第62日 仕切りなおす宇宙人。
宇宙人が有名な街。それはどこか異質で人目をひくものがあった。宇宙関係の研究所があるわけでもなく、ただ隕石らしきものが落ちてきて、その跡が残っているからというだけで街のシンボルにしたというそんな街。俺はその道を再び歩いていた。
時計を見る。明日は入学式で、今日は引っ越しの日だ。俺は住む予定のアパートへと急ぐ。初めてきた場所ではない、というのは嘘になるのだろうか。
正しくは夢で見た、だ。だから実際ここに来るのは初めてになる。遠くを見ると山はやはり抉れていて、俺はすぐにそこから目を逸らした。あの抉れた部分は一部俺のせいでもあるんだよな。
逸らしてからあたりを見ると家々が連なり、どこか都会と田舎の両方を感じる。家の多さはすごいが、また自然も多い。これがまだ街の中心とかなら高層ビルなどがあり完全に都会となるんだが。
そんな中、とぼとぼ歩いていると俺の背中の部分に軽い衝突、衝撃を感じる。何事かと思い、後ろを向くと、そこには人がいた。
「いつつ・・・す、すみません。完全にこちらの不注意です。その、大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・」
俺はとりあえず身ぶり手ぶりだけで大丈夫だという意を返す。どうやら人がぶつかってきたらしい。俺は本当にどこも痛めていない、むしろ、軽いぽふっとした衝撃であったので謝る必要もない。
相手はよかった、と安堵してからもう1度頭を下げて失礼しました、と言ってから走っていってしまった。しばらくするとまたこちらを振り返り頭を下げる。礼儀正しい子だ。
「変わってないな・・・」
俺はそうつぶやき、またアパートを目指す。どうせ後でまた知り合うことになるであろう、ぶつかってきた女の子、猫柳巫のことを思いながら。
そこからしばらく歩くと、アパートが見えた。そのアパートの玄関、そこには道路を掃除している一人の人物がいた。ふりふりのレース衣装を着て、アイドルのように踊りながら箒を動かす。年齢は20歳いくかいかないかぐらいにしか見えないその人は・・・。
「あら、君が白木希くん、でいいのかしら?」
「・・・・・はい」
「そう、私はここのアパートの大家です。愛ちゃんって呼んでね、きゃぴ」
「よろしくお願いします、大家さん」
大家さんだ。年齢は40近い。ほんと年をとらないとか吸血鬼かよ、みたいな感じではあるのだが本人的には衰えを感じているらしい。人から若さを吸い取る妖怪だと俺は思っている。
ただ、過去の大家さんに会ったことはあるが、この時代のこの条件で出会うのはなぜか感慨深いものがある。知らない間に包丁で貫かれ死んでいた大家さん。それを見ているせいか、俺には大家さんにつっこむことさえできずにいた。ただただ頭を下げて「よろしくお願いします」と言う。
「むふん、華麗にスルーとはこのことね。加齢じゃないとだけ言っておくわよん」
そう言うと大家さんはそれ以上茶かさず、俺を部屋へと招き入れた。そこは俺が夢で泊まった部屋でもあり、過去に休ませてもらった部屋でもあった。
「ここが君の部屋ね。というかなんだか君、見たことあるような気が・・・」
恐らく、過去のことだろう。というか一応4年前のことなんだけれど。
「気のせいですよ」
「うーん、そう言われれば気のせいのような・・・。まぁ、いいわ。うちではたまに私がご飯作ったりするんだけど、ほとんどは自分で用意してね」
「はい、もちろんです」
本来大家さんはそこまで住人に入れ込んだりしないだろう。しかしうちの大家さんは一味も二味も違う。さすが40年間生きてきただけある。睨まれた。なんで心が読めるんだよ。またしても大家さんの妖怪説が強くなってきた。
「じゃあ、何かあったらまた呼んで」
「はい」
ここのアパートは普通と違う。寮のような作りとなっており、まず玄関に入ると住民共通のリビングスペースが。そこから奥の通路にいくとそれぞれの部屋があるという特殊なものなのだ。
よくリビングではパーティーをしたものだと思いだす。
俺は部屋に入り、今後のことを考えることにした。
「・・・・・」
元々俺がやるべきことは4つ。
1つ目は『猫柳巫の母親である猫柳禊を救うこと』
2つ目は『七実空人、姫岡小花、神崎阿国、椿野春風、猫柳巫。この5名と知り合うこと』
3つ目は『宇宙人の力なしで七実空人を助けること』
そして4つ目は・・・。
俺はカバンの中からおもちゃのようなピストルを取り出す。引き金をひくと「ぴろぴろぴろ」と安っぽい音が出て、銃口が赤く光る。
「これで宇宙人を1人撃つこと」
それは殺すことと同義である。
こんなもので本当に大丈夫なのかと心配になるが、信じるしかない。だが、この4つ目だけがいまいち分からない。なんだ、宇宙人を撃つって。
1つ目、俺は過去にさかのぼり、猫ちゃんの母親を救った。
2つ目、これはまだ猫ちゃんにしか会っていない。あれもほぼ自己紹介なし状態なので猫ちゃんすら会っていないことになっているのかもしれない。
