第61日 帰る宇宙人。
お昼時、俺は猫ちゃんの母親である禊さんの作ったご飯を食べていた。冷やし中華や他にもいろいろ様々なご飯が目の前に並んでいる。うまいうまいとばくばく食べているのはしかし俺ではなく猫ちゃんである。意外と大食いなんですね。
「ふむ、時にジョンくん。君は今日何をするつもりだったんだ?」
「え・・・?何って・・・」
「まさか私を助けるために外出したわけではないだろう?」
「・・・・・」
その通りなんですが。しかも外出なんてレベルではなく時もこえてます。
「その本屋に寄ろうかと」
「なるほど。君ぐらいの年だと漫画か、それとも小説か」
「まぁ、そんな感じです」
参考書という言葉がでてこなかったのは外見的に俺がバカそうだからというわけではないだろう。そう信じたい。一応受験生なんだがな。
「本を読むことはいいことだ」
「俺もそう思います」
会話にひと段落つくと、俺は猫ちゃんを見る。明らかに俺が見てきた猫ちゃんより幼い。当然ではあるのだがそれでもなんだか見慣れないものがありそわそわする。
「おふぁあり!」
「おー、巫。よく食うなぁ。いつもいつもよく食うけれど今日は一段と食うな」
「は、恥ずかしいこと言わないで!」
大人みたいに落ちついていた猫ちゃんだけれど、子供時代(十分に今までの猫ちゃんも年齢的に子供だが)は子供っぽさが見れてほほえましい。
「巫は面白くてな、退屈しないんだよ。ほんと毎日驚かされるというか」
「なんとなく分かります」
俺も退屈しなかった。いつでも話し相手になってくれてたまになぜか俺を下に見てはいたようだが、それを本気で怒る俺ではない。ふざけているのだとすぐに分かる。
「父親が単身赴任みたいなもので私しかいないんだが、それでも巫は元気にしている。一度も寂しそうな顔をしたことがない。巫の笑顔ばかり私は見ている。最高だよ」
本当に猫ちゃんのことが好きなんだなぁと分かった。
娘のことが大事なのは親として当然のことかもしれないが、それでも見ていて微笑ましいものがある。その当然のことが当たり前に行われていた。
そういえば俺、最近親と会ってないよな・・・いや、それは夢、未来の映像だったのだから違うのか。
禊さんは猫ちゃんのおかわりをよそうために台所へと移動した。
「ねぇ」
そこで猫ちゃんが今度は俺に話しかけてきた。人見知りしているわけでもない。すげぇ。猫ちゃんの片鱗が見えた。
「ん?」
「ママのご飯おいしいでしょ」
「・・・・・うん、そうだね、おいしい」
その幸せそうな顔に俺までも笑顔になってしまった。
「今日はママのこと手伝ってくれたんでしょ」
「うーん、そこまでのことはしていないけれど」
「ありがとう、またご飯食べにきてね、お兄ちゃん」
『お兄さん』。そう呼ぶ猫ちゃんの声が聞こえたような気がした。やはり駄目だ。こんな子が母親を失うなんて、それで壊れてしまうなんて、それではいけない。
俺はまた決意を新たにした。
お昼御飯を食べた後、そういえばどこに泊まったらいいのかを考えていなかったことを思い出した。これ今日野宿か・・・?
