第19日 たくさん想う宇宙人。
バズーカちゃんがいなくなってから数日後。学校祭の準備もいよいよ本格化して土日も関係なしに準備する日が多くなった。カフェのようにしたいらしく、小物を作りまくっている。
カフェで焼きそば・・・?という意見もあったが店名があれなのでもう気にしない。雰囲気だけでもオシャレにという悲しい事態なのだ。
「・・・・・」
しかし俺は少しだけバズーカちゃんの言うことが気になっていた。彼女の使命が俺の気持ちに?何を言っているんだ・・・。何度考えても分からない。
「とりあえず・・・って感じだな」
目の前のことをしなくては。俺は学校祭の準備へととりかかった。
〇
ハノちゃんがどこかへ行ってしまった。ハルンさんの先生であるシキブさんの話によると強いので大丈夫だとかなんとか。でも心配じゃないわけじゃない。すごく心配だ。
しかしどうすることもできない。いろいろなところを探したけれどいない。あたしにはどうすることもできなかった。
「ん?」
あたしが廊下を歩いていると珍しく同じクラスの姫岡小花くんがいた。相変わらず女であるあたしが見ても全てが可愛らしい。全部が女の子より女の子なのだ。
そういえばあたしたちは白木くんを通してでしか話したことがないなぁと思い、あたしは声をかけることにした。
「姫岡くん」
「あ、神崎さん」
1人で何をしているのかと思ったが絵具用の水を水道にくみに行く途中らしい。なかなかに大きいバケツではあるので1人で持たせるわけにはいかない。
「水汲み?あたしも手伝うよ」
「わぁ、ありがとう。1人で困ってたんだ。でもみんな忙しそうだし」
やはり気のきく人なのだろう。この人が好かれているのは外見だけではない。中身も好かれているからこそ友達が多いのだ。
「あたしは今、暇だから」
そう言って隣に並ぶ。
「あの・・・姫岡くんは宇宙人って信じる?」
「ん?」
本当にきょとんとした顔をする。なにその質問?というような顔だ。それはそうだろう。会話の一番最初を飾るにしてはおかしすぎる。
「んー、信じてはいないけどいたら面白そうだなぁとは思うかな」
「?ハルンさんのことは?」
あたしはハルンさんは宇宙人だと思っている。自分で証拠をつかむまでは疑っている、にとどまることになるんだろうけれど。
「い、いや、ごめん。そのハノちゃんとかシキブさんは?」
そこでハルンさんその人のことをきくのはずるいと思い、対象を変える。
「ハノ・・・って希くんが話していた子かー。うん、信じてるよ。だからいて面白いなぁって」
「・・・・・」
何か話がかみ合っていないらしい。しかし、まぁ、本当にぽわーんとしか分かってはいないのかもしれない。宇宙人を信じるというより白木くんを、友達を信じてるって感じだけど。
「白木くんが嘘をついている・・・とは考えなかったの?」
「白木くんはそんな無意味な嘘吐かないと思うんだよね。それに空人くんが宇宙人の証拠見たって言ってたし」
「でも2人してあなたに嘘をついてるって可能性は・・・」
「それはないと思うよ」
そこだけはきっぱりとした口調でそう言う。いつものおどおどした雰囲気とはまるで別人だ。
「たぶんだけど空人くんを学校に戻してくれたのって白木くんとハルンさんだと思うんだよね。僕自身が見たわけじゃないんだけど白木くんも空人くんも同じ時期に怪我とかしてたし」
あまりそういうことに疎いとかって思ってたんだけど誰よりも気付いているらしく口調は少し自信なさげだが話し方はちゃんとしていた。
「だから僕は2人に感謝してるんだ」
「で、それがあなたが2人を信じることとどう関係があるの?」
「・・・・・あれ?」
首をかしげていた。うん、確かにすごい破壊力だ。男子だけではなく女子までもがメロメロになるということは理解できる。
「じゃあごめん。今のなし。もっと高校生らしい話題にするわ」
場所は折り返し地点。水飲み場まで来て水を汲んでいる最中だ。
「あなた好きな人とかいるの?」
「えへー!?」
