第11日 信じて約束をする宇宙人。
「ただいまー・・・」
アパートのリビングに入るとワン太が食卓に座っていた。その向かいにはシキブさんがいる。
「あ、ノゾム」
「おう」
なんだか雰囲気がおかしい。シキブさんからは黒いオーラが。なぜかワン太からはキラキラとしたオーラが見える。なんだ・・・。
「ノゾム、シキブの話をきいてください」
「・・・・・」
俺も食卓に座る。
目の前にはシキブさん・・・・・・。
「なんですか?」
「あなたが姫様にふさわしい男かどうか見極めたいと思います。任せれると思ったら私は姫様から手を引きましょう」
「あれ・・・」
知らない間に変な話になっていた。そういえば忘れていたがこの人、ワン太を連れ戻しにきていたのだった。馴染みすぎなんだよ、地球に。
「・・・・・で、何をすればいいんだ?」
学校生活楽しめ、とかって言っておいてここで「なんか大変そうなんで、いいっすわ」みたいな感じで断れる勇気はない。断る方が勇気いるなんてほんとひどい話だ。
「これを」
俺に渡してきたのは指輪。黒い宝石がはめられていて、みていて不気味なものであった。
「不幸の指輪です。忍耐力が鍛えられるとわが軍が開発し、軍隊を鍛えているもの。つけた人間には不幸が次々とやってきます。でも安心してください、命にかかわるものはありませんので」
「つまり、俺がこれをつけたまま生活していればいい、ということか」
「YES。その通りです。1週間耐えられたら私は星に1人で帰るうえにさらに王様、とそのお妃様にも姫様はまだ帰れませんと伝えましょう。これで私のようなものが地球に来ることもありません」
なんだかいいことづくしだな。しかも期限が短い。1カ月とかそのぐらい耐えろと言われてもおかしくない話なのに。
「わかった」
「お風呂に入る時も何をするときも必ず身につけなさい。もし外したら自動的に宝石は破壊されます。なのでずるをしようとは考えない方がいいですよ」
「・・・・・・」
退路が絶たれた・・・。
別にはずすつもりはなかったが、もし、万が一やばくなってもばれないだろうと考えていたのに。
「不幸、といってもなめない方がいいですよ。不幸ばかりおきるということはかなり辛いことです。それこそ精神がおかしくなってしまってもしょうがないくらいには」
「え・・・命にはかかわらないって・・・」
「精神がおかしくなっても死にはしません。それにおかしくなる人なんて我が星の軍にはいませんでしたから」
「いや、俺と軍人を一緒にするな」
辛い訓練も何もしていないような人間にそんな期待をしないでくれ。
「きらきらきらきら」
「ワン太、目線がうっとおしい」
なるほど、俺が頑張ればワン太はここにいれる、と。だからこんなに輝いた目で見ているのかこいつは。というかシキブさんやっぱり諦めてなかったんすね・・・。
「では今から1週間後、です」
「今からでいいのか?もう夕方だが」
普通朝から始めた方がいいと思うんだけど。しかし言ってから後悔した。自分に不利なように話をもっていってどうする・・・これで相手が心変わりしたら・・・。
「いいですよ、サービスです」
「・・・・・どうも」
あまりにもはっきりとそういう彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
完全になめられている。
「うわ・・・マジで気味悪い宝石だな・・・」
真っ黒なそれは照明の光の反射さえも飲み込んでしまうようなものだった。
「まぁ、でも命かけるよりかはマシだ」
「私が人の命をチップや人形に封じ込めて集める趣味をもっているように見えますか?」
「あんたがどんな漫画を好きなのかということははわかった」
教育係って勉強だけではなく、そういうことも知らなければいけないのか。
「ではつけてください」
「はいはい」
俺はその指輪を受け取り、そして指にはめた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
何も起こらない。
「では私は姫様の部屋へ行かせていただきます」
「私はまだここに残ります」
そう言ってワン太は一緒に食卓に、シキブさんは部屋へと帰って行った。
「なんだ・・・あまりにも脅すからどんなことが起こるのかと思ったけど・・・拍子抜けだな」
「私もそれがどんなものか知らないんですよね。でも不幸ってことは転んだり、つまずいたり?ってことですか」
「その程度だったらいいんだがな」
転ぶこともいいとは言えないが変なことが起こるのよりはいい。
「じゃあ、ワン太、俺も部屋に戻るわ」
俺はそう言うと席をたつ。
それと同時にガッ!という音がした。
「いってぇ!」
足の小指を椅子にぶつけてしまったらしい。慌てて小指の様子を見ようと食卓のテーブルに手を置いて足を上げる。するとガタッという音。
「おわぁ!」
テーブルが崩れてそこに手を置いていた俺までもが床へと倒れる。
「いったぁ・・・って・・・テーブルが・・・」
俺は起き上ろうとすると頭上からブチッという音がした。
「がっ・・・」
上から照明が落ちてきた。紐でぶら下げてあるわけではなく、金属で固定してあるのだが、それがどんな理由か俺の上に落ちてきたらしい。
「だ、大丈夫ですか!」
「いってー・・・けど、大丈夫。どこもかしこも軽くぶつかった程度のものだし」
こんだけのことが起こっているのに一切重傷にはならない。命にかかわることがおきない。
「も、もしかして・・・」
これがこの不幸の指輪のせいなのか・・・?