猫ちゃんたちと別れて、俺が住んでいたアパートのあたりをぶらぶらと歩く。というか、ここ何気に過去なんだよな、そう考えるとなんだか落ち着かない。
「うーん・・・」
俺がぶらぶらと歩いているとふと目の前に誰かが歩いているのを見つけた。
「はっ・・・!」
俺はダッシュしてその人物の元へとかけよろうとした。が、なんとか踏みとどまる。だってここではまだ知り合っていない他人なのだから。そう、俺の目の前を歩いていたのは・・・。
「ヒメちゃん・・・」
ヒメちゃん。俺のここにきてから初めての友達であり、可愛らしい外見の優しい男の子。ここでは中学生だろうか、ブレザーを着ていてほんとに女の子みたいだ。ぷにっとした感じも小さい感じも変わってはいないが雰囲気が幼い。
ヒメちゃんを助ける。そのためにも頑張らなければいけない。
俺は何もせず無言で通り過ぎた。
さて、また宿をどうしようかと考えていると・・・。
「あー若い子発見ー!」
「え・・・」
声のした方を振り向くと、そこには大家さんがいた。知らないうちにアパートの近くまで来ていたようだ。困っている雰囲気が伝わったのかこちらに来る。というかこの人ほんと外見変わらないな。
「どうしたの君」
「・・・・・」
なんだろう・・・すごいナンパっぽいんだが。しかし実際は若さを吸い取る妖怪である。気をつけなければいけない。
「困っているみたいねー、私の美しさに」
「とりあえず困っている理由はそれではないです」
きっぱりと言い切る。この時点でも40前ということを忘れてはいけない。
「アパート部屋あいてるから使ってもいいわよ」
「え・・・」
なんでそのことを・・・。
「いや、冗談だったんだけど」
「・・・・・」
「マジに宿がないのね。泊まっていきなさい」
「でも・・・」
「なんだか他人事のように思えないの。昔からの知り合いではないとは思うけれど、それでもなんだか放っておけないのよ」
「・・・・・」
それは俺のことを覚えているということか・・・。いや、それはないはず。だって俺が見ていたものは夢で、現実ではない。現実がなくなったわけじゃないのだから。
「じゃあお言葉に甘えて」
「どうぞ、どうせ住人も少ないし、我が家のようにゆっくりしていきなさい」
大家さんのおすすめにより、俺はアパートの部屋を使わせてもらうことになった。恐らく今日が終われば俺もこの世界から離脱することになるはず。
使わせてもらうのは今日だけ。禊さんももう家から出ないとのことなのでなんとかなりそうである。
俺の使わせてもらう部屋はなんの因果か昔俺が使っていたものと同じものだった。
「・・・・・」
懐かしさすら感じる。
俺はそのまま部屋に入ろうとして、ふと隣の部屋を見た。ドアは閉じられている。
「ワン太・・・」
かつての住人を思い出しながら俺は部屋に入った。
〇
そして現在。
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・・・!」
足にも限界が来ているのかふらふらと震えだす。部屋に入り、ひと眠りした俺はメールの着信音で目を覚ますことになったのだ。そのメールを見ると、猫ちゃんが熱を出したとのこと。それで外出するとのことであった。
「・・・・・・くそっ・・・!」
わざわざ約束を守れないということだけでメールをしてくれる律儀さにも驚いたがそのおかげで俺は禊さんの外出に気付いた。
「病院・・・病院・・・!」
走り回ってようやく病院の近くに出た。
「ここしかないよな・・・桜浪病院」
俺は目をこらし、あたりを見渡す。すると猫ちゃんをおんぶした禊さんを発見。まだ事故にはあっていないようだ。とりあえず、急いでかけよる。
近づいてわかった。今、禊さんは横断歩道の信号待ちだったのだ。
「まずい・・・!」
青になり、渡ろうとする禊さん。
その横に、クラクションすらならさない車が突っ込む。
その光景に禊さんは目を見開き・・・。
「・・・・・っ!」
俺は見えない糸を出そうとするが、やはり使えない。
「じゃあ・・・」
こうするしかないよな。
俺は走って禊さんと車の間に飛び込んだ。
〇
「・・・・・・・・」
真っ暗だ。何も見えない。いや、俺が目をつぶっているだけか。くらくらする体を無理矢理動かし、上体を起こす。まわりにあるのは機械。それも見たことのないようなものばかりだ。
「ここは・・・」
「おかえりなさい」
声が聞こえた。
そちらの方を向くとそこにはワン太が。ということはここは宇宙船か。
「無事、猫柳禊を救うことができました。あなたがクッション代わりになったおかげです」
「そうか・・・」
俺は俺が死なないことに賭けた。
俺があの時代生きていて、今もなお生きているのだとしたらあそこで死ぬはずがない。なんとなくではあるのだが。あとは宇宙人。ワン太がなんとかしてくれるんじゃないかと思ったのだ。
現にこうして生きているわけだしな。
俺がクッションになっても禊さんが救えるのか、それだけが不安だったのだが、大丈夫だったらしい。というか死ぬかと思った・・・。
「もう少し休んでいてください。そうしたら次に進みます」
「次・・・?」
「はい。次は時間を超える必要もなく、普通に過ごしてください。今までみた夢。それでもなく本当のリアルに。ここからは私が助けることもできません。あなたは高校に転入するところからです」
「本当に生活・・・」
夢で見た未来の現実。
失敗も許されない。ワン太の助けも望めない。
「任せろ」
「はい、任せます。次は主要人物と出会い、そして自分の力で七実空人を助けるのです」
またしても時間があいてしまいました。
話ももうそろそろ終わりに近づいています。次の作品の準備も少しずつできているので最後まで読んでいただけたらな、と思います。
ではまた次回。