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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第3章 スクールフェスティバルタイフーン夏13号
22/69

第21日 全てを楽しむ宇宙人。

 俺がシキブさんと歩いている。

 正直、この組み合わせは自分でもありえないレベルだ。全く想像できなかった。というかシキブさんは案外初対面の人とも普通に話せるような人なのだろうか。俺は無理だ。金髪なのに。いや、それは偏見だけれど。今はシキブさんに引っ張られて話しているようなものなのだ。

「あれはなんですか?」

「え?あぁ、あれはヨーヨーです。水風船ヨーヨー」

「よーよー?」

「あのー手でこう・・・バンバンって、こうバンバンバンってバンバンバンバンバンバンって」

 ひたすらに手を上下させる俺。すごく悲しい光景だ。エアヨーヨーって。

 しかしシキブさんは俺の手をずっと目で追っていた。

「ばんばん・・・」

 シキブさんもマネて手を上下させる。

「少しやってみましょうか」

「あ、そうっすか?」

 俺はシキブさんを連れて水風船でできたお祭ベタなヨーヨーを買うことにする。まさかこれに食いつくとは思わなかったな。まぁ、おふざけ程度で買っている人や子供連れはいるが・・・。

 俺は2人分のお金を出す。シキブさんは自分の分を出そうとしたのだがここぐらいかっこつけさせてほしい。先ほどから俺はおどおどしてばかりだからな。

「はい」

「ありがとうございます、七実さん」

 シキブさんは大仰に頭を下げる。

「いえいえ、そんな200円ですし」

 正直このボンボンに200円・・・とは思うものの普通のお祭よりは良心的な価格だろう。俺はシキブさんに手渡し、自らも指にヨーヨーのゴム部分をはめる。

「これですよ、こういう感じに」

 バンバンと叩き続ける。バンバン。バンバン。なんだこれ、何が面白いんだ。いや。俺も初めてこれを見たときは大好きだったからなぁ・・・。

 シキブさんを見ると俺の方を見てかたまっていた。

「あの・・・割れたりしないんですか?」

「割れる?大丈夫ですよ。ほら」

 俺はバンバンバンバンと引き続きもっと強くたたき続ける。しかし全く割れない。まぁ、それはそうだろう。割れたらまず不良品だろうな。

「・・・・・・」

 シキブさんは無言でばんばん、と小さくたたき続けていた。しかししだいに威力を強める。バンバン。バンバン。バンバンバンバン。

「おお・・・」

 シキブさんが感心する。

 完全にはまってしまったらしい。すごい勢いでやり続けている。

「あの・・・シキブさん?」

「すみません、すっかり夢中になってしまいました」

 バンバンをやめ、俺に向き直る。いや、いいっすよ。全然。

「さて・・・次はどこにいきましょうか」

「うーん・・・そうですね・・・」

 俺とシキブさんの祭はまだまだ続く。





 あたしのクラスの友達と一緒に遊んでいたらはぐれてしまった。どこに行ってしまったのだろうか。というかあたし対みんな、ではなく、あたし、それからみんなもバラバラになってすまったみたい。今、メールで分かった。

「うーん・・・」

 あたしは背が低い。そのためかまわりに人がいると全く分からなくなる。あたりが見渡せない。ここは不便だ。すぐに人のいなさそうな門あたりに行こうとする。

 するとまたもやメール。居場所を教えてくれた。やはりみんなバラバラなのでどこか一か所に集まることにした。もちろん待ち合わせだ。

「えっと・・・」

 そこに行こうとした時、またもやメールが。

 ハルンさんからだ。

「・・・・・・・・・・なにこれ」

 なぜか白木くんが姫岡くんにダイブしている写メが送られてきた。なんで?しかも文面は怒り顔の絵文字である。どういう意味なのかが分からない。

「まぁ、いっか」

 あたしは待ち合わせ場所へ向かおうと歩き出した。








「いやー大繁盛ですねー」

「そうだな・・・」

 休憩室にて、俺とワン太は休みをもらい休んでいた。暑い。とにかく暑い。汗をかきまくり、中に来ているTシャツがなければウェイター衣装もびちょびちょになっていたことだろう。

