第4日 無駄に気を回す宇宙人。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
俺は現在動けないでいる。目の前には金髪ロン毛の男。その髪型がよく似合っている。勘違い不良には全く見えずどこかの俳優が不良役でもやっているんじゃないかと思わせるほどだ。しかし服を見れば一目瞭然、うちの高校の制服であった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
お互い真正面から向き合う。しかし不思議と逃げ出したくなる気持ちがおきないのは目の前の彼が怪我をしているからだろうか。喧嘩してきました!と言わんばかりの怪我。切り傷ではなく打撲、青いあざ、それに唇からでているのは血、であろう。その怪我具合がなんか冗談みたいなため、なおさら俳優の演技?みたいな印象を持ってしまう。
思い返そう。なぜこうなったのか。いつから俺の人生は波乱に満ちてしまったのか。なぜ目の前に噂の不良生徒である七実空人がいるのか。思い返そう。思い返すと全ての元凶は1つしかない。あの宇宙人である。
〇
「その・・・ヒメちゃんは七実空人って人と友達、なんだよね?」
学校一の不良というバカげた肩書きを持つヒメちゃんの友達の話を聞いた日の放課後。少し寄り道しながらも帰宅途中の道でもう1度そう尋ねた。
「うん」
同時に頭も縦に振ってくれるヒメちゃん。立って並んでみると背が低いということが改めて分かる。可愛い。本人は嫌がるだろうけれど。ちなみに俺も背は高くない。中2で成長が止まった典型的な例である。
「でも一方的にお友達だと思ってるだけかも・・・あんまり話さなくなっちゃったし」
へへへ、と悲しそうに笑うヒメちゃん。
野郎・・・。どこのどいつだか知らないがヒメちゃんを悲しませるなんて許さん。お天道様が許してもこの俺が許さん。そう決意をかためる。
「途中から髪ものびて、それで金髪だからなおさら不良と勘違いされちゃうんだよね」
「・・・・・・・・・」
怖すぎる。なにそれ。まるで勝てる気がしない。許さないけど見逃しといてやる、みたいな小物感丸出しなセリフを頭の中で言い放つ。我ながらかっこ悪すぎるな。
というかここ最近で気付いたのだがヒメちゃんはかなり友達が多いらしい。女子も男子も平等に同じぐらい。友達、というか一方的に可愛がられてるんじゃ・・・というシーンにも出くわしたことがある。まぁ、反則だからなぁ。ぷにぷにしてるのも、声も、顔も仕草も何もかもが人を引き付ける。完全に見た目は女の子。しかし男。そのギャップ(?)に萌える、なんて話している男子がいた。お前らは末期だ、助からない。人のことは言えないが。
「な、なんで見つめてくるの?」
「・・・・・・はっ!しまった」
思わず思考の方にダイブしていたらしい。見られすぎてヒメちゃんはほっぺたを真っ赤にしていた。うん、気持ちは分かる。俺も人と目を合わせたら恥ずかしくて避けちゃうし。それは病気か。
ヒメちゃんは普段からほっぺたはほんのり赤い。それが真っ赤になって照れてるーって思うと可愛さが加速する。それに俺はメロメロ。これも病気だな。
「すまん、ヒメちゃん。俺はヒメちゃんがかわいすぎてもう駄目かもしれない」
「ぼ、僕はそれになんて答えればいいの・・・?」
困っていた。困らせること、よくない。というわけで俺は話題を変える。
「ヒメちゃんって進路とかどうするの?」
3年生だ。比較的ちゃんとした話だろう。宇宙人やらで忘れていたが俺も3年生。勉強を始めなければならない。
「うーん、先生とか看護師とかには昔憧れてたけど・・・」
「あー、確かに。ナース服とか超似合うよ」
「白木くん。僕男なんだけど・・・」
なぜかヒメちゃんがまた困っていた。
「幼稚園ぐらいの時とかってどんな夢持ってた?」
これもまぁ、定番。幼稚園とかってすごい夢持ってたりするんだよな。人気特撮ヒーローとか、アニメに影響をうけたりとか。女子ではウサギになりたいとかいう人もいた。どんな突然変異だ。でもそのころはそうやって自由に夢について考えられた。難しい話とか分からないままで。少しだけうらやましい。
「え、えぇと・・・」
しかしなぜかヒメちゃんは言い渋る。なんか漠然と可愛さポイントが加速しそうな感じがする。俺はそこで諦める男ではない。
「大丈夫、誰にも言わない。誰だってそのころの夢は恥ずかしいものだよ。俺だって特撮ヒーローとか。カブトムシになりたい時期とかもあったぞ」
虫触れないのに。1時間も生きれないだろうなぁ・・・。無謀。
俺は自分の赤裸々な夢の話をすることによってヒメちゃんが話しやすい空間を作る。場をあっためておきやしたぜ!さぁ、どんなのがくる・・・。
「うーんと・・・」
くまとか犬とかの動物系だろうか。それとも虫?いや、虫はないか。でも男の子って強いものに憧れたりするんだよな。それとも・・・まさか・・・う、宇宙人とか?それこそないな。
「馬鹿にしないでね・・・」
「・・・・・うんうんうんうん!」
すごくうなずく。首振り人形の如く。というか店の前のペコ〇ゃんの如く。
「その・・・お嫁さん」
「・・・・・・・・・はい?」
え?なんだって?鈍感主人公の如く聞き返す。
「お、お嫁さん」
「お、よ、め、さ、ん・・・?」
一文字一文字丁寧に言葉にする。そうしてようやく言葉の意味を理解した。
「か、かわいい・・・」
今度は別の言葉を口にしていた。遠くにいた下校途中の男子生徒数名、女子生徒数名までもがメロメロになっている。恐るべし、ヒメちゃん。
「ち、違うの!そのときはうちのお母さんが人生の幸せはお嫁さんになることだ、って言ってて、それでお嫁さんって女の子しかなれないって知らなくて」
顔を真っ赤にしながら必死に弁解している。
「そ、それでお婿さんなんて言葉があるのもしらなくて、ただ漠然と幸せになれるならそれがいいなぁって考えてただけで!そ、それで・・・」
俺は無言で首を横に振りながら笑顔でヒメちゃんの肩に手をおく。
「え・・・わかってくれたの?」
「ああ」
そして俺は自分のできる精一杯のかっこいい顔をする。
「俺が幸せにしてやる」
「ちょっと待ったです!」
声のしたほうを見るとそこには宇宙人。
「なに男子相手にこの物語が終わりを告げるんじゃないかぐらいの告白をしてるんですか!」
「なんでお前がここにいるんだ・・・」
しかもすごいいいタイミングで・・・。
「そういうのはメインヒロインにとっておいてください!」
「いや・・・まともなヒロイン俺の前にまだでてきてないんだが・・・」
猫ちゃんもいるが中学生である。となると・・・。
「ヒメちゃんしかいないわけだ」
「僕男だよぅ!」
可愛らしく抗議する姿を目に焼き付ける。うん、メインヒロインだ。
「そうだ!」「姫岡はクラスみんなの姫岡だ!」「お前が独占していい相手じゃない!」
「なっ・・・お前らは・・・」
ここ数日で少し仲良くなった、田辺、守山、明日風!モブキャラ三人衆!
