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1話:希望の大地 ☆彡

かつて、「スペルマスター」というゲームがあった。


”美しい言葉が響きあう”とのキャッチフレーズと裏腹に、

自由にスペルを設定できるそのゲーム性を一部プレイヤーが悪用し、

とても公の場で発せられないような下ネタ満載の魔術で溢れかえり、

最後にはそれが仇となり、サービス終了となった。


そんなゲームの世界に、召喚されてしまった姉弟がいた。

奇しくも弟の方は、ゲームのアバター、魔法少女としての姿で召喚されたため、

姉弟と呼ぶべきか、姉妹と呼ぶべきか、悩ましい処ではあるが。


二人は旅路にあった。

姉が将来にかかるであろう”不治の病”の治療方法を探す旅だ。

一度は病に倒れ命を失った後に、とある奇跡により時間を巻き戻されたのだが、

それは同時に再び数年後に同じ病が訪れることを意味していた。


大陸の東西南北を廻り、あらゆる秘境・ダンジョンを踏破し、

そして、とうとうヒントの一つも得られなかった。

だが、二人は諦めていなかった。まだ、未踏破の地があったからだ。



「こうなったら……行くしかねえな新大陸、●ープランド」

「ホォッ!」

爽やかな朝、旅の途中に宿泊した高級ホテルのカフェで突如発せられた、場違いな、そしていつも通りの姉の暴言に、ソナタは思わず飛び上がった。


「……ー●ー? う~ん、お前の皮かむりに関する悩みは分かるが今はだな……」

「違ぁう! そして、俺はHKじゃねぇ……こほん、ソレはともかく! 『ホ』ープランドだよ、ホ・オ・プ・ラ・ン・ド! 公衆の面前で……勘弁してよ、姉さん」

とほほ、とでも効果音の入りそうな雰囲気を醸し出し肩をがっくり落としたソナタの様子に、

姉のユカリ、プレイヤーネーム≪エリザベート≫はふっと息を漏らして、微笑んだ。

「別にいいだろ? ネットの某掲示板じゃ、ソッチで通ってたんだ」

小作りな美しい顔、切れ長の薄い紅茶色の目、白く瑞々しい肌の上を艶やかな黒髪が緩く流れている。

シンプルな赤い口紅を差した潤いのある唇が開けば、誰もがドギマギするであろう、そんな美少女は、

しかし、それら造形の美から想像される、ありとあらゆる範疇を飛び越えたトンデモナイ言動で弟を翻弄する。


「まあ、ポコチーニが落札してたら確実にそうしたんだろうけどさ……」

ソナタは嘆息した。


一方の弟、ソナタ。

こちらは、弟とはいうものの、異世界に召喚された際にゲームの、少女アバターの姿になってしまった。

ストレートに伸びた、こちらも黒髪を今は久しぶりのツインテールに留めている。

紅い山査子を象った琥珀の髪どめが黒の中で慎ましやかに映えていた。

黒い目はやや丸みを帯びた棗型で睫毛は長く、姉を美人と評するのならば、こちらは可憐という印象。

元の性別に引っ張られたせいか、姉よりも背は大きく170cm程あるスルリとした肢体も、カッコ良さより、少女特有の清廉なしなやかさを思わせる。


そんなソナタを弟と呼ぶべきか、妹と呼ぶべきかについては一議論を要する。

ただ、本人は自身を男と認識しており、周囲で好意を寄せるのもまた、女性陣であり、

そういう意味では「弟」と評するのが妥当なのであろう。


それはともかく。

実装後、最前線の攻略組ですらも道半ばでサービス終了したため、その全容は不明だが、固有のアイテム・魔術他、新しい要素が大量にあると噂の新大陸。


意外な事に廃課金王者ポコチーニが落札し損ねたため、極めてまっとうに、

デフォルト名の「希望の新大陸ホープランド」と相成った。

余談だが、その時のポコチーニの悔しがり方と言ったら、それはもう大変なものだった。

彼のぼっちギルド『淫者の庵』のプロフィール欄が、

「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した俺は失敗した……(以下エンドレス)」

となっており、一切コメントに応答も無かった程だ。


「元々、ゲーム時代にカバーされた知識なら全部頭に入っているんだ。一応、念のため、現実とゲームのギャップが無いか確認したが、想定通りの物しかなかったからな」

「超、弾丸ツアーだったけどね……」

ソナタは遠い目をした。

わずか1週間で大陸全土のダンジョンを踏破。いくら、カンスト級の廃プレイヤーの能力を持って異世界にトリップした二人とは言え、二度とやりたいと思えないレベルの荒行であった。

特にソナタは何度か、スピード攻略のため、姉によって囮にさせられた。

一番ひどかったのは、超高速で落下するものにしか反応しない天空龍王を最短で出現させるため、

簀巻きにされた挙句、高さ2000mの塔から紐無しバンジーをさせられたことだ。


ゲーム時代であれば、それは「簀巻き用の縄」というアイテムを手に入れ、

キャラクターに装備したら、あとは出現する「天空龍王を誘き出す」というボタンをタップするだけ。

だが、現実でのソレは……、


「ちょ、ちょっと姉さん! マジで! マジで身動き取れないんだけどっ!」

「はぁ。あのな、『簀巻き』なんだから当たり前だろカス」

「分かってるけど! だけど、せめて……もうちょっと緩めて……?」

可愛く小首をかしげたソナタ。

見つめ合う二人の間を流れる沈黙。


そして……

「却下。じゃあ逝って来い、よっっと!」

「NOぁぉぉおおおっ!」


――兎に角、非常に苛酷を極めたのだった。


無論、ボスが釣れた瞬間に速攻で浮遊の魔術を使ったソナタだったが、勢いが付き過ぎ、地面に激突するというオチまでついた。


「ま、そのお蔭で一歩前進だ」

ゴトリ、とテーブルに置かれたのは『天空龍の髭』。

髭とは言っても硬質な音をたてる石のようなソレは、船で新大陸へ渡る為のキーアイテムだ。


港町で『未知の大地へ』を行先に選ぶと、船が嵐に巻き込まれるグラフィックが表示される。

そのまま24時間操作・ログインできなくなった後に(尚、このイベントもスキップ可能な課金アイテムが販売されていたが、購入するユーザーは多くなかったという)、これを持っているとその導きで新大陸の砂浜にたどり着いて目を覚ますというもの。

持っていなければ、無論、旧大陸の港に逆戻りだ。


それと、アイテムも防具(衣服)以外は一定のクエストを攻略するまで没収となる。


「ま、せ……祭祀都市ニエルまでの辛抱だ。そしたら、ホーケンのギルドまで直通の転移門が設置できるからな」

「まぁた、そう言うことを……」

ソナタは頬を膨らませ、白目を向けるが、姉はお構い無し。


前途は多難な様であった。

色々と。


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