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隠密任務を遂行せよ(後篇)☆彡

広場からゆっくり、ゆっくりと。

少女二人のカップルは夕暮れから夜に差し掛かり行く街の通りを歩みゆく。


「今日は、・・・ありがと」

「あ、・・・うん・・・・別に・・・」


つかず・・・離れずの繊細な距離感。


二人の腕が触れるか触れないかの距離で揺れている事を一度でも意識してしまうと・・・ソナタの心臓は早鐘の様に早いテンポで鳴り響き始めた。


ドギマギとして右へ左へと視線をせわしなく動かしている様は後ろからついて歩いている偽装美女ござるの目にも明らか。


その視覚を暗い部屋で共有していた乙女達の間にも衝撃が走る。


(こ・・・これは・・・!)

(敢えて接触をしない事で逆に意識させるとは、ね・・・)

(ま、まあ、幼さゆえに分からずしている事・・・ではあるのでしょうけど・・・)

(狙ってやっているのだとしたら恐ろしく高等な・・・いや・・・それはない・・・か?)

(・・・オ・・・オモシレーッ・・・!)


約一名、別な思惑がある様だが・・・ともあれ、天然の行動に固唾をのんで見守る面々。


そんな面々が見守る中、とうとう二人は目的の場所へとたどり着く。



―アマール・オ・オーディネム。


ホーケンの街で知らない者はいないという、名店中の名店。

この世界に「フレンチ」という概念はないが、現実世界になぞらえれば間違いなく完成度の高い、「創作系フレンチ」を提供する店として某ガイドで必ず星は取ったであろうクオリティ。


オーナーシェフの技巧もさる事ながら、「食材」の鮮度に並々ならぬ情熱を傾ける姿勢が有名で、ホーケンの街で発刊される雑誌にも度々紹介されているため、ソナタも名前だけは知っていた。


「いらっしゃいませ・・・お美しい淑女(レディ)。失礼ですが、お名前は?」

レストランの扉の前のドアマンが二人を優美な風情の会釈で出迎える。


「あ・・・」


しまった、とソナタは内心舌打ちする。

誰の名前で予約したのか、くらいはエスコートする自分が抑えておくべきであったのに。

隣の少女はまだ幼いのだ・・・


が。


「ニューアイランド。ソナタとマユカで」

意外と確り者の少女が答えると、

「ソナタ様とマユカ様。確かに承っております。それではこちらへ・・・」

受けたドアマンは微笑みと共に二人を店内に誘う。


一方そのころ、ギルドの地下会議室は・・・


(き・・・聞いた!?ねえ、みんな聞いた!?ちょ・・・ちょっと今のは!)

(間違いない。ご母堂の方かな?念の入ったことだね。最初からソナタ君の名前で予約してあるとは)

(・・・それだけではないわよ。あの子・・・確かにソナタちゃんの姓に続けて名乗ったわ。自分の名前を!)

(よもや娘の方も手練れ・・・という事でござるのか・・・恐るべき哉・・・)


・・・大変な騒ぎであった。


残る一人は沈黙して語らず。・・・いや、口周りがぴくぴくとしている。

もはや、その観察対象は弟から目の前の面白おかしい女達の有様に移行しつつあるようだった。


某ギルドの地下が大変になっている事とは露も知らないソナタ。

(・・・ん?)

先のやり取りに引っかかるものを感じたたが、ドアマンの優雅な所作に促されるままレストランのホールに進む。

すると、薄暗い店内は上等な丁度品が程よく配置され、柔らかみのある真紅の絨毯が敷き詰められた床の先、フロアの真ん中には色とりどり大輪の花で飾り付けられた予約席が。


「わぁ・・・!」

同時に、ソナタの横でも大輪の華が負けじと咲き誇る。


その様子を見ると、「ああ、調整つけて来てよかったなぁ」とソナタの心に温かいものが滲んだ。


ウェイターの引く椅子に座り、向かい合うと綺麗な色のカクテルグラスが運ばれてくる。

その中には、ソナタは青、マユカにはややピンクを帯びた藤色の液体が注がれていた。


「本日ご用意させて頂いたのは・・・ノードゥス・・・「絆」を意味する対のカクテルで御座います。通常は・・・カッ・・・こほん。失礼。通常、ご夫婦にお出しするものなのですが、お二人は大変仲がおよろしいと伺いましたので永遠の友情に乾杯との意味を込め・・・ああ、勿論アルコール類は入ってございませんのでご安心ください。」


「それと・・・メニューはこちらでございます。オーダーが決まられた頃に伺いますので」


恭しく一礼すると、ウェイターが去っていく。


「ソナタくんとの絆・・・」

その丸みのある手を両の頬に当てながらうっとりとグラスを見つめるマユカ。


「・・・!?」


「えへへ・・・なんだか・・・照れるね・・・」

いつもの元気いっぱいの様子はどこへやら。しおらしいその様子にまたもソナタはドギマギする。


その様子に・・・

(こ・・・これは・・・この子は・・・!)

