第27日 絶対に見返す宇宙人。
朝、目が覚める。
なんかこんな展開がどこかであったようななかったような。いや、風邪を引いていたときもそんな感じだった。
「・・・・・・」
あれから3日。俺の風邪は完全に治っていた。ダジャレとかじゃなく。かぜはかんぜんに・・・言うんじゃなかった。自分で引く。
携帯を見るとメール着信あり。どうやら神崎さんからだ。一応補足だが学校祭のバズーカちゃん捜索のときにみんなとはアドレス、番号を交換してある。
『大丈夫?』
恐らく風邪のことだ。ワン太がすごい大袈裟なメールを送ったんだっけ・・・。でも落ちついたこの感じの時に送られてくるってワン太が大袈裟なことを分かっていたのだろう。
そして風邪が治るあたりに迷惑にならないよう短文で送る、なるほど、ほどよい友達との付き合い方だ。ほんと模範解答だよ。
大丈夫、ありがとう、と打ち、携帯をしまい、俺はドアを開ける。
「あ、おはようございます、ノゾム」
「おお、ワン太か」
ちょうど部屋を出たワン太に会った。お互いにパジャマ状態。俺は女の子のパジャマ姿は全然ありだと思う。というかワン太が綺麗すぎるというのもあるのだが。
相変わらず整った顔。清楚なお嬢様を思わすたたずまい、長いさらさらの髪。とても普段の好奇心旺盛さや元気っぷりは外見からは想像できない。「わたし・・・声を出すとめまいがするの・・・」と言っても不思議ではない。そんな守ってあげたくなる姿からは元気いっぱいいつものワン太の声がする。
「看病とかありがとな、助かったぜ」
「いえ、治ったのならそれでなによりです」
優しく微笑んでくれる。というか宇宙人ということばかりに重点を置いていたが考えてみれば可愛い女の子と1つ屋根の下というのはなかなかに素晴らしい状況だ。
意識をすると急に恥ずかしくなってくる・・・あーんとかされちゃったよ、ああ、でもあれはヒメちゃんもしてくれた(強制)か。
「なんかヒメちゃんすげぇヒロインっぽくなってきたな・・・」
「それはノゾムのせいですよ!」
ぐぬぬ、と睨まれる俺。どんだけヒロインのポジションがほしいんだ、お前。
「ポジションというか男の子にヒロインとして負ける私って・・・」
「気持ちは分からなくはないが、相手はヒメちゃんだぞ」
その一言で全てが片付いてしまうという・・・なんて納得しやすい理由なんだ。
「あ、そうだ。今日、空人とヒメちゃん来るから」
「さらに私の出番がなくなる予感!はっ!私は宇宙人・・・そこを生かすしかないようですね」
ふふふふふ、と笑いながらどこかへ行ってしまった。なんだか変なことを企んでいるような気がする。
「まぁ、あいつ自体、変だからなぁ・・・」
宇宙人に慣れてきた自分にあきれる。少し自分のまわりで起こっている異常性について考えた方がいいかもしれない。宇宙人がいるなんてことは普通はありえないのだから。
〇
「大変なんだ、希」
俺の部屋にヒメちゃんと共に来た空人が開口一番そう言った。大変なんだって・・・そういう会話の切り口は大抵くだらないことだろう。
「どうしたんだ?」
買っておいたお菓子を広げながら俺は適当に相槌をうつ。
「明日風がシキブさんに恋をした」
「大変じゃねぇか!」
今までのが壮大な前振りだと言わんばかりの事実。
明日風とはうちのクラスのイケメンであるのだが、本人があまり目立ちたい性格ではないので少し地味という立ち位置の男である。
「な・・・あいつヒメちゃんファンクラブをやめるつもりなのか・・・」
「僕それ初めて聞いたよ!」
ヒメちゃんが本当に驚いている。もうとっくに知られているのかと思ったのだが・・・やはり鈍い。特にそういう好き嫌いの話はヒメちゃん苦手そうだしな。
「いや、というかシキブさん宇宙人だぞ。綺麗なことは否定しないが・・・それは外国人と結婚する、というのよりもさらに大きなことになる・・・」
国際問題ならぬ惑星問題。話がでかすぎてついていけないのに俺のまわりで起こっているということに不思議を感じる。やめてほしい、せめて俺の知らないところでやってくれ。
