我こそは!スペルマスター!略して…以下略☆ミ
「じぇんぱい~…」
人間というものは信じがたい光景を目にすると脳がハングアップして働かなくなるものだ。
今が、まさにそう。
―涙で顔をぐしゃぐしゃにした、女王
そこに千年の支配者の威厳は微塵もない。
ソナタが垣間見た、都城レイの姿。
唯一固まらない“先輩”…すなわち、柳川香子が口を開いた。
「あ~、ごめんね?正直、ダンプカーに轢かれてミンチになるとか、それでラノベみたいに異世界に来るとか…しかも、封印された状態で、なんてね…思わなかったのよ」
ばつが悪そうに。
「~っ!?」
レイが鼻水をすすり上げた。
「あの、さ…色々あったけど…」
その様子に、若干、引き気味の”先輩”…。
だが、引いたのと同じ距離だけ距離を詰める…レイ。
「じぇんぱい!」
そして、とうとう飛びかかった!
「ぐぇ!ちょ…ちょっと、レイちゃ…くるし…」
「先輩!先輩!先輩っ!!!」
「く…ふふ…お花畑が…み…え…」
「先輩!」
「ごぇ!」
千年分の思いを受け止めるのは、…少々命の危険が伴う様であった…。
※※※
「ごめんなさい、ワタクシ…」
「い、いいのよ…あはは…」
危うく感動の再会が猟奇殺人実況生放送に変貌を遂げるギリギリで正気を取り戻したレイは、平謝りであった。
「…それよりも、レイちゃん」
「はい。勿論分かっています。この世界をめちゃくちゃにした罪は命をもって…」
「違うよ」
「は?」
「レイちゃんの罪は、そんなに軽いものじゃない」
「謝っても…償っても…女王の大罪は消えない」
「そう…ですよね…」
「もう、赦される事は無い」
「はい…」
大好きな先輩から発せられた断罪。
「だから、私から、提案」
「…?」
「えい!」
「ちょ…っ!」
―いつもそう。彼女の提案は事が終了した後になされるのだ。
香子の手が払われると、レイを光が包み…
「こ…これは…」
そこにはショートヘアの漆黒の女双剣士が。
「これからは、ただの”レイ”として人知れず人助けをして生きて欲しいの。女王の名は、汚名はすすがれないけれど。見返りなく、でもって、幸せを見つけて…名一杯生きて」
「そんな…」
「あなたは”宝物”だから」
「!?」
その言葉に、『はい』と言葉を続けられずただ、頷いた。
「さて」
続いて、彼女は、ソナタを向いた。
近づいて覗き込む。
「一つ」
「え?」
「一つだけ、私は願いを叶える事が出来る。この異世界から戻してあげる事もできるし…」
「…他の事でも、なんでも。どうしたい?」
「…皆を、元の世界に」
「それが、望み?」
「…うん」
「…ホント?」
「………」
沈黙が訪れる。
すると、その周囲に仲間が集まり始めた。
「ソナタ殿」
「ソナタ、ちゃん…」
「ソナタ君」
「……泣いても、いいんだよ」
香子の声。
その優しい声がすると、不意にソナタの涙腺が耐え切れなくなった。
「~~…っ!」
「辛いとき、助けてほしい時。そーゆう時は、素直に声を上げたら良い」
「~~…っ!~~…っ!」
「皆は、どう思う?」
周囲に向けられる視線。
「正直、僕ら、何もしてないからねぇ。ソナタ君が決めればいいんじゃない?」
「某、BBAのいないここは楽園でござるので…」
「魔術抜きの建築なんて、もう考えらんねぇぜぃ」
「ふふ…だって、さ」
「…たい」
「ん?」
ちょっと意地悪に聞き返す香子。
「会いたい!もう一度会いたい!…姉さんに……っ!」
と、香子の表情が柔らかくなる。
「やっと、言えたね。その言葉、…」
そして、くるりっと振り返った。
「頂きました!魔術として!」
「…は?」
気が付くと、ソナタの吐き出した言葉が光る文字との羅列となって香子の手に巻き取られていく。