(ああ。間違いないね。最初はご母堂の方かとも思っていけど・・・)

(ヤナ君・・・甘い!女は・・・生まれた時から女なのよ!)

(思わぬ・・・恋の強敵にて・・・)

いずこかの地下世界で観察する乙女たちの、マユカに対する評価が変わっていた。

この少女もまた、百花咲き誇る女の園で恋を相争う、一人のせんしであると。


(((((・・・・・)))))


緊張感が地下世界を支配していく中、レストランで新たな動きが起きた。


(・・・あら?)

ふと。

それは何気ないきっかけだった。

この高級レストランで、浮いている・・・美女。


注文を聞かれて。

「あ・・・それが・・・ワタシはこのコースが良いデゴザ・・・デスワ~」

なんだかいろいろとギコチナイ。


それが、マユカの目に留まったのだ。


(・・・ふ~ん・・・)


「・・・でさ、ここのお勧めって・・・あれ?・・・ねえ、聞いてる?」

「あ!あ、ごめんね!」

「いいんだけど・・・そろそろ注文決めないとだよ?」

「あ、ああ・・・そうね。え~と・・・」


慌ててメニューを繰っていくマユカ。


ふと、悪戯っぽい笑みを浮かべると視線は再び偽装令嬢(ござる)へ。


「!?」

両者の視線が明確に絡んだ。


「そうね、まずは・・・」


手で片目を抑える。


「・・・目玉焼き・・・」


愛くるしい笑みの中に、一瞬ゾクリとする凄みが織り混ざる。


(まさか・・・気付かれた!?)


「・・・なんて、“安っぽい”メニュー有るわけないよね。・・・ふふ」


(わ・・・私が、・・・安っぽい女って事!?)


ページをめくる。


「・・・あ、これなんか良さそう。鳩の香草焼き、ピジョンブラッド・・・ソース添え・・・」


(ぼ・・・僕の事か!?)


「まあ、ウグイスを揚げた物もあるみたい・・・見て、ちょっと、顔が間抜けな事になってる」

「あ、ホントだ。これは、面白いね」


(わ、私!?)

元ウグイス嬢は涙目だ。


「でも、メインはやっぱり雌豚のソテー、かしら」

「え?」

「ほら、ここ。生後10ヶ月以内の若い雌で、柔らかいらしいの。雑誌で紹介されてた」

「ああ、ちょっとネーミングが、あ、いやなんでもない」


(・・・某への当て付け!?)

地下で悶えるオーク美女。


「人間で言うと・・・16歳くらいみたい」

「そうなんだ」


「うん、それを過ぎたら年増過ぎて・・・」


ゴザルを通じて向けられた目線に添え、


「・・・賞味期限、切れちゃうみたい♪」


その一見無邪気な笑顔から発せられた言葉に。




((((ガタタッ!)))))



地下で激震が起きた。


(な、ななな・・・)

(こ、これは、)

(想像以上だわ)

(うう・・・賞味期限切れの・・・雌豚・・・)


(・・・?)

その中にあって、エリザベートは疑問を深めた。

駄目忍者がバレたのは、まあ計算の内だが何故あの小娘は挑発を繰り返すのかと。

下手をすれば目の前の連中が雪崩れ込んでいくリスクもあるだろうに。


そんな黒髪の女の思惑を他所に事態は進行する。


ーかた。


少女が立ち上がってソナタの側に寄り、耳打ちするそぶりを見せたのだ。


「ん?」

思わず顔を寄せるとそこへ。


ふわっとした柔らかい唇が落ちる。

ご丁寧に内緒話をするかのごとき手に覆われ、他の客からは死角になっていた。


唯一、ゴザルを除いて。

その方向には、寧ろ見せつけるように挑発的な視線と共に。


受けたソナタは、

「っ!?」

思わず目を固く閉じてしまっていた。


時間にして、わずか数秒の出来事。


(せ・・・宣戦布告!?)

(や、やるね・・・!?)

(い、今の子って!)

(うう・・・何やら・・・ものすごい敗北感・・・)


涙目の乙女達を他所にもとの席に戻ると、

タイミング良くウェイターが注文伺いに現れた。


「注文は、ですね~・・・」


「(ぽ~・・・)」

夢の世界に旅立ったソナタを他所に注文が行われ、


「・・・あ、あれ!?」

復活した時には既にウェイターが下がった後である。


そんなソナタがマユカに向けて口を開こうとしたその時。


「チィン●…レー!ザーッ!!」

「プギィイアアアア!」


突如として場に似つかわしく無い下品な声と豚の悲鳴が店内に響き渡ったのであった。

後、一話だけ続きます…(;´д`)

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