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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第4章 宇宙旅行~UFOに乗って~
34/69

第33日 楽しみ張りきる宇宙人。

 秋になった。特に夏休みは海に行くわけでも、花火をするわけでもなく、講習を受けて部屋で復習。その後も勉強。適度に休んで、適度に遊ぶ。そんな少しだけ悲しく寂しいものとなってしまった。

 しかししょうがない。受験生なのだからそれぐらいしなければならないのだろう。

 夏休みが終わり、学校が始まって数日。特に変わり映えのない生活を俺は送っていた。

 アパートに帰ったそんな俺を待っていたのはいつものようにワン太だ。ワン太はなにやらリビングの食卓の上にうなだれていた。だらーんと腑抜けている。そのせいで胸が机につぶされ大変刺激の強い光景になっているのだが・・・ワン太は少し無防備すぎるような気がする。グリーン星が恐怖のない星ならばきっと痴漢やら変態やらもいなかったのかな。

 俺はその横を通り、冷蔵庫をあけ、麦茶を飲む。秋とはいえ、正直気温はまだ夏だ。真夏よりかはマシだが、暑いということは変わらない。

 と、めんどくさい雰囲気だったのでわざと気にしないようにしていたのだが、聞いた方がいいのだろうか。こうなっているワン太が悩んでいることってなんとなく宇宙人絡みのような気がする。

「うだー」

「・・・・・・」

 声にしてきやがった。

「どうした?」

 もうしょうがない。結局、こいつをこの地球にいれるようにしたのは俺なのだ。だったら多少の問題ぐらい俺も手伝ってやらなければな。

「ノゾム」

 目を輝かせて俺を見る。犬かお前は。いや・・・ワン太だったな・・・。

「ノゾム、もう1人どうやらグリーン星の関係者が来ているようなんです」

「・・・・・やっぱりな」

 また宇宙人絡みらしい。夏休みの間中何もなかったし、そろそろ何か起きるんじゃないかとは思っていたのだが。

「で、今度は誰なんだ?軍人?それとも王家の人間とか?」

「今度は違います。場合によっては王家の者よりも厄介で、王家の者よりも大事にされています」

 そこでワン太は一度区切った。

「『全てを知る者ノウン』。グリーン星の知識そのものと呼ばれている者です。彼女だけは恐怖を取り除く例外とされているんですよ」

「ノウン・・・なんかすごい大袈裟な名前だな。というか恐怖を取り除く例外ってどういう意味だ?」

「私の星はあらゆる恐怖を取り除いているために、死という概念を持ち合わせていません。年齢による死亡、寿命は安らかな眠りとされているのでそれも例外なのですが」

 ワン太は食卓から起き上がる。

「戦死や事故死など寿命以外の死は認められていません。だからもし、どうしても寿命以外で死んでしまいそうな時、星はその人を見捨てて、自分の星の人間ではありませんよーという態度をとるのです。ほんと、バカな話ですけれど」

 ワン太は悲しそうに笑う。

「だから2人死ぬよりは1人、3人死ぬよりは2人という考えが生まれてしまうのです。1人ピンチならもう1人を送るよりその1人を見捨てた方がいい。送り込んだ人が死んでしまう可能性があるための行動なのですが、質より量を重視しているのです」

 そういえばそうだった。

 ワン太がここに来ても王や王女自身はここに来ない。自分の娘なのに助けようとしない。それどころかシキブさんやバズーカちゃんが自らこようとしなければ誰も来なかったわけなんだよな。

 今、ワン太は星でどのような扱いをされているのか。死んだことになっているのかもしれない。もう何か月も経つから見捨てられていても不思議ではない。

「でも、ノウンは違います。彼女を助けるために何人もの命を犠牲にしてもいいというのが我が星の指針なのです。1つの星なのに矛盾が起こっているんです。その時点でどれだけグリーン星が異常かということは分かってもらえると思うのですが」

