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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

啼く鳥の謳う物語

走れ

作者: フタトキ

今日の洸祈(こうき)はちょっと弱っているみたいだ。



「水曜日は家族団欒日って言ってなかった?」

千里(せんり)(あおい)が仕事でいないから」

「家は琉雨(るう)ちゃんと(くれ)君だけ?」

千鶴(ちづる)さんがいるし」

むっつりしたまま扇風機を抱く洸祈。

短パンにシャツ1枚で、風に煽られた裾から見える括れがそそられなくもない。

プラスして、生腕生脚。

「洸祈って毛がないよね」

「あるよ。髪の毛」

そうじゃなくて。

「毛がないって言うか、薄いよね」

「いや、禿げかけてるつもりないんだけど」

そうじゃなくて。

「腕と脚のこと」

背後から抱き付くようにして脚に触れれば、洸祈の背中がぴくりと震えた。

「ほら、すべすべじゃん」

風呂上がりであることもあって、扇風機の風に運ばれて洸祈の体臭がする。太陽の匂いにシャンプーの匂いが混じっていた。

「洸祈、女物のシャンプー使ったでしょ」

「あったから使った」

太陽と花の甘い匂いがふわふわと漂い、まるで春だ。

「男物もあったよ。ねぇ?」

石鹸の匂いが首筋から……。

「んっ…………はる、舐めるな」

「だって、いい匂いするから。洸祈のせいだよ」

洸祈は肩を竦めるが、舌先で軽く愛撫を繰り返していると、ゆっくりと四肢の強張りを解した。

何だかんだ言う割に、洸祈の体は素直だから好きだ。

脚に這わせていた指を、洸祈の肌の弾力も楽しみながら太ももへと滑らせる。洸祈の視線が俺の手に移っているのをなんとなく感じる。

期待か照れか。

「期待してる?」

短パンの裾口ですべすべ。

「…………」

ふるふると頭が小さく揺れた。

つまり、期待してると、俺流解釈をするわけだ。


指を短パンの内側に入れた。

「……っぅ……」

どうやら、今日は積極的な感じらしい。

なので、棚引くTシャツの隙間にも指を入れてみた。

「ぅぅ……陽季(はるき)……」

「色々苛めて欲しいって?」

「うぅ……」

上体を俺に向け、俺の首に腕を回す。

「はぁ……」と震える吐息が俺の耳に響いた。


ちょっと色っぽい。


「んん……――」

扇風機から離れて俺に抱き付いたまま器用に体を解す洸祈。

ずるずると俺の体から落ち、洸祈は俺の膝に頭を乗せて床に寝転がった。

「眠いの?」

「ううん……陽季の膝枕で休んでるだけ」

パサパサと睫毛が揺れ、洸祈が目を瞑る。

「何か疲れた……」

俺が頬をつつくと、指を絡めて溜め息を吐いた。もう片手で耳たぶを揺らせば、洸祈ははにかんでされるがままになる。

洸祈は俺の手ごと持って丸くなるので、指先を近くに来た洸祈の唇に当てた。ふにふにの唇を撫でてやる。

チロッと洸祈の舌先が俺の指を舐めた。


「ふぁっ……はぅ……」


小さく舐める洸祈。

「洸祈……」

温かい頭を撫でれば喉を鳴らして俺の指をあまがみする。仔猫とじゃれている気分だ。

「俺の指って美味しい?」

「……味しない」

「噛みごたえは?」

「まぁまぁ。骨が硬い」

「骨が柔らかかったら、俺、スライムだよ」

「俺は2作目ハリー・○ッターを思い出す。あのぐにんぐにんの腕」

「額に刺青の眼鏡っ子だっけ。孔雀の柄を入れてるんでしょ?」

不良みたいな外見をしながらも、悪の組織を推理で追い詰めていく男の子。

彼は事件を引き寄せる死神体質を持つため、行く先々で悲惨な事件と出会う。そして、解決していく。

超有名人となった彼だが、彼には暗い過去がある。

両親をとある悪の組織に殺され、自らはその額に刺青を残された。一生消えない傷痕……彼は復讐を誓い、様々な事件解決する一方で組織を追うのだ。

2作目では被害者達が両親と似たような殺され方をされた連続殺人事件を知り、彼は事件解決に乗り出す。一時、彼の隠れドジっ子気質によって、彼は警察に犯人ではないかと疑われたが、友達の大蛇が彼のピンチを救う。

