第50日 何もできない宇宙人。
「実は4月からオカルト研存続の危機でして・・・」
「4月って俺が転校してきたときから・・・?」
あれから放課後。俺と空人、それにヒメちゃんはオカルト研のある化学室に来ていた。もちろん、内容はさきほどのことについて。
生徒会長が告げた1つの真実。オカルト研の廃部。
「心配かけたくなかったんだ・・・」
「その気持ちはありがたいが・・・」
結果、心配をかけない代わりに結構なところまでの危機になっていた。こういうときこそ話しあいとかが必要な気もするがそういうわけにはいかなかったのだろう。
オカルト研は特殊だから。せっかく学校に慣れてきた後輩に心配をかけたくなかったという気持ちは痛いほどよく分かった。
「とりあえず部活を存続させるにはどうしたらいいんだ?」
「署名活動とかかな?」
ヒメちゃんが出した案は署名活動。
「やるだけ無駄ってことはないけどうちの部活オカルト研だよ。署名活動に応じてくれる人もいないと思うけど・・・」
しかし元部長椿野が直々に正論。確かに、ここはオカルト研だ。やることはみんなオカルトに関することだと思っているはず。そんな部活がなくなったところでどうもしないはずだ。
むしろ部費をとっているぶん、批判すらもあるかもしれない。みんなオカルト研の特別な役割を冗談だと思っているから。
「でも、言うわけにはいかない。特別な役割を言った瞬間これは機能しなくなる。絶対に後輩のクラスでの立場が悪化する。それじゃ本末転倒だよ」
そう。そうなのだ。生徒に訴えたいがそれはできない。それを言ったときのことは容易に想像できる。
「じゃあオカルト研で何かするとかかな?ボランティアとかためになることをすればその功績が認められるかもしれないよ」
ヒメちゃんの2つ目の案。というかこういうときのヒメちゃんは頼りになるな、おい。姫というより王子様といった感じがする。
「それには時間が足りないよ・・・」
しかし椿野はその案も却下した。いい案だと思ったので俺はそこで理由を尋ねようとしたが椿野の視線により理解する。
椿野は俺達ではなく、俺達の後ろを見ていた。
「こんにちは、みなさん」
「生徒会長・・・」
すると生徒会長は俺達の方へと歩いてきた。
「元だよ。で、椿野さん。これ」
そうして渡された紙に書かれていたのは、廃部報告書。時すでに遅し。そういうことだったのだ。
「おい、なんか展開はやくねぇか」
しかしそこででてきたのは空人だった。生徒会長が苦手、というより嫌いそうであった空人はここで食いつく。
「いいえ、はやくありません。前からなんのために活動している部活か分からなかったからね。部費を渡すわけにはいかないし、同好会としても活動不明なこれを許すわけにはいかないの」
「だとしてもなんかチャンスをやるとか、行動させるとかあるだろうが。いきなりきて廃部は理不尽すぎるんじゃないか?」
「前から廃部になるといったことはお伝えしていたはず」
「ちゃんと伝えたのは今日なんだろ。廃部するかも、みたいな感じで濁していきなり今日来て、人を絶望させる。あんたのやりそうなことではあるからな」
なんかどんどんどんどんヒートアップしていく会話。そして置いてかれている俺達。
「あなたには関係ないことだよ、七実くん」
「椿野さんは俺の友達だ。関係ないわけあるか」
なんかこのままではマジで喧嘩になりそうだ。やはり空人は元生徒会長に対してただならぬ何かを感じている。たぶん、不良時代の因縁かなんかだろうけれど。
「七実くん、ありがとう」
「椿野さん?」
しかし喧嘩に発展するわけではなかった。椿野が空人を止めたのだ。
そう言うと椿野は静かに廃部届を受け取る。
「これでいいんでしょ」
「・・・・・・・何か言いたいことはないの?」
「ないわ。どうせもうすでに廃部は決定事項なんでしょ?」
「・・・・・・・そう、ごめんなさい」
元生徒会長はオカルト研の部室から出ていってしまった。最後の謝罪は何に向けての謝罪なのかが俺には分からなかった。もしかしたら廃部に対する・・・。
「椿野さん、いいのかよ」
「うん、もうすでに決定されてることは署名活動で覆すこともできないよ」
もう一度椅子に座りこみ、廃部届をゆっくりと見る。
「春がみんなに話していればこんなことにはならなかったのかもしれない・・・でもみんなに言えるわけがない。せっかく学校生活を楽しんでいるところにこんなこと言えない・・・」
廃部届から目をはなし、天井を見る。
「でもこれも言えないな・・・なんて言おう・・・」
「椿野・・・・・」
「みんなありがとう。でもここからは部長としての春のやること。だから任せて」
