第32日 知らないうちに創設する宇宙人。
「そういえばこの前変な人見たんだけど、白木くんの知り合い?」
「変人が全部俺の知り合いだと思うな」
夏休み講習後。昨日の地獄のお見合いを終え、俺は化学室に来ていた。そこでは椿野が今日も魔女衣装で勉強している。もちろん眼鏡も。何も変わらないようではあるが、会話の内容がいつもと違った。
ちなみに普段は勉強やらについて話している。オカルト研ならもっと違う話あるだろ。
「こう・・・翼がばさぁって生えてて、なんか不思議なこと呟いてたんだよね。よくわからなかったんだけどさ。それと不思議でなんか怖かったし」
「・・・・・」
たぶんそれ俺の知り合いというか関係者ですわ・・・。翼が生えてるって少なくとも人間ではない。徘徊するのが趣味なコスプレイヤーとかでなければ。
というかオカルト研部長なのに不思議から逃げるなよ。ここらへんが椿野は普通、と評価する人間がたくさんいる理由なのであろう。いまいち、どっぷりと浸かれないというか。危険な目にあうよりは全然いいんだけどね。
「で、宇宙人と仲直りできた?」
「何の話だ?」
こいつやはり何か知っているんじゃなかろうか。とても思いつきや偶然とは思えない。俺は絶対にバレてはいけないと顔を引き締めるものの、あまり意味がないような気がする。
「ごめんごめん、間違えた。ハルンちゃんと仲直りできた?」
「喧嘩していたわけじゃないが・・・仲直りというか自然消滅のような形だったな」
いろいろないざこざがいくつも重なり、仲直りというちゃんとした解決にはなっていないような気がするが、でも目を合わせることすらできないみたいなことはもうなくなった。あの時のことはなかったことにしようとお互いに決めた。もちろん直接それを言ったわけじゃないが。
「なんか微妙な解決方法だね。でも、いつも通りならそれでいいか」
「まぁ、ワン太とは、な」
「?」
椿野が首をかしげる。
ワン太とは確かに普通に戻ったと言える。しかしなぜか昨日の明日風訪問の時からヒメちゃんと空人の様子が違うのだ。俺に接するときは普通を意識しているみたいだが、それがかえって目立っている。
ちなみに昨日のお見合いは何の収穫もなかった。むしろ明日風の心が折れてしまったようで、今は空人が励ましているところだろう。
「様子がおかしいと言えば神崎さんも最近落ちつきないんだよなぁ・・・」
知らない間に何かが起こっているのだろうか。俺の知らない何かがこのような状況にしているのだろうか。考えても分からない。本人に聞いてもきっと教えてはくれないはずだ。
「信用ないのかな、白木くん」
「えぇ・・・・・」
それは傷つくぞ・・・。というか俺が信用なくて教えられない、の方が実はすっきりしていてよかったりする。でもあの2人、空人とヒメちゃん、一応もう1人神崎さんは誰かに心配かけないように物事を秘密にする場合がある。みんなの性格を考えてこちらの方が可能性はある。
「だとしたら俺は何をすればいいんだろうか・・・」
「別に何かする必要があるの?」
「友達だからな。困ってたら何かしてやりたいだろ」
「んー、そうかな。もし人に言いたくないようなことがあったらそうやって言ってくる人のことを一番うっとおしいと感じると思うよ」
「そうか?」
「じゃあ、たとえば宇宙人がいるとしましょう」
「なぜその例えにするのかが気になるが先に進もう」
やっぱりバレてない?これ。
「宇宙人がいることを唯一、白木くんだけが知っているとします。そんで、宇宙人は白木くん以外の人間に知られるとドカーン!って爆発してしまいます」
「なんだそれ・・・」
「で、そんな時、どうすればいいか悩んでいた白木くんのもとに優しい友達登場。仮にそれを春風さんとしましょう」
「言いたいことはたくさんあるが、続けよう」
「春風さんは白木くんの力になりたい。でも白木くんは教えられない。教えたら宇宙人の命も、地球も危ない。だから言うわけにはいかない。春風さんはそれでも諦めず毎日のように教えてと言い続けました。何度も教えられないと言ってもしつこく食い下がる春風さんさて、白木くんは春風さんにどんな印象を受けますか?」
「優しいと思う」
「ぐはっ」
椿野が椅子から倒れる。
「お、おい、大丈夫か?」
「う、うん平気。少し不意打ちすぎたけど・・・」
顔を赤くしてなんとか椅子に乗る椿野。でかいローブだかマントだかのせいで分かりにくいが意外と背が低い。あと胸がでかい。どれもローブで隠れてしまうのが残念でならなかった。
「あ、そうだ。ローブ脱ぐか。暑そうだし」
「急だね・・・なんか気持ち悪い目的が見え隠れしているような気がする・・・」
そう言いつつもやはり暑かったのかローブを脱いだ。下は露出度の大きい魔女衣装。スリットからのぞく足、ふとももなどは白くてだからといって不健康という印象はない。むしろ、こう・・・むちむちしているので健康的ではある。