 休憩室に置いてある扇風機の電源を入れる。あー涼しい。

「ワレワレハ・・・・・・」

 と、そこまで言ってからしまった!と気付く。

 ワン太を見ると瞳を輝かせていた。自分の癖を恨む。

「キラキラキラ・・・・・・」

「ど、どうぞ・・・」

 ごほんと1つ咳払いしてから思いっきり満面の笑みで、

「ワレワレハウチュウージン!!」

 と言った。確かにすごくはあるが、なんかもう力みすぎてまったく宇宙人っぽくない。

「ご清聴ありがとうございました」

 むふふ、と笑って俺を見る。なんだそのしてやったり顔は。

「てかお前大丈夫か?かなり忙しかったけど」

「はい、楽しかったですよほんとに」

 本当に楽しそうな顔をするな、こいつは。いや、そう言っているけれどさ。これでこそ、俺が体をはった甲斐があるというものだ。そんな大げさなことじゃないが。

「ワン太、これから夏休みとかもあるんだ。夏はまだ疲れてる場合じゃないぜ」

「もちろんです。遊びまくりましょう」

「いや、勉強・・・」

 忘れてはならない。俺達が受験生だということを・・・。

「ワン太は大学も行くのか?」

 実質親から地球滞在オーケーをもらっている(恐らくだが)ワン太はまだ居続けようと思えばいれる。もちろん、大学やその先の就職にも。

「そうですね・・・いければいいですね、最高です」

「そんなに地球が気にいったのか・・・」

 だからこそバズーカちゃんにもこの地球を楽しんでほしかった。彼女は何か他の宇宙人とは違う。害を及ぼすなんてことはなくむしろ優しささえ感じた。

 なんだったのだろう・・・俺を殺そうとしているのに感じるのは優しさ・・・どうにもおかしい。

 それを言うならこいつからも優しさを感じるがな。

「お、ヒメちゃん」

 そこにヒメちゃん、もちろんメイド服、が入ってくる。

「つ、つかれた・・・」

「ヒメ岡さん、こっちこっち」

 ワン太が手招きして扇風機の前に座らせる。メイド服での正座。可愛い。

「涼しい」

「ふふふ、そうでしょう」

 なぜワン太が得意げなのか。

「あ、僕ばっかり独占しちゃってごめんね、いまどくから」

「いやいいよ。俺らはもう十分涼んだし、もう休憩も終わりだ」

「はい、お昼時、ラストスパートです!」

「うん、頑張ろうね」

 僕ももう少ししたらいくよ、と声をかけてくれるヒメちゃん。ゆっくり休んでくれ。

 俺とワン太は再び戦場へと戻るべく、教室を出た。










 神崎さんを見つけた。

 シキブさんとも知り合いではあるし、とりあえず声をかけておこうかなぁと思ってだいぶ近づいたらそこにはなぜかチンピラがいた。すごい絡まれてるじゃん・・・。

「お嬢ちゃん、一緒に遊ばない?」

「い、いやです・・・」

 なんという分かりやすい展開。最近漫画でもこんな展開ないぞ。しかし厄介なのは相手が学生の不良ではなく20そこそこのチンピラだという点だ。これは少しだけめんどくさくなるかもしれない。

