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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第6章 終わりゆく世界の中で
58/69

第57日 見たくないものを見る宇宙人。

「バズーカ・・・ちゃん・・・?」

 そこに現れたのは背の低い、ロリロリ中学生のバズーカちゃんであった。俺が驚き、まるで動けない中、彼女は俺の方に顔を向ける。

「いきますよ」

 そう言ってバズーカちゃんは俺を小脇に抱えた。そんな物感覚で俺を運ぶな。というか力持ちすぎだろう。俺もまだ高校生とは言えど18歳。成長期も終えてそれなりの重さはあるのだが。

「もたもたしている時間はありません」

「ちょっと待て!どこに行くんだよ!大家さんが、大家さんが大変なんだ!治療してやってくれよ!」

 俺は必死に頼み込む。

「・・・・・大家さんは死にました。治療じゃ回復しない。もうそれは蘇生の域です。そしていくら宇宙人と言えど死人を生き返らすことなんてできないのです」

「そんな・・・・・」

 絶望。まさにその2文字だった。あの宇宙人のせいで俺の日常が傷つけられている。それに大家さんを巻き込んでしまった。安易にアパートに宇宙人を・・・ワン太を連れてきたのが間違いだったのか・・?

「へこむのも泣くのも構いませんが、へたれることのないようにお願いします」

「・・・・・・」

 バズーカちゃんが唐突にアパートの屋根をぶっ壊し、外へと出る。その後、家々の屋根を飛び移りながら移動を始めた。すげー・・・。

「先ほど、大家さんをスキャンさせていただきました。死因を確認するためですが、死因は不運でした。不運による手元の狂い。それで自らを刺してしまったのでしょう」

 移動しながらも器用に話を続ける。

「あれがたまたま偶然のことだって!?んなわけあるか!」

 あのよく分からん宇宙人がやったに決まっている。

「いえ、あれは不運です」

「そんなに簡単にあんな不運が起こるわけ・・・」

 と俺はそこまで考えて・・・不意に思いだす。そうだ・・・。

「あの・・・黒い指輪。不運の指輪」

「はい、そうです。私も自らの星にある図書館の立ち入り禁止区域で学んだことですが、グリーン星には不運を何かにつめこむ技術がある。まさか軍人の演習で使われるあの指輪が関係しているとは思いませんでしたけどね」

