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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第5章 何もできない冬。終わりの季節。
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第52日 先へと進む宇宙人。

「白木くんのことが大好きです」

「・・・・・・・・はい?」

 夕暮れ時。確かにいい雰囲気とはいえばそうなのだが、そこで俺は椿野に告白されてしまった。たぶん、いや絶対にこの好きは友達の好きではないのだろうと椿野の顔や雰囲気で分かったしまった。

 だって顔、赤いもの。マフラーに限界までうずめているんだもの。

 そういう俺も今、どんな顔をしているのかはわからない。

「もちろん、白木くんが好きなのはあの宇宙人さんだってことは分かってるよ。でも春も好きなの。大好きなの」

「・・・・・」

 なんか色々と言いたいことはあるが、これはワン太のときとは違い、返事を求められていると言うことなのかもしれない。たぶんそうだ。

「あ、あのー・・・か、考える時間とかください・・・」

「・・・・・・」

 はぁ!?みたいな顔された。いや、最低だってことぐらい分かっているんだけど、俺はどっちが好きだなんてこの場で考えられる余裕なんかなかった。

 椿野は俺がワン太を好きだと思っているらしいが、それはなんか少し違うかもしれない。好きじゃないわけじゃないのだが、椿野も好きじゃないわけじゃない。

 つまり・・・。

「・・・・・・」

 俺はここまで考えて冷や汗が流れてきた。

 俺はつまり・・・どっちも好きなのか・・・?どんな最低男だよ。二股野郎じゃねぇか。

 いやいや、今は混乱しているだけ、時間さえもらえれば、大丈夫だ。

「いいよ、意外な答えだったけど」

「意外って・・・」

「すぐにふられるかと思ってた・・・でも考える時間あげる。期限もつけない。白木くんの中で決着がついたときに返事をお願い」

 もちろんここでこの言葉をそのまんま受け取る俺ではない。すぐにでも返事をしないとな。

「ありがとう。恩に着る」

「それはこっちのセリフだよ、バカ」





「姫様」

「バズーカ・・・」

 アパートのハルンの部屋。そこに宇宙人であり、軍人でもあるバズーカがやってきた。その手に持つのは銀色に輝くリング。

 アパートの中は大家さんや他の住人も外出しているため、がらーんとしている。そのせいかハルンの部屋も少しだけ冷たい雰囲気がしていた。

「そのリングが何か分かったのですか?」

「いいえ、これはこの世では解析できないものです。それは分かりました。それよりも、ここに入っていた映像データを見ました」

 リングの中には映像データが入っていた。もちろん、宇宙人、グリーン星の技術力によりなせる技ではあるが、バズーカを驚かせるには十分だった。

「いえ、正確には途中までしか見てませんが、その映像データには『グリーン星のある計画』について『姫様自身』が語られていました」

「私が以前、録画したものです」

「それにしては姫様が違いすぎていた。容姿はまったく同じでしたが雰囲気があなたとは違う。違いすぎるんです。ノゾムくんと一緒に、みんなと遊ぶあなたではなかった」

 そこでバズーカは少しためる。

「あそこに映っていた姫様は、誰ですか?そしてあなたは誰ですか?」

「・・・・・」

 ハルンが黙りこむ。

「それにあの指輪には映像データ以外にも多大な容量を占める何かがありました。それはいったいなんなんですか」

「バズーカ。すみません。私が今からやろうとすることはバレた瞬間に終わるようなことなのです。少しでもリスクを減らすためにあなたに言うわけにはいきません」

「姫様・・・」

 バズーカはただただショックだった。自分を頼りにしてくれないこと、それと、頼りにされない自分自身にもまたショックを受けていた。





 次の日の学校。休み時間にて。

「うーん・・・」

「どうしたの、希くん」

 俺がひたすら悩んでいるとヒメちゃんが話しかけてくれた。本当にその笑顔だけで救われるんじゃないかというぐらい可愛い。これなら死ぬぐらいじゃ死なないかもしれない。意味わかんないけど。

