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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第6章 終わりゆく世界の中で
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第56日 不運にも目撃する宇宙人。

 目を開けるとそこはロープウェイの中だった。ワン太にテレポートしてもらい行った先。1週間に1度という限度のあるテレポートを2回使ったので成功確率は低いと言われたが、無事移動できたみたいだ。

 そして俺の目の前には驚いた顔をした猫ちゃんがいた。

「よ、こんなとこでなにしてんだ。大家さん待ってるぞ」

「なんで・・・お兄さんがいきなり現れた・・・?」

 そこらへんの説明は正直めんどくさいのだが、驚くのは無理もない。なんせ何もない空間から人間が1人現れたのだ。

 でも、それを気にしている暇はない。なぜなら猫ちゃんの手はロープウェイのドアにかけてあったからだ。中には他に人がいない。それが逆に猫ちゃんのこれからする行動をはっきりさせる。

「ドアを開けるな。猫ちゃん、晩飯食うぞ」

「お兄さん、私は別に何もしませんよ。おかしいのは私だって気付きましたし」

「・・・・・・なら、なんでここにいるんだ。これからうちのアパートに来るんだろ!」

「そうですね・・・でも私は遠慮します」

「猫ちゃん!」

「気付きたくなんてなかった!」

 猫ちゃんが急に大声を出す。その姿は大人びた外見とは違って子供っぽく見える。やはり中学生。おいそれと自分の母親が死んだ事実が認められなくて当然だ。

「気付きたくなかったよ・・・ママが死んだなんて・・・。私のそばにいつもいたのに、急に見えなくなっちゃった・・・きっとママに嫌われた!私はママがいない中生きたくなんてない・・・」

 たぶん混乱しているのだろう。今まで見えていたものが見えなくなって、自分がおかしいと気付いて、母親がいないと気付いて。それはとても中学生に背負い切れるものではない。

 俺だってまだ高校生で子供だが、この子はもっと子供だ。頼りがいのある性格に隠されてはいたが、中学生の普通な女の子なのである。

「猫ちゃん、俺の話を聞いて・・・」

「・・・・・」

 そのとき、ドアを猫ちゃんがあけた。安全装置のようなものは運悪く壊れていたらしい。いや、運が悪いどころじゃないぞ、おい。

「お兄さん、説得されると分かっていて、その説得を聞くと思いますか?」

 そう言うと猫ちゃんはロープウェイの外へと身を投げ出した。

「猫ちゃん!」

 俺は久々に発動する。いつか返すと約束したまままだ俺の中に残っている能力を。見えない釣り糸を。

 腕を伸ばし一本の糸を出す。それを思いっきり、猫ちゃんに巻きつけた。猫ちゃんはまるでロープウェイにぶら下がっているような状態になっていた。

 早い段階で糸を出していたので猫ちゃんが腕を伸ばせばロープウェイに届く距離にいた。

「猫ちゃん・・・あがってくるんだ!」

「お兄さん・・・あなたはいったい・・・?」

 やばいな・・・能力で出した糸とはいえど糸ではなく俺の指や腕の方が限界に近かった。人間1人を腕というつりざおで釣っているのだ。負担はやはりかかる。

「猫ちゃん、死んだら駄目だ。死んだら何もかもがなくなってしまう」

「・・・・・」

 説得する時間をくれないのならば作るまで。

「猫ちゃん・・・」

「私はママが好きでした。そんなママが死んでしまって、どうしたらいいかわからなかったんです。死ぬしかないと思っていたんです。でも、死んだら何もかもがなくなってしまう・・・その言葉で分かりました。死んだら本当になくなってしまう」

 ママで一度その感じを味わっているから。そうつぶやいた。

 皮肉なものである。自分を死に追いやろうとした原因に彼女は思いとどまれと言われているようなものなのだから。

「お兄さんは私が死んだら悲しいですか?」

「悲しい」

 即答である。もちろんこの場限りの嘘などではなく本気でさびしい。大人びた猫ちゃんは俺の話し相手になってくれるし、相談相手にもなってくれる。話している時間は楽しいし、猫ちゃんのことが大好きだ。それは寂しいに決まっている。悲しいに決まっている。

 元々あまり死ぬ気はなかったのかもしれない。自分の母親が見えなくなってしまったことで混乱していただけなのかもしれない。けれど、それでも俺は安堵していた。本当によかった。

「猫ちゃん、上がりなよ」

「はい」

 猫ちゃんはロープウェイに手をかける。そして自分の体をゆっくりと引き上げた。もちろん俺も腕をひっぱる。なんとかして引き上げた瞬間、ロープウェイは頂上についたらしく動きを止めた。

「帰るか、大家さんも待ってるし」

「はい」

 猫ちゃんは寂しそうな表情をしていた。なんやかんや中学生の女の子。母親がいないというのはかなりショックなのだろう。大人になっても俺は落ち込む自信がある。

 でもここには俺がいる。何もできない人間だけど俺がいる。宇宙人なんてものじゃないけど俺がいる。

 俺は静かに猫ちゃんを抱き締めた。子供をあやすように。ゆっくりゆっくり背中をさすりながら。すると猫ちゃんはゆっくりと泣き始めた。






「・・・・・・」

 その翌日。俺はいつものように自分の部屋で目を覚ました。昨日はいろいろあったけれどあの後、みんなで夕飯を食べ、夜更かしをしてゲームしたり、話したり、遊んだりした。まさかヒメちゃんや空人、神崎さんまで来てくれるとは・・・ありがたい。

 みんなもそうなのかもしれないが、俺は今日寝不足だ。夜更かしをしたことを後悔するでもなく無理矢理体を起こして、着替えを始める。

 すると自分の寝巻、パジャマのボタンが1個外れていることに気が付いた。

「割と買ったばかりのはずだったんだけどなぁ・・・」

 学校から帰ったら自分で縫おうと机の上に置いておく。いつものように制服に着替え、いつものように洗面所へ。歯磨きや顔を洗い、すっきりしたところで部屋を出る。

 ふと、俺のお隣さん、宇宙人であるワン太のことが気になり、部屋の前へと行く。ドアをノック。中から返事はない。もうすでにリビングにいるのだろうか。それとももう学校に?