「じゃあ・・・」

「そうです。我が星に死とかそういう恐怖がないと言いましたよね。あれは他の星に不幸を押しつけていることによりできたものだったのです」

 ってことはグリーン星は地球に不幸を送り込んでいるというのか。それで大家さんは死んだ。

「私とあなたが無事なのは恐らくあの不幸の指輪の試練をクリアしたからでしょう」

「待て・・・じゃあクリアしていないやつらは・・・?」

「危険です。だからこそ、今向かっているのです。大切な人達の場所に」

 もちろん俺の大切な人達もそうだが・・・それだけじゃない。地球上の俺ら以外の人間が不幸で死んでしまうことになるじゃないか。それはもう地球の破滅だ。

「このままじゃ、地球が滅ぶ・・・?」

「はい・・・しかし救う方法はあります」

「なんだ・・・それはなんだ!」

「今、教えるわけにはいきません。不幸の指輪のリング部分を調べた結果たどり着いた結論。ここで言ったら全てが台無しになる。だからもう少し辛いことを耐えてください」

「そんな・・・・・」

 もう俺にできることはないのだろうか。また俺はここでも無力だった。

「しかし問題はどうやって地球に不幸を運んだかなんですよね。指輪程度ならまだしもこのでかい星1つに遠隔から不幸を届けるのはとても難しいはずです」

「なんらかの方法があるってことか・・・」

「っと、着きましたよ。猫柳さんの家です」





「猫・・・ちゃん・・・?」

 ドアが開いていた。鍵が、じゃなくてドア、そのものが開いていた。嫌な予感がするも中に入る。家の中は本当に人が暮らしているのか不安になるぐらい静かだった。

「バズーカちゃん」

「はい、これはあやしいですね」

 バズーカちゃんがスキャンを開始する。

「・・・・・・・・・生体反応ありました。1つです」

「そうか・・・」

 よかった。と胸をなでおろす。じゃあなんでドアが開いていたのかと疑問に思ったが今はどうでもいい。猫ちゃんが無事ならばそれでいいのだ。

 俺は靴を脱ぎ、勝手に家にあがったことも謝らないとなと場違いなことを考えていた。この時俺はすでに冷静じゃなかったのかもしれない。

「猫ちゃん」

 リビングに顔を出す。

「猫・・・・ちゃん・・・・・?」

「あぁ・・・なにお前。どっかでみたことあんぞ、チビ」

 そこにいたのは猫ちゃんではなく、がたいのいい背の高い男であった。きている服は異質で体にぴったりと張り付いているスーツみたいだ。

 そして体のまわりには光る円がいくつもある。

 その男は俺ではなくバズーカちゃんを見ていた。

「んで、そこの地球人はなんだ?」

「お前・・・誰だよ・・・」

 俺は動揺しすぎてそんな当たり前のことしか言えなかった。俺の目は次第に見てはいけないものに引き寄せられていく。下へ、下へ。

 下。リビングの床に血まみれになって倒れていたのは猫ちゃんであった。

「な・・・・・・・」

 生体反応は猫ちゃんではなく、この男だったのか・・・!

「ノゾムくん、猫柳さんは恐らく・・・」

「分かってる」

 そう出した言葉は震えていた。恐怖。人が死んでいくという恐怖が今更ながら俺に襲いかかってきたのだ。もう猫ちゃんに会えない。大家さんに会えない。その思いが俺を支配していく。

「う・・ぁ・・・あ・・・・・うわぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 恐怖に支配される。怖い怖い怖い。嫌だ。

 そこで今、俺が発した叫びが以前どこかで聞いたことのあるものだろいうことに気付いたが気にならない。それよりもなによりも猫ちゃんの死が怖い。

「あー?なに。この子のお友達だったの?つーか、勘違いされてそうだけどよ、こいつ殺したの俺じゃねぇのよ。むしろ俺は助けたの。なんか『運悪く』ここらへんうろついている強盗に襲われてたのを俺が助けたんだ。『運悪く』間に合わなかったがな」

「お前らが!」

 腹にたまる全てを吐き出すように叫ぶ。

「お前らが殺したも同然だろうが!」

「そこのチビから聞いたのか?『不幸運び』のことを。つーことはやっぱおめーバズーカか。大きくなってるし、口調も変わってるから気付かなかったぜ」

「ハノ、いえ私も軍人です。あなたもそのようですけれどね」

「んで、少年。俺を殺すか?」

 急に話を変え、俺にふってくる。

「殺す」

 見えない人を首に絡めてやろうとしたとき、バズーカちゃんが俺を持ち上げてまた屋根を破り、外へと連れ出した。今更だがまわりの住民は何をやっているんだ。道路も誰も歩いていないし。

「バズーカちゃん!」

「気持ちを抑えてください。なんのために今、ここにいるのか、それが問題です。あなたは大事な人を守るんでしょう。だったらあんなザコのことは気にしないで先に進みましょう」

