第47日 秋の行事を楽しむ宇宙人。②
あれから結局まわりをなんとか誤魔化し(たぶん誤魔化しきれていない)、ハロウィンパーティーが始まった。シキブさん(プロトタイプ)も今ではすっかり元に戻り、いつもの綺麗なお姉さんとなっている。あの人には迂闊なこと言えないな。
みんながリビングに集まる。それ相応の広さを有するリビングはこれだけたくさんの人が来ていても狭さを感じさせない。それでもまだスペースがたくさんある状態だ。
一反木綿が料理を運んでくる。その光景はあまりにもシュール。驚くなんてものじゃなかった。特に大家さん慣れしていない椿野は完全に意表をつかれたみたい。さきほどから少し話しては見、話しては見を繰り返している。
目の前に広がるのはたくさんの料理。どれもおいしそうで今すぐに食べてしまいたい。俺はさっそく食べようかとまわりを見るとみんなもこちらを見ていた。どうやら誰かがいただきますというのを待っていたらしい。変なとこで礼儀正しい。
「いただき・・・」
俺が代表して全員席に着いたことを見てからいただきますを言おうとすると、俺の視界に何かが見えた。なんだあの障子の化け物。と思ったら一反木綿の衣装を着た大家さんがいた。
全く慣れない。なんだあの格好。
「みんなぁ!これ、これぇ!」
大家さんが大きなかごをもち、こちらへ。中に入っているのはどうみても衣装。コスプレ。
「これを着てみて」
「いや、これどうみても・・・」
中に入っているのは一色の衣装。すなわち一反木綿。そう、かごの中には一反木綿のコスプレ衣装しか入っていなかったのだ。もうこれはハロウィンでもなんでもない。会合だ。一反木綿の会合。
「みんな、ほらほら!男子はのぞむーの部屋で、女子はハルンちゃんの部屋で着替えなさい!」
「なんでそんなにやる気なんですか・・・」
みんな白い衣装を持ち、指定された更衣室となった俺達の部屋へ。
「相変わらずだな、お前の大家さん」
「うん・・・」
すごく疲れた顔をして空人が言ってきた。俺もそう思う。あの人何歳から変わってないんだろうか。
「でも面白くていい人だよね」
相変わらず天使のようなコメントでフォローするヒメちゃん。というか、
「ヒメちゃん、こっち男子更衣室だよ。女子は向こう。きゃーってなるよ。きゃーって」
「な、なんか久しぶりの感じ・・・」
ヒメちゃんが俺のせいで疲れた顔をしたのは言うまでもない。
「せめて敷居は用意しないとな・・・」
空人が真剣な顔をして考えている。なんかお前もこっちサイドにきたよな。ヒメちゃん女説サイド。
「よし、これでいいだろう」
なぜか先ほどの一反木綿を天井に引っ掛け、簡易カーテンを作成。俺達はヒメちゃんが着替えている間、何もできないがそれでもしょうがない。
ヒメちゃんはこちらをちらちら見ながらもカーテンの奥へ。
「絶対に見ないでよね!とかそういうこと言わなくていいの?着替え見ちゃうかもよ」
「僕、男だよ!着替え見えるのが普通なのに・・・」
悲しい声のまま着替えを始めるヒメちゃん。うーん、ヒメちゃんとは体育のときも同じなのだが、着替えを見たことは一度もなかったりする。
なんどか男として編入したものの実は女の子、みたいな漫画みたいなことを予想したわけだが、どうやら本当に男の子らしい。いや、当然だけどさ。
男の娘、という言葉がここまで的確な男の子もなかなかいないだろうと思う。ほんとに。
しばらくすると簡易カーテンの奥からヒメちゃんが出てきた。
「な、なんか空気抵抗とかすごいけど・・・」
そこにいたのは一反木綿(天使)というとても複雑な人であった。人・・・だよな。マジで神々しい。なんというか可愛い。
とにかく白が似合うのだ。一反木綿に腕、足、顔が生えたようなコスプレではあるのだが、ヒメちゃんが着ることによって天使にしか見えない。
ちなみになぜかヒメちゃんの一反木綿は女の子用らしく、足と腕には服がなく、まるまるそのまんま肌色の足、腕が見えているのだ。先ほどの大家さんもこんな感じ。
目のやり場に困る。
ちなみに男は服、袖や裾が出るような仕組みになっている。
「おお・・・・・ヒメちゃん可愛い!」
一反木綿とかマジかよ・・・って思ってたけどこれは可愛い。こればかりは大家さんを褒めるしかない。ナイスコスプレ!