そう言うと笑顔で立ち上がり、化学室を出てどこかへといってしまった。廃部届には確か顧問の印鑑なども必要だったはず。それをもらいにいったのかもしれない。
俺はその時、そいつに何も言えなかった。またここでも俺は無力。何もできないただの人間。何が友達だ。友達っていうのはこういうのじゃないだろ・・・。
「椿野さん、きっとすごいショック受けてるよね・・・」
「ああ、あんま関係のない俺まで腹が立つんだ。あの生徒会長・・・」
いや、それはお前の私怨入ってるだろ。
「いくか、みんな」
「うん・・・」
「ああ・・・」
みんな落ち込みながらも帰宅しようと化学室から出る。俺にはもう何もできないのだろうか。
そんなどうしようもない感情が俺を襲う。
「・・・・・・」
どうすればいいんだよ、ちくしょう。
〇
「・・・・・ん?猫ちゃん」
そんな落ち込んだ帰り道。俺は猫ちゃんを見つけた。もちろんこのときの猫ちゃんとは動物ではなく猫柳巫ちゃんのニックネームである。
「おや、お兄さん。どうしたのですか、そんな辛気臭い顔して」
「あー・・・ちょっとね」
なるべく顔に出さないようにしてたんだけどどうやらばればれだったらしい。
「そういう言い方が一番気になるのですが・・・まぁ、言いたくないのなら深くはききません」
「・・・・・・」
もうどっちが年上なのか分からないな。
「猫ちゃん、自分には手に負えないことが起こったら猫ちゃんならどうする?」
そして年下に相談する俺。何をやっているのか。
「諦めます!」
「潔いな・・・」
そこまではっきり言われるとすごく清々しい。
「無理に私だけで頑張る必要はないですからね。ほら、友達とかみんないますし、手伝ってもらいます」
「手伝い・・・」
「私がお兄さんに助けを求めたらお兄さんは私を助けてくれますか?」
「それはもちろん」
「ね、だから安心。自分だけじゃできなくてもみんなとなら何かできるかもしれない」
「・・・・・・・そっか」
椿野も助けを求めたかったんだろうか。でもそれができなかった。俺らはオカルト研ではないし、彼女はオカルト研の部長。自分でなんとかしなければという思いがあったのだろう。
でも、もう廃部は免れないとしても、みんなに廃部を伝える役は俺らで分担とかできたはずだ。
「ありがとう、猫ちゃん」
「はい、どういたしまして」
俺も助けを求めてみよう。
〇
「お願いだよぉ!ワン太えもんー!」
「・・・・・・」
助けを求めた結果すごく冷たい目で見られたのだが・・・えぇ・・・猫ちゃん、助けを求めるのは案外難しそうだよ・・・。
「なんですか、そのワン太えもんって・・・。というか私久々登場の気がするんですが・・・」
「オカルト研が廃部になってしまうんだよぉー!なんとかしてくれよぉー!」
俺はこのとき助けを求めると全てをゆだねるの区別がついていなかった。だからこんな目で見られたんですね。もう二度としない。
「なんか気になる頼み方ではあるのですけれど・・・私にはどうしようもありません」
「えぇ!?」
「なんですかその大袈裟な驚き・・・。宇宙人でもできることとできないことがあるんです。それに人間に宇宙人の力を使うのは危険ですしね」
「・・・・・・・・」
俺は少し考えて・・・。
「じゃあ人の考えていることが分かる系の力とかないのか?テレパシーみたいな」
それを使えば椿野がどう思っているのか、俺達に助けを求めたいのかどうかが分かるのかもしれない。これが俺の出した結論。
本当は俺自身がちゃんと話をきくのがいいんだろうけれど・・・それは難しいかもしれない。
「あるにはありますけど・・・・・」
「あるんだ!?」
自分で言っておいてだけどびっくりだよ!もうこいつの前で変なことを考えるのはやめよう。そう、変なことを・・・ね。
「使えるのは少しだけですよ。それにもうすでにノゾムは使えるはずです、テレパシー」
「え・・・?」
「あなたに与えた力で少しなら使えるはずです」
そういえば力の一部をもらったんだった。いや、でも釣り糸だすだけのくだらない力だったはずなんだが、テレパシーなんか使えるのかよ。
「本当に少しですよ」
「分かってるさ。椿野のためだ」
「・・・・・・・・・・・椿野さん?椿野さんのためにですか?」
「お、おう」
急に迫ってくるワン太。
「ふーん、いってくるといいですよ」
「いや、いくけどさ・・・」
そう言うと俺は気になることがありつつも、学校へと向かってもう1度走り出した。
〇
化学室に着くとその中に椿野が見えた。
廃部届を見てなにやら落ち込んでいるようである。そんなに俺らは頼りないだろうか。それとも俺がオカルト研に入っていたら何か変わっていたのだろうか。
「椿野・・・」
とりあえず部屋の中に入らずにここでテレパシー発動。
・・・・・・・・・どうやってやんの?
