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唐突にお隣さんは宇宙人。  作者: 花澤文化
第2章 帰りたがらない『かぐや姫』
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第10日 友情を結ぶ宇宙人。

 神崎さんだけが気付いていた抉れた部分の拡大。なぜそうなったのか。なぜ神埼さんが気付いたのか。なぜ神崎さんだけが気付くことができたのか。

 疑問はある。けれど今は俺が招いたパーティーだ。辛気臭い顔をしているわけにはいかない。全力で楽しむか。

 ワン太と神埼さんの話は料理ができたと同時に終わったらしい。何か言いたげだったがシキブさんがいる前で質問はあまりよくない、と判断したのだろう。これで神崎さんがうちにきた理由判明である。

 するとちょうど大家さん、ワン太、シキブさんが料理を持ってくる。別にいいけどシキブさん今日1日ですごい馴染んでるな・・・。

「俺も運びますよ」

「のぞむーは座ってなさい、うふふ。ハルンちゃんからプレゼントがあるらしいわよ」

 ばちん!とウィンクする。ウィンクというよりホッチキスみたいな威力があった。怖い。

「プレゼント・・・?」

 考える暇もなく、料理が次々と並ぶ。すごい量だな、相変わらず。正直ワン太が結構食うのであまり気にする必要はないかもしれないが。

「はーい、これで最後よー」

 最後に味噌汁を運んでくる。なんというか大家さんのビキニは味噌汁と全く合わなくてシュールだ。なんか異様な光景だ。

『いただきまーす』

 みんなが声をそろえて言う。

 食卓の上には唐揚げなどの肉系が多く、サラダなどの野菜類、白いご飯、ジュースなども置いてある。マジでパーティーみたいだ。

 そして最後に味噌汁。・・・・・・・・・と、俺の目の前にある得体のしれない魔女のスープ。

 あ、あれ・・・?

「あ、あの・・・大家さん、俺にだけこの魔女がぐつぐつ煮込んだみたいな紫色のスープがあるんですけれど・・・なんですかこれ?」

「ノゾム」

 ばちこん!と今度はワン太がウィンクをしてくる。しかし片目だけつぶるようなことができないのか両方の目を動かしている様はまぬけだ。少し可愛いけれど。

「ワン太・・・が?」

「はい、それはノゾムに作った私の料理です」

 べ、ベタすぎる!宇宙人が料理下手ってまぁ、想像できたよね!

「あ、あぁ、そうなんだ。でも俺はちょっとこれ・・・・・・」

「動かないでください」

 俺の背中に何かがあたる。どうやら指を銃のようにして背中に当てているみたいだ。もちろんその原因はシキブさん。すごい怖い顔をしている。

「まさか姫様が作ったものを食べれないとかじゃないですよね」

「・・・・・・」

 だらだらだらだら。

 冷や汗をかきまくる。

「食べなければ撃ちます。大丈夫です。死にはしませんから」

 死ななければいいって問題じゃない。具体的効力を知りたかった。教育係シキブさんはワン太のことを溺愛している。それは今までのことでなんとなく分かっていたがここまでだったとは。

「ふふふ、モテモテね」

「・・・・・・」

 大家さん気付いて!食卓の中に食べ物とは思えないものが混ざってますよ!失礼なので声には出さない。これを食べなきゃ死なないにしても何かしら危ないことが振りかかる・・・食べれば死ぬかも・・・どちらも選びたくない。

