第48日 思いを知る宇宙人。
「ぜひともうちの部活の活動を見にきてほしい」
そう椿野に言われたのは休み明けのことであった。秋も終わりを告げようとしているこの時期になぜあいつはまだ部活にいるのだろう、とか色々と考えることはあったのだが、断る理由もない。
どうせ勉強しに寄る予定ではあったのだ。
しかしオカルト研の活動かー・・・なんだかんだ出入りしているけど活動は見たことなかったな。そもそも他の部員に会ったことがない。
初対面の人と会うのはこう・・・劇的な出会いとかじゃないと緊張する。今までは変なやつらばかりだったので、普通に話せているのだが。
俺は緊張しつつもドアに手をかける。いつもは軽いはずのドアも重く感じる。
「失礼しまー・・・す・・・」
めっちゃ静かに普段言わない挨拶をする。
すると椿野を中心に人が4人いた。
「おっす、白木くん。そしてようこそオカルト研へ」
「お前まだその魔女衣装なのかよ・・・」
と言いつつもまわりには人、人、人、人。
「お前あわせて5人がメンバーなのか?」
「ううん、もうちょいいるけれど、とりあえず今日集まったのはこんな感じ」
俺はすでにオカルト研の伝統について聞いている。なじめない人の集まる場所。ポジティブにそれを解決する場所。冗談としてしか思われていない伝統ではあるのだが、当の本人からすればそれは冗談では終われない。わずかな可能性があればそれにかけたくなる。
「えーと・・・ども、白木希です」
とりあえずはあいさつ。これ基本。
「あなたが白木先輩ですか!?」
「うおっ!」
急にがばっときたのは元気そうなショートカットの女の子。背が小さくて小動物を思わせる。しかしどことなく大人っぽさもあるのは高校生だからだろうか。
バズーカちゃんとはまた違った幼さで、そして可愛さである。
のんきにこんなこと考えてはいるが、なんだこの食いつき方。
「ああ、ごめん、白木くん。春、基本君の話をするときこの子に話すんだよね」
「そ、それで知ってたのか・・・」
「はい!ずっと会ってみたいと思ってました!なんでも魔女衣装は先輩の趣味だとか」
「そこは違う」
せめて事実だけを伝えろ。
というか馴染めない集まりだと聞いていたので失礼ながらこんなにぐいぐいくる人がいるとは思わなかった。というかこの性格で馴染めないのか・・・?そもそも普通にオカルト好きな人もくるわけだし、全員が全員そうではないのか。
「彼女は山本杏。2年生。御覧の通りのうるささでクラスでは少し浮いている」
「春先輩!なんでそんなひどいこと言えるんですか!」
なるほど。どういう意味で馴染めないわけか。しかしそこをいじっても本気で怒るわけじゃないというのはなんだかこのオカルト研の存在意義を改めて分からされる。いいところだな。
それとも椿野も昔そうだったから何も言わないのだろうか。ここらへんのことは考えるのをやめよう。失礼ではあるし、それに俺は今日、ここに遊びに来ているのだ。
「よろしく、山本さん」
「さんは要りません」
「あ、そう?じゃあ山本」
「ちゃんがほしいです」
「・・・・・・・・山本ちゃん」
めんどくせぇ!いっぺんに言ってくんないかな!
「さっそく白木くんが杏に振り回されているね」
「お前の後輩だけあってすごい個性だな」
「えへへー」
いや、皮肉をこめていったんだけどなぜ照れる。
「んじゃ、次。えーと明日風くん」
「うす」
そう言われて立ち上がった男子は高身長のイケメン。オカルト研というよりもバレー部やらバスケ部といった感じではあるがちゃらいわけではない。真面目さもどことなく残っている。硬派な感じだ。
「というか明日風?」
「うす。1年生っす。たぶん兄があなたと同じクラスのはずです」
「おー」
明日風の弟か。ならばイケメンなのもうなずける。しかし身長は明らかに兄よりもでかい。そしてこれまたなぜオカルト研に入ったのかが分からないが気にしないでおこう。
「こいつは単純に嫉妬だよ。男子からの」
「あー・・・」
と思ったら椿野からの説明。なるほど。女子には馴染めているわけか。なんだその羨ましい状態。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、えーと明日風くん?」
「それでは兄と区別できないので太一と呼んでください」
「おっけー、太一くん」
「うす」
そう言って席にまた座りなおし本を読み始める。呼んでいるのはアメフトルールブックだった。なぜ。うちにはラグビー部はあるがアメフト部なんかない。
「えーと、柊」
「は、はい」
立ち上がったのは前髪の長い女子生徒であった。前髪が長すぎて目が見えないあたりにまできてしまっている。しかしそれでも漂う可愛いオーラ。ここは学年のオールスターが集まっているのだろうか。
「柊芽久です。1年生。よ、よろしくお願いします」
「よろしく」
「まぁ、この子は照れ屋なんだ」
その一言で分かる。
「俺に対しては気軽に接してくれていいよ。もう部員みたいなものだし」
「おい。じゃあ入部届けだしてよー」
「もう秋終わるぞ・・・」
お前こそいつまでここにいるつもりなんだ・・・。
「じゃあ最後、えーと実はこの子、同い年なんだよね」
「え・・・?」
同い年。ってことは3年生か?
