第63日 独りになる宇宙人。
「転校してきました、白木希です」
翌日。俺が宇宙人を探し、見つけられなかった翌日。俺は学校に来ていた。単純に今日から学校が始まるという意味で学校に来ている。
俺の隣には誰もいない。それはそうだ。転校してきたのは俺だけなのだから。俺の夢なら俺のとなりにはワン太がいて、自己紹介していた。そのあとすぐに俺に友達になろうと言うという意味の分からない行動をとり始めたことを思い出す。
少しさびしく思いながらも自分の席につき、適当にHRを過ごす。
俺はあの後、出会う、ということの意味について考えていた。俺がワン太(冷)から仰せつかった命令のうちの1つ、仲間と出会うということ。その出会うとはどこまでのことなのか。一言言いあったら出会うなのか、それともただお互いを見るだけでも出会うになるのか。
恐らく、出会う、というのはその中間の意味なのだろう。一言かわさなくとも、きちんと会えばそれでいい。しかし、見るだけという浅いものでは不可。
そういう結論に達した。
だからこそ俺はある行動をとることにした。それはもうひどい行動を。
そもそも、俺は出会え、と言われた人たちを守るためにここにいる。それだけは揺らがない。ならばどんな方法でもいい。守れればそれでいいのだ。
ただ、考えろ、白木希。これはやり直しのきかない世界。したことは一生ついて回るのだろう。夢でも未来でもない、現実。本来はそういうものだ。
でも俺は結論を変えない。
俺がとる行動は、
最低で。
汚くて。
ひどくて。
幼い。
自分勝手で。
身勝手な。
最悪の。
悪手の。
そういう手段なのだから。
そうこうしているうちにホームルームが終わり、みんなはざわめきだす。これは俺の自意識過剰ではなく、恐らく騒いでいるないようは俺のことだろう。
俺がかっこいいとかそういうんじゃなくて、ただ転校生という珍しい存在に食いついているだけ。俺自身ではなく、転校生という肩書にみんなは食いついている。そういえばこういう視線や話し声、前はなかったなぁ。ワン太がとった奇怪な行動のせいだろうけれど。
俺はすっと横を見る。
そこにいたのは俺の女神、天使、理想の嫁という異名を持つ、姫岡小花。過去に一度見たことはあると言ってもこの高校生の姿で見るのは久々だ。なにしろ、ヒメちゃんは未来で・・・・・・。
暗い過去、というか未来を振り切るように俺は次の授業の準備をする。
「ねぇ」
その時上からかかった声に聞き覚えがあった。
顔を上げるとそこにいたのは神崎阿国。俺の大事な友達だったものの1人だ。
「あなた、白木くんでいいかしら」
「・・・・・」
軽くうなずき、先を促す。
「白木くんは学級委員とか興味ない?女子の方はあたしって決まったんだけど、男子がなかなか決まらなくって・・・」
元気そうな印象はそのままだが、俺の未来では学級委員などやっていなかったはずだ。やはり少しずつ未来が変わっている。
神崎さんは不意にヒメちゃんの方を向いた。
「姫岡くんっていう意見が多かったんだけど、すでに違う委員やっちゃってるしね」
「うん、ごめんね」
申し訳なさそうに謝るヒメちゃん。マジ天使。
「で、白木くんはどうかなぁって。分からないところはあたしが教えてあげるし」
そう言って頼んでくる。
事実、これは押し付けられているのではないだろう。そもそも転校初日ではあるし。だから断ることも可能だ。ここで断っておけばいい。
ただ、転校というビッグイベントを境にこの学校になじんでもらおうというのだ。それぐらい分かる。神崎さんはそういう人なのだから。
俺はここで安堵する。よかった、みんなみんなのままだ。変わってない。みんなだ。
だから俺は予定通り、最低な手段でこれを乗り切ることにした。
これで神崎さんとヒメちゃんの出会いはなされたことになる。ならばもう・・・これ以上関わる必要はない。関わって未来のように傷つける必要はまったくない。
「それは俺に委員を押し付けているのか?」
冷たくそう言い放った俺に神崎さんは動揺する。
「べ、別にそういうわけじゃ・・・」
「じゃあどういうわけなんだ。転校という慣れていないこの環境で俺にそういう役職を押し付ける。断りにくいこの状況で押し付けてしまえばいい。そういう考え以外に他に何があるというのだ」
「ち、ちがっ・・・」
「俺に関わるな」
そう強く、相手の目を見て言いきる。まわりのクラスメイトが先ほどとは違うざわつきかたをして、今度は痛いぐらい鋭い視線が俺に刺さる。
神崎さんも何か諦めたのか深くため息をついた。
「ごめんなさい、他の人にあたってみるわ」
そういうと早足でどこかに言ってしまった。あまりよく見えなかったがその顔はひどく悲しんでいるようであった。ここに居にくい。今日の最初の授業は始業式である。だから俺はサボるために教室から出ようとするが、声をかけられる。