「とりあえず大家さんに謝らないとな・・・」
俺は無事だったものの家具は無事ではない。大家さんにそのことを話すのは少しだけ気が引けたけれど隠しておくこともできない。
〇
大家さんに言うと「ちょうどテーブルと照明を変えようと思ってたのー☆でもまだ使えるうちは我慢しようかなって思ってたんだけどおかげで変えれるわー☆」と言っていた。なぜだか俺の不幸は相手の幸せへとつながるらしい。恐ろしい。
「ってなことがあったんだよ・・・」
「そ、それは・・・」
「大変だね・・・」
学校で俺はこのことを空人とヒメちゃんに話してみたのだが、げんなりされてしまった。もちろん聞かれたらあれな話なので教室ではない。登校途中だ。
「あの着物の姉ちゃんが宇宙人ねー・・・見えないよなぁどう見ても」
「しかも超怖いの。ワン太溺愛しててさー・・・っつ!」
シャーペンをいじくりながら話していたらシャー芯が手に少し刺さってしまった。おい、不幸ってシキブさんの気持ちと呼応しておこるわけじゃないよな・・・悪口ってか陰口を言ったからじゃないよ、な。
「大丈夫?」
ヒメちゃんが心配そうな顔で手を見る。今、あなたの顔を見て大丈夫になりました。
「平気平気、少し血がでてるけど」
「みせて」
そう言うとヒメちゃんは俺の傷を見て、カバンから小さなポシェットのようなものを取り出した。そこから開けて出したのは絆創膏。
「ちょっと待っててね」
絆創膏を袋から出すのに少し苦戦した後、絆創膏を俺の指に貼ってくれた。可愛らしい花柄の絆創膏である。ヒメちゃんが俺の中で神格化され始めていた。
「はい、できたよ」
「あああ・・・」
飢えてこの世に絶望した人間が崇拝している神様を見るが如く・・・俺はヒメちゃんを見た。
「ありがとうございます・・・」
「な、なんで手を合わせるの?」
感謝の気持ちですよ、もちろん。なんだ・・・こんなに幸せなことが起こるなんてあの不幸の指輪もあまり効力がないんだな。
「まさかその指輪も怪我して喜ぶとは思わないだろうな・・・」
空人がなんか言っていたが気にしない。別に怪我を喜んでいるわけじゃないのだ。
「あ・・・」
今日は何か特別な持ち物があっただろうか、と歩きながらカバンの中の時間割を探すと次は親指にシャー芯が。
「いつつ、はは、またやっちゃった」
あははははは、と笑う。空人もヒメちゃんも笑っていた。ヒメちゃんはまた絆創膏を貼ってくれる。うんうん、ありがたい。時間割はどこかなー。
「さてと」
ぷすっ。今度は人差し指。
「ははは、もういいかげん学習しろよ、俺」
ぷすっ。中指。
「いやぁー参ったなぁ」
ぷすっ。くすり指。
「はは・・・い、いやぁ、偶然ってスゴイネ・・・」
ぷすっ。小指。
「これで片方の指全滅・・・だぜ・・・ははは」
ぷすっ。違う手の親指。
「うわぁあああああああああああああああああああ!!!!!」
違う手にきたところで俺、発狂。
「なんだこれ、なんだこれ!」
「おい、希、それ外した方がいいんじゃないか!?」
「い、いや・・・でも・・・」
それじゃあワン太が・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ヒメちゃんが息を荒げていた。なんかエロい、とかって思っていたら俺の指全部に絆創膏を次々と貼っていてくれていたみたいだ。もちろん違う方の手まで。
「ひ、ヒメちゃん、ごめん」
「う、ううん。大丈夫。でも絆創膏足りなくて一個傷ふさげなかったんだ・・・」
そこでようやくシャー芯地獄が終わったらしい。どうしても俺に傷をつけたかったみたいだ。
「お、俺だけじゃなくヒメちゃんにまで不幸を・・・許せんッ!」
俺が鬼の形相で怒る。この指輪、ただぶっ壊すだけじゃ気がすまねぇ!
