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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第5章 何もできない冬。終わりの季節。
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第54日 焦り動き出す宇宙人。

「巫ちゃんのお母さんはもう亡くなっているのよ」

 そのセリフを聞いた瞬間、俺の背筋に何か寒いものが走った。いや、その発言はおかしい。だって猫ちゃんは『ママ』という言葉をよく使っている。今日だって俺にぜひ、と言ってくださったのは『ママ』だと言っていた。

 もし大家さんの言うことが本当なら猫ちゃんのいう『ママ』というのは母親変わりの誰か、ということなのか?確かにその線もないとは言い切れないが。

「今は母親のかわりみたいな人がいたりするんですか?」

「いえ、そういうのはいないわ。父親のみ。だから近所の私みたいな人間が母親代わりに夕飯に招いたりしているわけなの」

「え・・・でも」

 でも・・・じゃあママとは大家さんとか近所の誰かのことか・・・?いや、大家さんのことは確か愛ちゃん、と呼んでいたはず。ならば他の人に対してもそんな感じなのだろう。

 それにうちの夕飯に来る確率が一番高い。一番仲がいい大家さんが違うのなら他の人はママではないはずだ。じゃあ・・・じゃあママって誰だ・・・。

「どうしたんですか、ノゾム」

「いや・・・」

 そう言えばこいつはなんでこんな平然としているんだ?俺だって動揺をかくせないぐらい驚いているのに、なんでこんなに平気そうに、しかも俺の方がおかしいみたいな目で見ているんだ。

「・・・・・・あ」

 そう言えば、こいつは猫ちゃんの使う『ママ』を聞いたことがあるのだろうか。今思い返してみれば俺以外にママという単語を言った人はいないように思える。

 みんなが集まった時もその単語は使わなかった。大家さんに対しても。俺だけに『ママ』という単語を使っていた。

 じゃあ、なんで俺だけ・・・?

「引っ越し・・・」

 俺がここらへんの界隈について何も知らないから、だから・・・。

「大家さん、すいません、俺猫ちゃんの家に行ってきます!」

 そう言うと俺は急いでかけだした。

 後ろで「まだご飯できてないけど・・・そんなに巫ちゃんと遊びたいの?」と言う声が聞こえたが気にしない。一刻を争うことになるかもしれないのだ。

 何かが、何かがありそうな気がする。

 そして嫌な予感がする。猫ちゃんだけでなく、大きな何かがありそうな・・・。





「・・・・・・」

 前、荷物持ちの時に一度ついていったとき、俺に上がってくれと言っていたことを思い出す。その時の記憶を頼りに俺は猫ちゃんの家の前にきていた。

「猫ちゃん・・・」

 俺がインターホンを押そうとしたとき、後ろから足音が。俺はなぜかそのとき、恐怖を覚えた。なぜ恐怖だったのかそれは分からない。もしかして猫ちゃんか・・・?

 俺は振り向くとそこにいたのはワン太だった。

「ノゾム。明らかにあなたの様子がおかしかったのでついてきてしまいました」

 ワン太か・・・少し安心した。

 正直1人で家に入るのが怖かったのだ。

「ワン太、猫ちゃんの母親はいないって大家さん言ってたよな」

「はい、それがなにか?」

 やっぱりワン太に違和感はないらしい。俺だけか。おかしいのは俺だけで、その原因は恐らく『ママ』発言だ。それが他の人になくて、俺にある違和感。

「猫ちゃんは時々、俺に『ママ』という単語を使っていたんだ。ママの手伝いをしないと、とかママが待ってるからとか」

「でも母親は・・・」

「だからそれを確かめにいくんだ。何か、もう取り返しのつかないことになっているような気がして」

 俺はゆっくりとインターホンを押した。

 ピンポーンという間の抜けた機械音。そして無音。出るまでのこの間がとても恐ろしい。

『はい』

「あ、猫ちゃん。白木だけど」

「そしてハルンです」

『お兄さんにお姉さんじゃないですか。ちょっと待っててください』

 そしてガチャという音がするとドアがゆっくり開く。そして出てきたのはもちろん猫ちゃん。

「わざわざ迎えにきてくれたんですか?」

「ああ、うん。それとこんな時間だけどあいさつとかしようかなぁって」

「あ、なら中に入ってください」

 あっさりと中に招き入れられる。

 俺は玄関に上がり、靴を脱いで上がらせてもらった。中はいたって普通の一軒家。まめに掃除しているのか綺麗で、明るい印象があった。

 父親がやってくれているのか?それとも猫ちゃんが?

