第30日 思いを馳せる宇宙人。
ここで俺、白木希とオカルト研究会部長である椿野春風がどのように出会ったのか、ということについて少し説明しておこうと思う。
自己満足的な回想でしかないのだが、俺にとっては驚くべき一件であり、避けては通れない道、説明ということだろう。
時間的には引っ越してきてから1ヶ月後ぐらいの話だ。空人を助けて少ししたある日。そんな結構昔めの話。俺はまだこの時、ワン太に対してあまりいい感情を抱いていなかった。空人の一件で見直した部分もあるのだが、いつまわりの人間に宇宙人だとばれるかドキドキしながら過ごす学校生活というのはなかなかにストレスがたまるものなのだ。
そんな俺がしたことは部活巡り。3年生である俺にはもうほとんど関係ない話なのだが、なんとなく、本当になんとなく校内をめぐっていた時のこと。
「・・・・・・」
教室からは文化系部活の活気あふれる声が聞こえる。中学の時は特に部活に入っていたわけではないので少しこういう放課後に活動することが珍しく、憧れていた。
その時だった。3階化学室で俺が黒装束の女の子を見つけたのは。
「・・・・・」
さすがに引いた。この時は俺のあげた魔女衣装もないため、なんかガチな黒いローブをはおるいかにも怪しい占い師、みたいな格好だったのだ。
俺はドアにはってあるポスターを確認する。そこにはオカルト研の文字が。なるほど・・・と納得してみたもののなぜ、黒ローブ?
俺はその場から立ち去ろうとしたのだが、そこを止められる。もちろん止めたのは椿野である。
「きみさ、なんか困ってる?」
思えばこの時からこいつの洞察力や読心術のようなものはすさまじくて、俺は呆気にとられたのを覚えている。いきなり初対面なのに俺の気持ちをあてる、だなんて現実離れしすぎている。
俺はこいつはもしや宇宙人絡みの人間なのではないかと思ったほどだ。
しかしそれは違った。
衣装や行動、ふるまいはおかしいが、接してみると普通の女子高生だった。髪にはウェーブがかかっていてボリューミィ。ワン太とは違うタイプのお嬢様みたいだ。
「うんうん、悩みは誰にでもあるよね。でもでもそんな時はこれ」
そう言って出したのは黒魔術の本。
「これがあればなんでもできるようになるよ」
「・・・・・」
胡散臭い。信じられるわけがない。というかまず誰だ。
「んー?もしかしてきみが1組の転校生?」
「うん、そうだけど」
もしかして・・・と言われるほど有名になった覚えもないのだが。
「へー。ふーん。ほー」
俺をいろんな角度から眺める黒ローブ女。
「よし、きみは新入部員決定ね」
「何がよしだ」
親しみやすい性格には好感が持てるが、なんだかこのままでは空気に流されてしまいそうだ。本当に入部することになったら困る。
「いや、俺3年生だし。急だし。ていうかいきなり誘うか?」
「なんていうかねー、きみ、不思議のにおいがするんだよね」
不思議なにおいではなく不思議のにおい。
その言葉に俺は内心驚いた。もちろん顔には出さなかったが、こいつと話していたらワン太のことがばれてしまうと思った。
でも、そんな気持ちよりも先に出た言葉は自分の弱さ。
「オカルト研部長、だっけ?もし、宇宙人みたいな自分とは相容れないようなやつが来たらそいつに対してどう接する?」
好奇心ではない。俺は純粋にこの答えを知りたかった。お互い初対面ではあるのにフレンドリーな雰囲気にすでに流されていたのだ。
俺はどうしたらいい。ワン太とどうやって折り合いをつければいい。
ただそれを知りたかったのだ。
「どう・・・ってオカルト研部長的には嬉しいって感じっすかね」
「嬉しい?」
「うん、ていうか質問する相手間違ってる。オカルト大好きっ子に宇宙人とどう接するなんて聞いたらそりゃあ大抵のオカオタは歓喜するに決まってるよ。相容れると思ってるし」
確かにそれはそうだ。
質問するならどうとも思っていない一般人にすればいいんだよな。それこそ空人やヒメちゃんのような人間に。どうしてこの子に相談したのか。
「答えてくれてありがとう。今のは忘れてくれ。くだらない質問だった」
「そんなことないって。宇宙人もね、人間だと思うんだ」
立ち去ろうとしていた俺は足を止めた。
「春・・・じゃなくて私の意見だけど」
「別に一人称、気にしなくていいよ」
「あ、そう?自分のこと名前で呼ぶって人によったら不快かなぁって考えてたんだけど。ほら、なんか子供っぽいというかあざといっていうか」
「大丈夫」
「名前呼び萌えの方?」
なんだそのカテゴリー。
「ま、いいや。それで、宇宙人の話だけど宇宙人も人間だと思うんだよね。何にも気負う必要のないただの人間。生まれて、育って恋して、そんで幸せになりたいと思ってる普通の人間」
黒ローブの割には先ほどから普通のことを話している。普段は格好も普通なのかもしれない。
「だからそんな人が地球に来たとしても旅行しにきたんだーとかしか思わない。外国人ともコミュニケーションがとれるように宇宙人とも仲良くできると思ってるんだ」
「・・・・・・」
宇宙人が人間。
確かに人という言葉もついているし。異論はない、というか真実が分からないので反対することも見当たらないが、考えさせられる言葉ではあった。
「だから春は宇宙人が好きだし、目の前にいたら友達になりたいと思ってる」
「・・・・・・そうか」