今回は急な動揺だった。宇宙人の話で動揺しないでなぜここでするのだろう・・・。しかも「えへー」って・・・もっと違う驚き方があると思う。
「い、いないよ!なんで急に・・・」
顔を赤くして答える姫岡くん。これはいるから照れてるんじゃなくてこういう質問自体に耐性がないのだろう。確かに、好きな人いるの?と気軽に聞けるような外見ではない。異性に聞くのと同じ緊張感が漂うこと間違いなしだ。
「ふぅん・・・」
「そういう神崎さんは?」
「いないわ」
「そうなんだ。てっきりいるのかと思ってたよ」
「?どこでそんな風に?」
「んーなんとなく?」
そんな感じであった。なんというか不思議な気分になれる、そんな人だ。
知らず知らずのうちに教室に着いており、会話はここで途切れる。
「ありがとう。本当に助かったよ」
「どういたしまして。じゃあ、またね」
〇
「おや、おやおやおや・・・」
俺は階段で1人たたずむクラスメイトを見つけた。長い髪に大きな胸。なんというかまるで非の打ちどころがない人である。完璧、そういう2文字が似合う人。
「ハルンさん」
「ん?七実さん」
希を通さないで話すのは初めてかもしれないが、夕飯騒動のおかげで幾分か話しやすい。近くで見ると改めて綺麗な人だ。俺のくすんだ金髪が恥ずかしくなってしまう。
未だに俺は金髪をなおそうとは思わない。俺はたくさんの人を傷つけてしまった。妹のためとはいえ、それは決して許されることではない。だからこそ俺はそれを背負わねばならないのだ。
しかし希には本当に感謝している。それにもちろんハルンさんにも。
「こんなところで何やってんの?」
「いえ・・・手伝おうとしたらノゾムに断られまして・・・」
「わーお・・・」
普通こんなに綺麗な人が手伝おうとしたらまず断らないだろう。遠慮なくそういうことを言えるのはきっと仲がいい証拠だ。家族みたいなものになっているんだろうか。
「ずーっと聞きたかったんだけど、ハルンさんって希のこと好きなの?」
「好きですよ」
え?マジで?
あまりにもあっさり返ってきたので呆気にとられて何も言えなくなる。ほんとに?いや、もちろん本当なら友達として祝ってやらねば・・・でも希の気持ちもきいてないしなぁ・・・。
「私に優しいところも怒ってくれるところも一生懸命なところもひねくれているところも全部全部大好きです。本当にいいお友達だと思っています」
「なーる」
友達として、ってことね。それはそれで素晴らしいことではある。なかなか人間は人を好きだと認めることはできない。恋ではなく友情という面では特に。
それをここまできちっと言えるのは本当に羨ましかった。それはそう言えるハルンさんもそうだけどそう言われる希もだ。
そういう精神的な面でも人間と宇宙人は違うのだろうか。というかこの人宇宙人なんだよなー実際に見ちゃったし、すげーの。
「希もそれを聞いたら喜ぶよ」
「そうですかねー・・・気のせいかもしれませんがノゾムの私に対する態度が慣れてきて適当になってきているような気がするのですが」
「それも仲がいい証拠だって」
俺もいつか希や小花くん、それにハルンさんに神崎さん。彼らに友達だと、大好きだと言える日が来るんだろうか。とりあえず今は言えない。俺がそう言える価値のある人間にはなっていない。
「七実さんはみなさんのこと好きじゃないんですか?」
「俺?」
自分に質問が返ってくるとは思わなかった。
「俺は・・・そうだな・・・好き、かな。でもまだそう言えるような人間にはなっていないような気がするんだ。ハルンさんなら分かるでしょ、俺が何をしてきたか」
俺の不良の時のことを知っているあなたになら分かるはずだ。俺のしてきたことは許されていいことではない、ということに。
「うーん・・・よく分かりませんけど」
えぇー・・・。少しショックだよ。
「でも、好きって言ったじゃないですか、今」
「え?」
いや、確かに言ったけれど。それはこう・・・例というか。今君の質問に答えるとしたらであってちゃんとした答えではなかったんだけど・・・。