「お前ら気持悪いな」
『お前が言うな!』
はもられた。見事。俺はその三人衆を半ば無視する形で下校し、途中でヒメちゃんと惜しみながら別れていやいやながら宇宙人と下校することになった。
「知ってましたか、ノゾム」
「何をだ?」
「私の夢は今でもお嫁さんですよ!」
「しらん」
チーンという音が似合うぐらいに落ち込む。確かにこいつを1カ月間かくまう的なことは約束した。でもまさかこんなに絡んでくるなんて。
「悪かった。でも、お前侵略者なんだろ。なんで人間とそんなに仲良くしようとするんだ?」
「侵略っていうのは言葉が悪いです。最初に言ったのは私ですけれど。一緒に共存したい、ということなんですよ、私が言いたいのは。仲良く助け合って生きていく。それが目的です」
「ワン太・・・」
「なんかいろいろと台無しですね・・・。少なくとも私はそう考えています」
「ん?」
なんか最後のが気になる。少なくとも私はそう考えているってどういうことだ?国の意見じゃないのか?だってこいつはお姫様できっとそのうち星の主導権を握ることになるんだろ。
今、考え出すといろいろと不可解だ。山に落ちて1人で宣戦布告。姫様なのに護衛もいない。それでいて宇宙船の故障。1カ月は帰れない事態。これは偶然なのだろうか。しかしこれではまるで。
この宇宙人が地球に亡命しにきたみたいではないか。
考えすぎか。育ちのいい感じとか見ればどれだけ親に大切にされてきたのかが分かる。そんな親から逃げ出したいなんて、故郷から去りたいなんて考えるはずがない。
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
「ふふふ・・・それはそうとですね」
「な、なんだよ・・・」
不敵に笑う宇宙人。似合いすぎだ。
「聞きましたよ、空席の話。不良さんなんですよね」
「うーん、ヒメちゃんの話だと違うみたいだけどな」
「でもでもでも、ここで不良さんを学校に登校させたら一躍ヒーローじゃないですか?」
「ヒーローってか先生には褒められるかもな」
「というわけで恩返し企画ー!」
「おい待て!」
なんかすごい嫌な予感するぞ!
「ノゾムをヒーローにしてあげます!」
「いやいい!全然いい!お前がいてくれるだけで俺は幸せだ!」
よくもまぁ、ここまでペラペラでてくるものだと自分で感心。
「いえ・・・私は優しい優しい宇宙人。では・・・どうぞ!」
すると目の前から歩いてくる人物が。
足取りは重い。どうやら怪我をしているようだ。金髪の長髪。すごい偶然だ、などとは驚かない。これもきっと宇宙人の仕業。最悪だ・・・。
「あ?」
ガンを飛ばしてくる恐らく、この人物が。
「な・・・七実・・・空人」
ここで回想終了。
現在に戻る、なんて不思議な言葉だけど、時は現在。向かい合う状態になっていた。
「・・・・・なんだ、お前?」
「あぁ・・・えーとく、クラスメイト」
まわりを見るともう宇宙人はいなかった。おい、逃げやがった。
「で、何しにきたの?」
「・・・・・・・・」
何もしにきてない。むしろそっちから来たというのが正しい。しかしそれを言うと確実に殴られるよな。痛いのは嫌だ。どうにか平和的に解決したい。
「・・・・・・・・」
でもヒメちゃんのことを思うとここで説得した方がいいんじゃないだろうか。本当に悲しそうだったし。友達がいなくなるのは寂しいよな。俺には分からないが、引っ越してきたときは本当に寂しかった。大家さんがあんな性格でさらに宇宙人が来なければ泣いていたかもしれない。しょうがない。別にかっこつける気もなにもない。プライドも何もかも全てを投げてお前を説得する。
出会って数日のクラスメイトのみんな。でもあそこのクラスが面白いということは分かる。誰1人欠けてはいけないんだということも、また分かってしまう。
「おい、用がないならどけ」
「どかない。今、用事思い出したわ。俺はお前を説得しにきたんだ」
意外と投稿できました。
ではまた次回。