第7日 全力で頑張る宇宙人。
「宇宙人、この時間帯でいいのか?」
「はい、私がやることは少し時間がかかるのでそれまでよろしくお願いします」
「わかってる」
前回きた街をひたすら走る。目指すべき場所はもちろん・・・あそこだ。
俺らはそのままスピードを緩めずに突っ切る。そこはでかい広場になっていた。
「私は隠れるわけにはいきません。隠れて道の狭いところではこれからやることが半減してしまいます」
「守ってくれって話だろ。無理だよ、痛いの嫌だし」
話しながらついた場所にはチンピラ3人と不良1人。
「あぁ?なんだお前ら?」
チンピラたちは露骨に不機嫌に不良である七実空人は心底驚いたような顔をしていた。
翌日の日曜日。さっそく昨日たてた作戦を実行する!
「よ、七実空人くん」
「お前は・・・・・」
「なんだ?お前の友達か、こいつら?」
「いや、俺はこいつらなんてしらな・・・・・」
「もちろん!私たちは友達です」
ワン太が七実の声をかき消す。
「ワン太」
「はい」
そしてワン太は力を練る。ここからは俺1人だ。
「あのですね・・・俺と喧嘩、しませんか?」
「・・・・・で、もしかしてお前が勝ったらこのペンダントを返せ、とかか?」
「うーん、それもそうですね、それと・・・」
俺は最大に意地悪でニヒルな笑みを浮かべる。この笑顔は主人公らしくない。
「それとあなたの帰星も望みます」
「・・・・・・・・・お前、何者だ?」
ほら、食いついた。帰省というとこっちの漢字を思い浮かべるが宇宙人は違う。あいつらは星に帰るんだ。言葉だけでは判断できないので七実にもばれていない。
「別に人間ですよ」
それと同時に走り出す。ここで俺がやること、作戦は・・・。
とにかく時間を稼ぐ。
馬鹿みたいな作戦だな。もうこれ無理な気がしてきたぜ。
「いいだろう。お前が勝てば、な」
どうやらこの宇宙人もワン太みたいに見てくれは普通の人間のようだ。腕力も人間程度。恐らく死ぬことはない。恐らく。
「最初の一撃!」
喧嘩慣れしていないのがばればれなナヨナヨパンチを放つ。しかし宇宙人はそれをひらりとかわしやがった。体が勢いに任せて止まらなくなる。やばい、くらう。
「ぶっ☆殺!」
ドゴォオオオオオオオオオオオン!と派手な音がする。それは俺に繰り出してきたあいつの技のせいであろう。拳が俺の右腕に直撃。能力が戦闘に特化しているらしい。腕力は普通でも能力があれば異常になる。勝てる気がしない。
「がっああああああ・・・!」
叫んだもののしかしその音の割にダメージはほとんどない。
地面を転がり起き上ろうとしたところでそれに気付く。
「なっ・・・」
右腕が動かない。まるで力も入らない。
「それが俺の技だ。どうせ腕力では同じ、あの金髪不良よりも劣るやつ、とでも考えていたのだろう。馬鹿が。能力ありなら俺は負けない。あいつにもな」
そこで加勢しようとしていた七実を制するためにペンダントを出す。
「お前は手出しするな。このペンダントを壊してお前の妹の四肢を動かなくなるまで殴る」
「ぐっ・・・!」
七実は迷っているようだ。妹のペンダントだけならばきっと加勢していたろうけれど、なるほど、妹自身も人質みたいなものなのか。
「七実空人。加勢はいい。妹を守れ」
俺はそれだけ言うと動かなくなった右腕の感触をたしかめる。激しい振動で麻痺しているようだ。そういう技だったのか。折れたのかと思い、泣きそうになったわ。
「あーくそ!いってぇ!」
しかも痛みが襲う。麻痺してんのに痛みは感じるってどういうことだよ!
