手を置いたまま、
再度見上げる視線。
「羨ましいです」
「?」
パニックのあまりに、何が? との言葉すらも浮かばずに生じた沈黙は期せずして先を促した。
「スラリとされてて。私、手も足も短くて、その上この……不恰好で」
「えっ! そんなことない……可愛いよ!」
「良いんです。私なんてソナタさんみたいな美人の方に比べたら」
(……ん? 美人? まるで女同士みたいな……!?)
その言葉に漸く、ソナタは自身が女の姿であったことを思い出した。
――危っぶねぇ、ギリギリセーフ!
彼はこの時、初めてTSしたことを心から神に感謝したのだった。




