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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
間章 恋騒乱、夏心地
27/69

第26日 大袈裟に慌てる宇宙人。

「・・・・・・・・・・・」

 朝、目を覚ますと気分最悪だということに気付いてしまった。寝ていれば気付くこともなかったのに。寝ている間に吐く、なんてことになったらさらに最悪だが。

 理由は分かっている。

 学校祭最終日、花火を見るという1大イベントを台無しにしたある出来事。俺の頭を過ぎったある光景。あれはなんだったんだろうか。

「うぷ・・・」

 口を手でおさえる。

 結構やばいかもな。頭痛も止まらないし。

 しかしまぁ、なんでこんなわざわざ夏休み初日までこんな変な気分が続くのか。あれからもう2週間も経っているのに。

 時計を見ると9時。もう起きるか。俺は布団をとり、トイレに行こうと部屋を出ると。

「あ、あれ・・・」

 足元がおぼつかない。

 ふらふらするし、気持ち悪さが加速する。なにこれ・・・そんなにやばい状態なのだろうか。ますますあの光景が気になる。見ただけでここまで人体に影響を及ぼすとは・・・。

「・・・・・・」

 映像如きでここまでなるはずがないと分かっている。

 本当の理由を直視したくなかったからその光景のせいにしていることもまた分かっている。

 夏休み初日から何をやっているんだ俺は・・・。

 部屋に戻って数分。ピピピという電子音が聞こえる。

「38度・・・か」

 絶賛風邪引き中であった。







 認めたくはなかった。なぜ初日から風邪を引くのだろうと、神様俺にだけ厳しすぎるだろと何回も呪詛のように繰り返した。しかし現実はいつだって一番残酷だ。

「あー・・・」

 アパートとはいえ、大家さんが信じられないぐらいフレンドリーだからといって風邪を引いたときの心細い感は半端じゃない。家族がいれば・・・なんて甘えが生じてしまう。

 え・・・俺このまま死ぬのかな・・・なんてバカみたいな考えが頭に芽生えたところでドアがノックされた音を聞いた。

「のぞむー、平気ー?」

「あー、大丈夫です。ありがとうございます、わざわざ」

 大家さんだ。

 こういうときは大家さんの性格がありがたい。

「今日は季節外れのハロウィンパーティーで外をみんなでコスプレして遊ぼうとしてたんだけど・・・延期にするしかないね」

「いや、それは延期ではなく中止の方向で」

 ドアを隔てて会話する。先ほどうつしたら申し訳ないので、ということでドアを隔てることをお願いしたのだ。結局なんやかんや俺も部屋からでるので意味があるのかどうかは分からないが。

「じゃあ、薬置いとくわね」

「ありがとうございます」

「ついでにのぞむーがコスプレする予定だった魔女っ娘衣装も置いとくわね」

「・・・・・・・」

 危ない。先ほどは不幸だと嘆いたものだが、これは風邪を引いてよかったかもしれない。

 俺はドアを開けて、薬と不本意ながら魔女っ娘衣装を持ち上げる。

「ばぁ!」

 するとなぜかまだ大家さんが近くにいた。

「うつるかもしれませんよ・・・」

「反応悪ーい。私がその程度の拒絶で諦めると思う?」

「別に拒絶したわけじゃ・・・」

 何かあったら呼んでね、と言いながら大家さんは去っていく。やはりいい人ではあるんだよな。ただなぜか素直にそれを認めたくないだけで。

 俺は薬と魔女っ娘衣装を抱えて、部屋に入る。この魔女っ娘、ヒメちゃんに着せたらすごい可愛いんだろうなぁ、と考えながら布団に入ろうとすると、

「さぁ、こちらです」

「なぜいる」

 ワン太がいた。

「風邪引いちゃったんですね。でも大丈夫、私がなんとかしてあげましょう」

「ん?」

 なんとかって・・・治せるってことか、風邪を。宇宙人には確かにいろいろなことができる能力がある。つりざおみたいな能力もあれば、空間をまるまる切り取って違う次元に移動する能力もある。

 だとしたら風邪の1つぐらい治せるのかもしれない。

「では、おかゆは任せてください」

「思ったよりアナログだな・・・」

 おかゆをスプーンですくうワン太。

 え・・・?そんな方法で治せるの?

