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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
間章 恋騒乱、夏心地
29/69

第28日 恋に恋する宇宙人。

 夏休み5日目。

 今日はなんと学校に来ていた。なんてことはない講習である。受験生である俺達3年生、それに2年生は夏に講習が1週間ぐらいあるのだ。内容は演習からの解説。

 これが夏休み終わり際の最後の1週間にもあるのが3年生の特色。というか3年生たる所以だろう。

 そうして気になったのがワン太の言葉。

 宇宙人を生かすだらなんたら。変なことをしなければいいけれど。しかしワン太あれから普通である。もうその言葉を忘れてるんじゃないかというぐらいに。

 そんなとき。俺が帰ろうと学校の玄関で靴を履き変えていると、

「ああああああ、のののののの、ノゾム」

 ものすごい動揺したワン太の声が聞こえた。

「どうした?」

 いつものようにどうせ特に大した理由はないだろうなと思いながら後ろを振り向くと、ワン太の手には2つの手紙のようなものが。

「えーと、マジでどうした?」

「あ、あの・・・これ、らぶれたーってなんですか?」






 ワン太は可愛い。

 外見は清楚なお嬢様、しかし性格は元気な子供のような純真無垢な明るいもの。言葉づかいは丁寧で誰にでも優しく、誰にでも笑って接する。ワン太を嫌う生徒は見たことがない。

 だからラブレターという原始的なもの、というのは置いといてそういう恋愛絡みのことが起こることはなんとなくだがわかる。分かるのだ。

 しかしこいつは重大な何かを隠している。それは宇宙人なのだ。

 空人の相談でもあったが宇宙人と地球人の恋愛があってもいいのだろう。だから特に俺が止める理由もない。本人の意思を一番に尊重する。

「・・・・・」

「わ、ワン太・・・?大丈夫か?」

「ふぇっ!?あ、あぁ、はいはい、聞いてますよ。えぇ、聞いてますとも」

「・・・・・」

 ワン太のこの同様の仕方は想像できなかった。こんな容姿にも恵まれ、性格もいいやつのことだ、そういうことは何回もあったのだろうと思っていたのだが・・・どうやらそうではないらしい。

 姫だからそういうのとも無縁な世界だったのだろうか。分からないけれど、異常な同様の仕方だ。

「だからラブレターっていうのは相手のことが恋愛的に好きだということを伝える手段だ。だから簡単に言うと好きだから付き合ってくださいってことだな」

「つ、付き合うって結婚ってことですか・・・?」

「いや、そんなに重くとらえるな・・・。その前段階って感じかな。前段階って言っても結婚とは大きな差があるし」

 このぐらいの年齢なら多少不誠実でも付き合ってみようというような感覚で付き合うこともあるぐらいだ。結婚なんて重いものではないが、相手に好きだと伝えることはそれなりに大変。

 好きという2文字がなぜ言えないのか、というのを昔少女漫画で見たことがある。

 どうやらワン太はそれを神崎さんにまず見せたそうだ。一緒に帰る予定だったらしく下駄箱を開けるとそこから2つの手紙が。

 そしてそれラブレターじゃない?と神崎さんに教えてもらったのだそうだ。

「私は、これをどうしたらいいんでしょうか?」

「中は見たのか?」

「い、一応・・・」

「待ち合わせ場所とか書かれていただろ?」

「はい・・・その今日の5時。体育館裏と3階化学室でした・・・」

「・・・・・」

 なんか不良みたいなやつだな。今は3時だから後、2時間か。

 それともう1つは3階化学室・・・3階化学室?