3つ目、これは分かる。俺は前回、夢の中で七実空人を救った。といっても俺はほぼ殴られておとり役だったので救ったのはワン太である。でも今回はそれなしで、俺だけで解決しなければいけない。
ざっと考えても本当にたくさんやることがある。でも学校が始まると2つ目はクリアできそうだ。問題は3つ目と4つ目。特に3つ目。空人に命令していたやつは確か宇宙人だったはずだ。人間である俺が勝てるかどうか分からない。
「そういえば・・・」
そういえばワン太に会ったのは今日の夜のことだったか。ということはあの抉れた山に行くとワン太に会えるのか・・・?それはどのワン太だ?俺に指示を出した冷たいワン太か、あの時、SPACEジョークをかました明るいワン太か。
いや、この答えは知っている。俺が猫柳禊を救ったことで少しずつ世界が変わった。他の奴らは俺を知らないとしても、指示をとばしたワン太の記憶が保たれるかどうかは分からないと。だからワン太は俺をもう助けられないと言ったのだろう。
猫柳禊を救えなかった世界にいた冷たいワン太と救ったここのワン太が別人みたいになるというのは納得できる。少しのズレで世界は変わってしまうのだ。
答えは「分からない」だ。
「悩んでもしょうがないか・・・」
俺は急いでその場で寝た。夜、起きるためだ。会いにいけば分かる。そう信じて。
〇
晩御飯を食べた俺はアパートを飛び出し、山へと向かっていた。
「ワン太・・・」
願わくば、俺の知っている、夢の中の記憶を保ったままのワン太がいてくれたら・・・そう思う。でも高望はしない。生きていてくれているだけでいい。
しばらく走るとロープウェイ乗り場へと到着。生徒手帳を見せて、学生料金を支払い、ロープウェイへと乗った。中にはパンフレットを見ているおじさん、おばさん、家族連れなど様々な人がいた。
みんなこの街のパンフレットを見ている。どうせ抉れた部分を見に来た観光客なのだろう。しかし俺にはもうその人たちをくだらないと一蹴することはできない。たぶん地球上の誰よりも俺は宇宙人を信じているのだから。
ロープウェイの中から、街を見渡す。家の照明などが光っておりまるで星空のようであった。そのまま上をみるとそっくりな夜空が広がっている。でもやはり空がいい。人工のものなどがない空が綺麗だと、ひたすらそう思う。宇宙船で見た宇宙を思い出すとさらに、だ。
そうこうしている間に、山の抉れた部分へと到着したそうだ。時刻は22時。ロープウェイの最終便が23時半。それまでに帰ればいいはず。
山だからか、警察官や警備員がたくさん見られる。危険な部分にはいかないように高いフェンスが抉れた山の一部をかこっていた。俺がワン太と出会った場所はその外。警備員も警察官もどうやら完全に気が抜けているようだ。当然、観光客は大体この抉れた部分を見に来るからだ。それ以外の場所に興味はない。俺はそう思っている。
走ってなんとか警備員がいない部分のフェンスを乗り越え、ばれずにその場所へと急ぐ。
「はっ・・・はっ・・・」
走ってついてみるとまだそこに宇宙船はない。
時間的にも余裕がある。思いを馳せながら待っているとその時刻がきた。
俺は空を見上げる。
「・・・・・」
目を凝らす。
しかし宇宙船らしきものは落ちてこない。
「な・・・んで・・・」
なんでいない・・・?
どうして・・・?
それだけが頭を支配する。
「ワン太・・・ワン太ぁ!」
叫んでも意味がない。叫びすぎると警官に見つかってめんどくさいことになるかもしれない。でも気にせずに叫び続ける。
「ワン太!どこだよ・・・なんでいないんだよ!」
返事はもちろんない。
風が吹くと木々が揺れ、春だからこその冷たい風が体を突き抜ける。
「ワン太!ワン太!」
いない・・・それが示すこと。
「少しずつ俺の未来が変わっている・・・?」
そういうことだろう。
俺の見たあれが本当に未来だというのなら、俺の未来が変わってきているのだ。ワン太が来るのは今日じゃないということ。それだけならまだいい。
「・・・・・・」
もしかしたらワン太はこのまま一生こないのかもしれない。それか40年先とか。いつあのみんなが死んでしまう未来が来るのか、それは誰にも分からないのだ。
それに他の、俺の友達の人格。性格。全てが変わってしまっているかもしれない。触れ合う人によって性格は大きく変わる。俺が禊さんを救ったことにより、何かが変わってしまったのだとしたら。
明日学校へ行くのが怖くなる。俺の知らないみんながいたら俺はどうする。それでも俺はそのみんなを守れると誓えるのだろうか。
空を見上げる。そこにはたくさんの星が広がっており、宇宙の中にいるような気分にさせられる。そんな変わらない夜空を見上げながら、俺はその場にしゃがみこんだ。
なんとか今日中にだすことができました。
もしよければでありますが、ぜひ、今回からの話は最初の頃の話と見比べてみてほしいと思います。元々前半と後半に結構な違いのある作品ではありますが。
ではまた次回。