「あ、あの・・・」
「・・・・・」
そこにいたのはヒメちゃんだった。
しまった・・・恐れていたことが・・・。
「あの、神崎さん悪気があったわけじゃないんだ。君に学校に慣れてほしかっただけで・・・」
ヒメちゃんを困らせているのかと思うと心が苦しい。
でも。
「関わらないで。そう言ったはず」
俺は冷たくそう言うと教室を離れた。
追ってくるものは誰もいない。今頃、俺の悪口かなんかで盛り上がっていることだろう。
俺がとった手段。それは完全に関わりを断つこと。
未来が変わっているとはいえ、どこまで変われば安全かなんてわからない。最善策をとるべきであろう。それは俺が誰とも関わらないことだ。そうすれば、宇宙人がヒメちゃんたちを狙うこともないはず。
ただ、これは現実で覆せない。
もし、宇宙人の危機が去ったとしてもこの関係が変わるわけではない。孤独。俺が選んだ道はそれであった。一生、俺は彼らと友達になることはない。そう考えると寂しいがみんなが死んでしまうことよりはマシだ。こちらの方が楽だ。
これでとりあえず、ヒメちゃん、神崎さんと出会うことができた。後は、椿野、空人、もう一度猫ちゃんだ。そもそも空人と知り合うためには空人を救わなければならない。
『宇宙人の力を借りずに七実空人を救うこと』。
それはきっと宇宙人以外になら力を借りてもいいとのこと。でも俺には誰もいない。今、誰もいないようにした。だから俺は空人を1人で救ってみせる。
「変わった人」
声がした方を振り向けば、そこにいたのは椿野春風。やはり少し未来が変わっているのか出会い方も違った。しかし、本人はなんら変わっていないみた。ビン底眼鏡をかけて、でも衣装は普通の制服。
始業式が行われる体育館と逆のこの場所にいるということはこいつもサボる気満々なのだろう。
「転校生が来るからって見に来たら、すごい人。まさか初対面であそこまで言えるとはね」
「・・・お前には関係ない」
「ん?お前って言われるほど親しいつもりじゃないけれど、名前知らないからしょうがないか。椿野春風、よろしく」
「・・・・・・」
「名乗らないんだね。春、つーか私からしてみればどっちでもいいんだけどさ」
そこで区切って椿野は俺を見る。
「君は何をしたいの?」
「何も」
「なんであんな行動とったの?」
「うるさかったからだ」
「ふーんなるほど」
椿野はそこで腕を組んで、考える。
次の瞬間、椿野の目は冷たく細められたものへと変わった。
「君が何かワケありなら、うちの部活に入れようかと思ったけれどさ、その必要はないみたいだね。君は何もないみたいだし」
「・・・・・・」
「最低、ということだけは分かったよ。もう神崎さんを泣かせないで」
そう言うと颯爽と体育館とは逆の方向に帰っていく。いや、待て。お前始業式でろよ。俺が言うことじゃないけれど。
最低。
わかっていたことなのにいざ言われると心にくるものがある。そうか、神崎さん泣いてたのか・・・。というか神崎さんと椿野仲よかったっけ?
「・・・・・・」
俺はとりあえず始業式が終わるまでどこで暇をつぶそうか考えていた。
〇
放課後。俺が行くべき場所はもちろん決まっている。不良のたまり場、チンピラのいる場所である。まさに都市!という感じの路地裏。そこに空人はいるはずだ。
前はワン太のテレポートやら使ったものだが、すでに分かっていると動きやすい。強いままニューゲームってこんな感じなのかな。
難なく、その場所にたどり着くと、そこには誰もいなかった。代わりにいたのは小さな少女。小学生、中学生ぐらいだろうか。息がきれていて苦しそうだ。走っていたのだろうか。
少女は俺に気付くとこちらにかけよる。
「す、すいません、人探しなんですけど」
「は、はぁ・・・」
すごい剣幕。でも可愛らしい少女であった。
「あの、金髪で不良っぽい人見ませんでした?七実空人っていうんですけど」
見るも何も俺も今、探していたところだ。
「ってあ!お兄ちゃんと同じ学校の人ですよね」
お兄ちゃん・・・?
「申し遅れました。私の名前は七実神子といいます。その・・・七実空人の妹です」
1週間ぐらいぶりですね。もう少しペースを上げたいのですが。
最近短編の方もぼちぼちとやっていたり、この作品が終わったら次何書こうかなぁって考えたり、書いたりしています。
短編も連載もちょいちょい加筆していたりしているのでもしよろしければ、一度見たものでも読んでいただけると幸いです。
感想をいただいたり、評価をいただいたりしたのですが、なかなかこちらから投稿者の方に感想を書けないでいます。
元々小説読むのは好きなので、遅くなるとは思いますが、感想なんかを書かせていただきたいなぁと思います。
ほんと、すごくへたくそな感想になりそうですが・・・。
それではまた次回。