第2日 知らぬ間にクラスメイトが宇宙人。
「ワルディード・ハルン・タブレースです、よろしくお願いします」
その自己紹介が頭から離れない。なぜだ。俺は昨日部屋で待ってろと言った。ついてくるにしてもこんな形でついてくるなんて、クラスメイトとして転入してくるなんて。いや、こいつは宇宙人、そんなこと容易いのかもしれない。
「・・・・・・」
今は自分の席につき、ひたすら先生の説明をきいている。このあと、始業式があるらしい。3年生の時もクラス替えがあるらしく、俺以外にもそわそわというか打ち解けていない雰囲気があたりに舞っているこの教室。しかし知り合いはゼロではないらしく小さな声で談笑している人もちらほら。
もちろん俺の席は漫画のように美少女の隣、さらに窓際一番後ろというわけでもなく、一番廊下側のまわりは野郎ばかりという席である。現実なんてこんなもんだ。
・・・・・。現実。なんというか宇宙人がくるってなかなかすごいことなのにあいつが宇宙人に見えない(主に馬鹿だから)ためあまり動揺、とかいうのはもうない。なぜだか人間と触れ合ってるという感じで慌てたり、騒いだりする気さえおきない。これもあいつの仕業じゃないだろうな。
「はぁ・・・」
小さくため息をつく。あいつとも席が離れてしまった。できれば近くにいてほしいんだが。甘酸っぱい意味は微塵も含まれていないけれどね。
あたりを見渡すと結構多め、なのかは分からないが40人ぐらいはいそうだった。選択教科、というものがありここ3年1組は文系の国立大学を目指すクラスとなっている。もちろん選択は物理、化学ではなく、日本史やら生物やらだ。
ん?でも1つだけ机があいてるな・・・どうしてだろう。
「・・・・・・」
宇宙人の方を向くとにこーっとこちらを見て微笑んでいた。前を向け。先生に見つかるぞ。
「はい、では体育館に行きます」
先生が話を終えて始業式の会場である体育館に行こうとする。俺ら生徒もそれに倣って廊下に出るため立ち上がる。そこで大体の生徒が仲のいい集まりに別れた。なんともわかりやすい。転校初日の俺はもちろん1人だ。宇宙人は人数にいれない。マジで後で問いただしてやる。
そう思っているとチャンスはすぐにきた。
「ノゾム。ノゾムさん」
「いまさらさん付けすんな。てかなんでここにいるんだよ」
もちろん小声。転校生2人が知り合いとかおかしすぎるからな。
「暇だったので」
「あんまり聞きたくないがどうやってこのクラスに転入してきた?」
俺と同じクラスに意図的にしたのだろう。俺だって今日クラスを知ったのに。でもその不可能を可能にするから宇宙人なのか。なんというか宇宙人らしいところ1つもないからな、今まで。
「聞きたいですか?宇宙人の情報改ざん能力を聞きたいですか?」
「やっぱいいわ、犯罪者」
なんとなく名前でどうやったのかは理解できた。久々にこいつが侵略者だったのだと思わされる。
「というか、お前なんでその情報改ざん能力俺に使わなかったんだ?」
そうすれば俺がこうやって文句を言うこともないし、自分の思い通りに動かせるだろう。限度があるのかもしれないが人間1人動かせないで何が宇宙人、侵略者だろうか。
「そういう目的では使いたくないです。使えないこともないですが、そうすればあなたたちは操り人形同然。そんなことはしたくありません。それに法律で禁止されている、というのもありますし」
今回は先生方ではなく、パソコンのデータのほうをいじったんですよ、と補足してくる。そちらがいいこととは思えないが非人道的なことはする気がないらしい。少し感心。育ちよさそうだし、親もいい人なのかもしれないな。侵略者だけど。
「というか、お前お姫様なんだろ。なんで1人で侵略先にきたんだよ」
普通護衛とかつけてないか?