「いや、なんでもないよ」

 こればっかりは俺自身で解決しなければならないことだ。そう決意した。それを理解してくれたのかヒメちゃんが笑ってくれる。それにつられて俺も笑う。

「なーに、ちょっくらヒメちゃんとの新婚生活について考えていただけさ、気にすんな」

「気にするよ!」

 笑顔終了。ほんと、毎回のようにヒメちゃんとこうやって会話しているけれど、呆れずに毎回話に付き合ってくれる。俺ならすでにはいはい、めんどいめんどいって流しているところだ。

「式場は自分で決めたい派?」

「そこは別に気にしてなくて・・・」

「ってことは前向きってことですね!」

 この際そういうエンドでもいいんじゃないかな。同性結婚が許されている国もあるし。というかヒメちゃんは戸籍の方が間違っていると思う。実は女の子という線も最近の漫画やらアニメやらであるというし、十分にありえる。

「本当に女の子だったらここまで否定しないよ・・・」

 確かに創作ではよく、女の子じゃね?とにおわせる行動があったりする。例えば同じルームメイトなのに一緒に風呂に入らないとか。主人公が男らしいな、と言うとすごく落ち込んだり。主人公の言葉をいちいち気にしたり・・・。

 ここはそういう伏線を一切排除するという新しい形を目指している可能性がある。いきなり、なんの伏線もないのにバーン!女の子でしたー!って。完全に後付けだと思われるな、それ。

「でも後付けでもいい。後付けでもついていなければいい!」

 付けでも付いていなければいい。我ながらうまいことを言った。もちろん、ヒメちゃんは顔を赤くしてのってこない。恥じらいながら下を向いている。なんか女の子に絡むおっさんになった気分だ。

「うん」

 ヒメちゃんはそう小さく呟くと急に俺の手を握ってきた。え?え?なに?というかなんで恋人つなぎじゃないんだろうと考えたところでヒメちゃんは俺をまっすぐに見る。

「しょ、証拠。証拠みせたげる・・・」

「はいぃ!?」

 それって物語が始まって以来一切触れていなかった禁断の部分ではないのだろうか!今考えれば体育の時間とか学校祭でのラッキースケベとかいっぱいあったけどこれはそれとは比べ物にならん。

 し、しかしこれで俺より大きかったらなんかショックだ・・・とゲスで外道なことを考えそうだったので頭をぶんぶんとふってかき消す。

 これで俺がそっちの道とかに走ってしまったらやばい。物語終了。主人公がホモオチってどんな物語だよ。せめて伏線はれよ・・・。

「い、いくよ・・・」

 俺の体は動かない。なぜか緊張している。なんだこれ。というか教室でこんな破廉恥な行為がおこりそうなのになんで周りのやつらはガン無視なんだよ。

「えいっ!」

 時すでに遅し。何を思ってもおしまい。最悪これ逮捕オチとかじゃないだろうな。

 柔らかいものが手にあたる。しかしそこは禁断の地なんかではなく胸、であった。

「・・・・・」

 激しい疲労が俺を襲う。

 な、なんだ・・・そっちか・・・というか教室で触らせるような破廉恥なマネをヒメちゃんがするわけない。ヒメちゃんが実はエロくて得するのは俺だけだ。

「と、というかヒメちゃん・・・ヒメちゃん少しだけぽちゃっとしてるから他の男子より胸あるよ」

「えぇ!?」

 そう、ヒメちゃんの胸はあるのだ。少し。野郎のかたい胸板ではなくヒメちゃんは柔らかな胸を持っている。すなわちそこだけでは男か女かわからないのだ。

「残念だが、ヒメちゃんは俺の中でまだグレーということで・・・」

「そ、そんなぁ・・・」

 顔を真っ赤にしてへたりこむヒメちゃん。うん、勇気出したんだよね。気持ちは分かる。中学の時、太ったやつの胸をもむという地獄絵図のような流行があったことがあるが、そいつはなんだか恥ずかしそうであった。もむほうもなんかえ?あぁ、じゃ、じゃあいくぞ・・・みたいな。

 なんだそれ。気持ち悪すぎるだろ。今考えればこの世の3大醜い映像のうちの1つに入る。どう〇つの森で雑草の代わりに村全体にラフレシアが咲くのと同じぐらいだ。どんだけ色々なものを持て余していたのか・・・中学生ならさもありなん、って感じだけどな。

