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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第2章 帰りたがらない『かぐや姫』
14/69

第13日 無邪気に笑う宇宙人。

「私の星がなぜグリーン星という名前なのか分かりますか?」

「え・・・?」

 下校中の帰り道。不幸の指輪の試練を受けている俺にしてきたワン太の質問。その質問が俺に有益であると言っていたがどうにも俺とは関係なさそうなんだが。

 それとワン太の雰囲気。いつもよりもシリアスというか、儚い表情をしている。

「グリーンってことは環境に優しい・・・とか?」

「まぁ、半分正解ですね」

 そう言っていつものように微笑むワン太。

「環境、それに民に優しいのです。優しすぎるほどに」

「?」

 どういう意味だ?

「私の星は全ての恐怖を取り除いているのです。戦争も、もう少しスケールを小さくすると交通事故とか、もっと軽いただの転倒などでさえも私の星では起こりません」

「・・・・・いや」

 戦争はまだしも転倒は起こるだろ。どう考えても日常的に怪我はつきものである。大きな怪我でなかったら俺のこの全身の傷、小さい傷みたいなものは普通にできる。

「それができないように我が王家がしているのです。もちろん軍は別ですけれど」

「それ、軍って・・・恐怖の対象じゃないのか?」

「いいえ、あるだけ、ですよ。戦争を仕掛けられたらやり返す。そのように公言しておりますが、それはしません。誰が他の星に殺されようともやり返さずに撤退。それが王家の指針なのです」

「・・・・・」

 それはまたバレたら住んでる人たちとのいざこざが起こりそうなところだな。

「ですが、戦争なんて滅多に起こりませんよ」

 恐怖を、戦争でさえも取り除く。だからこいつは地球に共存しにきました、と言ったのだろう。戦争をする気はない、と。

「なるほどね。安全のグリーン、でもあるのか」

 信号機みたいだな。

「はい。だから私がよくやんちゃするとノゾムは姫だから怪我をしてはいけない、なんて言いますけれどもし、私がこの星で死んだとしてもお父様やお母様は私を見捨てて一生地球に関わらない方針に戻すだけなのです」

 だから安心していいですよ、と笑う。

 恐怖を取り除くために、恐怖したものを見捨てる。そこに関わらないことで恐怖しないようにする。完全にネガティブな考え方だ。

 この世には国同士でも相違点がたくさんある。え・・・そんな制度あんの?みたいなことも公民やらを勉強していたらすぐに見つかる。それが星規模になったら・・・。

 そこまで違うのか。

 外見が地球人と同じでどこか同じ星の者、せめて似ている者なのかと思ってはいたが、そうではないらしい。俺には理解できない。そんなものがたくさん溢れている。

 少しどうやって転倒なんて小さなものを防ぐのかが気にはなったが、俺の視界に入るものを見てその質問を飲み込んだ。

 トラックだ。

 俺達の方へと近づいてくる。恐らく、この指輪。不幸が来たのだろう。

「おいおい・・・これ死ぬんじゃないか・・・?」

「え?」

 ワン太が後ろを振り向くとそこには迫るトラック。

 このままでは俺だけではなく、ワン太までもが轢かれてしまう。幸いまわりには小さな路地があるのでそちらを駆使すれば防げる・・・かも。その間に別の不幸が起こるかもしれないし。

「逃げるか」

「え?い、いや・・・ノゾム、あのですね」

「今は話は後」

「え?でも・・・・・・」

 なんでそんなにモタモタしてるんだ。俺らの近くには少しずつトラックがきている。悠長にしている時間なんてものはない。

「ええい!なすようになれ!」

 俺はワン太を思いっきりお姫様だっこした。これ・・・重い。失礼になるから言わないけれどおんぶとかした方がよかったんじゃないだろうか。

 いや、でもそれでは背中に胸があたる・・・とても走れる状態ではないだろう。

「ちょっと、ノゾム!?」

「いいから!」

 俺は走り出す。トラックはさっきまでの俺らのところに行く前に軌道を変え俺が走ったほうへとむかってくる。やばい。どう考えても狙いは俺だ。

 しかしこのワン太。思わず抱えてきてしまったがどうしよう。

「ワン太、お前だけ次の分かれ道で右に曲がれ」

 恐らく、俺だけを狙っているのならワン太の方にはいかない・・・はず。しかし俺の方に来る、というのは俺の望むこと、すなわち幸でワン太の方にいくというのが望まないこと、すなわち不幸。

 ここで選択を誤れば間違いなくワン太は・・・。

「どうする・・・」

「あ、あのーノゾム」

「ワン太。お前が死んでも父親も母親も気にしない、捨てると言ったけれど、俺は気にする。絶対に気にする。死んでもいいなんて思わない」

 走りながらのため、息が続かない。もうそろそろ俺の腕の限界でもある。

「変わらずお前のことは心配する。絶対に見捨てない」

「・・・・・」

 そう言うとようやく分かってくれたのかワン太が黙る。しかしワン太は急に俺の腕から降りた。

「おい、ワン太!」

「ノゾム・・・」

 せつなげな表情。何をするつもりだ・・・。

「ノゾム・・・」

「ワン太ぁああああああ!」

「ノゾム、不幸の指輪では死に至る不幸なんて起こりませんよ」

「え・・・?」

 トラックは俺のすぐ隣を通り過ぎていき、靴紐を踏んでいった。・・・・・・・・それのみ。

 ・・・・・・・・・・。

「シキブが言っていたじゃないですか」

「・・・・・・・・・」

 なにが嫌かって・・・恥ずかしい。信じられないぐらい恥ずかしい。ワン太にかっこつけたことを言ってしまったのも恥ずかしいけれど、必死でお姫様だっこして爆走したことも。何もかもが恥だ。