「あーん」

「・・・・・あーん」

 恥ずかしいながらも口を開ける。おかゆを食べると力がみなぎる!ということもなく、普通におかゆを食べているだけなのだが・・・。

「ワン太、これで本当に風邪が治るのか?」

「もちろん、これでよく寝て2、3日すれば」

「宇宙人関係ない!」

 えらく地球的な解決方法。

 確か、人間に宇宙人の能力で干渉するのは禁止されているんだったっけ?風邪ぐらい治してくれても大丈夫だと思うんだが。

「安心してください、私は宇宙人ですので風邪はうつりません。いつでも近くにいてあげますよ」

「・・・・・・」

 すごいいいセリフなのだが、俺の部屋のドアが開いてそこからシキブさんが入ってくる。

「姫様、なんてお優しい・・・今日はごちそうにしてもらいましょう。姫様優しい記念日です」

 シキブさんはそう言うと、さっそく大家さんに言いに行ったのか、どこかへと消えてしまった。

 いや、ワン太のこともあれなんだけど、俺、視界に入ってたよね。なのに完全に無視だった。夜ごはんが油ギッシュな肉料理になりそうだし。

「またまた安心してください、私が夜ごはんを作ります」

「それが一番心配なんだよ・・・」

 そうならないように祈るばかりであった。







「・・・・・・」

 目が覚める。気が付くとどうやら12時。少し寝すぎてしまったみたいだ。

 携帯にはメール着信という色にランプが光っている。

「えー・・・マジかよ・・・」

 そこにはハルンさんからのメール。どうやら希が風邪を引いてしまったらしい。夏休み初日からもったいない。なんて俺も12時まで寝てしまっているのだが。

「ん?」

 携帯にはどうやらメールだけではなくて電話の着信もあったらしい。番号を見てみると、登録済みの番号。明日風だ。

 明日風とはうちのクラスのイケメン。性格もイケメン。金髪になったり不良になった俺とも何も変わりなく普通に接してくれた数少ないやつの1人だ。

 ほんと明日風もそうだが、小花くん、希、ハルンさんには感謝しても感謝しきれないな。

 明日風に電話をかける。

『お、七実か?すまん、寝てたか?』

「いや、別にお前の電話で起きたわけじゃないから大丈夫だ。で、わざわざ電話ってどうした?」

 明日風とも遊んだりするのだが、クラスが同じなため、あまりメールや電話をすることはなかったりする。学校で直接約束したりするからな。

『お前さ、彼女いる?』

「は?」

 予期していない質問に少し驚く。

「いや、いないいない。それはお前が一番分かってるだろ」

『隠さなくていいって。学校祭の時、すげー美人な人と歩いてただろ。年上か?大学生ぐらいの』

「あー・・・」

 シキブさんのことか。あの光景は祭ということもあってカップルに見えてしまったのかもしれない。

「違う違う。あの人はえーと・・・俺の友達の家庭教師みたいなもので・・・大学生、かな。うん、そんぐらいだったはず」

 困る。普通に困る。説明しにくすぎるわ。実は俺の友達の宇宙人の家庭教師宇宙人なんだーなんて言ったらそこで俺の何かが終わってしまう。実際俺みたいに不思議を見れば納得すると思うが。

 というかそう考えると小花くんはすごいな。学校祭で不思議に出会ったとは言っていたが、小花くんに説明したのはずっと前、不思議に出会う前ではあったのに、普通に信じていた。

『そうなのか。そうか、んー・・・・・・あのさ』

「ん?」

 そう言えば明日風の要件をまだ聞いていなかったな。えらく迷っているみたいだが。

『その人・・・俺に紹介してくれないかな?』







 コンコン。というやさしめなノックが聞こえる。

「どうぞー」

 どうせ大家さんかワン太だろう。うつるからと追い払っても無駄なのは分かっているのであっさりと招き入れる。

「希くん、大丈夫?」

「ヒメちゃん!?」

 幻覚!?俺はとうとうそこまで熱を出しているということか?