「ってもしかしてお前の悩みってそれのことか?」
「悩みとは言っていないが、相談したいのはそのことだよ。シキブさんに会いたいんだとさ。そこで宇宙人大好きUMAマニアである希にこの話を持ちかけたのさ」
「お前のその認識をすぐに改めろ」
UMAマニアなんて言ったことねぇよ。
「しかし困ったな・・・そんな簡単に会わせるわけにはいかないぞ・・・」
存在を知るものが多ければ多いほど大変になる。それこそ、宇宙人証拠写真なんてものが撮られてしまったらもう終わりだ。
「俺は・・・応援したい」
空人はそう切り出した。
「空人・・・その気持ちは分かるが」
クラスメイトの、友達の相談に乗ってやりたいのも協力してやりたいのも分かる。
「でもこれはそんな問題じゃないんだ」
「お願いだ。俺は今日、このお願いをしにきたんだ。会わせてやりたい、応援してやりたい。会わせてやってほしい・・・俺は宇宙人との恋愛もいいことだと思うんだ・・・」
空人は頭を下げる。
「やめてくれ、頭を上げて。・・・・・決めるのは俺じゃない。シキブさんに聞いてみていいのならもちろん俺も賛成する。あの人はワン太よりヘマをしなさそうだしな」
「・・・・・ありがとう」
空人は本当に嬉しそうに顔を上げる。しかしなぜかヒメちゃんはそんな空人のことを悲しい目で見ていた。憐れみとも同情とも違う。あれは・・・なんだ?
「私がなんですか?」
「うわぁ!」
急にドアを開けてぬぅっと出てきたのは噂のシキブさんだ。ドアの意味が全くない。せめてノックはしてほしいんだけど。
シキブさんは夏だというのに今日も十二単のような着物の着こなし。汗をいっさいかいていないのが人間離れしていることを思い知らされる。
「シキブさん・・・・・」
空人がシキブさんを見る。
「あなたは七実さんではないですか。それに姫岡さんまで。遊びにいらしてたのなら言ってください。今すぐに飲み物を用意しますね」
そう言って台所に言ってしまいそうになる、シキブさんを俺は止める。
「ちょ、ちょっとシキブさん!待って」
「遠慮はいりません。姫様のご友人は姫様同然」
「いやその精神は感心に値するけれど、空人が話あるって」
「?」
首をかしげながらも部屋にもどってきてくれる。
「どうかいたしましたか?」
「いえ・・・その・・・・・シキブさんに会いたいという人がいるのですが・・・」
「会いたい人?宇宙人絡みですか?」
「いや、どっちかっていうと地球人絡み?」
「私は別にかまいませんが、姫様のことがありますので会うとしたらこのアパートとしてほしいです。それさえ大丈夫なら」
「・・・・・・・・そう、ですか」
約束をとりつけたというのに空人の顔は曇りきっていた。ここは喜ぶところではないのだろうか。
「では、予定が決まったらよろしくお願いします」
シキブさんは携帯を持っていないので連絡はできない。だから俺らから予定を伝えるしか手段はない。あとは俺らと明日風で決めることではある。
「空人?大丈夫か?」
「あ、ああ。平気。全然。いやーしかしシキブさんも鈍いな。男が会いたいだなんて言ったらそれはもう求愛行動と同じなのに」
「男って言ってないだろ・・・」
会いたい人、としか言っていない。
「ん?ヒメちゃん?さっきから黙ってるけど、どうした?」
「う、ううん、大丈夫」
にこーと笑う。気分が悪いのかと思ったがどうやらそうではなさそうだ。
「じゃあ、今日はありがとな。おかげで助かった。予定は後でみんなで決めるか。希も希がいる間に来てほしいだろ?」
「ああ、そうだな」
もし何かやらかしたときのフォローをしなければならない。俺がいる間にやってほしい。
「何か決まったら連絡するわ」
「もう帰るのか?」
うちにきて1時間も経ってないぞ。いや、受験生としては勉強に割くべきなのだろうけれど。
「うん、ほら勉強とかあるし」
「あ、僕も帰るね」
「小花くんはまだいてもいいぞ?」
