第51日 後悔励ます宇宙人。
「・・・・・・」
オカルト研の廃部。それは俺の中で非常に大きな出来事であった。毎日当たり前のように通っていた時期もあった。そんなオカルト研が今日からない。
椿野はどうするのだろうか。部員のみんなはどうするのだろうか。気になることはたくさんあるけれど、俺にはどうしようもないことなのだろう。
今回の件で俺はどんなに無力かが分かってしまった。人の励ましを真に受けて、知らないふりをしていた部分を見なければならなくなってしまった。
「あの・・・ノゾム?」
宇宙に行って違う星を見て、それでもワン太は俺を必要としてくれた。さらに言うならば好きとまで言ってくれた。返事はいらないって言われたけど。すごい生殺しだけど。
なのに俺は何もできていないじゃないか。ワン太のことだけではなく、俺らの生活圏、地球での出来事も俺は無力。俺がもっと椿野の話をきいていれば、部員になってあげれたらもう少し違う何かを見れたかもしれないのに。
「おーい、ノゾムー」
結局俺は何も成長していない。何もできないただの人間なのだ。
「ノゾム!」
「・・・・・・・あ、ワン太?」
俺はふと考えからはなれるとそこは俺の部屋。どうやらノックしてもでない、声をかけても部屋からでない俺を不思議に思ったワン太がきたらしい。
俺は静かに立ち上がり、そしてドアを開ける。
「よ、どうした?」
「何してたんですか・・・ヒメ岡さんと七実さんがきてますよ」
「ヒメちゃんと空人が?」
部屋を出て、この寮共有リビングへと行き、玄関のドアを開ける。そういえば今は大家さんいないのか。道理でワン太が俺を呼びに来るわけだ。
そしてドアを開けた瞬間パパン!という乾いた音が。目の前に広がるのはリボン。それに紙吹雪。
「うわ・・・」
「へっへー!」
俺は少し驚きながらも前を見ると空人の手にはクラッカーがあった。
「うわわ、空人くん、駄目だよこんなところでクラッカー鳴らしちゃ」
「いいんだって。俺はどうせ不良だしな」
にしし、と笑うその顔には本当の笑顔。ヒメちゃんも注意しつつも笑顔であった。
「な、なんだ?誰かの誕生日なのか?」
クリスマスにしてはまだはやすぎるよな・・・。
「いいや、このクラッカーはお前のだ」
そうして空人からクラッカーを受け取る。いや、これただのゴミ処理だろ。
とりあえず玄関で立ち話もなんなので、みんなでリビングへ。お客様2人にソファに座ってもらい、俺とワン太は飲み物と簡単なお菓子を準備した。
「で、なんのクラッカーなんだ?」
「白木希励ましクラッカー」
と、空人は答えた。
「俺の予想だとそろそろ落ち込んで、さらに自分を責め続けるというループに入ってるんじゃないかなぁと思ってね。人間誰しも悩みはあるから悩むなとは言わないけど、重く受け止めすぎると大変だ」
まさにドンピシャ。そのループから俺は出れずにいた。
「ノゾム、何について悩んでたんですか?」
「あー・・・それは話すと長くなるんだが・・・」
俺はこれまでの経緯を軽くワン太に話した。ワン太はすこししょんぼりとした様子でその話を聞き、そして落ち込んでいた。
「あ、あれ?ワン太?」
俺は軽くできる限り明るく話したつもりなんだけど・・・。
「希、今、お前は人を元気づけられないよ・・・」
空人はなぜか残念そうな顔をしていた。
「話を戻すと、そんな落ち込み状態を少しでも軽くできたらなぁと小花くんと話し合った結果がこれなんだ。クラッカーは驚いたろ」
「ぼ、僕はクラッカーはご近所迷惑になるし、やめたほうが・・・って言ったんだけど。励ますなら手紙とかもあるし・・・」
「そんな女々しい手段は使わない」
「女々しい・・・」
そう言われて落ち込むヒメちゃん。空人。お前は今だけじゃなく今後も人を励ますのにあまり向いていないような気がするよ・・・。