「じゃあおじゃましまーす」

「はい、とりあえずお茶を用意するんでそこに座っていてください」

「お構いなく」

 そう言いつつ、俺らはすすめられたソファに座る。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 俺ら2人は無言になってしまっていた。緊張しているわけでもない。先ほど、ここのリビングに来る途中にあったものを見てしまったからだ。

 ふすま。ただのふすま。恐らく中は和室だろうふすま。そのふすまの部分にはびっちりとガムテープがはられていたのだ。そのガムテープでふすまを開けることはできず、なぜガムテープをはるのか分からないがあそこに何かがあることは確かだ。

「ワン太」

「はい。あのふすまですよね。明らかに中に入れないようにしています。ノゾムの嫌な予感、案外あたっているかもしれませんね・・・」

 ワン太もげんなりしていた。

 気になるがさすがに勝手に入っちゃダメだろうし、入れないだろう。

「おまたせしました」

 そう言ってお茶をだしてくれる猫ちゃん。

「あ、どうも」

 ワン太が丁寧に頭を下げる。

「いえいえ。ママも喜んでいますし」

「・・・・・・!」

 ワン太が驚く顔をする。それだ。そのセリフだ。というかまさかこれ霊が見えるオチとかじゃないだろうな。それはそれで怖いけど。

「猫ちゃん、その・・・ママってどこにいるのかな?挨拶したいんだけど」

「何いってるんですか、お兄さん」

 そう言って猫ちゃんは笑う。



「最初からここにいるじゃないですか」



「な・・・!」

 猫ちゃんが指さすところ。そこには何もない。見えない。いない。ただの空気。なのにそこを指さして笑う猫ちゃん。

「あ、えと・・・」

 さすがに困惑するワン太。

「えっと猫ちゃん?そこには誰もいないけど・・・」

「なんの冗談ですか?お兄さんはいっつもふざけるんですから。ここにいるじゃないですか」

「ノゾム」

 そこでワン太が小声で俺に話しかける。

「霊スキャンで確認したんですけど」

「なんだそれ・・・」

 初耳なんだが。

「そこに霊がいるかどうか確認する方法です」

「宇宙人ってもうなんでもありだな」

「で、結論から言うと猫柳さんが指を指している場所には霊なんかいません」

 ってことは霊が見えていないということか。

 じゃあ、何を指さしているんだ?

「完全に、猫柳さんは壊れています。たぶん、受け止めきれていないのでしょう、母親の死を」

「じゃあ・・・」

 そこにいると錯覚しているってことか?

 とりあえず大家さんに知らせた方がいいのだろうか?なにはともあれ俺らはここで帰った方がよさそうだな。

「猫ちゃん、俺ら大家さんのお手伝いしにいくからさ、ここらへんで帰らせてもらうね」

「え?まだ挨拶とかゆっくり話をしていけばいいじゃないですか」

「いやいや、もう悪いしさ」

 俺は立ち上がると猫ちゃんはゆっくりとリビングのドアをしめ、鍵をかけた。

「猫ちゃん・・・?」

「さぁ、もう少しゆっくりしていきましょうよ」

「ワン太!」

「はい!」

 ワン太は俺の手をつなぐ。そうして一気にテレポートをして、なんとかアパートの前に戻ってきた。

 危ない、咄嗟にテレポートをしてしまった。特別何かされたわけではないが、すごく嫌な予感がする。

 俺らはアパートの中に入り、ソファに座る。

「あれ?巫ちゃんはどうしたの?」

 との大家さんのセリフ。

「えっともうちょっとで来ると思います」

 と誤魔化す。まずは自分たちで整理しないと。

「ワン太、明らかに猫ちゃんはおかしかったよな」

「はい。おかしかったです。死を受け止めきれず幻覚のようなものをみているのでしょう。精神的なものですね・・・」

 冗談ではなく、本気で。

 そしてもう1つ、ガムテープのふすま。あの中身。

 俺はある1つの可能性を見出していた。

「あのガムテープの奥なんだけどさ、あれって・・・」

「はい、逃げ出す際に中身スキャンを使った結果、あそこにあるのはやはり仏壇です。母親の、でしょうね、たぶん」

 やっぱりな。あそこにあるのは母親の死の証拠。目をそむけたい何か。そこから導ける答えはそれしかない。というか中身スキャンってなんだ。やっぱり宇宙人どもの前ではプライバシーなんて関係ないんじゃないだろうか・・・。

「ノゾム、あんまり動揺していないみたいですね」

「まだこれを事実だと認識していないかもしれないからかな。どこか夢の出来事のように思えるんだ。でも、明日になったらやばいんだろうなぁ・・・」

 事実を受け止め、そして冷静ではいられなくなる。たぶん冷静でいられるのは今だけだ。

「大家さんにはどうしようか、今日猫ちゃん夕飯に来るし」

「言った方がいいとは思いますけれど」

 一刻を争うかもしれないので大家さんに相談しに行く。キッチンかなぁとキッチンをのぞくとそこには誰もいない。すると奥から話し声のようなものが聞こえてきた。

 たぶん、電話か?