それが球体を成すと、香子はそれを彼の姉の胸に沈めた。
「~!?」
仄かな光とともに、姉の遺体が消え…
「…ソナタ?」
その背後から懐かしい声がする。
振り返るとそこには…
「どういう事だ、これ…」
現実感なく呆けている彼の姉の、出会った頃のままの姿があった。
※※※
「皆、準備は良いか?」
「「「応!」」」
ソナタを先頭に、三角形に整列した面々。
ちなみに女性陣は、
「馬鹿の仲間入りしたくない奴はこっちな」
脇でエリザベートがアイテムボックスから取り出したテーブルを囲んでその様子を眺めていた。
「一人、例外はいるがな」
「やっほほ~いっ!楽し~っ!」
香子がめちゃくちゃノリノリで馬鹿の隊列に加わっているが。
「あいつって、超アホだな…」
「言わないで…それは分かっているから…でも、可愛いの…」
発端は、
「レイちゃんがこの千年女王の間の呪縛から解き放たれる為には、…超高火力の炎属性による突破が必要なの」
という香子の言葉。
彼女が新しい人生を始めるにはこの女王の間から出る必要があるが、
千年閉じ込められたという結界は容易には破れない。
出来るとしたら、太陽が闇を照らす事。それだけが突き破る可能性があるのだという。
―火の上位炎属性の極地にして、レイド魔術「スペル・マスター」だけが。
その詠唱が、始まった。
※※※
ありえない高密度の魔力の高まりに地が、空気が、・・・世界が震えた。
その先頭で、いよいよソナタが口火を切るっ!
「”前略!・・・中略っ!”」
「「「”・・・以降略っっ!”」」」
「なあ、上手くいくかな?」
エリザベートがレイに問いかけた。
「・・・大きな声では?」
聞き耳立てるポーズで振り返るソナタ。
「「「言えないけれどっ!」」」
キレッキレのオタゲーで踊りながら答えるバックダンサーズ、もといギルメン達。
プラス
「にゃっほほ~いっ!」
…とある開発者。
約一名新参のメンバーもいるが、…一糸乱れぬキレキレなダンス。
「”男子はみんな?”」
もう一度。
可愛いポーズで振り返り聞き耳立てて・・・
「「「”天下無双の…オ●ニスト!”」」
はつらつと答える最低ワード。
「大丈夫じゃない?実はね、ソナタさんも…」
レイが何かを口走ろうとする。
「わ~!おま!何言おうとしてんだふざけんな!」
「ちょっ!ソナタ殿!魔力が漏れまくってるでゴザル!」
「まじか!みんな、すまん1割ノルマ追加で!」
「ちょ…横暴でござる!」
「もう、俺は頑張らないことに決めた!これからはみんなに頼るからな!」
「べらんめぇ!それじゃただの搾取じゃねぇか!」
「ソナタ君がドMからドSに…」
「にゃほほほほっ!」
「ね?大丈夫そうでしょ?」
「そーだな」
もう、ソナタが独り善がりで自己犠牲に酔う事はないのだろう。
だけど、きっと困った人を見かけたら手を差し伸べるのだ。
自分だけ犠牲になるのではなく、みんなで幸せになるために一生懸命。
―大丈夫、”太陽”は本来の輝きを取り戻したのだから、もう何も怖いものなんてないのだ。
「”右手の摩擦が?”」
「「「”呼び覚ますっ!”」」」
頭の上にピラミッドを突き上げ何度も突き上げるダンサーズ。
あまりに切れの良いその動きはちょっとゴキ●リを彷彿とさせる。
「”獄炎、爆炎!”」
「「「”・・・腱鞘炎んっ!”」」」
「”我こそは!”」
回転にプリーツのスカートが伴って円運動。
そして、腰に手を当て半身にターン。
その動きに、もう迷いはなかった。
「「「”スペルマスター!”」」」
「”略してスペル・・・!”」
「「「”・・・以下略っ!”」」」
「”放てぇ~っ!”」
そして、太陽の炎は深淵の闇に向かって解き放たれたのだった。




