氷竜峡谷の凄戦(前編)☆彡
凄戦て・・・べ、別に聖戦を打ち間違えたとか・・・そんなんじゃないんだからねっ!(慌)
「~♪」
ソナタの歌声が峡谷に満ち、溢れて超えて彼方へと拡がっていく。
最初に選んだのは某実力派と言われる女性ユニットのバラード。明るい夜明けと希望を告げるもの。
それが響き渡ると。
―突如、地を覆っていた地鳴りが一斉に止まった。
「・・・・フゴ?」
オーク達が一斉に音の中心へと顔を向ける。
「ゴ・・・オアアア・・・オオオオオオオオオオオッ!」
やがてBメロが終りサビに向かっていくと、一匹のオークがその”音”に向けて突如走り出した。
「ゴフッ!フゴフッ!」
「オォオオオウアアアアッ!」
すると、それをきっかけに二匹、三匹と続き、
「「「「ヴオオオオオオオオオオオアアアッ!」」」」
最後にはその全てが峡谷に殺到する雪崩となったのであった。
その遥か後方で。
「これはこれは・・・、とんだ”ハーメルンの笛吹き”、だの・・・」
一人、輿に取り残された”ロード”は妙に嬉しそうな貌で胡坐をかいたまま。
ただ、その目だけは鋭く音の発生源を見据えていたのであった。
遠方から響く怒号と明らかにこちらへ向かう地鳴りに、峡谷の崖上で待機する面々へ緊張が走る。
「まるで、ライブ会場共に雪崩込むファンの様だね。僕らの世界と違って・・・少々行儀が悪そうだけど」
先頭集団が視界に入ると、崖上の岩陰からポコチーニが愚痴を零す。
と。
「・・・参謀殿」
姿は見えないが声はする。
神殿から派遣された隠密の伝令役。
「ああ・・・作戦の第一段階は成功だ。ご老人には引き続き女王軍の動向と、逸れたオークがいるとも限らないから、そちらへ警戒するように伝えてくれ」
「・・・御意」
そして、すっ・・・と気配がなくなる。
彼は後方への采配を行いながらも前線に立つ事を選んでいた。
今も聞こえる歌声の主を守るため。
(・・・皆。)
(・・・わかってる。もう少し引きつけてから、だろ?)
挟撃開始のタイミングを図る面々の前をまず、先頭集団が通過する。
そして・・・第二集団。数、・・・大凡1000程が狭苦しそうに狭い峡谷を押し合いへし合いながら遡ってくる様子が見えた。
(待たせた・・・今だ!)
連絡用魔術の以心伝心で伝達された合図に従い戦いが始まった。
まず、オークたちの目の前に獄炎の壁が現れる。
本能的に足踏みした集団の上から襲うは落石。
それを避けた運の良いものは十字放射される黒と白、2色の雷光の餌食となる。
―しかし、オーク達の反撃は無い。
弓矢の一本でも飛んでくるのかと思いきや、前しか見ていないオークは不気味な様子のまま只管前へと突き進む。
(くそっ!・・・やっぱり先頭の連中、抜けて行ったぞ)
(大丈夫。その為に・・・”彼”を配置したのだから)
(まあ、そうだけど・・・よっ)
また雷光が走り、次の集団を蹂躙していく。
一気に広がる焼け焦げたにおいとむせ返る血の匂い。
先ほどまで清廉な乙女の様に美しかった景勝の地は、瞬く間に地獄へと様相を変えていくのであった。
ソナタの後方4kmに聳え立つ氷竜山脈の山頂、祠の跡。
実はそこに、一人の黒ずくめ、長髪の男が長大な弓を構えて佇んでいる。
彼の名はアチヤ。
命中極振りというステ構成と神弓アルテミスの威。
そして、リアルで弓道全国大会個人優勝というそのスペックは、現実となった異世界で彼を絶対の狙撃種たらしてめていた。
「!?」
彼の望遠鏡をも凌駕するその視覚に、一匹のオークが映る。
どうやら滝を登ってソナタの下に到達したようだった。
彼は、今回の任務を遂行することにした。
流れるような所作で矢を番え、神弓がしなる。
―かんっ!
そして、突き抜ける音と共に解き放たれた神弓の矢は、青空を駆け抜けていった。
その頃、ソナタは若干笑顔を引き攣らせていた。
(え・・・え、笑顔、笑顔っ!)
目の前に迫るモノの存在に。
涎か鼻からかよくわからない液体をまき散らしながら、豚と人の醜悪な混成体。
武装したそれが自分めがけて一直線に向かってくるのだ。
―手に持つ鉈は、元を考えたくない錆が張り付いていて
・・・ちょっと夜に眠れなくなりそうな光景だった。
だが、彼は仲間を信じた。
だから笑顔で歌い、踊り続ける。
豚人に背を向け、リズムを取りながら歩き、振り返る。
眼前に迫る鉈。
だが、しかし。
―ズドゥンッ!
「ゴゲアアアッ!」
空から飛来した矢がソナタに害なさんとしていた醜悪な生き物を崖下へと吹き飛ばした。
そこで丁度、バラードの最後のサビパートも終わった。
「よし・・・次は、アゲて行くぞ!」
先ほどのトラウマな光景を払しょくする様に気合を入れなおすソナタ。
その言葉に呼応した魔術がアップテンポの伴奏を開始する。
「この戦い・・・絶対・・・に、勝つぞ!」
皆に向けてか自分に向けてか。
激化するであろう戦いの渦中にあってソナタは意気高く拳を突き上げるのであった。
ソナタさん、ノリノリです。