「ワン太、すまんがそっちの青いほうの手紙を見せてくれないか?」

 俺はワン太から手紙を1つ受け取るとその差出人の名前を見た。

「・・・・・・・・ワン太、こっちはラブレターじゃない」

「え?そうなんですか、2つもどうしようかと思ってました・・・よかったです・・・でもそれじゃあそれはなんなんでしょうか?」

 中身をみると確かに好きだの会いたいだの書いているがこれは恋愛的な意味ではない。いずれ来るだろうとは思っていたが・・・。

「こっちはオカルト研究会からだ。きっとお前の宇宙人的噂を聞いたりしたんだろう。適当に俺があしらってくるよ。だからそっちを真剣に考えろ」

「・・・・・」

 困った表情をするワン太。

 そんな目で見るな。さんざん知っているかのような口をきいているが俺は付き合ったことなんてないし、ラブレターももらったことはない。

「こればかりはお前の気持ちだ。人に聞いて分かることじゃない。その差出人は知っているのか?」

「はい、そのたまに話したりする他のクラスの人です・・・」

 他のクラスとも交友があったのか。知らなかった。そりゃいつも一緒に行動しているわけじゃないが、最初に出会ったのが俺、ということもあり、なんでも知っている気になっていた。

 だからだろうか、なぜかラブレターをもらったことに対して納得できないのは。最初はワン太を羨んでいる、モテていいなーという妬みかと思ったがどうやら違うらしい。

「相談にしたいのなら相談にのってやる。でも答えを出すのはお前だぞ」

「・・・・・・分かりました。自分なりに頑張ってきます」

「・・・・・そうか」

 答えはどうするのか、すごく気になるがここで聞くわけにもいくまい。俺はとりあえずオカルト研究会が活動している3階化学室へと行こうとする。

「じゃあ、頑張れ」

「はい」

 その時にはワン太はいつもの笑顔に戻っていた。







「で、お前何やってんだ」

「ぶーぶー、ハルンちゃんじゃないー!」

 化学室で元気にはしゃぐ女の子。髪は長く、ウェーブがかかっている。そして身につけているのは魔女っ娘の服装。丸眼鏡をかけているオカルト研究会部長、椿野春風つばきのはるかぜだ。

 ちなみに眼鏡は伊達。怪しそうだから、という理由だけでつけているバカだ。ちなみに授業中や普段の生活では邪魔なので外しているらしい。意味あるか?それ。

 それと魔女っ娘の服装は俺がプレゼントした。

 俺の知らないワン太がいるようにワン太の知らない俺もまたいるのだ。このオカルト研究会部長の椿野とは転校して1カ月ぐらいの時に出会っていた。

 それはまぁ、驚くべき出会いだったのだけれど、割愛。ワン太の噂を聞くたびにいろいろな策を講じる天才バカだ。

「椿野、お前もう引退じゃないのか?」

「引退してもいつまでも不思議を追っていたいんだもん」

「いや、勉強しろよ・・・」

 俺もあまり人に言えたことではないが。

「じゃーん!」

 しかし椿野は重そうな本を持っている。ふらふらとしているが重たいのなら机に置いたらどうだ?

「・・・・・黒魔術・・・?」

 そう、その本には書かれている。

「ぶっぶー違いまーす。答えはこれでーす!」

 その黒魔術という表紙をとると中から出てきたのは大学の赤本であった。えぇー・・・そこまで工夫するぐらい好きなのかよ・・・。

「普通に赤本を持ち歩くのはダメなのか?」

「駄目!全然ダメ!だってロマンがないもん」

「・・・・・・ロマン」

「それにーこうして表紙つけたらマジで黒魔術っぽくない?ぽいよねー」

「・・・・・」

 有無を言わせぬこの会話のテンポ。

「はぁ・・・くだらねー・・・こんなことかよ・・・」

 ワン太がどうなっているのか激しく気になる・・・。いや、詮索するのはよくない。俺は普通にいつも通りにしていればいいのだ。

「どしたの?いつもよりノリ悪いじゃん」

「いつもこんなんだよ・・・ちょっとな・・・」

 何を思ったのか椿野は黙ってしまう。

「最近来てくれないなーって思ってたらまたあの宇宙人ちゃんのこと?」

「宇宙人じゃない、ワン太は普通の高校生だ」

「・・・・・ふーん、そんなに大事なんだ、ハルンちゃんのこと。でもさぁ、そんな自分の彼女でもない人の恋路を気にしてどうするの?」

「・・・・・・・・・ってお前なんで恋路とか知ってんだ」

「だって春が手紙入れた時にもうすでに1通入ってたから」

「そうか・・・」

「で、話戻すけど、彼女じゃない人の恋路を気にしてもしょうがないよ。それに私がハルンちゃんに探りを入れることも気にくわないらしいけどさ、それも白木くんが邪魔することなのかな」

