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真実の契約☆彡

脈打つ様に鳴動する青い茨は吸血鬼の血を絡めとりながら伸び続け、

間もなく繭玉の様な球体を形成した。

閉じ込められた二人に向かって、ソナタは手を伸ばす。


約束を果たす為に。


そして。


その手が茨の棘に触れた瞬間、その姿は光になって消えた―



***


ヴェンデッタは気が付くと真っ暗な空間に一人蹲っていた。

周りは赤い茨に覆われている。


その先には、陽だまりの中で何故か若い日々そのまま、青年の姿のヨデルと、

彼を右手で貫く自分の姿が見えている。


(…ここは?)

内心問いかけるが、応えは返ってこない。


茨の棘は外にも内にも向いていて、内側の棘は自分を刺していた。

身じろぐと痛みが走る。

だが、動かずにいるとそれが和らぐ。


だから…変化は、望まない。

この百年と何も変わらない。常に同じ事の繰り返しこそが安寧。


そのままどの位時間を過ごしたか。

10秒くらいかもしれないし、実は何時間も経過しているようにも感じられた。

その間も茨の向こうに見えるヨデルと自分の彫像は時間を凍らせたまま動くこともなかった。


だが、変化は外から現れた。


その茨の右手に突如光の粒が下りたのだ。



追うとは無しにヴェンデッタの視線がそこにひきつけられる。

光は水滴のように暗闇の床に落ちると、波紋となり、その中から現れたのは…


「ソナタ…さん、貴女、何故…」


ソナタであった。


ニコリともせず、その目が自分に向かうのを感じてヴェンデッタはわずか身じろいだ。


「~!?」

痛みが体よりも心を苛む。


「…爺さんと約束したから……」

「何を?」

「貴女を送り届けるって」

「どこに」

「…あの場所に」


顔を向けた先。それは先程まで眺めていた陽だまりと二体の彫像。


「あの場所で、”契約”を完成させたいらしい。だから、その手伝いを」

「完成?」

ヴェンデッタ、彼女にしてはできの悪い生徒の様に一々質問を返す。

それだけ、突然の事に理解が追い付いていなかったのだ。


「そう、完成。ついでに…っ!」

「何をしているの!?」

「この、邪魔な茨を除草…する…事、っも!」

「無理よ!見てわかるでしょ!」

「やらなきゃ…わかん…ないっ…よ!!」

「やめてよ、貴女になんのメリットがあるの!」

「分からない」

「は?」

「俺は馬鹿だから、メリットとか難しい事分からない。でも…」

黒曜石の様な瞳が紅く燐光を放つ

「でも、今、この手を伸ばさなかったら後悔する。心の中から喧しく沸き上がってくるから、その気持ちに従ってるだけだ…よ!」

「手から血が…貴女、馬鹿なの!?」

「ああ、その通り。悪いね」

「悪いね…て、ちょっと!」

「やめないよ。それが…俺の心の自由だから」


ひたむきに。

ただ、ひたむきに。

茨に血濡れながらはがす作業を続けるソナタ。


「貴女…心底…、本当に…馬鹿…なの…ね…」

「ああ、その通り」


話す間にも茨に血塗れながら一歩ずつ近づく姿に、徐々に幻影が重なる。


(これは…昔の…私…!?)


幼い日々の自分は果たして今と同じであったか。

ひたむきに目の前の誰かに手を差し伸べていなかったか。


―その時、見返りなんて言葉を思い浮かべたか?


違う。


ただ誰かが笑顔になることが嬉しかったのだ。


一度止まった心を動かすのはとても難しいものだ。

何故なら、原動力になる勇気が枯れてしまっているから。


ただ稀に。

きっかけがあればまた大輪の華が咲く事もある。


「ふふ」


今はその稀なのだ。

理屈抜きに理解した心の奥底から100年ぶりに本物の笑みが零れた。



さあ、再び戻ろうではないか。


―底抜けに愚かだったあの日にっ!


気が付くと、彼女も目の前の茨に手をかけていた。

「…っ!」

遅々とした歩みながら、二人の手の距離が縮まっていく。


二十重は十重に

十重は一枚ずつ無くなっていく。


「アンタ…同類かもな」

「言われたく…ないわ…ねっ!」


そして…最後に残った棘は溶けて消えた。


距離がゼロになる。

手が触れあう。


そして、無数の棘に血塗れの手が固く握られた。


(証明も契約も要らない。もう、怖くない。ただ心のままに自由に生き、信じるのだ…)


自分自身を。そして…


目線の先の彫像はいつしか一人だけ。


ヴェンデッタはその胸に飛び込んだ。


真実の契約に必要な事が教えられずとも分かる


だからその手を取り、自らの方へ…


「!?」

ヨデルの手が止まり、

代わりに唇が動き出した。


「その…が…」

「っ…ヨデル!?」

「その…想いこそが…契約…」

「!?」


その瞬間、二人の間から光が溢れだし…視界は白く染め上げられたのだった。



***



視界が晴れると、そこには

「御手がこんなにも。お痛わしい…」

青年と

「…ずるいわ…」

少女が現れた。


「…ええ…」

青年は愛おしそうに応えた後、ソナタに目を向ける。


「まさか…爺さん!?」

「ええ。ヨデルでございます」

「#$%$&#!$#!?」

「ソナタ様、」

「あ…、うん」

「感謝しても…しきれませんね…私の太陽が…また昇った」


二人の笑顔はなんとも幸せと慈愛に満ちていて。

これから二人の過ごす時間が、今度こそ光溢れている事を予感させるもので。


「おめでとう。賭けは、爺…ヨデルさんと、ヴェンデッタさん、二人の勝ちだったね」

「「ああ!(ええ!)」」


崩れた壁から差し込んだ陽が、祝福するように二人を包む。

それを。


ソナタは幸せな気持ちでいつまでも眺めていたのだった。



***


こうして紆余曲折を経つつも、両都市は固いで結び付いた。

その後、北方辺境都市連合はワプアの協力を得て大きな飛躍を遂げる事になるが、それはまた別の話である。


尚、北方辺境都市連合発展の中、

「ところでさ、」

「ん?」

「ソナタ君、最近、年中無休で働いてるけど…結局自分が一番ブラック企業なんじゃ…」

「き、気にしたら負け…」

人知れず一人涙を流す幼女がいたという噂もあるが、それもまた別の話である。

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