「ふふふ、内緒です」
笑顔。笑ってはいるけれど少しだけ宇宙人の顔がくもる。なんだ?あまり聞いてほしくないのかもしれない。それならば無理に聞くのもあれだろう。
「ま、いいけど」
お優しいですね、とまたいつもの笑顔に戻る。俺は別に優しくない。ツンデレとかじゃなく。むしろ冷たいだろう。自分でもそう思える。
「宇宙人だってバレないようにしろよ。お前は外国人と日本人のハーフ。そういうことになってるんだろ。そこさえ間違わなければ別に構わない」
「まっかせてくださいよ」
ドンとその大きな胸を叩く、すると揺れる。ずるい。なんだこのコンボ。
「不安だ・・・」
先行き不安。宇宙人くるとこんなに人間が苦労するものなのか。
〇
始業式が終わり、教室に戻り、ある程度の説明の後放課後。
あいつ、宇宙人へのイライラの原因は勝手にきたことや、情報改ざんだけではない。両方とも俺の手に負えることじゃないと分かっているからもうふっきれた。そのほかに・・・。
「ワルディードさんって何人のハーフなの?」
「ワルディード・ハルン・タブレースってどこを呼べばいいのかな」
「美人さんだよねー」
「髪の毛とかさらさらじゃん」
「ハルンってとこが可愛くない?」
モテモテだった。女子、男子両方とも。セリフは全て女子のものだが、男子も影でぼそぼそと何か言っているのが聞こえる。容姿だけはいいからな。性格的にも敬語で大人っぽいし。あと胸でかいし。
同じ転校生なのにこの扱いの差はなんだ!と怒っているわけではない。それも少しあるけど。
「私のことはハルンとお呼びください」
そう言うと急に立ち上がり、なんとこちらに近づいてくる。俺は目を合わせないように配られたばかりの教科書に目を通すふりをする。なるほど、わからん。
「あの、ぐ、グーゼンですネー。同じテンコーセーなんてーハハハ」
全然自然を装えてない。俺と話しやすい空間を作るために友達になるところから始めるつもりなのかそう言い放ってきた。クラス中が注目。できない演技をしようとするなよ。
「そ、そっすねー。ははは」
俺も人のことを言えない。
「もしよかったらお友達になりましょう」
「喜んで」
そう言い終えると宇宙人は自分の席に戻っていった。不自然すぎる。急展開もいいところだ。
しばらくするとまたいつもの世間話に戻っていく。みんなそれぞれ知り合いが1人はいるのか。羨ましい限りである。
「あ、あの・・・」
また寂しさを紛らわせるために教科書を見ていると隣の席から声がかかる。かわいらしい声。でも俺の席のまわり男だらけだったような気がするんだが・・・。俺は教科書から目を離し、横を見る。
「・・・・・」
絶句。ここまで可愛らしさを追求した人間などいるのだろうかという人間がそこにはいた。
後ろ髪は長め、対照的に前髪は眉毛の上で真横に切りそろえられている。その前髪のはしっこには花柄のピン止めを2本。つぶらな大きな目に長いまつげ。ほっぺたは照れているのか真っ赤。背は低いのか座っていても俺が少し下を見なければいけないぐらいである。
「あ、あの・・・」
ぽっちゃりしているがまたそこもいい。ぷにぷにのほっぺたはつつきたくなってしまう。しかし。しかしだ、この人は学ランを着ていた。おいおい、冗談はよしてくれ。・・・・・・・・・男、なのか?
「え、えぇと・・・」
ここは落ち着いてくん付けで呼んでみよう。そうして反応があれば男。きょとんとすれば女。学ラン着てる時点で気付いてもいいことではあるが、俺は信じられなかった。
「あ・・・・・・」
というかこの人の名前知らない。作戦失敗である。
「あ、あの・・・その・・・白木、くん?」
「は、はい」
呼ばれたがかしこまってしまう。クラスで人気の子に話しかけられて戸惑うのと一緒だ。俺弱すぎ。
「ぼ、僕ともお友達になってください」
そう言って手を差し出してくる可愛い子。思わず頭をなでたくなる。どうやら先ほどの宇宙人のへたくそな芝居に感化されたらしい。
「こ、こちらこそ・・・」
照れつつ手を掴む。白い肌がまぶしい。手は小さくてかわいらしかった。
「よ、よかった。僕、このクラスで友達いなかったから」
そう言って笑顔で微笑む可愛い子。宇宙人とのあれこれを忘れられるほどの癒しだった。
「あの・・・そちらの名前は・・・?」
「あ、ごめんね。まだ言ってなかったよね。僕は姫岡小花っていいます。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
名前じゃ判断できない!むしろ名前は女子だろう!