「か、可愛くないよ」
照れながらも否定するヒメちゃんマジ天使。
俺らも天井から衣装を外し、すぐに着替える。もちろん野郎の着替えの描写は割愛。ヒメちゃんは野郎カテゴリーには入りません。
〇
というわけで着替えてからパーティーが始まった。ちなみにハロウィンではない。すでにホワイトパーティー。木綿パーティーだ。豆腐信仰者の集まりだろうか。
ちなみに女子勢の姿はやはり目のやり場に困る。ヒメちゃん含めて。
そしてなにより一番目のやり場に困るのは・・・。
「うわー!これおいしい!これも食べていいの?やったー!」
と先ほどから小学生みたいにうるさいノウンさんであった。一反木綿は薄いコスプレである。厚み的に。なので規格外のおっぱいがやばい。
他の女性陣も決して小さいわけではない。むしろワン太はかなり大きいほうだ。何がいけないのかというと大家さんですら考慮できなかったあの大きさ。一反木綿コスプレがエロくなるなんて誰が予想しただろうか。ぱっつんぱっつんである。
「・・・・・」
俺は何も気にせずにご飯を食べる。見なければなんの問題もない。
あちらこちらではすでに談笑が始まっていた。ノウンさん以外のワン太、神崎さん、椿野、バズーカちゃん、シキブさんはなぜか女子会かのように話している。
ところで男子チームはというと会話なんかしらねぇ!とばかりにご飯をかきこむ。正直かなり腹が減っていたのだ。うまい・・・ほんともうハロウィンの原型もないが。
ただ、やはりこのコスプレ幅も縦もかなりでかいため、めんどくさい。人とあたるあたる。
「そういえば、あれから明日風とか来ないよな」
と俺がふと思い出したことを口に出す。もちろん女子チームには聞こえていない。この質問はこの男子チームにしたものである。
「あー・・・」
と気まずそうに声を出したのは空人。
「たぶん、しばらくは来ないかもしれない」
申し訳なさそうにそう言った。
その言葉に反応したのはしかし俺ではなく、なぜかヒメちゃんであった。
「空人くん・・・」
「心配かけてすまん」
・・・・・・あれ?なんか変な友情を感じるのだが。しかもひどい疎外感を感じるのだが。
「希も、ここでは言えないから後でな」
「お、おぉ・・・」
さすが空人。見た目と違って気配りの達人。意外となんでもできる男なんだよな。
しかし隠し事をしているのは俺も同じである。ワン太との出来事。それを俺はまだ誰にも言っていない。先ほどばらされたが。
俺も言うべきだよな。
「俺も、俺も2人に話がある。後でな」
「あぁ・・・」
「うん」
空人はまさかの返しで驚いていたみたいだが、2人とも笑顔にそれで答える。
俺は再びご飯を食べようと茶碗を持ち上げる。
「やっぱ大家さんの飯うまいなー・・・」
ひたすらに食べ続ける。毎日作ってくれるわけではないのだが、だからこそたまにのこのご飯がたまらない。自分でなんとか自炊できるようにしないとなと思わされる。
シキブさんとか大家さん、あとヒメちゃんとかに料理を学ぼうかな・・・。もちろん受験が終わってからの話になるけど。
〇
というわけで何事もなくお開きとなったハロウィンパーティー。
残ったのは食器類だけ。ちなみに一反木綿コスプレはプレゼントなのだそうだ。
みんな満足そうにお礼を言って帰って行った。もちろん空人とヒメちゃん以外。ワン太も今は自分の部屋で着替えている。
「えーと、じゃあ俺から」
そう言ったのは空人である。
「明日風からも許可をもらったから、話すぞ。明日風と俺はシキブさんが好きなんだ」
「は・・・」
あまりにもあっさりとした告白。呆気にとられる俺。
「好きって恋愛ってこと?しかも明日風も?」
「うん、そうだ。でも明日風は俺の応援をしてくれることになった。本当に申し訳ない限りなんだけどな。その詳しいことは割愛する」
そんな素振りまるでなかったような気がする。俺が気付かなかっただけかもしれないけれど、それでも驚いた。ヒメちゃんを見るとすごい可愛らしい笑顔を浮かべていた。なにあれ、抱きしめたい。
「俺のは以上だ。で、希は?」
「俺は・・・・・・」
考え込む。なんとも微妙だ。そんな言い方をすればいいのだろうか。
「ワン太に告白された」
結局直球。
「え・・・マジでか!」
「そうだったんだ・・・」
2人とも結構驚いている。ちなみにワン太からこの話をしていいという許可をもらっている。もらってはいるのだが・・・。
「でもそれだけなんだ。付き合うとかそういうんじゃなくて言うだけ」
「え・・・?」
2人とも微妙な顔をする。
「それで終わり?」
「うん」
「ふったのか?」
「ううん」
「じゃあなんで?」
「・・・・・・・・・わからん」
考えた末にわからん、と答えた。本当はどこかで分かっているのかもしれない。宇宙人と人間の限界を。でもここで言うわけにはいかない。空人がシキブさんのことを好きなのだから。
でも空人もどこかできっと越えられない何かを分かっているのだろう。さきほどから表情は優れない。
「そっか・・・」
少しだけ静かになる。
「で、ヒメちゃんは?」
俺は次にヒメちゃんに話題をふった。
「え、えぇ?僕は何もないよ」
「ん?そうだったか?」
「そうだぜ、希。さっきから話したかったのは俺とおまえだろ」
「そうか・・・そうだったな・・・」
思い返してみれば確かにヒメちゃんは何も言っていなかった。でもなぜ俺はヒメちゃんに話を振ったのだろうか。俺の意思とは無関係に動いた・・・ということなのか?
でもヒメちゃんの顔をさきほどの笑顔ではなく、微妙な顔をしている。何もないというわけではないと思うのだが・・・。
「じゃあ、僕はもう帰るね」
「俺も」
「お、おう」
俺は玄関まで見送りに行く。
「・・・・・・・」
そういえばヒメちゃんは会ったときから自分のことをあまり話したがらない人ではあった。俺達の話を聞いてくれて、手伝ってくれたり、優しくしてくれたり、助けてくれたりした。
だからこそ見落としがちだったのだ。
ヒメちゃん自身のことを。
ヒメちゃんは優しい。他の人のことも自分のことのように考えるいい子だ。でもそれが優しさからくるものだけではなくて、自分のことから話題を逸らそうとするものからもきていたら・・・。
甘えていた。ヒメちゃんに甘えていた。
話1つ聞いてあげられないで何が友達だろう。話はもう十分聞いてもらった。なら、次は俺の番だ。
俺は部屋に戻って1人、机にむかう。
秋が今、終わろうとしていた。
しばらくぶりです。しばらく更新できなきなくて申し訳ありませんでした。
とりあえず前回の続きです。
たぶん次ぐらいでこの間章は終わるんじゃないかなぁと。
ではまた次回。