「うん、やはりこれでいいな」
「白木くんの目線が下すぎない?」
何よりも暑そうなのはこいつの髪の毛である。長くてウェーブのせいでボリュームもある。正直あれは拷問みたいなものではないのだろうか。それはこいつだけじゃなく髪の長い女子全員に抱く疑問でもある。だって夏だよ。
「で、春のことはいいんだよ。それよりも春風さんのこと優しいって思うの?・・・ってこれも春のことみたいだね・・・ややこしい」
「俺はしつこいとは感じないかな。むしろ何回も言ってくれて本当に心配してくれんだなって感じ」
「でもでも、好奇心からかもしれないよ。あなたのことはどうでもよくてただ何に悩んでいるのか好奇心から知りたいかもしれないじゃん」
「そんなイメージはなかった。お前と同じ名前使ったからかな。なぜかそんな邪な理由があるとは感じなかったぞ。やはり名前を変えた方がいいかもしれん」
「白木くんはそれ天然で言ってるの?それとも春を殺しにかかってるの?」
また顔を赤くしながら言う。お前やっぱり暑いんだろ。髪切れよ。でも髪は女の命っていうし武士がちょんまげ切るぐらい一大事なことなのかもしれない、散髪。
「でもどうせ春が核心めいたこと言っても『え?なんだって?』で済ますんでしょ、鈍感男」
「なぜ俺は今、罵倒されているのか」
変なことを言った覚えはない。褒めているつもりだったのだが。
「あ、それともう1つ。ほれ」
「え?」
俺はポケットから髪留めを出す。ピンだ。
「お前前髪長くなってきてんぞ。それで留めろ。夏なのになぜ平気なのかが分からない・・・」
ずっと気になってはいた。なんか俺、人が髪伸びっぱなしだとすごい気になる体質らしい。体質っていうか神経質なのだろうか。いや、違う。全ていい訳。真実は・・・、
「最近俺はピン留め女子にハマっているのかもしれない・・・」
原因は間違いなくヒメちゃんだ。あの子ピン留め似合いすぎなんだよな。
「こ、これ白木くんの趣味・・・?」
魔女と同じようにまたもや変な弱みを握られる俺であった。ちなみに椿野は俺に会うときは毎回ピン留めをすると言っていた。恥ずかしさでもだえ苦しむことになりそうだ。
「お礼でもあるからな、大切にしてくれ」
「うん、そうだね、落とさないようにするよ」
落とさないようにすることが最善のことらしい。やはりどこか変なところでこいつは普通ではないような気がした。
「で、話ついでにもう1つ聞きたいんだが、オカルト研って部員は他にいないのか?」
「いるよ。今は夏休みだから来てないけど」
文化系の部活は夏に特別な大会などがなければほとんど休みになるのだそうだ。もちろんオカルト研もがっつり休みになっているらしい。
「他に5人いるんだ。全部後輩。だから春が卒業した後も安泰っちゃ安泰なんだよ」
部活は最低4人必要。それ以下になると部活というより非公認の同好会みたいな立ち位置になってしまうらしい。オカルト研も同好会かと思いきや部活なんだそうだ。でも部費はほとんどないらしい。
「何かお金が必要な大会とかもないし、当然だけどさ、平等に扱ってほしいよね」
「いや、でも俺この部活がちゃんと活動してたところ見たことないんだが・・・」
会いに行くといつもこいつ1人だし。
「ありゃ?そーだっけ?でも他の部員もオカルト大好きで宇宙人とか信じる子達だからやる気がないわけじゃないんだよ。熱く語り合ったりするし」
それに、と区切る。
「それにさ、宇宙人っていうならこの街ほど適役な場所もないんだ」
「ああー・・・抉れた山な」
いつしかできていた抉れた山。俺はあの正体をなんとなくだが知っている。でもワン太よりも前に来た宇宙人がいたということだよな・・・それは少し気になるかもしれない。
「絶対あれはUFO落下後だと思うんだよね。おぶっちーも言ってたし」
「誰だ」
「後輩後輩。小渕岬ちゃん。ニックネームはおぶっちー。おぶっちーが言うからにはたぶんあたってると思うんだよ」
「・・・・・・」
すごい信頼だな、おぶっちー。当たっているから何も言えない。
「で、よく抉れた山まで遠足に行って実際に見てきたりするんだ」
「確かに金はあまりいらないな」
「でも存在意義が分からないって言われてるんだけど。特に生徒会に」
「俺も分からんぞ・・・」
生徒の自由さを売りにしているというのなら特に反対する要素も見当たらないが、生徒会からしたら無駄に金を搾り取る意味のない部活という感じなんだろうな。
「意味はあるんだよね。実は」
ふっふっふっーといつもの不思議スイッチが入る。
「うちの部活は歴史が古いんだよ。それこそこの学校ができてからすぐあたりにはもうあったらしいんだ。オカルト研がだよ。昔はもっと違う名前だったかもだけど」
「へー」
この学校がいつできたのかは知らないがここ10年とかの話ではなさそうだ。