「・・・・・・くそ・・・」

 俺には哀しむ時間も、仇をうつ時間もないというのか・・・。

「む・・・生体反応。河原ですね」

 バズーカちゃんが何かを発見して、スピードを上げた。





 姫岡小花は追われていた。もちろん追っているのは宇宙人だ。しかし他の宇宙人とは違い、この宇宙人はひどく好戦的だったのだ。

「はぁ・・・はぁ・・・・・」

 息切れをおこしながら走る姫岡。しかし宇宙人は余裕の表情。宙に浮いているので疲れを感じないのかもしれない。厳密には走っていないのだから。

「不幸を運んでもさ、俺自身がやらないとつまんないよね。可愛らしい外見に似合う殺し方をしてあげるから止まりなさい」

 しかしそう言われて止まれる人間などいない。

 姫岡はさらにスピードを上げる。しかし次の角をまがるとそこは行き止まりであった。

「そんな・・・・・!」

 ここは姫岡の家の近く。間違うはずがない。恐らく宇宙人の何かが行き止まりを作り上げたのだ。

「もう鬼ごっこも飽きたしね。そろそろいいかな」

 嬲るつもりで腕を振りおろす。殺さない。一撃目は殺さない。ちゃんといたぶってから殺す。そう、手加減した一撃。それを姫岡へと振り落とす。

 しかしなにかがその腕を防いだ。

「・・・・・。なんだ?」

「おい、お前・・・」

 その男は金髪でお世辞にも真面目そうには見えないが、一番真面目な不良。

「俺の友達になにしてんだ」

 七実空人。姫岡の親友であった。





「・・・・・神崎さん」

 河原にいたのは神崎さんだった。ただし、足を踏み外したのか、頭を強くうっている。そのせいで頭からは血があふれていた。

「はやく救急車を!」

 しかしバズーカちゃんは応じない。

「バズーカちゃん!」

「もう助かりません・・・」

「でも・・・でも!」

 バズーカちゃんは神崎さんに手をかざすと頭の血は引いていった。

「痛みをやわらげただけです。運命は変わりませんが・・・」

「・・・・・ぁ・・・・・ありがとう、バズーカちゃん、それに白木くん」

「神崎さん・・・!」

「救急車は呼ばないで。最後はあなたたちと一緒にいたい」

 そう言った神崎さんの目は涙でぬれていた。死の恐怖か哀しみか。分からないがその光景は胸にくるものがあった。

「結局思いを伝えられなかった・・・最後の最後まであたし・・・」

「神崎さん・・・・・」

 バズーカちゃんは悲しそうな表情をしていた。神崎さんの何らかの思いを知っていたのだろう。

「大丈夫。あなたたちなら大丈夫。なんとなくだけどそんな気がするんだ」

「やめろ・・・神崎さん・・・それ以上はやめてくれ・・・・・・!」

「あたしなら大丈夫。気にしないでとは言わないけれどね」

 無理矢理笑顔を作る神崎さん。

 これぐらい話せるなら、と俺は携帯を取り出して救急車を呼んだ。

「バズーカちゃんもありがとう・・・・・・でもごめん、もう離れてくれないかな」

「え・・・?」

 神崎さん?

「もう十分だから、お願い」

「神崎さん、待ってくれ。諦めるのかよ。現にこうして話せているじゃないか!」

「ううん、これはバズーカちゃんの力のおかげ。結局ハルンさんが宇宙人かどうかも暴けなかったし中途半端だなぁ、あたし」

 バズーカちゃんにひきずられ、神崎さんから少し、離れて後ろを向く。

「バズーカちゃん!」

「いいから、決して後ろを向かないでください」

 そう言われて俺は無理矢理、神崎さんとは真逆の方向をむかされる。

 すると後ろから嗚咽にもにた声がきこえてきた。

「やだぁ・・・死にたくない・・・死にたくないよぉ・・・ぁああああ・・・・・・・・」

 それは悲痛の声。叫び。

「やりたいことも・・・将来の夢もいっぱいあったのに・・・なんでこんなところで・・・」

 バズーカちゃんは震えていた。

 なんやかんやで一番神崎さんと交流があったのはバズーカちゃん。辛いのだろう。

「死にたくない!生きたい!あたしはまだ死にたくない・・・・・・・・・」

 そうして、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 神崎さんは話さなくなった。

「あぁ・・・・・神崎さん・・・・・」

 涙をこぼす俺。最後、離れてほしいと願ったのは生きることにしがみつく醜い自分を見られたくなかったからだったのだろうか・・・そんなの・・・醜くなんてない。普通のことだ。

 俺は決して隣を見なかった。

 バズーカちゃんが泣いていることぐらい俺にもわかったから。

「・・・・・」

「・・・・・」

 無言で河原を離れる俺達だった。

だいぶ遅くなってしまいました。


内容が内容なだけに次は急ぎたいと思います。


ではまた次回。

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