「ごめんね、迷惑だったかな。ハルンさんがメールくれたんだけど」

 いや、この感じ。幻覚じゃない。俺の脳が見せた幻覚ではない。マジなヒメちゃんだ。現実ヒメちゃんだ。生ヒメちゃんだ。

 夏ということもあり、半袖と涼しい格好をしているが、なんとその上に明るい色のオーバーオール。初めてこれ生で着てる人を見た。

 というかわざわざお見舞いにきてくれたんだろうか。

「いや、迷惑じゃない。ちょうど寝れなかったんだ」

 主に恐怖で。ちなみにワン太は俺を殺すためとしか思えないものすごい料理を作っている最中である。なんとか今、風邪が治って夜ごはん肉とか食べれたりしないかな・・・。

「はいこれ」

 くれたのは果物。しかも風邪になったら食いたくなるような少しすっぱみのあるものなどなどよく考えられている。

「ありがとう。なんかわざわざほんとごめんな」

「ううん、でも思ったより元気そうでよかったよ」

 そうかな?確かに朝よりは少し楽だが。

「ハルンさんのくれたメール見たときは焦っちゃったよ」

「え?」

 そう言ってヒメちゃんは俺にそのワン太が送ったメールを見せてくれる。というかヒメちゃんの携帯可愛らしすぎ。水色という一見かっこいい外見に青い花柄の装飾が施されている。ヒメちゃん自身も可愛いものは好きなのかもしれないが、恐らくお姉さんだろうな。

『ノゾムが死にそうです・・・・・!』

「大げさすぎるわ!」

 ものすごい大変な事態になっていた。

「うん、でもそのあと、風邪だってことは分かったんだけど、心配だったから」

「よし」

 俺は何かを決意する。

「ヒメちゃん、魔女っ娘の服を着てくれ」

「なんで!?」

 心底驚いたような顔をしていた。ですよねー。急に話変わりすぎですよねー。

「あ、というかあまりの嬉しさに忘れていたけど風邪、うつっちゃうかもしれないぞ」

「大丈夫、僕強いから」

 いい子すぎて泣きたくなる。これは毎年お年玉奮発しちゃうわ。親戚のおじさんタジタジだわ。

 コンコン、と今度もまたノック。

「どうぞ」

 今度こそ大家さんかワン太かと思ったのだが。

「よ」

「空人」

 そこにいたのは空人。

「ほら、お見舞いだ」

 そう言って空人はコンビニのデザート類を俺にくれた。

「ありがとう、ってかお前もワン太のメールか?」

「ああ、それはそうなんだが・・・」

 なんというかワン太、本当に焦っていたらしい。誰かれ構わず送ってしまったのだろう。やはりあいつの90パーセントは優しさでできている。残り10パーセントは知らん。宇宙人かな。

「だが・・・?」

 だが?という言葉。俺はその先に何かがあることを悟った。

「あのさ、いや、熱治ったら、言うわ。そんときに相談に乗ってくれ」

 空人はそう言うとその場から去ってしまった。何かあったのだろうか。しかしその中でわざわざお見舞いに来てくれるのは本当に嬉しい。

 だからこそ気になってしまう。空人に何があったのか。

「ヒメちゃん」

「なに?」

「あーんしてくれ」

「きゅ、急だね・・・」

 風邪をひいているからか、ヒメちゃんは特に嫌がることなく、スプーンにおかゆをすくう。恥ずかしそうに「あ、あーん」と言ってくれる姿はまさに女神。もうこのまま死んでもいいとさえ思えるだろう、いつもならば。

 しかし、まぁ、今ばかりは死ぬわけにはいかない。

「・・・・・」

 空人。

 恐らく、相談に乗る、という言葉からあいつは何か悩みを抱えているのだろう。お見舞いもしてくれたし、普段からお世話になっているからな、はやく風邪を治して相談に乗ってやろうとヒメちゃんからのおかゆを食べつつ思うのであった。

 締まらないな・・・。

今回からまた章が変わります。


ですが今回は普通のナンバリングとは違って間章、ということで合間の話となっております。


簡単にいえばお休み回みたいなものです。ですががっつり本編と絡んでいる上に本編と変わらないのでぜひ、読んでいただければと思います。


ではまた次回。

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