「ははっ・・・」
笑ってしまう。そうだ、確かに俺は今、好きだと言えたんだ。
「うん、そうだね」
今はとりあえずそれでいい。少しずつ少しずつ進むとしよう。
「ありがとう、ハルンさん」
「何がですか?」
少しだけ救われた気がした。
〇
「いい、シキブちゃんには可愛さが足りないの」
「はぁ・・・」
私は現在姫様のいるアパートでお世話になっている。そこの大家である彼女、愛ちゃんには本当にいろいろとお世話になっていた。彼女が暇なときはいつもこうして話し相手になってくれている。
「シキブちゃんって何歳?」
「20です」
「可愛さ真っ盛りな時じゃない!私はいつも全盛期だけど」
今日も大家さんはふりふりな服を着ている。それを言うなら今日も私は着物を着ているのだが。
「外見的なことじゃないの。もちろん服はいろいろと着るべきだけど、顔とかじゃない。顔はあなたはとてもかわいい。ではなにか。それは雰囲気、態度よ」
「態度・・・?」
「シキブちゃんは少しかたいの。それに髪も長いし。それ地面についてるじゃない」
確かにこれは長いのだろう。グリーン星だけでなく地球でもこの髪型は長いらしく、私が好きな平安時代とはだいぶ違いがあるようだ。
「ではどうしたらいいのでしょうか?」
特に可愛さを求めるつもりもないのだが、お世話になっている大家さんのためだ。ここはきっと私の何かがいけなかったに違いない。改めるとしよう。
「うーん・・・そうね・・・今からやることを全て覚えてのぞむーにやりなさい」
「あの少年にですか・・・?」
なぜ今、あの少年が出てくるのか分からないがきっと何かがあるはずだ。大事な何かが。
「まず帰ってきたら、普段はどうしてる?」
「普段は・・・おかえりなさいませ、です」
「違う・・・ぜんっっっっっぜん違うわ!それは執事じゃない!あなたはなに?WHO?WHAT?シキブちゃんでしょう!女の子でしょう!20歳でしょう!」
先ほどからなぜか20歳というところを強調してくる。なぜなのだろうか。
「私のマネをしなさい」
ごほん、とせきを1つして顔を変えた。
「うわーん、のぞむーおかえりー。ご飯にする?お風呂にするー?それとも、あ・い・ちゃ・ん?」
「・・・・・・」
できるわけがない。マネどころか似せようともしたくない。
「さぁ、やりなさい」
「いえ、自分には少しハードルが・・・」
「シキブちゃん・・・」
肩に手を置かれて無理やり前を向かせられる。
「あなた、そのハードルは誰が決めたの?」
「それは私ですが・・・」
「じゃあ、あなたが思うだけでそのハードルは変わるということよ。あなたが決めれるというのはあなたに決定権があるということ。そのハードルを超えるのも超えれないのも全部あなた次第なの。やる前から無理だと分かることなんて何1つないのよー」
私が20歳に戻ったりねーと笑う。また20歳を強調してきた。
「で、ですが私には似合いません」
「ノンノンノン、似合うわ」
有無を言わさない目。それがこちらを見る。
「わかりました」
仕方なしに折れる。ああ・・・あの恥ずべき姿をあの少年に見せなければいけないのか。なんたる屈辱。しかし大家さんは何か考えがあるに違いない。・・・・・と思いたかった。
〇
「終わったー・・・」
俺は道具を片づけ終わり、自分の作った小物を見る。やはりどれも素晴らしい。
夏で日も長くなり、まだ外は明るい。もう6時過ぎてんのになぁ。
「俺が引っ越して約3カ月かー・・・」
宇宙人に出会い、死にそうになり、さらには新しい友達ができたり。様々なことがこの3カ月で起こった。本当に様々なことが。
自分の教室、4階から外を見る。
そこには外で演劇の練習をしていたりでかい看板を作っている人たちがたくさんいた。
「学校祭かー・・・」
夏の初めの行事、学校祭が始まる。
また結局投稿できたパターンです。ですが本当に明日こそ無理なんではないかなぁと思います。いや、またするかもしれませんが。
というわけで、学校祭、恐らく次回から始まります。
ではまた次回。