『彼は犯人ではない!友人の僕が証明する!僕の蛇眼を見よ!』

と、大蛇の眼を見た警察一同は蛇眼によって彼は犯人ではないと洗脳されるのだ。

そして、問題の“ぐにんぐにん”とは、彼が「ヘイ、タクシー!」と走って来た一般車両を止めようとして車に接触し、腕を折ったことから来ている。

腕を折った時、足を滑らせて背後の繁みに落ちたこともあって、痛い痛いと泣いていたら、また友達の大蛇が――

『痛いの!?なら、僕の蛇眼を見て!』

と、蛇眼効果によって、彼の腕の感覚を無くすどころか、骨を豆腐の柔らかさまでにしたのだ。

彼も彼なら、大蛇もお茶目だった。


そこで2作目は終わる。

連続殺人事件は勿論、彼が解決しているが、結局、悪の組織とは無関係だった。

被害者達と犯人による昼ドラ並の愛の泥沼関係が原因だったのだ。

これが、今も話題の『ハリー・○ッター』シリーズである。

確か、2ヶ月前に12作目が劇場公開されたような……。

「えーっと……最新作は『バラの香りに導かれて』だよね?」

「…………『俺は椿を愛でる』だよ!あと、額の刺青は蝶!」

思いっきり否定された。

『バラの香りに導かれて』は11作目だったかもしれない。それにしても、あの刺青は孔雀ではなく、蝶だったとは……蝶に見えなくもないけど。

洸祈の鼻先を摘まんだりしながら、そんなことを思っていた。

「ところでさ、店は7時閉店だろ?明日の夜9時から三橋裏山の博物館でナイトショーがあるから、一緒に行かないか?」

「三橋裏山……ナイトショー?」

「ホタル。ホタルが見れるんだ」

「ホテル……ラブホ……暑いのに盛るわけ?」

いや待て、何の話だ。

「ホテルじゃなくてホタル。精々、手繋ぐだけだから」

ま、キスのチャンスは五感をフル活動させて逃さないけど。

「まぁ、帰りは泊まってもいいけど?」

「お泊まりするなら、少し激しくしてもいい。でも、クーラーは苦手だから程々にして」

洸祈って、絶対に性的展開を期待してるよね。

とは言わないけど。

「クーラーが苦手なのは分かってるから。8時ちょっとに迎えに行くよ」

「うー。車送迎ね」

「はいはい」

免許取り立ての俺には三橋裏山はいい練習スポットだろう。

「じゃあ、帰る」

Tシャツ・短パンで体を起こした洸祈は欠伸をする。

臍がシャツの隙間から見えた。

「へ?何?」

「ちゃんと指輪持ってるね。毎日、これに俺達の愛を祈ってくれてる?」

胸元で揺れるそれを見るために、洸祈に背後から抱き締めて、彼のシャツを肩まで捲り上げる。

「俺は陽季とキスしてる時に祈ってる。ずっと一緒にいたいって」

「本当に?」

「指輪は陽季からのプレゼント。陽季とプレゼントは違う。陽季は陽季だけだから」

俺は洸祈の顔を見れなかった。

ぷらりぷらりと揺れる指輪しか見れなかった。

「洸祈、俺のことどれくらい好き?」

「服捲って露出させたり、触ったり、涙落として服濡らしたり、沢山のマニアックなことしたり、焦らしたり、怒ったり、諭したり…………そんなことされても離れたくないって思うぐらい陽季が好きで好きで堪らない。大好きだ」

「…………服濡らしてごめん」

「好きだから許す」

俺、かなり愛されてる。

“かなり”じゃないかも。

物凄く愛されてる。


洸祈の拠り所を奪って、時には酷いことを言って、酷いことをして、自由を奪った。

洸祈にも非がある。

俺にも非がある。

でも、洸祈は全てが非常識の中で生きてきたから。俺は常識の中で周りに置いて行かれないように走ってきたから。

喘ぎながら走って走って、止まって俯く洸祈を無理矢理引っ張って、俺も死にそうに疲れてるのに足は止めなかった。

走れ。

走れよ。

早く皆に追い付かないと!