「警察だとかの助けを待っているのなら無駄だ。情報操作で防音空間を作り出し、この広場自体を認識させないようにしている」
何言ってるかわかんねぇけど・・・助けは期待している。警察よりももっと頼りになるものをな。
「で、さらにお前はこう考えているわけだ。時間を稼ごう、と。警察が無理ならその後ろの女の手助けを待とう、とな」
「・・・・・・」
「お前はどうやら何もない一般人らしい。ってことは俺のことを詳しく知るのはその女、ということになる。その女宇宙人だな」
動揺するな。大丈夫。何をするかまでは知られていない。ポーカーフェイスを崩すな。俺のやることは以前として時間稼ぎだ。
「ところで俺の仲間2人がどこに行ったか知らないか?さっきまですぐそこにいたんだがなぁ」
にやにやと笑いながらチンピラは後ろのワン太の方を見る。
「まさか!」
俺は後ろを振り向く。するとワン太の背後からチンピラ3名が忍び寄っていた。もちろん拳を振り上げながら。
「ほら、守ってやらなくていいのか?」
「くそっ・・・!」
俺はリーダー格の宇宙人チンピラからはなれ、ワン太へと駆け寄る。走るたびに右腕に変な感覚が走る。くっ・・・しずまれ俺の右腕(必死)・・・をリアルでやることになるとは。人生分からん。
「ワン太ぁ!」
「え・・・?」
ワン太は精神集中みたいな状態になっていたため、俺が走り出したことで後ろのチンピラに気付いたみたいだ。たぶん、俺は間に合う。でもこれはまた殴られるなぁ・・・。さっきから俺、サンドバックじゃねぇか。
ワン太とチンピラどもの間に入り込み、ワン太をかばう。そうして当たり前の如く俺は殴られる。またこれ怪我増えるだろう。
「ノゾム!」
「いいから・・・はやく・・・!」
「・・・・・・・・・・・できました!」
よし。俺は安心してその場に崩れ落ちた。ジンジンとあちこちが痛い。でももう体を張る必要はない。ここからはワン太、グリーン星だかの姫様が体張る番だ。
ワン太が手をひろげるとあたり一面が真っ暗になる。昼なのに全ての光がワン太に奪われてしまったようだ。比喩じゃなくそうなのかもしれないけれど。
そうしてその光はスポットライトのようにワン太を照らし出す。その姿は今まできていた普通の服から異常に豪華なドレスへと変貌していた。あれは俺が初めて見たワン太だ。
「な、なんだこれは・・・」
当然ワン太以外の場所が真っ暗になりあわてふためくチンピラども。しかしリーダー格の宇宙人は冷静だった。いや、汗をかきまくっている。何かに気付いたみたいだ。
「おい・・・お前・・・まさか・・・!」
「はい」
「その胸にあるエメラルドの紋章・・・・・グリーン星の姫、ワルディード・ハルン・タブレースか!」
「ワルディード・ハルン・タブレース、ハルンとお呼びください」
敵宇宙人は慌てて逃げ出す。それに続いて他のチンピラも。
後で聞いたのだが、このスポットライトはエメラルドの紋章を光輝かせるためのものらしい。姫、というか王家の人間の特権である紋章を相手に見せる。簡単に言えば印籠、みたいなものなのだろう。水戸黄門、みたいな。
ただ仕込むのに超時間かかるらしい。ほんとアパート出発の時点から準備してようやく今だもんな。
「おい、まて・・・ペンダント」
俺は宇宙人にそういうと、宇宙人はそれを投げる。おい・・・それ落ちるコースじゃねぇか。
ペンダントは落ちて地面にあたり軽く割れてしまう。
「あの野郎・・・」
俺は動かない体を動かしてペンダントを拾う。
