第65日 救えない宇宙人。
「ワン太!」
俺は嬉しさのあまり小走りでその場にかけよる。しかしワン太はそれを片手で制した。
「落ちつきなさい、地球人。私はワン太という名前ではありません。ワルディー・・・」
「もうそのくだりはいい!」
今まで溜まっていたものが全部出る。あふれ出る。みんなを救うことも、冷たくあたることも全部全部大変だった。本当に大変だった。
思わず涙ぐむ俺をワン太は不思議そうに見ていた。
「あなたはどちら様でしょうか?」
「え・・・と・・・」
もしかしてワン太まで記憶がないのか?
「あ、あのだな。その・・・冗談と思われるかもしれないけどさ、俺らは未来で・・・」
そこまで話した時、俺のカバンが光だす。
「な、なんだこれ・・・」
「地球人」
ワン太は俺を呼ぶ。この場には俺とワン太しかいないからな。
「私がこの地球に来た理由は1つ。おばあちゃんから話を聞いていたからです」
話・・・?
確かいいところとかって言われてたんだったか。
「おばあちゃんは一度地球にきたことがあって、それでとても素晴らしい場所だと。綺麗な場所だと言っていました。子供ながらに私はその話を聞きいってしまったのです。写真を見せられ、文字を見せられ、文化を見せられ。さらに地球は国ごとに文化も違うそうじゃないですか。そんないつまでいても飽きないこの場所が好きだったのです」
そう言うと珍しいのかもしれない。他の世界、星に人がいるという考え方まで至らなかったから考えたことはなかったが、こんなに文化が違う星もないのだろう。
日本の中でも違いは様々だしな。方言とか、名産とか。
「私の星、グリーン星は綺麗な国ですが、恐怖を取り除いた変な国でして。誰も死なない星を目指しているのです。それがいいことか悪いことかは分かりませんが、人を殺す犯罪はなくなりました」
確かに、死なないことがいいことと言えるわけではない。
そう考えながらも、なぜ今この話をするのかが気になった。
「星同士の戦争もたまにありまして、そこでは自分の星から死者を出さないように一方的な虐殺をおこなっているところもありました。姫として私はそれが許せなかった。我が父、王のすることが許せなかったのです」
「一方的な虐殺・・・」
「私はその王の攻撃先がいつ地球になるのかとハラハラでした。しかしグリーン星から距離は離れており、また地球という星の存在も私とおばあちゃんぐらいしか知らなかったため、その矛先は地球にむかなかったのです」
そう言うワン太はどこか悲しそうであった。
「このまま私が大人になり、国をまとめあげれるようになったら他の星への侵攻はやめようと決めていたのです。どうかそれまで地球が見つかりませんように、と」
俺はなんとなく展開が読めていた。
「その時でした。おばあちゃんの写真などが見つかったのは。私のおばあちゃんは私が小さいころに死んでしまい、その写真は私がもらったのですが、部屋の掃除をしていたメイドにばれてしまったのです。それを見た王は見たことがない文化だと喜び、地球に興味を持つようになりました」
「それで宇宙人が・・・」
思い出す。
みんなの顔を。
誰に殺されるわけでもなく、不運を呼ぶ技術で事故死させられたみんなの姿を。俺の大事な仲間の姿を。ワン太には悪いがその王は俺が最も憎むべき相手なのである。
「そんな王が地球に侵攻することを決めたときは焦りました。どうにかして救わなければ。地球を助けなければ。しかし私1人がどうあがいてもどうすることもできない。だから私は人を頼ることにしたのです。地球人を、この運命を変えれる相手を」
ワン太はうつむく。
「だからUFOが着陸したとき、その場に1人だけいた地球人に惹かれたのです。この人にだったら変えられるかもしれないと思ったのです」
「ワル・・・」
ワン太と言おうとしたがまた怒られるため呼ばなかった。代わりに本名を、と思ったのだがそちらを覚えていなかった俺は割と失礼かもしれない。
「そしてその人を一度キャトりまして、それで未来を見せたのです。残酷ではありましたが、てっとりばやく信じてもらうために」
ワン太は泣いているのか肩を震わせていた。泣いている理由は俺には分からない。けれど相当辛かったのだろう。
「ワル・・・なんとかさん。聞いてくれ。あなたは覚えていないかもしれないが、俺がその未来を見た地球人でな・・・」
「地球人」
はばまれた。
「そろそろそのエネルギーがたまるころです」
そうしてワン太が指さしたさきにあるのは1つの銃。
「それは王家の銃。その銃はただの宇宙人には効かない。それなりの、それこそ王家の人間にしか効かないようなものなのです」
「それじゃあ、それであいつを殺せなかったのは・・・」
一般宇宙人だったからか。
「って、じゃあその銃は・・・?」
その瞬間、嫌な予感がした。
何かとてつもない何かが失われるような嫌な予感が。
「おい・・・それじゃあこの銃は王家自殺用の銃みたいなものじゃないか・・・!」
それと同時に俺は走っていた。
「ワン太!そこを避けろ!あの銃はお前を狙っている!」
「いいんです」
ワン太はまた片手でそれを制す。
「地球人覚えていますか?もし我がグリーン星の人間が死んだらどうなるか」
大事なときになにを・・・と思ったが考えてみる。
確か、死んだことをなかったことにするんだったか?それで・・・。
「それでその星への侵攻は中止される・・・」
その考えにたどり着き、俺はまた走り出す。
「ワン太!やめろ!」
「私はあなたたちを救いにきました。そのあなたたちとは、あなたでもあるし、あなたの仲間でもある、そして地球人全体でもあるんですよ」
あなたたち・・・?
「お前記憶が・・・!」
「最初から失ってなどいません。お久しぶりです、ノゾム」
そう言った時、無音の赤いレーザービームがワン太を貫いた。ワン太はその場に崩れ落ち、そして消えていく。なんというか粒子になって消えていくのだ。
「ワン太!」
これがグリーン星の死。
「ノゾム・・・あなたの頑張りはちゃんと私が見てました。あなたが誰に嫌われようとも私はあなたのことが大好きです」
「ワン太・・・。俺もだ!俺もお前のことが・・・!」
その先の言葉はワン太の手のひらによって言えなかった。
「ノゾム、その先はやめてください。それ以上言うと死ぬのが怖くなります・・・」
「ワン太・・・・・・」
俺が救いたかったのはみんなだ。その中にはもちろんお前も入っていた。その中でお前が欠けてしまったらそれはすでにみんなじゃない。
「俺のことを見ていたなら分かるだろ・・・俺はお前も救いたかったんだ・・・」
ワン太はその言葉を聞くと、ありがとう・・・と呟き消えていった。
「ワン太・・・・・うわぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
思いっきり叫ぶ。
涙と怒りとともに吐き出す。
俺の頑張りはなんだったんだ。
俺はみんなを救うために頑張ってきたのに。
これで地球人のみんなは救われた。でも、こんなのってないだろ!
「ワン太・・・」
俺はまだお前を救っていない。
こんなんじゃ終われねぇよ・・・。
俺は抉れた山で叫び続けた。俺はまた救えなかった、と。
昨日に引き続き、こちらも投稿させていただきます。他の作品も並行で同時に投稿しているものもあるのでもしよろしければ。
この話ももうそろそろ終わってしまいます。新作にとりかかってもいるのですが思うようにいかずって感じです。
ではまた次回。