「ううん、僕も帰るよ」
「ありがとうございました、お邪魔しました」と言ってなんだかそそくさと2人とも帰ってしまった。
「なんだ?」
すると俺の部屋の外から声が。
「鈍い、鈍いわ、のぞむー!」
「えぇ、結構引くぐらい鈍いですよ、お兄さん」
そこから現れたのは大家さん&猫ちゃん。何気にこの2人仲がいい。
「いや、だから何が?」
「お兄さん、高校生というのはいろいろと心の機微を分からないといけないんですよ」
中学生に高校生がなんたるかを教えられる高校生。なんだか不思議な図である。
「心の機微、ねぇ・・・」
〇
俺は自分が早足になっていることに気付いた。小花くんが少しキツそうなのでペースを遅める。「ありがとう」とわざわざ言って俺の隣に並ぶ。
「空人くん、いいの?」
「・・・・・」
小花くんが何を言っているのか分からないというほど混乱してはいない。小花くんに知られていたこと自体は驚きだが、しかし今は隠したい事実。
「俺は応援するって決めたんだ」
「でも・・・空人くんもシキブさんのことが・・・」
そこまで言って黙る小花くん。これ以上は言ってはいけないと判断してくれたのだろう。やはりとてもいい子である。子、と言ってしまいたくなる容姿。でも誰よりも心を、人の気持ちを考えている。
「いいんだ。俺が自分でも気付いたのは明日風からの電話を受けた瞬間だった。俺はつい最近まで自分の気持ちにすら気付かなかったんだ」
「空人くん・・・」
恐らく、小花くんもこれ以上はダメだと思っているのだろう。
しかし、小花くんは優しい。優しいからこそ自ら汚れ役をもかってでる。それをまわりが理解してあげなければならない。今もそうだ。俺は小花くんがこうして話してくれなかったら自分でこの気持ちを抱えてどうしたらいいのか分からなくなっていただろう。
「シキブさんは俺のことを肯定してくれた。否定すべき部分も、何もかも。それが俺は嬉しかったんだ。そんでころっと好きになるあたり単純だけどな」
おどけて笑って見せるも小花くんは笑わない。やせ我慢だとバレているのだろうか。
「それに俺が明日風の要件を受けた理由は明日風のためじゃない。自分の気持ちを確認して人の気持ちを利用し、相手にぶつけること」
そう、それなのだ。
今日話した全てのこと。宇宙人との恋愛はいいことだとかっていうのは自分のために言っていた。自分のこの気持ちは正しいと他人の気持ちを利用して確認したんだ。
自分だけでは怖いから。間違うのはもう2度とごめんだから。だから俺は明日風の気持ちをつかって自分の気持ちをぶつけたのだ。
「そんなずるいやつには告白する資格はない。ましてや人の恋路を邪魔する資格もない」
「恋路はそうかもしれない。みんなそれは邪魔できないかもしれないけど、告白は別だよ」
小花くんはちゃんと俺の顔を見てくれた。
その目からこの言葉は嘘でもその場しのぎのものでもなく、本心なんだと理解した。
「ありがとう、でも俺は応援する。応援して成功させる。俺の気持ちは最初からなかったんだ。ないようなものだったんだよ」
「そんな悲しいこと・・・」
「小花くん、俺はここで。家、こっちだから」
「あ、えと・・・・・」
「じゃあね」
「空人くん・・・」
俺は今度こそ全速力でその場から駆け出した。
ごめん、ごめん小花くん。君の優しさは俺から甘えを出す。その甘えに身を任せて君にやつあたりしてしまうかもしれなかった。
きっと小花くんはやつあたりさせて俺の本当の気持ちを吐きだそうとしてくれたのだろう。でも、俺はそこまで熱くなっていなかった。
まるで小説の中の物語を見ているような冷静さでいれるんだ。
俺は家に着くまで走ることをやめなかった。
絶対に見返す、というタイトルなのに結局ワン太がどうしたのかは書かれていません。もしかしたら続く、かも?
間章ということですが章タイトルからも分かる通り少し恋愛多めな話になっています。バカ騒ぎもあったりするのでよろしくお願いします。
ではまた次回。