「この子だけは純粋にオカルト好きということで入部してはいるんだけどさ。どうにも春にもよく分からないんだよね」
「・・・・・・」
無言で立ち上がった女子生徒は長い髪をゆらした。ポニーテールのように後ろでまとめており、その顔は可愛いというより美人。キリッとして表情は同い年とは思えない。
「君が白木かな」
「あ、そうだけど・・・」
先ほど山本ちゃんにも言われたセリフではあるのだが、重みが違う。普通に敬語を使いそうになったが同い年だと思いなおす。顔は笑顔。それも嘘みたいな笑顔だ。
「よろしく、わたしの名前は津神坂。3年生だ。わたしは君のためにここにきた」
「え・・・」
その意味深なセリフはとてもじゃないけれど冗談には聞こえなかった。
「なに緊張しているんだい。冗談だぜ」
「・・・・・・」
「春風。わたしはもう今日は帰るよ。みたい顔も見れたし。うんうん、この子は昔のあの子に似ている。まだ人を人で救えると思っている」
「・・・・・・」
「冗談、だよ。春風またね」
「うん、じゃあ、またね。津神坂」
そう言って颯爽と化学室を出ていく。その姿は正直見とれるほど美しくはあったのだが・・・しかし見たくないという気持ちもあった。
全てが嘘のようで全てが真実でもあるようなぐちゃぐちゃした矛盾。嘘吐き。なぜかその言葉を唐突に思い出した。あの人に嘘吐きほどふさわしい名前はない。
「白木くん、どうしたの?」
「なんでもない」
なんでもないわけではない。むしろなんでもある。でもそれを言うことはできなかった。
「っと、そういえば先生に用事があったんだった。白木くん、ここでゆっくりしててってね」
そう言うと椿野は職員室へと行ったみたいだ。
えー・・・ほぼ初対面なんだけどここに俺を残していくのかよ。俺はそれでもカバンから勉強道具を取り出し、席について勉強を始める。
しばらくすると山本ちゃんが話しかけてきた。
「あの、お勉強の邪魔ですか?」
「ん?いや、いいよ」
俺は顔を上げて山本ちゃんの方を見る。
「春先輩から先輩の話を聞いてるって話、しましたよね」
「ああ」
そんなこと言ってたな、確かに。
「あなたのことを話す春先輩は本当に楽しそうでした。先輩のことが好きだという気持ちがちゃんと伝わってくるので私も先輩のことが好きになったんです」
「そうか・・・」
こんなところで俺は勘違いをしない。好きという言葉をつかってはいるがそれは恋愛ではなく、友達としてということなのだろう。
「ここにいるみなさんもそうです。少なからず、あなたのこと、いや、先輩たちのことをよく聞いています。神崎先輩、ハルン先輩、七実先輩、姫岡先輩という色々な話を」
山本ちゃんは本当に嬉しそうに話している。
「ここにいるみなさんは先輩たちのことが好きなのです」
「それはみんなが椿野のことを好きだということでもあるんだろ?」
山本ちゃんが一瞬驚いた顔をする。しかしすぐに笑顔になり・・・
「はい、もちろんです」
そう言った。
「先輩は春先輩から何を話されたのか分かりませんが、春先輩なんですよ。オカルト研の伝統を復活させたのは」
「え・・・?」
でも確か伝統は常にあって信じるか信じないかの問題とかって話じゃなかったのか。
「春先輩が復活させたんです、その制度。伝統伝統とは言われていますが、そんなネガティブな部活は認められないとその伝統自体をなくすという手段を一度とられたことがあるのです」
「・・・・・」
俺が転校してくる前の話だろう。
「でも春先輩はオカルト研を守りました。オカルト研、という名前にして外からは分からなくしたんです。それで私たちは救われました。ここで少しずつ慣れて今ではクラスでも普通に過ごせています。感謝なんてものではないんです、私たちが春先輩に抱いているものは」
そうだったのか。
たぶん椿野はそれを自分から言ったりはしないんだろうな。オカルト研を復活させるということ自体も非常に目立つもので椿野自身も大変だったのかもしれない。
オカルト研・・・俺が転校してくる前まではオカルト研ではなかったということか。
「・・・・・・」
俺はある1つの覚悟をしていた。
本当ならやるべきではないのかもしれないけれど。それでも椿野には言いたかった。
宇宙人のことを。
オカルトに興味があるのかどうかももう分からないが、椿野には伝えよう。俺はあいつにすごく助けられている。隠す必要もない。
「お、よかったー。白木くんいたんだ」
「椿野」
「ん?」
「ちょっと話があるんだがいいか?」
「話・・・?」
俺と椿野は教室の外に出た。まわりに人はいない。ここしかないな。なぜか山本ちゃんが非常に興奮しながらきゃーって言っていたが完全に勘違いしている。別に告白するわけじゃない。
「俺はお前に助けられてきた。だからこれからも助けてほしい」
「そんな大きなことした覚えはないよ」
「お前ならそう言うと思ってたよ」
だからこそ俺なりの感謝で気持ちを伝える。
「椿野、実はな。俺、俺らは宇宙人の友達がいるんだ」
季節は冬へと移り変わる。
宇宙人、今回でてきませんけれどね・・・。
というわけで間章終わりです。次からはまた新しい章へと変化します。季節もたぶん冬へと変わるのではないでしょうか。
そしてそろそろこの物語の中心の話にもなったりします。
ではまた次回。