「え、えぇと姫岡くん、でいいかな」
「うん、いいよ」
男決定。でも笑顔がまぶしい。あたりを見てみれば姫岡くんへの視線も多かった。女子、男子両方。というか男子見すぎだ。お前ら雑食なのかこの野郎。先ほどのまでの自分を棚に上げた。
しかし姫岡『くん』ってのが似合わないな。これが巷で噂の男の娘、なのか。いや、それ以上だ。女子よりも女子っぽい。女の娘って感じである。それもう女子だが。
「白木くんって最近こっちに引っ越してきたの?」
「うん、昨日」
「うわー、ほんとに最近だね。勝手とか分からなかったらなんでも聞いてね」
えへへ、と笑う姫岡くん。姫岡くんってかもうこれ姫岡ちゃんだろう。
「ヒメちゃんありがとう」
「ひ、ヒメちゃん?う、うん」
ちょっと驚いていたがなぜかそちらの方が呼びやすい。普段の俺ならニックネームなんてずうずうしいマネできるわけない。まさか宇宙人パワー・・・いや、これはヒメパワーだな。
「じゃあ、そうだなぁ・・・放課後暇だったら学校とか案内してくれないかな?」
「全然いいよ。じゃあ、今から行く?」
「そうしようかな」
そうして席を立とうとしたら肩に手がおかれた。
「どこに行くんですか?」
宇宙人だった。
「俺は今から学校を案内してもらう」
「あら、一緒に帰ろうとしていたのに」
近くの男子がなんでお前ばかり・・・・・みたいな目で見ていた。これ漫画とかでよくあるけれどあまりいいものじゃない。というか、宇宙人に男子だぞ。いや、宇宙人に女の娘だ。もしよかったら宇宙人をおすそわけしたい気分である。
廊下に出て引き続き話す。
「では私もついていっていいですか?」
「なっ!」
ろくなことにならない気がする!
「おいおい、ヒメちゃんは俺の彼女だ。そこに割って入ろうというのかい?」
「彼、男ではありませんか」
作戦失敗。ですよね。普通学ラン見れば分かりますよね。明日からセーラー着てもらおうかな。いや、それはそれでやばい。何かに目覚めそうである。
ヒメちゃんは「か、かのじょ・・・」と顔を赤らめていた。きっとこの子も免疫がないのだろう。しかも性別を変えられて赤面しないやつなんかいない。悪いことしたかな。男で女の子に間違われるのが嫌な人もいるだろうし。
「僕はワ・・・・さんが一緒でも構わないよ」
名前を覚えていなかった。普通そうだよな。
「私のことはハルンとお呼びください」
「じゃあ、ハルンさん」
「はい」
お互い笑顔で微笑む。事情を知らないならばこの光景だけでご飯3杯はいけるだろう。
「ワン太、じゃあ行くぞ」
「ワン太!?ハルンと言っているではありませんか!」
略さないでください!と後ろで騒がしいワン太をつれて学校案内に出かけた。
〇
「む・・・?」
グリーン星、宮殿。ある男がレーダーを見つつ何かに気付く。
「姫様の宇宙船の反応が消えた?」
男はとりあえず王様と王女様に知らせなければ、と連絡装置で連絡をとる。
『どうせ遊んでいるんだろう。あの子にはほんと困ったものだよ』
返ってきた言葉はそういうものであった。一見薄情にきこえるこのセリフはしかし親ならではのものであった。
「ですがあそこは侵略先の地球ですよ?」
『一か月』
そこで王様らしき声は一度区切る。
『一か月たって何もなかったらアクションをおこそう。大丈夫、あの子が無事じゃないわけがない。安心したまえ』
何かの確信があるかのように話す王様の口調が男は不思議でならなかった。自分の娘が見ず知らずの場所に行くのは心配なんじゃなかろうか。
『それと侵略、などと物騒なことを言うな。手荒なマネをするつもりはない。それに我々は腕力も武力も人間と同じ。侵略なんてしかけたら共倒れだよ』
腕力、武力以外はどうかは分からない。男はそう思った。
そして王様らしき人物は連絡装置を切ったのだった。
2話目です。侵略やらなにやらと言っておりますがこの作品はバトルものではありません。日常に重きをおいております。ドンパチはほとんどないかと。まだ予定の範囲ですが。
少しずつですが進んでおります。日常を進めて日常に終わる。ということになるのかどうかは分かりませんが。
結末から考えている作品なので中途半端な終わりかたにはならないと思います。
ではまた次回よければお付き合いください。