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陽だまりの中(前編)☆彡

最近、まとめきれずに前編とか多い気が・・・orz

かつて、とある大きな商家の夫妻に一人の娘が生まれた。


愛情深い両親の下で経済的にも何一つ不自由なく育った娘はやがて親譲りの優しい真っ直ぐな心根を持った美しい少女に成長していった。


彼女の両親はいつも”人には愛情を持って接しなさい”と言い、折に触れて”いついかなる時も見返りを求めてはいけない”と教えた。


その言いつけを守り少女はどんな人にも思いやりを持って接し、困っている人があれば無私の心でその小さな力の限りを尽くし、そして見返りを求めなかった。

いつしかそんな彼女の周りには多様な人々が引き寄せられて始め、次第に人の輪が形成されていった。大抵は同じ年頃の少女であることが多かったが、時に近隣の主婦であったり商人であったり役人であったり老人であったり旅人であったり実に多彩な顔ぶれであった。


・・・時折、仄かな恋心を抱え込んだ同年代の男の子もその輪に加わる事はあったが、何故か同世代の少女達が構築した鉄壁の防御を前に、戦略的撤退をせざるを得ない状況であったが。それはともかく、暖かな陽だまりの様な少女を中心とした穏やかな日々はしばらく続くものと、誰もが疑わなかった。


しかし、そんな毎日は突如終わりを告げる。


とある大きな鉱石の共同購入プロジェクトに彼女の父親が参加したのだが、そこで手ひどい裏切りを受け莫大な借金を抱える結果となってしまったのだ。


使用人達は次々と去り、かつて活気に満ち溢れた館が寂寞たる静寂に支配された。

すると、少女の周囲にも変化が現れた。

厄介ごとに巻き込まれるのを恐れた人々が誰も少女に寄り付かなくなったのだ。


人生で初めて、陽だまりの中から暗く冷たい暗がりへと放り出された彼女は自室に引き籠り、独りで過ごす様になった。


そうして二年の時が過ぎた頃、とうとう悲劇が極まる。


昼間だというのに僅かに木漏れ日が差し込むだけの薄暗い納屋。

その中で、柱から吊るされた対の縄の先に壮年の男女であったものが揺れる、最悪の結末。


吊ったのか、それとも・・・吊るされたのか。

未だもって真相はわかっていない。


ただ、確実な事はその両親の亡骸を前に第一発見者となった少女が声も発せず立ち尽くしていて、

それを発見したのが二年ぶりに街を訪れた旅人、後に執事となるヨデルであったという事実のみ。



「今から100年程前の出来事でございました・・・」

「え?爺さん、流石に100歳オーバーには見えないんだけど」

「ええ、実は私、ヴァンパイアでして・・・」

「!?」


その言葉に驚いたソナタが急速に飛び退く。


「一人で連れ出して、・・・まさか、お、俺の生血が目当てか!?」

「はは、その様に警戒されずとも良いかと。大丈夫、私は既に”契約”により他の乙女の血は欲せぬ様になっております。そうですな、次はその話を・・・」


この世界にあって”ヴァンパイア”とは一つの種族である。生き血を啜った相手を眷属と成す・・・と言う様な事はなく、ヴァンパイアの両親から生を授かる。また、乙女の血が無くとも人間と同じ食料で飢えや渇きを満たすことも出来る。


だが、それでも彼らにとって人間の乙女の血とは至上の一品である事に変わりない。

特に吸血を介して行われる”契約”は乙女に100年の不老を与える一方で、ヴァンパイアには緩やかな老いと他の乙女の血を禁ずる呪いとなるにも関わらず、その甘美を求めて行う者が後を絶たない。


彼らの人生の意義は契約すべき乙女を見出す事にあるといっても過言ではないのだ。


そんな種族の中にあってヨデルは大層な変わり者であった。乙女の生血や”契約”にはまったく興味を示さず、彼は旅人として各地を巡り風景を絵画として描き出す事に至上の喜びを見出していた。


次々と契約を結んでは100年か200年の短命を終える仲間達を横目に、彼は500年もの時を生き、時代ごとに移り行く各地の情景を描き続けて来た。


だが、そんな彼も不老ではあったが不死ではなかった。

酷く傷つけば死ぬし、飢えれば死ぬ。


ある日、旅の途中であらぬ濡れ衣を着せられた彼はエクソシストから命を狙われ満身創痍となり、街に逃げ込み路地裏のゴミ溜めに身を潜めてやり過ごしたものの、そこで安堵と極度の疲労から意識を闇の中に手放してしまう。


その時ばかりはこのまま”死”を迎え、先に旅立った同胞と同じ場所へ旅立つのだと覚悟したという。



だが、次に目を覚ますと、予想に反して自身が柔らかな”白”に包まれている事に気づいた。


すなわち、誰かに保護されて清潔なベッドで目覚めたのだ。


それと、もう一つ。

左の手は別の柔らかな”白”に包まれていた。


すぅと寝息を立てている存在。

それはまるで・・・柔らかな陽光に照らされた春の陽差しの妖精の様で。


―それが、少女とヴァンパイアの出会いであった。


少女が持前のお節介を発揮し奔走した結果、めでたく濡れ衣の晴れたヨデルは再び旅路の人となる。

だがどうしても美しい絵画の様な情景が頭から離れず、2年後に再び街を訪れたのである。


その日が、悲劇の日と重なるとも知らずに。




かつて包まれた柔らかな、陽光と白。

それと正反対の冷たい薄闇と黒の情景にヨデルは思わず息をのんだ。


思わず身じろいだその足元に転がっていた何かの木片が、

かつり、と音を立てる。


すると、それまで幽鬼の様に存在感なく立ち尽くしていた少女が半身で振り返った。


「―誰?」

たった2年前とあまりに違う。魂と温度が根こそぎ落とされた視線と声。

薄闇に溶けて消えてしまいそうでいながら、その無機質な目が妙な存在感を持って差し迫る。


「ヨ、デ・・・ル・・・」

目の前の惨劇とあまりの違和感に、自らの名前すらも流暢に言えず渇く喉を無理やり動かした。


「ああ・・・あの時のヴァンパイアの・・・人・・・」


「は・・・い・・・」

「ごめんなさいね・・・父様も母様もこんな状態で・・・おもてなしの一つも出来そうにないわ」


小首をかしげた少女の目線はすでにヨデルを離れ、どこを向いているのか。


そして、場違いな台詞。

だが、ヨデルは否定も応えも帰すことができなかった。


「そうだ、ヨデルさん。一つだけ、私のお願いを・・・聞いてほしいの」


―その輝きを失った眼は依然として明後日の方を見ていて。


その長い人生にも感じた事のない緊張感に、ヴァンパイアはただ少女が紡ぐ次の言葉を待つのであった。

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