「い、1週間後、覚悟しやがれ・・・」
しかし今は壊すわけにはいかない。この勝負をのんだ以上俺が負ければワン太の我がままさえも通用しなくなる。この試練を受けていない時よりも受けた時の方が不利になっている。今までは勝負なんてしていなかったからワン太が帰らなければいい話。我がままが通用するのだ。
でも、今は違う。俺は勝負を受けて、ワン太は俺を信じた。ここで俺は勝負を捨てたらワン太は問答無用で強制送還だ。
「くそ・・・」
シキブさん。対等な勝負を仕掛けてきたようにみせかけて俺は不利な方へと運ばれていたらしい。策士!いや、俺が馬鹿なだけか。
俺の指を見るとそこにはお花畑が。花柄の絆創膏が並ぶだけでこんなにも綺麗なんですね。
「おい、希。なんか現実逃避してないか・・・?」
「大丈夫、じゃないよね・・・」
2人の心配する声もその時はもう聞こえなかった上になぜ登校途中にシャーペンをいじっていたのかということを不思議がる人間もいなかった。怖い話になりつつあるな・・・。
〇
「あらまぁ、お兄さん。そんな辛気臭い顔してどうしたんですか?」
「・・・・・猫ちゃん・・・」
俺は帰り道、アパートに帰る途中で猫ちゃんと会った。本当に不思議そうな顔できょとんとしている。
俺は当初、猫ちゃんを普通に同い年と勘違いしていたが、外見だけ見ると中学生っぽい。なので普通なら間違えるはずもないのだが、しかし雰囲気が違う。なにか貫禄がある。
「ははは・・・聞いてくれるかい?」
「なんかキャラまで変わってません・・・?」
また少し不思議そうな顔をしているが、そんなことで驚いてたら身がもたないぜ。
「ほら・・・見て・・・俺の靴の裏」
「靴の裏?・・・・・・・うわぁ・・・」
盛大にドン引いていた。俺も猫ちゃんなら引く。でも俺は俺だった。
「学校からここまで来るのにガム、57個ふんじゃった・・・」
「57・・・よくもまぁ、逆にそんな数踏めましたね・・・」
俺が足を出すとそこにはガムが!みたいな展開57回も続くとどうでもよくなる。最初は「うわぁ!」とかって新鮮なリアクションをしていたが、そうは言っていられない。もうリアクションもとれない。
「俺も驚きさ・・・おっと、そういえば猫ちゃん、前パーティーの時に持ってきてくれた漬物おいしかったよ、ありがとう」
「急ですね。いえいえ、ママがそういうの作るの好きなので」
毎回作りすぎるので愛ちゃんのところに持っていってるんですよー、と笑う。
「お礼といってはなんだけど、俺も昨日料理を作ってさ、初めてだったんだけど」
「え?何を作ったんですか?」
「うん?大家さんに手伝ってもらってクッキーを」
「すごいじゃないですか!」
「いや、ワン太にも軽く手伝ってもらったし、俺は混ぜるとかしかしてないよ」
ちなみにワン太も道具を出す程度のことしかしていない。作ったのはほとんど大家さんである。
「えーと、あ、ごめん・・・クッキー、さっき地面に落したんだった・・・」
「・・・・・えぇ・・・」
猫ちゃんが俺の不幸っぷりにまた引いていた。
「あ、でもいくつかは無事だったはず。落としても入れ物の中に残ってたんだよね」
「で、ですよねー。普通さすがに全部落とすってどんだけ不幸なんだよって話ですよねー」
「あ・・・そういえばそれも信じられないパワーとスピードで蟻にもってかれたんだった・・・」
「・・・・・・」
あれは新種の蟻だよ。あんなはやく走らないもん、蟻。絶対キメラア〇トだったわ。
「お、お兄さん。今日はもう休んだ方が・・・」
「あ・・・筆箱だと思ったの、黒板消しだった・・・取りに帰ろう」
「ちょ、お兄さん!筆箱なんて明日でもいいじゃないですか」
「いや、あそこには今日返却された小テストの恥ずかしい点数が入ってるんだ・・・」
「・・・・・・」
「それに弁当箱だと思ってたのハンペンだった」
「なんでですか!?」
それ不幸とかじゃなくてボケてません!?とわざわざつっこんでくれる猫ちゃん。
「とりあえず学校に・・・・・」
振り返ると石につまずいて転んでしまう。どてーん!という漫画みたいな音がした。
「いてて・・・」
「大丈夫・・・ですか・・・?」
「ははは・・・大丈夫。よっと・・・」
起き上ろうとするとカバンが開いていたのか教科書が地面にばさー。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しかも今やってる範囲の部分がなぜか綺麗に破れていた。
「で、でもテープとかで貼れば大丈夫ですよ」
その瞬間、キメラア〇トたちがすぐに敗れたページをどこかへ運んで行った。
「う、うわーお・・・」
「・・・・・・・・・」
「お、お兄さん・・・?」
「・・・・・・・・・」
「な、泣いたまま気絶してる・・・・・!」
「・・・・・・・・・」
気絶してなお君臨する俺。なんてのはここではとてつもなくかっこ悪い。やはり漫画のようにはいかない・・・と思ってからすぐにこの不幸が全部漫画チックなことに気付く。
あと6日、耐えれるかなぁ・・・。
結局投稿できました・・・。
明日こそあやしいかも!と今のうちに言っておきます。
サブタイトルはめっちゃいいこと書かれていますが、内容はもうあれです。ひどいです。
もしよければ次回からもよろしくお願いします。
ではまた次回。