「大家さん・・・?」

 俺は奥にいき、大家さんに話しかける。

「なんか猫ちゃん今日これなくなったって。うーんさびしいわね。せっかくたくさん料理作ったのに。もーぷんぷん」

「そうやって怒る人初めて見たんですけど・・・」

 ほんとこの人何歳なんだ。

「でも、のぞむーとハルンちゃんに食べてもらえば万事解決。そうして私のお肌もツヤツヤに」

「どこにそんな因果関係があるんですか。というか大家さん、それよりももっと大変なことが」

「大変?あぁ!大変といえば私ちょっと用事思い出した!すぐ帰ってくるから先にご飯食べててね」

「え?ちょっと・・・」

 俺はそこで大家さんを引きとめようとするもたまたま自分の足で自分の足をひっかけ、そのまま前に倒れる。そして下に落ちていた布団カバーが顔にかぶさり、発言できなくなってしまった。

 慌ててそれをとり、大家さんを追うもすでにいなくなっていた。

「なんたる不運・・・」

「あれ?ノゾム、大家さんに話をしなくていいんですか?」

「ってワン太・・・お前こんなときに部屋にいたのかよ・・・」

「いえ、私なりに整理しようかと。大家さんはどうでしたか?」

「すまん。大家さんがどっかにいってしまった・・・」

「何をしているんですか・・・」

 俺が逃がしたと思ったらワン太もたまたま大家さんが出かけるときに自分の部屋にいた。しかしもちろん大家さんがいようがいまいがもう関係ない。

 一刻を争うのだ。

「まわりの大人に話そう。最悪救急車も用意したほうがいいよな」

 内心動揺しまくり。救急車も呼んだことなんかないし、こんなことに巻き込まれたことなんてなかったのだ。冷静さがもう失われてきた。

 そんな中、俺の携帯に着信が。

「猫ちゃんだ・・・」

 俺は通話ボタンを押した。

「もしもし」

『お兄さん』

「猫ちゃんか?」

 雑音が聞こえる。これは・・・外?なんか機械的な電車のような何かのような音が聞こえる。

「今・・・どこにいるんだ・・・?」

『先ほどは驚かせてしまいすみませんでした。忘れていました。ママは私以外には見えないのでしたね。パパにも見えていませんでしたし、忘れていました。ごめんなさい』

「猫ちゃん、質問に答えてくれ・・・今、どこにいるんだ!」

『もう少しで頂上です。さようなら』

 そこで通話が切れた。

 無機質な機械音が聞こえる。

「・・・・・・・まずい・・・まずいまずいまずい」

「ノゾム?」

「猫ちゃんが・・・」

 落ちつけ。落ちつくんだ。まず今頭に浮かんだことを消し去れ。さようならっていうのは通話終わりということであって別に永遠にさようならというわけではない・・・はずだ!

「ちくしょう・・・!」

 そういえば猫ちゃんは頂上がどうのこうのって・・・電車みたいな機械音。まさか・・・。

「ロープウェイか・・・!」

 俺はワン太を見る。

「ワン太、テレポートは使えるか?」

「・・・・・本当は1週間に1度しか使えません。バズーカを待った方がいいとは思いますが、時間がないんですよね」

「ああ」

「あまり正確には飛ばせません。恐らく送れるのはノゾムだけ。もしかしたら飛びたい場所に飛べないかもしれない。それでもいいんですか?」

「いい」

「下手したら死にますよ」

「いいよ。それと俺は死なない。死ぬはずがない。ワン太を信じているし、それに一生分の不幸はシキブさんの試練で受けてきたからな」

「わかりました」

 ワン太は最後に寂しそうに笑った。

「いきますよ!」

「おう!猫ちゃん連れて戻ってくる!」

「テレポート!」

 俺の手を掴み、テレポートをする。

 目を開けた先に見えたものは・・・・・・・・・。

なんというか色々大変なことになってきました。ちなみにこの章はここで終わりです。中途半端ではあるんですけれどね。


次は一回間章をはさむつもりでいます。できれば今回のこの話の内容を覚えていただけたら間章の次の章のとき、スムーズに読めるんじゃないかなぁと思います。


ではまた次回。

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