 んで、それがヒメちゃんともなるともう、こちらもドキドキ、向こうもドキドキの連鎖。3大美しい映像の1つに加えてもいい。ちなみに残りの2つは不良が捨てられた犬に傘を差し出す、クレオパトラである。なんか混ざってるけど。

「なんか、ヒメちゃんとこうして2人で話したのって転校してきたあたり以来だよな」

「うん、そうだね。懐かしい感じがしたよ」

 今日は空人もワン太も神崎さんもいない。もちろんノウンさんも。それぞれ各々の用事でどこかへ行ってしまったのだ。

「思えば昔からヒメちゃんは可愛かった・・・」

「そ、それはどうだろう・・・」

 だって昔の夢がお嫁さんって・・・しかし本当に惜しい。その頃に俺が結婚してやるよ、と言えば昔の約束をかわしたメインヒロインとなったのに。

「ヒメちゃん、もっと俺らに相談してもいいんだぞ」

「な、何をかな」

「もっと俺らを頼りにしてくれてもいいんじゃないかなぁって」

「・・・・・頼りにしてるよ、本当に」

「うん、ならいいんだ」

 その言葉を聞いてヒメちゃんが驚く。

「聞かないの?」

「聞かない。ヒメちゃんが話したいときに言ってくれ。いつでも相談に乗るし、考えてやる。だって俺とヒメちゃんは昔婚約を結んでいるんだからな」

「え・・・・・うん、そうだね」

 にっこりと笑うヒメちゃん。思わずその笑顔に見とれてしまう。てっきり引かれるかと思ったが。

「僕が女の子だったら希くんのことを好きになってたかもしれない。それぐらい希くんは優しくて、いつも真剣だよね」

「お、ぉう」

 思わぬセリフにすごく照れる。なにこれ、遠回しのプロポーズ?

 俺はすぐに照れ隠しのため、冷静になり、いつものようにおどけてみせる。

「来世だろうが今世だろうがいつでも好きになっていいぜ、ヒメちゃん」

「ありがとう、大好きだよ」

 そう言って俺に抱きつくヒメちゃん。珍しい。本当に。こういう行為は男同士じゃダメ!とかって嫌っていたりしたような・・・。ヒメちゃんじゃなくても嫌がるか。

「ヒメちゃん・・・?」

「僕も頑張ってみる。だから相談に乗ってくれる、かな」

 ヒメちゃんなりの愛情表現。もちろんそれは友達として。いつもならヒメちゃんいいにおいいいいぃいいいいいい!はすはす!とかって興奮するんだが、ここはそれを抑える。

 いつもならこれって俺はもうそろそろ訴えられてもいいと思うんだ。

「相談にのる。俺もヒメちゃんが好きだから」

 マジで今回ホモエンドなの?と言われても仕方ないような雰囲気。でも俺はこれを茶化す気にはならなかった。ヒメちゃんの誠心誠意の言葉。俺がきちんと誠心誠意受け止めてあげないと。

「大学生になっても社会人になってもおじいさんになっても友達なのには変わりない」

 友達ということは言えば言うほど安くなる。本当の友達にはその確認もいらないのだから。

 でも。

「うっし、俺も前に進む気になった。決めた」

「じゃあ、お互い頑張ろうね」

 笑顔で微笑みあう俺ら。

 その後帰ってきた空人が「なにこのいい雰囲気!俺だけ仲間はずれ!俺にも共有させて!」と騒ぎだすまでに時間はいらなかった。





 そうだ。そうなのだ。ここまで順調でこれからみんな頑張ると決めた。もう自分の気持ちから逃げないと決めた矢先のことだったのに。

 そうしてあのようになってしまったのか今でもよく分からない。

 分かったことはただ1つ。

 俺は本当に無力で、何もできないバカ野郎だったってことだけだ。

 

久々に2人のみでの掛け合いを書いた気がします。


次からは終わりに近づいていく物語。ぜひ、最後まで見ていただけたらなぁと思います。


ではまた次回。

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