 俺はそこで疑問があった。

「そんな星の指針をも揺るがす存在を簡単に星の外に出しちゃっていいのか?」

「もちろんダメです。何人もの命が犠牲になってもいいと言いましたが、それは言ってるだけであって前例はありません。王家の人間がきちんと管理しているので外に出ることすら叶いません」

 管理・・・。その言葉を口にしたくはなかったのかワン太が顔をしかめる。

「グリーン星の知識ですからね。技術も歴史も様々なものがそのノウンに集まっているのです。他の星のものに解析やらをされたらグリーン星は裸にされたも同然ですよ。だからなぜ地球に来ているのかが分からないのです・・・」

 しかしワン太の顔は1つの可能性があるような顔をしていた。本当に疑問に思っているのではなく、まさか、あの可能性が・・・という現実を認めたくないような、そんな雰囲気。

「ってまて。そんなやつが地球に来てるってことはいずれグリーン星の宇宙人共がたくさん地球に来るんじゃないのか・・・?」

「はい、普通ならそうです。しかしそもそもグリーン星から抜け出せることが不思議なのです。その時点でイレギュラー。バズーカがあらゆる場所を監視していますが、追手はまだ1人も来ていないようです」

 イレギュラー。

 イレギュラーだからこそ対策が遅れているということなのか。だとしても1人2人ぐらいなら送り出してもいいような気がするが。

「抜け出せることができた理由には1つ思い当たるものがあります」

 ワン太は人差し指を立てる。

「まだ、星の人間が誰も気付いていない、という可能性です」

「そんなことって・・・」

 大事にされてきたものがなくなったっていうのは大きなことのはずだ。それに気付かないなんてことがあるのだろうか。

「もちろん、0ではないでしょう。恐らく末端の人間が1人2人知っている程度。それなら影響力もありませんし・・・それにもし、ノウンの方を手薄にしなければならない理由があったとしたら・・・」

 ワン太の表情が曇る。

 また何か思い当たることがありそうだが、それを口にしない。

「ノウン自身、王家に従順ということもありまして、まさか抜け出されるとは思ってなかったのでしょう。その油断もあるにはあると思いますけれどね」

「そのノウンってやつはどんなやつなんだ・・・?」

 おそるおそる尋ねる。

「移動は天使のような翼で行い、衣服は白いワンピース。背は私と同じぐらいで髪の毛はショートカット。あとはおっぱいがすごいでかいです・・・」

「・・・・・」

 正直、いらん情報ばかりなんだが・・・。というかそういうことを聞いたのではないというか、聞いたけれどそんな俗っぽい言い方されると緊張感も何もないというか・・・。

「って翼・・・羽・・・?」

 確か、椿野が夏休みの時にそんな人に会ったとかなんとか。

 ってことは夏休みの時点ですでに地球に来ていたというのか・・・?

「だとすると・・・ワン太に会いに来たわけじゃないのか・・・」

 夏休みから今日までそれはもうたくさんの時間があった。まさか迷子になってワン太に会えないなんてことはあるまい。なんたって知識の塊らしいし。

 そんな俺の表情を見たワン太は複雑な表情をしていた。

「あー・・・それがですね。あり、えますね、迷子」

「・・・・・・・・・え?」

 迷子って・・・迷子だよ。

「私とは関係のない調査を行っている可能性も否定しませんが、一番でかい可能性は迷子です」

「いや、知識の塊だろ・・・」

 なんで迷子なんかになってるんだ・・・。

 知識といえどもグリーン星の知識のみ、ということなのだろうか。

「とにかく、このままでは追手はくるわ、ノウンも来るわで地球は大騒ぎですよ」

「あー・・・」

 そういえば最初ワン太も宇宙人の力を隠した方がいいというのを知らなかったんだっけ・・・?

