二人の追憶 ~レイの場合(前編)
暗闇が、晴れる。
するとレイの目の前には遠い日々を過ごしたオフィスと…
(…ワタクシ?)
自身の姿があった。
その日の服装は丸ビルの某店で大枚はたいたワンピース。
元手を回収する為にももっと着たかったが、悲しいことにこの日が最初で最後。
だから、よくおぼえている。
あの日、偶々“ある部屋”の前を通りががると、中から下品な笑い声が聞こえた…女の声だ。
先輩がこの世を去って僅か一ヶ月。
その間に周囲は激変した。
まず、社長が変わった。
この騒音の主である。水商売上がりだとかで、社長のひいきの店から…一部には愛人と囁かれるが、そんな輩が社長に成り代わった。
すると、間をおかず不採算事業の一斉整理が始まった。中にはこれから登録者を伸ばそうとしていた新規ゲームもあったが単年度の収支を基準に一律だった。
そして、それに関わる後輩が何人か泣きながら辞めさせられた。人員整理、リストラだ。代わりに聞いた事もない下請け会社が入り込み、今流行りだという戦国もののカードゲームを始めるらしい。
スペマスは、まだ無事。だが、時間の問題と囁かれていた。
もはや、先輩の居ないこの会社に残りたいとは思わない。けれども、唯一の繋がりだったあのゲームだけは守りたい。
その一心で、更に予算を削られ嫌みを浴びせられても、辛うじてしがみついていた。
「それにしても…」
(何かしら?)
何故か魔が差したレイはそっと物陰に隠れ、防音の効いていない部屋から駄々漏れの音声に耳を傾けた。
「あの売女が、都合良く消えてくれて良かったわ!キャハハ」
下品な笑い声。
水商売でも、銀座等の高級な店の女性達は知性が無いと務まらないそうだから、この一瞬で“新社長”の程度はうかがい知れた。
(それにしても…あの人以上の…売女?)
そんなもの居ないだろう、彼女は間違いなくクイーン・オブ・ビッチアバズレその他多数の称号を持っていそうな…正真正銘売女だというのに。
「いつもウザイし邪魔ばっか。まあ、あの女、間違いなくアタシに嫉妬してたね。ああ、やだやだ。あの…何て言ったっけ…」
化粧と整形で誤魔化した顔面と痩せてるだけの身体を武器に、社長を籠絡し汚物を撒き散らす女に…“嫉妬”!
あまりの滑稽さと怒りに、思わず唇が震えた。
だが、
「…やながわ、だっけ?ホント、死んでくれて…せいせいしたわ!アハハハ!」
信じられない言葉が…続き顔が固まった。
次の瞬間、突如としてあらゆる呪詛と共に怒りが沸き上がり火柱をあげる。
(許せない…)
踏み出そうとするレイ。
が、その前を影が横切り機先を制された。
影はそのまま社長室のドアを蹴り開けると、吠えた。
…課長、だった。
唖然とするアバズレ女は圧倒されながらもヒステリックに叫び優位を保とうとする。
脇に控えた安ホスト…副社長だそうだが…が、課長を押さえ込もうとするがあっさり振り払われて叩きつけられた。
怒れる大魔神はそのままの勢いで化粧と涙にまみれた汚い顔面に封筒を叩きつけると踵を返す。
「ひっ!」
先程までの怒りはどこへやら、あまりの恐怖にレイが硬直している事に、初めて気がついた様子の課長。
「ああ…都条、丁度良かった。ちょっと、いいか?」
本人はトーンを和らげた積もりだろうがあまりにも怖すぎるその様子に。
「は、はい…」
涙目で頷く以外、彼女には選択肢がなかった。