「まぁ、いいか」

 特に用事があったわけでもないのですぐに部屋の前から離れた。リビングへと向かう。

 食卓にご飯はない。大家さんは朝早かったのだろう。俺は普通にパンを出し、焼いてそれを食べた。食器を片づけようと台所に行くと、俺はそれを見た。

「え・・・・・・・・・・・?」

 沈黙。

 静寂。

 何もない。

 無。

 俺しかいないのだから俺が声をあげていないと静かになるということぐらいは分かる。いや、厳密に言うと俺以外にも人がいた。

「大家さん・・・・・・・・?」

 台所に大家さんが倒れていた。

 事態を理解できずに立ち呆ける。

 しかし自分以外の時間は刻々と過ぎていくようで大家さんのまわりから何かが広がる。

 カーペットをぬらす何か。それは赤。綺麗な赤。クレヨンの赤よりも消防車の赤よりも濃い、鮮血の赤。文字通り、血であった。

「え・・・え・・・」

 夢・・・か?まずそれを最初に疑った。しかしどうやらそうではないらしい。夢ではないという確証があるわけでもないが、なぜか目の前のこの光景が現実だと知っていた。

 ようやく理解した自分の体が震えだす。その手で携帯電話を握った。大家さんの胸には深々と包丁が刺さっていた。料理をしている最中だったのか、味噌汁の素材があちらこちらに見える。

「うあ・・・・ああ・・・・・」

 声が出ない。

 俺は急いで救急車を呼んだ。今にまた冷静さを失う。ならばまだ冷静である今のうちに全てをすました方がいいと判断したのだ。

 どうしたらいいのか分からなくて、大家さんのそばによる。

「大家さん・・・大家さん・・・」

 名前を呼び掛けても返事はない。体は冷たく人間とは思えなかった。

 母親のように接してくれて、時にはバカなことをして俺らを楽しませてくれた大家さん。その大家さんがなぜ・・・何が・・・。

「ワン太・・・」

 ワン太なら怪我ぐらい治せるかもしれない。俺はまたワン太の部屋の前へと行く。ノックをするが返事はない。しかし今は躊躇している場合じゃない。

「ワン太!」

 俺はなんの躊躇もなくドアを開けた。そういえばこいつの部屋に入るのいつぶりだろう。空から落ちてきて、そんで俺のお隣さんになった宇宙人。

 その姿は部屋の中になかった。ただし別の人影が1つ。

「姫様はいないよ」

 人間。綺麗な顔をした男だった。背は低く、中性的な顔をしていて男だか女だかわからない顔をしているが、声が声変わり直前といった感じで男だと分かった。

「姫様はいない」

 前言撤回。こいつは人間じゃない。宇宙人だ。

「ワン太はどこだ!今、一刻も争う・・・・・・」

「台所にいた女のことだろ?かわいそうになぁ。『不運』だったね」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何かが弾けた。

 見えない糸を出し、宇宙人を絡み取る。

「動くな。それと黙れ。お前が大家さんを・・・大家さんをやったのか!!」

「違うよ。不運って言ってんじゃん。別に挑発じゃなくてマジなんだぜ」

 意図的に糸を締め付ける。

「それにしても君、地球人なのによくこんなことできるね。それとも姫様の力でも借りてるのかな。だとしたら少し不快だな。君みたいな下等生物に姫様の能力があるというだけで吐き気がする」

 さらに糸を締め付けた。

「大家さんをなおせ」

「無理。地球人に干渉はできないよ」

「いいからやれ」

「無理。怪我はなおせても、死はなおせないんだ」

 死?

「目をそむけるなよ。気付いてんだろ。あの女は死んでいる」

 窓ガラスの割れる音。

 俺が窓にむかってその宇宙人を投げ飛ばしたのである。

「黙れ・・・!大家さんは助かる。死ぬわけないんだ、あんなに元気だった人が、俺よりも長生きしそうな人が死ぬわけないんだ・・・・・!」

「不運には勝てないよ。死ぬはずのない人も運が悪ければ死ぬんだ。不運だったね。僕たちの計画は成功だ。君たちの負けだよ、地球人」

 どうやら無事だったようで、割れた窓の外から話しかけてくる。

 会話がかみ合わない。いや、相手は会話をしようとしているわけではなく、事実を述べているだけ。だからこんなにも腹が立つ。

 すると俺の後ろからミサイルが飛んできた。それが宇宙人に被弾してまた吹っ飛ばされる。

「な・・・・・」

 俺はその無茶苦茶な光景に驚いたが、この感じ、覚えがある。

「下っ端軍人のくせして、なにしてんですか」

 俺の前に現れたその頼もしい人物は手にバズーカを掲げていた。そして服も迷彩柄の軍服に着替えている。そしてツインテールが風でゆれ、凛とした表情を見せる、その人は。

「バズーカちゃん・・・」

 かつて俺の命を狙った(?)かっこいい女の子であった。

なんやかんや大変な話になってきました。しかしこれはあくまでもラブコメ(?)、SF(?)ものではあるのでバトルの方は全然ないです。ここから急にバトルに方向転換もしません。


遅くなりましたが次はもう少しはやく更新したいと思います。


ではまた次回。



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