届け・・・想い(あい)の唄・・・☆彡
3人がかりの反撃も通じず。ピンチです・・・
ロードがギラついた眼を巡らし、
「そうさな・・・まずはそこの女・・・・」
言うと同時に腕を伸ばし・・・その先が掻き消えた。
次の瞬間・・・
「・・・・ぐっ!」
唐突に、くぐもった声が起きる。
「なんとなんと。知恵は多少有る様だが、・・・頑丈さはからっきしか。肘から先がこんなにもあっさり無うなってしもうたわ・・・」
さも、心外だと言う様におどけた様子を見せるロードの視線の先で、
―エリザベートの右肘から先が消えていた。
「義姉さんっ!」
ソナタの悲鳴。ハウリングを起こした伴奏の音が歪む。
「義姉さんっ!今!助けに・・・っっ!」
「・・・ソ、ナタ」
それは、小さな声なのに。
なのに、・・・ソナタの耳にそっと、でも確かに響いて、押しとどめる。
「・・・う、た・・・」
「・・・え?」
「その、歌を・・・完成ぇ・・・させな・・・さい・・・」
儚いその笑顔を保ったまま。
その想いに、ソナタの目尻に溜まった雫が頷きに応じて光を撒き散らしながら、言葉に従い歌を再開する。
―早く、終れ・・・っ!
「と、ど・・・け!」
「なんと!気を失わないどころか・・・笑って見せたか、この女!これは望外!まことに面白い!・・・どこまで持つものか試してくれようぞ!」
邪悪に響く声。
―早く、早く、・・・早く!
「この小さな・・・」
焦るソナタを他所に、ロードの右手の先がまたもや霞み・・・
「させないよっ!」
砕けたサフィレットの残滓を振りまきながら、ピジョンブラッドの瞳が割って入る。
「・・・貴様は・・・まあ、・・・そこそこ早いのではないか?」
「・・・ぐっ!」
ロードの無造作な一撃に、ヤナが薙ぎ払われる。
「どうでもよい程度・・・にすぎんがな。さあ・・・、次は左腕でも飛ばす・・・かのっ!」
ギラリと光るロードの瞳。嗜虐の無垢な喜びに瞳孔がきゅぅと絞られている。
―まだか!早く、早く、・・・頼むから、早くっ!
「想いの・・・」
「では・・・」
―嗚呼っ!もう・・・
絶望に染まるソナタ。
しかし・・・
「させぬ・・・よっ!」
そこへ、今度は赤い鬣が割って入った。
「クドイ!」
「ゴフッ!」
突き出された貫手は・・・ジェネラルの体躯に風穴を開ける。
「退け・・・弱者の分際で・・・」
「・・・退かぬ!」
「この方は、我が認めた・・・初めて主と・・・グフッ、・・・希望と仰いだ御方の姉君である!我が命に変えてでもっ!」
「ええい、うっとおしい!」
更に無造作に払われて身の上下分かたれ、まき散らされる武人の体躯。
―だが、その僅かな時間が・・・
「唄・・・・・・~っ!」
―とうとう・・・歌を完成させたっ!
歌い終えたその直後。
突き上げ広げた手指の先から、急速に闇が広がっていった。
ソナタの零した涙が艶めいた黒色のキャンバスに無数に増え、広がり、埋め尽くし、粒は一つ一つが青白く・・・。
―けれども暖かな光を帯びて。
そこで、ソナタは気が付いた。
―自らの他に動くもののない世界。
―その中に唯一人。
無数の光の海、あるいは天の川の中を、彼はかき分けるようにして駆けた。
向かう先は・・・
「義姉さんっ!」
―停滞した時間の中で、答えは無い。
「こんな・・・」
冗談のように千切れた右腕。その肘の先に、彼の知る温もりを持ったあの手は無い。
「―!?」
ソナタの顔が悲しみに曇る。
―すると。
ソナタの想いに答えたかのように光の粒達が輪唱を始めた。
「蛇の・・・」
「蛇の杖持つ・・」
「「「「蛇の杖持つ者の如く我は癒しを齎すもの・・・」」」」
―原典魔術!?
それは元々ゲームで設定されていたデフォルトの魔術。
本来の・・・拡大治癒。
輪唱された魔術は・・・
―停滞した時の中で彼の義姉を。
―二つに分かたれたジェネラルの身を。
―地に叩き伏せられたヤナを。
―倒れ伏したゴザルを。
・・・全てを暖かな光に包み、傷ついた者たちを癒していく。
やがて。
願いを叶え終えた光点達が徐々にまとまり、・・・うねりとなり、周囲に輝きをまき散らしながらソナタの下に集う。
「・・・。」
掬い上げた掌の中に。
―確かに伝わってくる。・・・義姉さんの、・・・皆の・・・想いが。
そっと。
愛おしくそれを抱きしめると、突如嘘の様に闇が掻き消える。
―ギィンッッ!
闇が晴れると同時に、何かが光の障壁にぶつかる、音。
「な・・・貴様!?いつの間に現れた!」
そして、この戦いで、初めてロードが見せた狼狽の声が続いた。
その声を合図にするように。
かくん・・・っ!
糸が切れたように崩れ落ちそうになるソナタの家族。
―世界が時間を取り戻したのだ。
慌てて・・・小さなソナタの腕がそれを抱き留めた。
「・・・あーあ」
儚い笑顔のままに毀れた声。
「・・・ん?」
「どうせ、抱きとめられるなら・・・金髪碧眼で・・・王子みたいな顔したハーフが良かったなぁ~・・・」
照れたように。
「・・・案外、乙女趣味なんだな」
「ふん、・・・ばーか」
「「・・・・・」」
見つめあい。
「「・・・ぷっ!あははははっ!」
同時に破顔する姉と弟。
「・・・まあ、今日の処は出来の悪い弟・・・モドキで我慢してやるよ」
「モドキってなぁんだよ、モドキって!」
「じゃあ、・・・妹?」
「あ・・・やっぱ、モドキでいいや」
戯言を交し合い。
「我を・・・無視するなっ!」
向かいくる者は・・・
「「我は鋼鉄の盾・・・」」
「「我は女神の盾なり・・・・」」
「「「「「「我は・・・」」」」」」
無限に輪唱される魔術に阻まれる。
―ギャリッ!
その爪は不快な音を鳴らすのみ。
「・・・義姉さん」
「うん?」
「決着・・・着けてくる」
取り戻された手が伸びてソナタの頬に当てられる。
「・・・思い切り、やって来な」
「ああ!」
「・・・ん。よし!」
その輝く様な笑顔を存分に瞳に収めてから。
大事な者をそぅっと下ろし。
小さな体が立ち上がり・・・振り向く。
「待たせたな・・・。遊んで、やるよ」
ロードを突き刺す瞳の色は・・・黒いにも関わらず赤い燐光を放っていたのだった。