「うん、でも助かった。少し楽になったよ」
これは嘘ではない。本当にこうやってにぎやかに話しているだけで元気になる。
「お前が俺をチンピラから助けた時から思ってたことだけど、必要以上に背負いすぎだ。今回のは特にお前の責任ではない。いっちゃなんだが俺達は部外者だ」
それはそうだ。
でも俺にも何かできたんじゃないかという気持ちがある。あのときああやっていれば・・・というどうしようもない後悔。
ああしていれば椿野を助けられたんじゃないかという後悔。
「俺には叔父さんがいる。叔父さんってほど年とってるわけじゃないけどさ、しかも結婚相手がすげー美人なの。綺麗っていうより可愛いって感じだけどな。あと胸がすごくでかい」
いや、結婚相手の話はいいから。あと隣で自分の胸を触るな、ワン太。
「その叔父さん曰く、人が人を助けようなんていうことは驕り、自分に自身のある自信過剰なやつが言うことなんだってよ。これも受け売りらしいけどね」
「・・・・・・」
「でも叔父さんはそれが正しいと納得してるわけじゃないんだけど、でも人を助けようとすることはすごく難しいことだよ」
それは・・・そうかもしれないな。
でも・・・でも俺は諦めたくなかった。あんなところで、なんの猶予もなくオカルト研が終わりだなんてあまりにも急すぎる。
「ま、こんなこと言っといてなんだけど俺も反対だ。助けたい人がいたら助ける。それが一番いいことだと思う。何もせずに厳しい現実を見ないより、失敗して後悔してでも人を助けようとすることがなによりも大切なはずだよ。だから俺らは今、ここにいる。落ち込んでるお前を助けようとここにいるんだ。な、小花くん」
「え、あ、うん。そうだよ。僕も希くんを助けたいと思ってここにきた。その落ち込みはとても大事なことだと僕は思うよ」
「あんまり薄っぺらく思われるからいいたかないけどよ、俺達は仲間だろ」
友達以上の仲間。
俺がここに引っ越してから会った数々の人々。大事な仲間。
「むー、なんか男の友情って感じがして羨ましいです」
「もちろん、ハルンさんも神崎さんも、チビっ子もノウンさんもシキブさんも大家さんもみんな仲間だ。今まで出会ってきた大切な人達だ」
「・・・・・・・うん、そうだな」
俺は深くうなずくと、
「俺も頑張ってあがいてみるよ。無理でも不可能でも自分が諦めるまでとことんやってみる。ありがとう、空人、ヒメちゃん、それにワン太」
〇
「お願いします」
俺は次の日、生徒会室で元生徒会長にお願いしていた。それはオカルト研の廃部を取り消すことではなく、せめて猶予だけでももらえないか、というもの。
ちなみに今、生徒会室には俺ら2人以外だれもいない。
「私は生徒会長じゃないもーん。今は元」
「それでもあなたにお願いしたい」
「・・・・・・なんで?今の生徒会長より私の方がまだ生徒会内で権力がありそう、とかそういう理由なら駄目よ。ほんとに私は引退した身で何にもないの。前、椿野さんに廃部届を届けたのもほぼ使いっぱしりみたいなものなの」
そうじゃない。そうじゃないんだ。
俺があなたに頼んでいるのはそういうことじゃないんだ。
「理由はそんなんじゃない。あなたが何者かはどうだっていい」
俺はただでさえ転校してきた人間だ。生徒会長がどのようなものなのかすらも分からない。
「理由はあなたもオカルト研の廃部には賛成できていないから」
「・・・・・・」
俺は考えた。きっとこの人はオカルト研の廃部には賛成じゃないんだ。
前、椿野に向けた謝罪もそうなのだが、それだけじゃない。この人は元生徒会長だった。それこそ直々に現れただけであのぐらいの人を集めたすごい人。