「いや後半は邪魔するだろ」

 お前に探り入れられたらワン太数秒でボロ出すに決まっている。

「ふーん・・・」

「・・・・・・・・・」

 そこで思いついた。

 こいつにこれ以上探りを入れられない方法を。確かに恋路は邪魔できない。馬に蹴られるのはごめんだ。それに邪魔をする理由もない。

 でもお前の探りは邪魔する。確実に、手を出せないようにする。

「おい、椿野。お前彼女じゃないのに、自分の探りを邪魔されるのは心外だ、と言ったか?」

 少しでもワン太を長く地球にいさせる。あいつが帰りたいと言うまでは地球があいつの安心して暮らせる家になるように。

「心外、とまで言ってないけどね」

「じゃあ、残念だったな・・・」

 この語り口からも分かるようにはったりだ。これから先ははったりだ。嘘だ。けれどこいつをだませればいい。その場しのぎでもいい。

 ワン太に普通の高校生として青春を楽しんでほしい。

「ワン太は俺のものだ!俺がワン太と付き合っている、ふはは、残念だったな、椿野。というわけで俺のワン太に探りを入れるな、ということだ」

 後半には少しテンションが下がってしまったが、大丈夫だろう。

 椿野は呆気にとられている。

 いまのうちだ。

「じゃあな、また会おう、可愛い彼女が待っているんでな」

 あいつはこのことを他の人に話したりはしないだろう。というか恋愛系統の話をするこいつを想像できないしな。

 俺はかっこつけてその場を去る。

 そうしてしばらくしたあと、もう少しで5時だと気付いた。

「・・・・・・・・」

 ワン太、今頃どうしているのだろうか。

 俺のこの嘘はきっとワン太が今日告白してきたやつと付き合った場合即破綻する。それでもいい。今だけはお前の邪魔を誰にもさせない。

「俺は・・・・・」

 俺はどうしたいのだろうか。

 俺の気持ちはどうなのだろう。人のことばかりで、自分をなくしかけていた。俺は、どうなのだろうか。考えても分からない。

「というかどう・・・ってどういうことだ・・・?」

 なんかどんどん混乱してきたので、俺は頭を切り替えてアパートに帰ることにした。






 「あ、そういえばノゾムからもう1通の手紙を返してもらっていない」ということに気付いたハルンはすぐに走れば追いつくだろうと化学室へと向かっていた。

 ノゾムを見つけたハルンは声をかけようとしたのだが・・・。

「ワン太は俺のものだ!俺がワン太と付き合っている、ふはは、残念だったな、椿野。というわけで俺のワン太に探りを入れるな、ということだ」

 という声が聞こえた。

「・・・・・」

 出しかけた声をしまう。

 ハルンはこの言葉に対して誤解しなかった。きっと自分のためについてくれた嘘なのだろうと瞬時に理解した。けれど・・・。

(うぅ・・・この熱さはなんなんですか・・・)

 ほっぺたを手でおさえて冷やそうとしても顔が熱い。この熱さはどう考えても夏の暑さのせいなどではなかった。顔だけじゃなく体全体が火照る。体が動かない。

(あれは嘘、私のためについてくれた嘘、嘘、嘘・・・・・・私のために・・・)