七実空人の方を見ると俺のことを驚いた表情で見ていた。いや、目線は俺じゃない。ワン太だ。
「気にしないでください。後日あなたにも話すことにします」
ワン太はそう言った。もうごまかせるレベルを超えているよな。それならばこの不良は口がかたそうだし、軽く話してもいいかもしれない。変に騒がれるよりマシだ。
「ワン太・・・これ頼む・・・」
俺はワン太にペンダントを渡す。そうしてペンダントはジャムパンの時の応用で綺麗に治ってしまった。本当に驚きだな、それ。
「おい・・・受け取れ」
ワン太がなぜか俺にペンダントを返し、それを七実空人に渡す。お前が直接渡せよ・・・。
「な、なんで・・・なんでお前が体をはっている・・・クラス同じだけど友達なわけじゃないし、一度しか会っていないし、それに俺、お前のこと殴ったし」
七実がたたみかけるように質問してくる。
「妹は?人質とかじゃないのか?」
それに対して俺が返したのは質問だった。
「え・・・・・あぁ、人質っていうか脅しだよ。いつでもお前の家族を攻撃できる、っていう脅しだ。俺はそれでも逆らうわけにはいかなかったが・・・」
申し訳なさそうな顔で俺を見る。
このままなんか申し訳ない関係でいるのは嫌なので気のきいたセリフを言うことにした。
「気にすんな・・・なんか俺、巷じゃマゾとして有名だから」
ひどいな、俺の気のきいたセリフ・・・。
最後の最後に冗談を振り絞り、力なく笑った。
あとはワン太に任せよう。女子に支えられる俺。なんかすごく情けないけれど宇宙人って力持ちだったりするんですよ。人間を超える力はないけれど。
「頼んだ、ワン太」
「ですからハルンです、と言いたいですが今回のお礼も兼ねて特別に許します。ありがとうございました」
俺はワン太に支えられながらその場を後にした。
〇
「冗談じゃねぇ!」
宇宙人は人目のない裏路地を走っていた。まさかの姫と遭遇。星は違えど王家を相手にしていいことなど何もない。しかもあれは有名なグリーン星。
他のチンピラとはバラバラになってしまったようだ。
そんな走る宇宙人は何かにひっかかり転倒する。人間の足だ。
「いった・・・てめぇ!」
逃げることよりも一度殴ることを選んだらしい宇宙人は思いっきり拳を振り上げる。しかし足をかけた人物はそれをひらりとかわすとその腕をひねり拘束してしまった。
「がっ・・・」
「全く・・・姫様も甘い。逮捕権限がないとはいえ、これでは野放し当然ではないか」
その人は軽く指で2度宇宙人をたたくとそこから光が広がりだす。
「逮捕だ」
その光は宇宙人を包み込みワープする。テレポートの応用だ。恐らく飛ばされた先は星の刑務所のようなところだろう。
「姫様、迎えに来ました」
その人物、着物を何枚も重ねて着た女性はそう言うとその着物の重さからはとても無理であろう素早さでその場を離れていった。
〇
「ど、どうしたの!?」
「あー・・・」
次の日の月曜日、俺は学校に登校しクラスに入ると同時にヒメちゃんに驚かれた。それはそうだろう、怪我が増えているのだから。しかも包帯やらが。あのあと麻痺した腕は少しずつ感覚を戻しているもののまだ使えるレベルじゃないということで骨折したみたいにギプス状態だ。
ちなみに顔面やらもガーゼが増えている。どうやらヒメちゃんだけが驚いているわけではないらしくまわりの視線が刺さる。
「階段で転びました」
「どんな頻度で転んでいるんだ・・・」
後ろでモブといいつつもイケメンな明日風が呟く。この前もそんな言いわけをしたっけ?