そんな学校を束ねる人がオカルト研の伝統を聞いたことないはずないとそう思ったのだ。それこそ冗談だと思われているかもしれないけれど、知っているだけでいい。
「あなたも知っているはずだ、オカルト研の伝統について」
クラスや学校に馴染めない人のための場所。似たもの同士を集めて話させ、徐々にクラスにも慣れさせるという大きな役割。
確かに見方によったらそういう人達を一か所にまとめているというような見方もできるが、あそこで過ごしていたみんなの顔を見たらすぐにわかる。あそこはとてもいい場所だ。
逃げ場でも、ネガティブでもないポジティブな場所なんだよ。
「知っているよ」
「・・・・・」
やっぱり。
「知っているけど、なに?」
「・・・・・それでもあなたは廃部に賛成するんですか?」
「賛成したくなくてもしなければならない時があるの。この学校は創作のように生徒会が強い権限を持っているわけではない。所詮先生の下で雑務をこなすだけの場所。全ては先生の会議で決まったことなの」
そこで俺は気付いてしまった。
なんてこった・・・何もできないことに悩んでいるのは俺だけじゃなかった。
「何かしてあげたくても何もできないの!無理なの!もう廃部は通ってしまった。どうしようもないの。今更生徒がでしゃばっても意味がない・・・何もしてあげられないのよ・・・」
この人もそうだったのだ。
〇
俺は知らないうちに化学室の前に来ていた。もちろんその中には誰もいない。今までは必ず椿野が魔女衣装をきて待っていて、それでそこでくつろぎながら勉強をして、駄弁って、笑って、後輩がいるときはみんなで騒いで・・・そんな場所だったのに。
「・・・・・」
夕暮れの日が寂しさを増大させる。この日の色ってただのオレンジじゃないよな。なんか家に帰りたくなる色をしている。きっと絵具ではだせない、そんな色。
そんな色にも気付かずに、俺らは騒いでいたのだ。今考えればオカルト全然関係ねぇな。椿野本人もオカルトが好きだったのか分からない。
オカルトではなくオカルト研が好きだったのかもしれないな。
「・・・・・」
「あれ?白木くん」
「え・・・?」
後ろを向くと、椿野がいた。今、ちょうど帰ろうとしたのだろうか。
「なんでここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフでもあるけど・・・なんかやっぱり離れられなくて・・・」
「・・・・・」
それはそうだろう。昨日の今日みたいなものだ。
「そういえば白木くん、きいたよー・・・ふふふ、元生徒会長にわざわざ頼んでくれたんだって?」
「・・・・・」
あの野郎・・・話したのかよ・・・。ってことは元生徒会長が実はこちら側ということも聞いたのかもしれない。だからあえてここに来たのかも。
「やっぱりオカルト研に入ればよかったのに、向いてたよ、副部長とかさ」
「向いてねぇよ・・・でも、そうだなぁ・・・入ってみればよかったかもなぁ・・・」
「・・・・・なにその反応。つまらないなぁ・・・センチメンタルっぽくて」
今、事実俺はそのことで悩んでいるわけだし。
「・・・・・・嬉しかった」
「え?」
椿野がぼそっと呟く。
「嬉しかったの。白木くんもそうだけど、元生徒会長とか、他のクラスメイトとかにも言われちゃってさ。オカルト研って案外愛されてたんだなぁって思うと嬉しかった」
「椿野・・・」
「春はずっと1人だと思ってた。春が後輩を、みんなを守らないとって思ってた。それで誰にも相談しないで、春1人で全てをやろうとして・・・」
部活が終わっても椿野がここにいた理由。3年生はほとんどが夏の時点で引退する。秋に大会があるところは秋まであるが、オカルト研は特に大会などもない。
なのに冬まで椿野がここにいたのは何か1人でできることはないかと探していたのだろう。