俺達は多分、皆の残した足跡を辿ってる。




――疲れた!休もうよ!――

洸祈が足を止める。

――あと10分だけ歩こう?――

俺は洸祈を振り返る。

――……10分歩いたら、5分休憩だから!――

洸祈がむくれる。

――分かった。5分休憩ね――

俺は洸祈の頬にキスをした。

――………………うん――

頬を赤らめて俯きながらも、洸祈は俺の手を握り直して歩き出す。

ゆっくりでいい。

道を間違えた時は戻ってもいい。寧ろ、冒険して道を外れたっていい。


目印はあるのだから。

俺達を支える皆が付けてくれた足跡があるのだから。


――あ、白髪君じゃないか――

道端で蟻の行列を見詰める遊杏(ゆあん)ちゃんの傍で本を読んでいた二之宮(にのみや)が顔を上げて俺に話し掛けてきた。

――ここで何してんの?――

――見ての通りさ。遊杏が蟻を見て動かない――

溜め息を吐きながら、二之宮は椅子まで用意して長期戦態勢である。董子(とうこ)さんは遊杏ちゃんの隣でタンポポの綿毛を吹き飛ばす。

――もうすぐ暮れるけど――

俺は斜光に目を細めた。

まぶしい……。

――千歳(ちとせ)がお泊まりセットを運んでくれるんだ。せっちゃんが珍しい虫集めに右に逸れて、神影(みかげ)君も追い掛けてったし、今日は二人の為にもここにテントを張ろうとね。それにしても、君はまた随分とコキつかわれて……――

二之宮が眉を曲げた。

――洸祈、大の男が情けないよ――

――ううう……もう歩けない――

――歩けない歩けないって、君をおんぶする陽季君の為に少しは歩こうって思わないわけ?――

お、二之宮が俺の肩を持ってる。

――陽季君が可哀想なぐらい御愁傷様じゃないか――

御愁傷様……ですかね。

――ちょっと前に葵君と擦れ違ったけど、千里君のことおんぶしてたよ?君も弟君を見習って、陽季君をおんぶしてやるってぐらいのやる気は出しなよ――

それは葵君が御愁傷様だと思う。

――…………今日はここに泊まる!――

洸祈がむっつりしながら言った。

――陽季、降ろして。今日はもう歩くのやめて、眠ろう。日が沈むと同時に眠る!――

どうやら、洸祈は原始に帰るみたいだ。

――二之宮、いいか?――

――御愁傷様に免じて……というより、仲間は増えれば賑やかで楽しくなるからね――

二之宮の口から“賑やか”とか“楽しい”とか、ビックリだ。

――あ、崇弥(たかや)ぁー!!――

子連れ童顔さんが登場。

――洸兄ちゃん!――

――旦那様っ!!――

呉君と琉雨ちゃんだ。

――何だか随分と賑やか…………桜の木です!なんて綺麗なんでしょう!ね、璃央(りおう)さん!――

――は、ははははいっ!とても美しいですね、レイラ――

あの人は洸祈の父親の親友だったはず。洸祈曰く、学校の先生をしている煉葉(れんば)璃央さん。で、隣は……。

――久し振りやな、レイラさん!――

――由宇麻さん!お久しぶりですね!――

司野さんは金髪灰眼美人の知り合いらしい。

――レイラ、これが噂の陽季――

――洸祈君も久し振り。この人が噂の陽季さん――

じっと美人に見られる。洸祈は一体、彼女に俺を何と言ったのだろう。

――初めまして。私はレイラ・リーンノース。昔、用心屋さんの洸祈君に命を助けて貰ったんです。貴方は、洸祈君の命を助けた人ですよね――

くすり。

彼女は笑う。

と、洸祈が俺の背中に隠れた。

――洸祈?隠れるなよ――

俺は笑わないよ。

――やだ。陽季の顔見たくない。見れない――

――じゃあ、僕が見るし――

ん?

背後に洸祈以外の気配。

千里君?