「うわー・・・やり方きくの忘れた・・・」
ここでげんなり。さすがに今からもう1度戻ってもきっと椿野は帰ってしまう。俺はなんとかテレパシーなしで椿野の気持ちを引きださなければならない。
気持ちを改めて化学室に入ろうとしたとき他にも誰かいるのが見えた。1人じゃない・・・たくさん・・・いや、部員だ。部員のみんながここにいる。
椿野は何かを決意すると立ち上がった。
「みんな・・・ごめん!」
開口一番謝罪。
「このオカルト研は今日をもって廃部となります。だからみんなはもうここにくることができません」
頭を下げて謝る椿野。
「春の責任です。もっとはやくからみんなと相談とかすればよかったのに、みんなを信頼しないで心を乱さないようにって何も言わなかった春の責任です」
部員のみんなの声はきこえない。とりあえず椿野の話を全部きいてみるということか。
「オカルト研の伝統はここで終わります。みんなクラスに馴染んできて一番いいところなのにここで終わってしまいます・・・・・」
椿野の声が揺らぎ始める。顔を上げていないからわからないがもしかしたら泣いているのかもしれない。まだ後輩の声は聞こえなかった。
「ごめん・・・本当にごめんなさい・・・・・・春はオカルト研を・・・みんなを守れませんでした!」
「・・・・・・・」
俺は何をやっているんだ・・・テレパシー?バカじゃないのか。テレパシーなんか使わなくても明白じゃないか。椿野は助けを求めてる。でもそれを全て切り捨ててみんなに精一杯謝ろうとしているんだ。
助けというのを甘えと考えて。それを切り捨てて先に進む。
「・・・・・・・・・部長」
ここで声を上げたのは明日風の弟である太一くんだ。
「自分はクラスに馴染めませんでした。でもここにきて変わりました。毎日が楽しかったっす。それは考えるまでもなく部長のおかげです。廃部になるのは残念ですが変わるきっかけはあなたからいただきました。これ以上望むものなどありません」
太一くんは一度そこで言葉を区切る。
「部長は俺達のことを守ってくれました。守りきってくれました。不満も不安もありません。今まで本当にありがとうございました」
そう言って太一くんは頭を下げた。
「そんな・・・春は・・・」
「部長!春先輩!」
そこで声を上げたのは山本杏、山本ちゃんだ。
「私も同じ気持ちです。ありがとうございました!」
それに合わせてみんなも立ち上がり、頭を下げる。
「みんな・・・」
「そういうことだぜ、春風」
立ち上がらずに発言したのは津神坂とかいう女生徒。凛とした感じがあり気品もある3年生だ。
「みんなこう言っている。それでも頭を下げるというのは失礼じゃないかい?嬉しいのなら、ありがたいのなら頭を上げろよ」
「津神坂・・・・・みんな・・・ありがとう・・・」
顔を上げて、謝るのではなくお礼を言う、椿野。みんなが椿野に集まり、そしてみんなで団結する。この光景は確かにいい部活という感じではあるが・・・原因は廃部だ。
「・・・・・・・くそ・・・・・」
俺が何かしていれば、話をきいてあげれればこの早すぎる結末は変えられたのかもしれない。俺は化学室の前から立ち去る。
俺も何かしてあげたい、そんな気持ちを抑えてオカルト研の最後を見届けることなく俺は帰宅した。
投稿が遅くなりました。そしてとうとう50話です。プロローグいれたら51話ですけれど。
最後が近づいています。
もうお気付きかもしれませんがサブタイトルの~宇宙人。の宇宙人は実は本当の宇宙人だけでなく地球人のことでもあります。
宇宙人からみた地球人は宇宙人でしょうからね・・・。
ではまた次回。