夢に描いた世界☆彡
「~…っ」
ソナタの嗚咽、その他には何も音の無い世界。
不思議な事に、女王からの追撃も…言葉すらも、無い。
薄暗い空間が水気を含んだその嗚咽を溶かしていく。
肩の頼りない震えに視線が集まる。
と、不意にその震えと共に嗚咽が止まった。
「…すまない、誰か姉さんを」
そして、床にそっと下ろした家族を仲間に託すとソナタは立ち上がった。
「茶番は、終わったようね?」
心なしか、女王の声は震えている様に思われた。
「…来なさい。貴方もワタクシも同じ復讐者…」
いささか憐憫を帯びた眼差しはまるで戦いに臨む者のそれには見えない。
「いいや、違う」
だが対するソナタの目は涙にまみれてはいたものの、憎しみに澱まず澄んでいた。
「俺は…姉さんに託されたものを…」
「何を…言って…」
「生きた証を…」
ダッ、と地を蹴るソナタは宙に舞う。
「…“天上の銀翼”!」
スペルと共にその背中に翼が現れた。
「どうして原典魔術を…ええい!“深淵よりきたれ…奈落の顎!”」
地の底よりきた禍々しい怪物がソナタに迫るが
「“その瞳は鏡の世界に惑う…幻影”」
幻を捉えて閉じた咢と共に地に帰っていく。
それを見届けるとステッキを振りかぶったソナタ。
ガツン!
女王の王笏とぶつかり合い、そのまま鍔迫り合いになる。
「なあ、空のアレ…止めてくれないか?」
「は!止めるわけ…ないでしょうっ!」
振り抜いた勢いに身を預けたソナタが宙にまい、後方にふわりと着地した。
距離が開いた二人は同時にスペルを開始する。
「天空より来たれ…」
「黄泉に咲く茨…」
手が同時に、互いに向けられる。
籠められた法外な魔力が、その手を中心にして空間に不協和音をかき鳴らした。
「雷帝の…神槍!」
ソナタの召喚に応じ、その背後に白く弾ける雷を帯びて偉大なる獣が現出した。その手の神槍は薄闇の空間を真昼の如く白く染め上げ雷音の轟が他の音を掻き消していく。
「深淵の…花園!」
一方、女王の周囲には静かに青い茨の園が広がっていく。
その中心で棘の王と化した女が豊富な睫毛をそっと閉じた。
静謐な中に垣間見える圧力は、派手な色も音もなくただ広がっていく。
動と静の極地が織りなす奇妙なシンメトリーが空間に描かれていく。
―それは、奇しくも「レイ」が先輩と夢に見た美しい世界であった。
抱えきれない想いが胸中を行き過ぎるのをただ感じる女王。
無でありながら満たされていて矛盾したその感覚を表現する言葉は見つからないが、それは確かな現実として知覚されている。
その間にも圧は高まり、空間が軋みを上げていく。
女の瞼が開かれた。
直後、二人の中間点で雷と茨の奔流がぶつかり合いはじけた。
空間そのものを、否、世界を揺るがす第13階梯の魔術の衝突は膝を通じて居合わせたものにも衝撃を伝える。
「…~っ!」
「くっ!」
弾け飛んだ欠片が双方に僅かな疵と痛みを齎したが、共に目線は外さない。
そのまま次の詠唱が紡がれる。
今度は二人同時。極大爆発だ。
夢に描いた、力の限りをぶつけ合う時間。
それは、抑圧された都城レイの胸の奥から愉悦を噴き上がらせた。
それは、とあるゲームに心血を注いだ少年の心を燃え上がらせた。
双方の掌の先に生じたその圧縮された魔力の塊を認め、どちらからともなく唇の端が上がった。
「「極大爆発!!」」
二つの爆炎が混じり合い、空気が爆ぜた。
それはさらに距離が生まれる。
さて、次は。
心の内から湧き上がる熱に浮かされて。
女王は三度スペルを唱えようとする。
だが。
「だけど…やっぱり…こんなやり方じゃダメだな…」
突如、ソナタが呟いた。
「…?」
そして、右手をつき出す。
「“来たれ…”」
「な…駄目だソナタ君!それは…」
―それは、原典でないあの魔術…
危険を察してポコチーニが制止の声を発した。
だが、
「“クロクテ…”」
ソナタは止まらない。
「ふっ!ふふっ!アハハハ!」
冷えた。
先ほどまでの熱が、突如。
代わりに乾いたものが込み上げてきて、女王が狂った様に笑いだした。
「“カタクテ…”」
「焦ったか!…警告したはずなのに愚かな…」
トジョーレの王笏が水平に構えられる。
「“ブットイ…ノ…”」
目に先ほどまでの熱は無い。どこまでも冷え切っている。
「…でも、そうね、そうだった。貴方達はいつもそう…」
キッ、と鋭い目がソナタに向けられた。
「目障りよ。ワタクシの前から消えなさい…永遠に!」
振るわれた王笏の先端から閃光が発せられ視界を埋め尽くす。
「“アカ・バン”!」
「ソナタ君!」
その中で、切羽詰まった仲間達の声だけが響いていた。
ソナタが…とうとうアカバンに…っ!