「そんな気持ちになれたのはオカルト研のおかげです。お試し期間は2分だよ」
「おい」
宣伝かよ。しかもお試し期間短すぎる。それ超えたら強制入部とか言われそうだ。
「いまさらだけど、名前、聞いてもいいか?」
「椿野春風。3年。みんなは春って呼んでる」
「そうか、ありがとな椿野」
「いや、話聞いてないでしょ」
いきなり女子をニックネーム呼びするような度胸はない。
「椿野ってなんか大袈裟で恥ずかしいんだよね。こう・・・椿野家、ババン!みたいな。時代劇で家紋とかもってそうな感じがして」
「いいじゃないか、かっこよくて」
「んーそーかなー?」と首をかしげながら考える仕草は普通の女の子そのものであった。
ローブとかとればいいのに。
「椿野はローブとればいいのに。そっちの方が可愛いと思うぞ」
「え・・・いきなりナンパですか?」
「この野郎」
人の親切をなんだと思っているんだ。
「嘘嘘。照れ隠し照れ隠し。で、きみの名前は?」
「白木希。3年。あと転校生」
「ほう・・・白木くんか。なんか白樺みたいな名前だね」
「その感想は新しいな・・・」
言われたことないぞ。
「宇宙人との関わり方は分かったかな」
「ああ、分かったよ。宇宙人がいたら試してみる」
あくまでポーカーフェイス。なんでかさっきから見透かされているような気がするのだが、気のせいだと思いたい。
「宇宙人の相手もいいけどさ、オカルト研に来るのも忘れないでね」
「部員になった覚えはないぞ」
「なくても。もう春とあなたはお友達。宇宙人について熱く語り合ったオカルト仲間」
「捏造するな」
ぜんぜん熱くなかったから。俺どっちかっていうと疲れ気味でテンション低かったから。
「んじゃ、またな、椿野」
「いつでも待ってるぜー」
「あと、ローブ代わりの衣装探しといてやる」
そう言って俺は立ち去ったわけなのだが、まさかローブ代わりが魔女衣装になるとはだれが予想しただろうか。もちろん、椿野に渡した時「これは・・・白木くんの趣味?」と言っていた。俺は否定したがにやにやと笑っているうえに俺と会うときはいつも魔女衣装だったりする。絶対に誤解していると思う。
というわけでまさかの初対面で変な質問をするという衝撃的な出会いをした俺はその後も悩み事や話したいことがある度にこの場所に訪れていたりしている。
ワン太を地球に長くいさせたいとか、高校生活を楽しませてやりたいという気持ちは椿野から教えてもらったものなんだよな。
それが椿野との最初だ。
回想終了。
〇
俺は再び現実に戻り、目の前にいる宇宙人に話しかける。
「で、シキブさん明日はその・・・明日風が来る日なんですよ」
「知っております。事前に教えてくれていましたから」
目の前にいる宇宙人はシキブさん。ワン太は俺と顔を合わすとすぐに部屋へと帰ってしまった。
「明日、俺はワン太と話すんで、シキブさんの方はあまり見れないんですけれど・・・」
遠回しに余計なこと言わないでくださいよ、と釘をさす。
「安心してください。私はいつものようにしていますので」
それが若干不安なんだが・・・。
「たぶん空人とヒメちゃんもいると思うので、分からないことがあったら2人に聞いてください」
「はい、分かりました」
ところで・・・とシキブさんは話を変える。
「私は明日何をすればよろしいのでしょうか」
「・・・・・・」
お、俺にも分かりません。とは少し言いにくかった。
〇
「おー明日風?明日だけど準備はいいか?」
俺は部屋で明日風に電話をかけていた。
『もち。なんかごめんな、わざわざ。七実の夏休みも1日無駄にしてしまうし』
「なんだその気持ち悪い考え方」
さすがに自分で協力すると言っておいて俺の1日が無駄にー!とは言わない。というか基本長期休暇は後何日とかって考えないようにしているのだ。
「明日、頑張れよ」
『ああ。ありがとう』
お礼を言いたいのは俺のほうだ。よくこんな俺とずっと友達でいてくれた。それがどんなに支えになったか・・・そして謝りたいのも俺のほうだった。俺はお前の気持ちを利用したのだから。
「じゃあ、また明日な」
そう言って電話を切る。
「・・・・・・」
小花くんに言われたことを考えてみたりはした。でも今更だ。今更俺が何かを言ったからってどうにかなるわけではない。
でもこのままでは俺は純粋に応援できないかもしれない。心のどこかではふられてしまえと思っているのかもしれない。その気持ちを見たくなくて俺は何も考えていないのかもしれない。
俺は机につっぷす。
辛くないと言えば嘘になる。でも、明日だ。明日、どのようになるか。
「・・・・・あー・・・もう」
自分に腹が立つ。達観したような、諦めたようなことを言っておいて心のどこかでまだシキブさんのことが好きでいる自分に苛立つ。
「何やってんだよ、俺・・・・・」
顔を上げるまでにはまだ少し時間がいりそうだった。
〇
「えっと・・・神崎さん、僕に何か用かな」
学校。自習中に神崎さんからメールが入り、玄関前の自動販売機の前まで来た。
「姫岡くん、あなたに相談したいことがあるの」
「相談?」
「えぇ、あたしは七実くんのことが好きかもしれない」
今回は回想+次の回への繋ぎのような話です。
地味にこの間章は終わりが近かったりします。この作品自体はもう少し続くのですが。
夏らしいことを何もしていない・・・いや、受験生はこんな感じなはず!
ではまた次回。