「どうかしましたか?」

 その気配を察したのか真剣な表情で俺の方をシキブさんが向いた。というかシキブさん買いすぎ。焼きそばにイカ焼きにたこ焼き、お好み焼きって重いものばっかりだし。

「あーすいません。ちょっとここで待っててください」

 なぜ離れた位置でシキブさんを待たせたのか。そんなことは自分が一番分かっている。見られたくないのだ、今から自分がすることを、特に知り合いには。

 絡まれている本人である神崎さんには見られてしまうがしょうがない。本当にあまりいいことではないのだけれど。

 俺は走って神崎さんとチンピラの間に入りこんだ。

「七実くん・・・・・」

 驚く神崎さんに軽く笑ってから目つきを悪くして相手を睨む。

「よ、俺の彼女になんか用か?」

「かのじょ・・・!」

 後ろで何か照れているがそれは無視。今、気を緩ませるわけにはいかない。俺は前の恐かった頃の自分だということを相手に分からせなければいけないのだから。

「ああ?誰だてめぇ・・・・・・・・はっ!」

 急にチンピラ3人が驚いたような顔をした。

「お、お前は・・・まさか」

「その金髪・・・それにその目つき・・・完璧にそうだ・・・!」

「に、逃げろ!こいつは七実空人!最悪最凶の人間だー!」

 逃げていくチンピラ3人。

 なんというかすさまじく弱そうなやつらではあったな・・・言う言葉言う言葉全部が三流っぽかったし。でも複雑だ。顔見て逃げられるって相手がチンピラでもある程度ショックである。

「ふぅ・・・で、大丈夫だったか?神崎さん」

「!!・・・え、えぇ・・その大丈夫よ」

 なぜかすごく動きがかちこちしている。よほど怖かったのだろう。

「あ、そうそう。さっきは嘘とはいえ、彼女扱いとかしちゃってすまん」

「う、ううん、気にしてないから・・・から・・・」

「から?」

「気にしてないからあんまこっち見ないでー!」

 と叫んだあと、張り手。すなわちビンタ。軽い感じではあったが俺が思わず横を向いてしまう威力があった。そ、そんなに嫌がることなのか・・・怒りで顔が真っ赤だったぞ・・・おい。

 クラスメイトから「彼氏?あんたが?キモイ」って言われた後みたいなダメージを負いつつシキブさんのところに戻る。シキブさんはまっすぐ俺を見ていた。

「なんか変なとこ、見せちゃいましたね・・・」

「えぇ、まさか私もあなたがビンタされるとは思いませんでした」

「そこ!?」

 チンピラのことじゃなくて!?

「冗談ですよ」

 かすかに微笑むシキブさん。笑わない印象だったが大笑いしないだけで思ったよりも笑っているらしい。冗談とは思えない顔でしたよ・・・真顔で・・・。

「いや、でもほらなんかいいこととは思えないじゃないですか、チンピラをにらんだだけで逃走させるって・・・どんな異能だよって話で・・・」

 俺が今までどんなことをしてきたのかというのを客観的に知らされるのがこういう場面であった。不良やチンピラ相手に睨みをきかす。それだけで相手は逃げていく。そんなに恐ろしいことを俺はしていたのか。そんなに恐ろしい存在になっていたのか。

 笑えない。こればかりは俺が負うしかない傷ではあるけれど全然笑えなかった。

 ハルンさんには友達だと思ってもいいということを学んだ。だけど今までのことが帳消しになるわけではない。俺が傷つけた人たちの傷は今でもちゃんと残っている。

「・・・・・ほんと、せっかくの祭なのにしんみりしちゃって・・・どうしようもないんですよ」

「そう、ですかね」

 きょとんと不思議そうに首をかしげていた。その仕草はまるで子供みたいだ。

「今、あなたがやったことはチンピラを逃がしたことでも恐れられることでもないような気がしますけれど・・・」

「・・・・・」

「あなたがやったのは友達を守った、ということじゃないんですか?」

「俺が・・・友達を・・・?」

「あなたが何をしたのかは分かりませんが、でも今のあなたの行動を否定する人なんていませんよ」

 私も、姫様も、もちろんあなたの友達も。

 そう言ってくれた。

「そう・・・っすかね」

 だからここだけは、シキブさんの前だけは弱ったところを見せてはいけない。俺はいつものように笑う。いつものように。

 ここでも俺はひねくれている。本当はただ嬉しかった。弱ったところを見せてはいけないのではなく、今のは単純な嬉しさからくる笑い。そうに違いない。

「そうですよ。では一緒にお祭回りましょうか」

「はい」

 この時、いろいろな気持ちが動いていたということを俺はまだ知らない。

宇宙人がいるのにひたすら日常。本当に日常です。


今後も日常+少し不思議な感じというのを目指して頑張ります。


まだ先の話ですが、最終回を書くのが楽しみだったりします。物語の完結って寂しいですけれど書いてると一番盛り上がるかもしれません。


ではまた次回。

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