「・・・・・・・」

「ノゾム。私のことを見捨てないんですね」

「・・・・・・・」

「心配してくれるんですよね」

「・・・・・・・」

 「うふふ」と笑うワン太。なんというか大人びた清楚な外見に似合う笑い方である。誰がこいつを見て宇宙人だと思おうか。普通に真面目な可愛い女子、と思うだろう。

「死んだら嫌なんですね」

「・・・・・・・」

 にやにやと詰め寄るワン太。ただ今は宇宙人というより悪魔だ。う、うぜぇ・・・見捨てないとか言ったそばから見捨てたくなる。

「あんなに最初は冷たかったのに。もしかしてツンデレってやつですか?」

 こいつ・・・言いたい放題いいやがって・・・。どんだけ苦労したか・・・マジでワン太が腕から降りた時はこ、こいつ死ぬ気か!?と思ったわ。

 今考えればあの場面でワン太が死んでも意味がないわけではあるが、本当にびびった。

「でも」

 とワン太は区切る。

「でも、嬉しかったです。誰にも見放されないのはとてもいいものなのですね」

「・・・・・・」

 ここで見たワン太はどう見ても普通の女の子。あんな暗い背景のある星に住んでいた、とは思えないほどだ。思わず見とれてしまう。

「ありがとうございました」

 そう言って頭を軽く下げる。

「別に。無事だったんならいいよ」

 俺は恥ずかしさを誤魔化すためにそう言ってアパートへと歩き出す。後ろで「うふふ」とまた笑い声が聞こえたけれど今度は無視。何も気にしない。







「シキブさん、終わりました」

「はい」

 不幸の試練、最終日。

 俺はアパートにてシキブさんに指輪を外してもらった。もちろん外すと石が砕ける。あれはずるしないための脅し、ではなく本当のことだったのか、と驚く。

「約束です。あなたに姫様をお任せしましょう」

「お任せって・・・自信はないけどな」

 シキブさんはおもむろに俺に顔を近づけてきた。え?なに・・・と思っていると耳元でささやかれる。

「姫様をお守りいただきありがとうございます。お姫様だっこ、素晴らしかったです」

「・・・・・・・・」

 最悪だ・・・ここまで伝わっていたのか。いや、恐らくあの言い方からして見ていたんだな。

「でも、本当なんですか。グリーン星のこと」

「姫様が言っていたことは全て本当です。私たち、宇宙人の特殊な力は全て怪我をしないようにするためのものなのです」

「あー、あのよく分からないやつか」

 情報改ざんうんぬん。それにテレポート。俺が知っているのはその程度のことではあるけれど。というかテレポートあるならワン太1人で逃げれたじゃん・・・まるで意味がなかったな俺の行動。

「確かにひどい星だと思われるかもしれませんが、しょうがないことなのです。大勢の人を犠牲にして1人を守るより1人を犠牲にして大勢を守るのが我が星の王家のお考えなのですから」

「・・・・・・で、シキブさんはワン太が心配で見に来た、と」

「はい。王様はいつか帰ってくるとおっしゃっていたのですが、それでは心配だったので」

 あいつの乗る宇宙船UFOが墜落したとき、他に護衛がいなかった理由が分かった気がする。もし、ワン太が恐怖を味わった時、護衛も味わってその全員を見捨てることになる。

 それよりもワン太1人見捨てた方が星の被害は少ない、ということか。ワン太ばかり我慢するのは平等じゃないと言ったがこれはある意味平等だ。

 星の民もワン太も同じ命の価値、と考えている。当然ではあるが・・・これではむしろワン太の命の方が軽いような気がしてしまう。

「王様は長い間争いや恐怖のないところに住んでいますから、地球が危険だということもよく知らないのですよ。平和ボケです」

「・・・・・」

 シキブさんはワン太の味方なだけで王様の味方ではないらしい。仮にも仕えるものとして王様を平和ボケって・・・ほんと綺麗な外見からは考えられない。そういうことじゃないかもだけど。

 というか、なぜそのグリーン星の秘密が俺の利益になるのかはいまだに分からない。ワン太の嘘・・・というわけではないだろうな。あいつが無意味な嘘をつくとは思えないし。

「でも、もうそんな心配もいりませんね。あなたに任せることができる」

「シキブさんがこの地球にいることはできないんですか?」

「ふぇ?」

 意外な質問だったのか変な声を出して驚くシキブさん。

「あなたがいた方がワン太も嬉しいんじゃないですかね。別に今していた約束はワン太を帰らすか、帰らせないかであってあなたが帰るかどうかは別の話でしょ」

「・・・・・・いいんですか?」

「シキブさんがいいなら」

 俺は部屋に戻る。シキブさんがどうするのか、ということはきっと明日の朝分かるのだろう。実はこの流れはすでにワン太と打ち合わせしていたのである。

「ワン太、これでいいんだよな」

 俺の部屋に待たせておいたワン太に声をかける。

「はい、ありがとうございます」

 こうして俺のまわりはまたにぎやかになるのかもしれない。自分から宇宙人を増やしてどうするんだろうか、俺。







 指輪。不幸の指輪は石が砕けていた。もうそこには何もない。

 シキブはその指輪を普通に捨てていた。アパートのゴミ箱にもう用済みだということで捨てたのだ。

『ピピピピーガーッ』

 テレビの砂嵐の音、機械音。

 映像が映し出されている。真っ暗な画面の下には小さく、また選択欄があった。

『先を続けますか?』

『YES』『NO』

『60秒以内に選ばない場合はYESとみなして進めます』

第2章が終わりました。


どうだったでしょうか。1章よりも短い話でしたが。


第3章は1章より長くなるんじゃないかなぁ、と思います。


ではまた次回。

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