さっき先に行ったって二之宮が言っていたのに。

――真っ赤だ。照れてる~!――

――見んな!てか、何でここにいるんだよ!――

――璃央先生から聞いてない?この先の街で、今夜は祭りやるから、宿がどこも空いてないんだ。僕はあおと一緒なら橋の下とかで野宿でも良かったんだけど、あおが一つ前の街に戻ろうって――

なんだ、この先は満員か。

葵君がとぼとぼと歩いて来ていた。千里君も背負っていたようだし、疲れているみたいだ。

――ならば、今夜はここに泊まるといい――

葵君の疲弊しきった顔を見た二之宮が切り出す。

――確か、あそこの祭りは花火だろう?ここからでも見れるはず。街灯もないし、綺麗に見えるはずだよ――

――花火好き!二之宮好き!――

洸祈がはしゃぎだした。

可愛い。

――僕も崇弥が好きだよ。それはもう、陽季君から乗り替えて欲しいぐらい――

おい。俺を睨むな!

そんなに伝えたいなら小声で話さなきゃいいだろ!

まぁ、洸祈は俺が大好きだから、“好き”の二之宮は俺に勝てないし。

――おーい、(れん)!――

ヘリコプター……。

輸送ヘリで(きり)千歳さんは現れた。

相変わらず、登場が派手だ。

――言われたもん持ってきた!なぁ、ついでに俺もお泊まりに参加……お!増えてんじゃん!!――

彼は目を丸くし、にこにこと手を大きく振る。

――アロハー!皆さん!テント張りの講師の桐でーす!――

――千歳坊っちゃま!――

ヘリの扉から身を乗り出す千歳さんを慌てて引き摺り戻すは黒サングラスのボディーガードやら執事やらメイドやら。

彼は愛されてるなぁ。

――んじゃ、テント頑張ろーぜ!――

千歳さんがぴょこっと顔を引っ込めた。

――ヘリから降りてから言えばいいのに。今頃、大声出してバテてるね――

などと、鼻で笑う割りには自然な笑顔をしている。ヘリの風から読み掛けの本を守って沈む陽を見る蓮。

タンポポの綿毛が空へと舞い上がる。





「たまにはこんな日もありかな」

陽季にタオルケットを掛け、エアコンの温度を幾分か上げる。リモコンを枕元に置き、薄く開く彼の唇に軽く唇を当てた。

「お休み、陽季」

戸締まりを確認して荷物を持って玄関へ。

明日は久し振りのデートだ。

そう考えると何だか、笑みが溢れる。

「好き。好きだ」

言えば言うほど、恥ずかしさと共に胸が満たされていく気分になった。


嗚呼、あと一回。


俺は荷物を捨てて陽季の眠る寝室に走る。

「大好きだ、陽季」

俺の為に走る陽季が好きだ。


――早く!なぁ!――

陽季は引っ張る。

俺は引っ張られる。

陽季の手と過去に。

『独りにしないで……』

指先が離れたあの時から、あいつの見えない手が俺を引っ張るのだ。

無理だ。走れない。

進めない。

――待ってろ――

陽季は走る。

そして、光を持ってくる。

――走らなくていいから、一緒にあれを目指して歩こう――

スッと俺を引き留める手が幻となって消えた。

――お前の代わりに俺が走るから、お前はゆっくりでいい。だから、一歩ずつでいいから、前に進もう。皆のところまで――

陽季は俺の鈍い歩みに付き合ってくれる。時には俺の障害を消そうと走り出す。

挫折して遠回りしても、文句をいいながらも俺と歩いてくれる。

――もういい。先に行って――

俺は足手まといだ。手を放して。

――今更放すもんか。おんぶしてやるから。ほら――

おんぶしてくれる。

陽季の背中だ。

――30分休憩。そしたら、また自力で歩けよ――

――うん――

30分も陽季の背中を堪能したら、今日は日が沈むまで歩いてもいいかも。

ま、もうすぐ日が沈むけどね。


陽季が苦しそうにするその時までキスをした。



ずっと一緒にいよう。





俺は合鍵を使って陽季が今年の夏いっぱいに借りているアパートを出た。

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