「とにかく席に座った方がいいよ」
「おう」
ヒメちゃんに促されて席に座る。ちなみにこのときヒメちゃんは椅子を引いてくれた。優しい。お嫁さんの才能だけでなくジェントルマンとしての才能もあるのだろう。なんか前後の才能が矛盾しているが。
「ど、どうしたの?」
「いや、階段で・・・・・・」
「もうそれ通用しないんじゃね?」
後ろで明日風が言う。お前は黙ってなさい。
しかし前を見るとヒメちゃんが涙を浮かべていた。可愛い。と思ってからそれが自分を心配しての涙だということに気付き自重する。
「ヒメちゃんにも後で話す。ヒメちゃん口かたそうだし」
「う、うんうん」
高速で縦にうなずく。うん、その様子も可愛い。
そうしてしばらくまわりのクラスメイトと話しているとワン太が登校してきた。
「よ」
「おはようございます」
そう言うと頭を痛そうに抱えながらこちらに来る。あの印籠モドキは結構負担がかかるらしく昨日から冷却シートを頭に貼っていた。
「元気そうだな」
「お互い様ですよ」
そう言って笑う。
そうこうしている間にあと5分でホームルームだ。
時計から目を黒板へと戻すと思いっきり教室のドアが開いた。
「ちす・・・」
そこにいたのは金髪不良七実空人である。長かった髪は切られて少し長め、という長さになったいた。さっぱりしている。金髪だけどね。
七実空人は俺の前にいた男子生徒に対して、
「ちょっと席かわってくんね?」
そう言った。
顔が真っ青になった男子生徒はすぐにどける。もう2度とこの席には戻ってこないんだろうな。
「空人くん!」
横でヒメちゃんが驚いた表情をする。今まで不登校だった友達が登校してきた、みたいな感じなのだろう。それにしてもその友達が不良チックだがな。
「よ、小花くん。久しぶり」
愛想のいい笑いを浮かべる。
なっ・・・!なんだと・・・!
この男がこんなにも愛想があってフレンドリーなやつだということに驚いたのではない。こいつヒメちゃんを名前で呼びやがった!それどころかヒメちゃんも名前で呼んでいるし!
い、いや、落ち着け・・・。俺はニックネームだ、上をいっているはず・・・。しかし、
「白木くん、この人が七実空人くんだよ」
白木くん・・・名字、だよ、な・・・。俺の名前は白木ではない。希である。
「ひ、ヒメちゃん。俺、希」
「?」
言葉が足りなかった。もう1度。
「俺のことも名前で呼んでくれ」
「い、いいの?」
上目づかいで見られる。こんな時身長差っていいなぁって思う。いいんです。全然いいんです。
「じゃ、じゃあ・・・希くん」
「・・・・・・」
顔を赤くしながら呟くヒメちゃんを思わず抱きしめる俺。
「わぁ!な、なにしてるの?」
困惑しているヒメちゃん。そこで正気に戻る俺。今・・・何を・・・。
顔を上げるとワン太がすごい顔をしていた。
「ノゾム。なにデレデレしてるんですか!」
「いや、だって・・・お前も見たろうが!」
しかしワン太はそのままヒメちゃんを抱き締めた。お前もメロメロだったんかい。
「は、ハルンさん?」
「はっ・・・私は何を・・・・・・」
するととんとんと机をたたかれた。
前をむくと七実空人。忘れてたよ、すまん。
「よ」
「お、おっす」
少し緊張する俺。
「ありがとな」
「お、おう・・・」
なんか面とむかって言われると照れるな。しかし今回の功労者はワン太だ。お礼を言ってやれと視線を向けると七実はうなずいた。
「あんまり小花くんを困らせるなよ、希くん」
まさかの名前呼びだった。親しくなった、ってことでいいのだろうか。
そして何かを期待するような目で見てくる七実。
「ああ、ヒメちゃんのことは任せろ、空人くん」
俺らは笑いあう。
「知り合いだったの?」とヒメちゃんが首をかしげている。心配しないでもすぐに話すよ。
でもとりあえずはここまで。
俺の宇宙人遭遇最初の一週間はどたばたしつつもここで終わりとなった。これからはもっと平和に穏便に過ごしていきたいなぁ。
で、最後に。
神埼さんが敵意を向けた目で見てくるのはなぜだろうか・・・。誰か教えてください。
第1章終了です。
今回のが少しバトル、みたいな感じですね。ですが恐らくもうほとんどバトルはないと思います。シリアスはあるかもしれませんが、基本日常なので。
バトルってか一方的に殴られてるだけですけれど・・・。
次回からは第2章です。よかったらおつきあいください。
ではまた次回。