「それでオカルト研は終わってしまった。春が潰したようなものだよ」
「そんなこと・・・」
ない、と言おうとして椿野が待ったのポーズ。
「これだけは譲れない。春がもう少しみんなのことを頼っていれば・・・みんなを信じていればこんなことにはならなかったのに・・・」
同じだ。俺と同じ。過去に後悔して現在を責める。地獄のループ。
「時間を戻せるのなら・・・・・みんなに相談したい・・・・!みんなを信じて頼りたい!春は1人じゃないんだってことをもっと考えればよかった・・・・・」
泣き崩れそうになる椿野。
でも時間は戻らない。これが普通で、後悔とはほぼ意味がないものとなってしまう。次に生かすこともできずに後悔だけがたまっていく。
大きな宇宙を見た時もそうだった。俺は自分の無力を悟った。今でもそう思っている。でも、俺にはみんながいるんだ。信頼できるみんながいる。
それは椿野も同じなはずだ。
「あ・・・・・」
俺はそこで少し椿野から距離をとり、そしてかばんを漁った。
そして・・・・・。
「よっ!」
パーン!っという乾いた音。
「え・・・・・?」
椿野は本当になんだかわからないような顔をしている。
それはそうだろう、俺がしたのは空人やヒメちゃんと同じく、クラッカーを鳴らすことだった。あんとき余ったクラッカーもらったんだよな。
「椿野春風励ましクラッカーだ」
「白木くん・・・」
「ま、空人とヒメちゃんがやったことのマネなんだけど。俺もお前と同じような悩みを持っていた。自分が無力なこととか、あのとき俺がオカルト研に入っていればとか・・・」
「白木くんのせいじゃない」
「でも、だよ。それは理屈とかじゃなくてなんとなく、気持ちでそう思ってしまうことなんだ。だからきっと誰になんと言われようが変わらない」
もちろんここも椿野と同じなはず。
「でも、元気だせ。俺達はいつまでもお前の仲間だし、後輩もお前を見捨てたりはしない。さびしくなったら電話しろ、落ち込んでいるならみんなを呼べ。すぐに駆けつけて励ますことぐらいはできる」
というかそろそろここから離れないといまのパーン!って音を聞きつけた先生とかきそうな気がするんだが・・・・・。
「白木くん」
いつの間にか、椿野の涙は止まっていて、そして言葉も強いものになっていた。
「ありがとう」
「お互い様だな」
「うん・・・・・思えば春は白木くんのそんなところを今まで見てきたんだなぁって、だからあの時相談に乗ってあげたりしたんだなぁって考えるよ」
椿野は静かに笑った。
「そんなところも含めて、春は白木くんのことが大好きです」
〇
「今の音は生徒会活動の1つなので気にしないでください先生方」
「いや、でも明らかにパーン!って銃声みたいな音が・・・」
「ですからそれは生徒会活動の1つです。現生徒会長が狩人系列の家系の人でして」
「ま、まぁ元生徒会長とはいえ、あれだけの支持を得た君のことだから信じないではないけど」
「では職員室に行きましょう。私、用がありますので」
「は、はぁ」
「・・・・・・・・・・・任せたよ、白木くん」
〇
「姫様・・・・・・?」
バズーカ研究室こと神崎阿国の家。
「どうしたの、バズーカちゃん」
「いえ、なんでもないです、神崎さん」
そこでバズーカはある研究をしていた。それは不幸の指輪のリングの部分。この世のものではない、という結果が出た特殊な作り。
この地球のものでも、というのではなく、宇宙のものでもないリング。
「解析結果が本当なら・・・ハノは・・・何をどうしたらいいのですか、姫様」
というわけで大分大分終わりへときているわけですが、こんなこと言いつつも後何話で終わるのかは分かりません。
正直まだまだとは言いませんがもう少し続くかも・・・。
ではまた次回。