「先輩たちがこのオカルト研でしたかったことは最初はボランティア活動とかだったらしいんだよね。で、曲がりに曲がって今の感じに」
「歪曲しまくってんな、おい」
そんないい部活だったのか。今では赤本広げて駄弁ってるだけだ。
「いや、今でもボランティアはやるんだ。それこそ校内の清掃とかも」
「それは知らなかった」
まさに裏方的存在。陰の功労者。
「だからね、昔、ここに入る人たちってボランティア活動したい人っていうイメージがあると思うんだけど実は違うんだって」
「でもボランティア活動してたんだろ?」
「それはそうなんだけど、学校で居場所のなかった人たちが集まる場所だったんだよ。例えば、入院で出席日数が足りなくて留年した人とか、純粋に学力で留年した人とか、いじめにあっていた人とか、クラスになじめなかった人とか」
そこで区切る。
「で、宇宙人やらオカルトを理由にしてその人達の居場所を作ろうとしたのがこの部のきっかけ。必ずいる他の人より少しだけ弱い人を助けるための場所」
椿野は軽く笑う。
「本当にボランティア活動してたら部員はクラスとかに馴染めたみたいだよ。やっぱり努力や苦労や親切っていうのは報われなきゃいけないよね」
「・・・・・」
「それは転校生の君は知らないと思うけど有名な理由だったりするんだ。知らない人はいないぐらいね」
「ってことは・・・今でもそれを受け継いでいるのか?」
「うん」
「じゃあ、お前も・・・」
「最初はね。今では友達もいるし、おかげさまで普通って言われるし」
「普通は微妙かなぁ」なんて笑ってはいるけれどその頃はどのような気持ちだったんだろうか。どういう理由でこの部活に入ったのか。今の快活な笑みを見せ、友達ともうまくやっている椿野からは想像もできないし、申し訳ないけれど想像したくもなかった。
「ほとんどの生徒はそのオカルト研の伝統を冗談だと思ってるから春達もこの部活に入ったところで『なじめないんだな、あの子』みたいな目で見られることもない。でもこの部活に入るってなったらその伝統は無視できないんだ」
入る方は伝統に期待する。そもそも入らないやつは信じないし冗談だと思う。そこらへんの関係がうまく働いて今みたいになってるんだな。
「最初はオカルト研じゃなかったかもしれない。でも間違いなく、このオカルト研はこの街に伝わる宇宙人話のおかげで成り立っているんだ。だから最初に会った時、春は宇宙人の友達になりたいって言ったわけ。命の恩人とまでは言わないけど、宇宙人のおかげで助かったんだ」
宇宙人のおかげ。この部設立の表向きの理由を作り上げた宇宙人。
「春はオカルト大好きだよ。他の部員もそういう理由と関係なしに宇宙人が好き。ただ弱い人間が集まってるわけじゃないんだ」
「・・・・・」
そうだったのか。意外な理由というか意外な過去。話している方はもう過去だと割り切っているみたいだが聞いている方はどうしたらいいかわからない。
「けどなんでそんなこと俺に話したんだ?」
出会ってまだ3カ月ぐらいしか経っていない。そりゃ結構な頻度で会っているから友達も友達、親友みたいな位置ではあるけれど、それでもまだ3カ月だ。
「なんでだと思う?」
なぜか意地悪く笑う椿野。
「言っておくけどこのこと話したの白木くんが初めてなんだよ」
「お、おお・・・」
なんか変なプレッシャーがかかる。初めてが俺でよかったのだろうか。セリフだけ抜き出すと大変なことになるので言わなかった。言ったらバカにされるし。
「なんで白木くんに話したと思う?」
何かを期待するような眼差し。
なんだ、何を求めているんだ・・・?
「え、えぇと・・・な、なんででしょうかね・・・」
「あはは」
笑ってはいるが目が怖い。どうやらお気に召さなかったようだ。
こんな感じで夏は過ぎていく。高校生活最後の夏休み。少しずつ少しずつなくなっていく夏の日。
秋が来る。
〇
「まっずいよー!姫様!」
「あれ・・・?バズーカじゃないですか。最近見ないと思っていたらどこにいたんですか?」
「そんなことより大変だよ、姫様!」
「な、何をそんなに慌てているんですか?」
「『全てを知る者』であるノウンがどうやら地球に来たようです」
「え・・・?マジですか・・・?」
間章は今回で終わりです。次からは新しい章に入ります。
たくさんキャラがいるので全員を平等に出したいとは思うのですがなかなか難しく。まだ物語は続くので全員に出番を、とは思っています。
あとは今まで絡んだことのないキャラ同士で会話したりとかもやりたいなぁと思っています。
日常の話が多いのである程度自由にできるのがメリットだったりしますね。
感想欄とかでもっと出してほしいキャラとか新たな絡みなどがあればぜひ、書いていただければ幸いです。
間違いなく不遇なのはワン・・・ゲフンゲフン
ではまた次回。