 そんなやつがいっぱいくればそれはもうコスプレパレードや超能力集団じゃ済まないことになりそうだ・・・今から胃が痛い。

「そのためにまずはノウンを探しましょう」

「探すったって・・・どこにいるんだよ」

 迷子だからっておとなしく交番にいるはずがない。そもそも知識そのものだとちやほやされていたのなら誰かに頼るということもしないかもしれない。自分のプライドが許さないとかそういう理由で。

「しかも翼あり・・・これはそこらへんにいるとかいうレベルじゃないな・・・たぶん、別の国にいてもおかしくないぞ・・・」

 よほどのバカならな。

 普通言語が違う段階で気付いたりとかするものなのだが・・・というかそもそもそのノウンとかいうやつはワン太が日本にいることを知っているのだろうか。

「いいえ、探すのは違う星です」

「は・・・?」

「さぁ、ノゾム、宇宙へ行こう!」

 そんな京都へ行こうみたいな感じに言われても・・・。





「宇宙旅行ってことか・・・・・?」

「そうとも言いますね」

 ワン太は宇宙人っぽさを見せれるのが嬉しいのか笑顔になっている。

「勉強の方も学校の方も心配しないでください。ノゾムは宇宙船に乗っていればいいだけですし、長くて1泊2日。そのぐらいなら学校を休んでも平気そうですよね。それに宇宙船で勉強すればいいですし」

 いやいやいや。

「この時期授業休むのもどうかと思うぞ・・・」

「大丈夫です。教えるのがへたくそな先生の時に休みますから」

「ひどすぎる・・・」

 でもいる。え?え?今のどういうこと?みたいな先生。でも後で1対1で聞いたらすごく分かりやすい先生。いる。正直そういう時はシキブさんに勉強教わっていたりするんだよな。みんなも来て塾みたいになっている。

「というか宇宙船で勉強してていいだけなら俺いなくてよくね?」

「必要です。宇宙船を飛ばすということは近くの星に宇宙船が今から通りますー、中には誰々がいますよーって報告するようなものですし。私だけならば誤魔化せません」

「俺がいれば誤魔化せるのか?」

「宇宙船技術のない地球の人間ならば星のレーダーにはひっかかりません。引っ掛からないというか、今までに見たことのない反応を示すはずです。それによって私の反応が薄れるんですよね」

「でも見たことない反応なら尚更、何か怪しいと思うものじゃないのか?」

「いいえ、地球まわりの星たちはどこもグリーン星と停戦協定を結んでいる星ばかり。我が星と同じように恐怖を取り除く指針を掲げています。我が星ほどではありませんが、手は出してきません」

 えーと、と何かを考える。

「探し方とかは追々説明します。まずは人を募りましょう」

「え・・・俺だけじゃダメなのか・・・?」

 正直危険に巻き込みたくはないのだが。

「平気です。ずっと宇宙船のわけですし、危険はありません。それに誤魔化せるなら人は多いほうがいい。勉強もシキブを呼んでまた塾みたいにしましょう」

 危険じゃないのならいいが・・・。

「それに宇宙人が地球にきたら受験どころじゃないと思いますよ」

「確かにな・・・受験をするために宇宙人を探せとはどういう因果か、なんて思っちゃうけれど、1泊2日の勉強合宿だと思えばいいか・・・」

 3年生には修学旅行はない。修学旅行は2年生で終わってしまうのだ。なので学校の泊まり行事はもうない。少しだけわくわくする。今のメンバーで泊まるのは初めてだしな。

「じゃあ、空人とヒメちゃんは誘うか」

「バズーカも呼んで神崎さんも呼びましょう。神崎さんは私が宇宙人だということは証拠探し中ですが、バズーカのことは認めています。バズーカから誘えば大丈夫でしょう」

「めんどくさいな・・・」

 宇宙船に乗ること自体が証拠みたいなものではないだろうか・・・。

「椿野はダメだろうな・・・宇宙人ってこと知らないし、大家さんもダメ、猫ちゃんもダメ・・・ってなるとそのメンバーでいいかな」

「はい、それで行きましょう。人探しの旅、宇宙旅行、UFOに乗って!」

 こうして俺らの秋の修学旅行である宇宙旅行が始まった。

今回から新しい章です。


宇宙旅行・・・ようやく宇宙人っぽい感じにはなりましたが・・・行われるのは恐らく日常。ちょっと不思議な日常です。


ではまた次回。

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