 そこに気付いたとき、またぼっ!と顔が熱くなる。

「あれ?ハルンさん?顔真っ赤だけどどうしたの?」

「うわぁ!神崎さん!い、いえ、その・・・」

「あー、そっかラブレターもらったんだもんね」

 でも、と神崎は区切る。

「ハルンさんには白木くんがいるし、断るのよね」

 他愛ないいつものようなからかい。神崎自身もいつものようにふざけてハルンを少し困らせようという気持ちしかなかったのだが。

 ぼっ!とまた顔が真っ赤になる。

「あ、ああ、え、えと・・・・・・」

「は、ハルンさん?大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

 そう言うとその場からそそくさと退散した。「次にどんな顔して会ったらいいんですか・・・ノゾムのバカ」と呟いた声は「なんだったんだろ・・・ハルンさん」と神崎が呟いた声にかきけされた。






 白木希がいなくなってからの化学室。

 そこにはいつものように黒魔術式赤本を解いている椿野の姿があった。

「・・・・・」

 他の部員はもう帰ってしまった。家だと趣味のものがたくさんあるためはかどらないことを知っているのでここでやっているのだ。

 しかし考えているのは先ほどの希のこと。

「・・・・・嘘だってばればれだよ」

 独り言のように言う。

 そもそもハルンの付き合うか付き合わないかが気になっていた様子だったのでバレバレではあったのだ。付き合っているのならもっとドン!と構えているはず。

 それなのにあいつは自分に素直じゃない道を自分に素直に走って行った。そう、椿野は思っていたのだ。椿野はシャーペンを手で弄ぶ。

「・・・あんなセリフ聞いちゃったら惚れちゃうよね、普通」

 ハルンが聞いていたことを知っているかのような口ぶりだが椿野は知らない。これは自分に向けて言っているのだ。

「たとえ・・・ハルンちゃんのことでドキっとしちゃうってば・・・もうー・・・」

 椿野は格好、ふるまいは異常なのだが、中身は何一つおかしいところのない普通の女の子。それが部活動でもない時間帯ではさらに際立つ。

 魔女っ娘の服を着ているのに、普通。

 椿野は火照る顔を手でおさえる。ちなみに眼鏡はすでに外している。

「・・・・・春は白木くんがす、す・・・」

 何かを練習するように椿野は呟く。

「す・・・・す・・・・」

「おーい、椿野、部屋閉めるぞー」

「せっ先生!あ、その、今出ます!」

 椿野は帰り支度をして「やだー・・・もう」と小さく呟いてから化学室を後にした。





「ごめんなさい」

 5時。体育館裏。

 そこではハルンが頭を丁寧に下げていた。相手は男子だ。

「その・・・あなたとは付き合えません」

「そっか・・・」

 男子は悲しそうな顔をしたがすぐにそれを引きしめる。

「返事、ありがとう。その・・・最後に聞いていいかな。もしかして好きな人いるの?」

「へ?」

 完全なる不意打ちにハルンは顔を赤くする。

「い、いや、好きってわけじゃなくて・・・もちろん嫌いでもないんですけど、その・・・気になるっていうか、だから好きってわけじゃなくて」

「ご、ごめんごめん。そんなに慌てないで」

 そう言って「またね」というと男子は帰って行った。

 ハルンは上を見上げる。

 空は青空で5時過ぎではあるがまだ昼のように明るい。自分の故郷である宇宙。どこかにグリーン星があるのだろうかと。

「・・・・・・」

 時間を稼いで顔の赤みがなくなったらアパートに戻ろうと決意するハルンであった。

なんの脈絡もなく新キャラ登場。できれば椿野と出会った当初の話も書きたいなぁなんて思っています。


今回は全部通して恋愛色強めのものとなりました。今回に限らず、この間章はそうなる話ばかりなのですが。


まだいろいろな人の気持ちは恋愛にまで発展していない未熟なもの、です。この時点では。


この先もみていただければ嬉しいです。


それぞれの視点での希一人称以外の話もこの間章では増やしていきたいと思います。何気にワン太の一人称は言葉づかいが難しかったり。


ではまた次回。

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