「お、なんだ希。お前だけ皿1つ多くないか?ハルンさんが作ったの、これ?へー」

「空人・・・」

「ってうわぁ!なんだこのヘドロみたいなやつ・・・・・・・がふっ!」

 俺は瞬時にスプーンでスープをすくい、空人の口の中へ放り込む。お前、変なことを口走るな・・・俺が危ないだろう。

「あはは・・・空人のやつそんなにワン太のスープが食いたかったのかこの食べざかりさんめ」

「いや、どうみても白木くんが食べさせたじゃない・・・」

 一部始終を見ていたのか神埼さんがつっこむ。自分で食べてたじゃん。俺は知らないよ。

 そして空人は椅子から崩れ落ちてその場に倒れた。白目で泡をふいている・・・・・。

「倒れるぐらいうまいんだなぁ」

「思いっきり泡吹いてるけど・・・」

 俺の言葉にまた神埼さんがつっこむ。えー、おいしかったら誰でも泡ふかせるよ。ワン太の料理がひと泡吹かせたんだよ。

「ふぅ・・・」

 しかしこれでなんとか実証できた。気絶はするけれど死にはしない。空人、お前の命無駄にはしない。

「んー・・・でも七実さん、なんかヘドロがどうのこうのって・・・ヘドロってなんでしたっけ?」

 ま、まずーい!ここでヘドロの意味なんか分かったら最悪だ。幸いシキブさんも知らないのか首をひねっている。確かによかったが教育係しっかりしろ。

「ワン太、唐突だが世界三大珍味って知っているか?」

「あ、聞いたことあります。確かものすごく高いんですよね。えーと・・・何と何と何でしたっけ?」

「キャビア、フォアグラ、ヘドロだ」

 トリュフさん、マジすいません。でもここは俺の命かかってるんでほんと見逃してください!

「あー言われてみればそんな感じでしたかね」

「ちょ、ちょっと白木くん、三大珍味って・・・・・」

「神埼さん」

 今度はワン太に聞えるぐらいの大きさでつっこみそうになった神埼さんの名前を呼ぶ。

「神埼さんって・・・・・スープ好きだったっけ・・・」

「!」

 ドドドドドドドドド

 緊張が走る。神崎さんは顔がこわばっていた。

 そう、脅しである。ここで神埼さんもスープ好きなんだってーみたいな話をすればワン太は神崎さんにも分けてしまうだろう。そうしてほしくなければ何も言うな、ということなのだ。

 脅されている人間が人間を脅す。悲しい生き物だな、人間は。

 劇画タッチな顔をして少しふふっ・・・と笑う。神埼さんは何かを言おうとしてすぐに口を閉じた。真面目なのだろう、だますことが許せないらしい。

 しかしこれはもう生易しい夕食じゃない。下手をすれば最後の晩餐にだってなりえる。

「それに神埼さん、君が一番好きな食べ物は?」

「ら、ラーメン」

 意外とこってりしたのが好きなのか。見た目からだとストロベリーとかって言いそうだが。

「もし、好きな食べ物、ラーメンってヘドロみたいだねって言われたら喜ぶでしょ?」

「喜ばないわよ!むしろキレるわ!」

 確かに好きな食べ物を侮辱されたらそれは気分が悪いよね。

「うん?」

 そこでヒメちゃんが何かに気付いたように顔を上げる。ヒメちゃんこの騒ぎの中普通にご飯を食べていたらしい。・・・・・・マジか。

 顔を上げたヒメちゃんが見たものはもちろん悔しそうな顔をして黙る神埼さんと床に倒れる空人。

「そ、空人くん!?それに神埼さんもどうしたの・・・?」

 ヒメちゃんは口のまわりを食べ物で汚していた。御飯粒もついている。可愛い。

「希くん?」

「いや、なんでもないんだ。なんでもないんだよ・・・」

 ヒメちゃんを、この純真無垢な天使を巻き込むわけにはいかない。ヒメちゃんが食べるぐらいなら俺が食べる。しかし問題はこの量だ。空人が一口食べただけで気絶。でも俺は一口では許されないのだろうな。なにより残すのはワン太に悪い。この宇宙人が元凶だが、悪気はない。

「希くんの近くにあるそれって何?スープ・・・?」

 しまった。ばれた。俺の目の前にある謎物質に気付いてしまった。

「いや、ヒメちゃん。これは食べ・・・た方がいいのは確かだが落ちついてくれ」

「う、うん」

 落ちつくのは俺の方だったが細かいことは気にしない。

「これは・・・あれだよ」

 なんかいい言いわけが思いつかないだろうか・・・。

「これはヘドロだ」

「なんで!?」

 な、なんで食器に入れてるの?という心底不思議そうな顔をしている。

「ふふん、そうなんですよ。私が作りました」

「ハルンさんが作ったの・・・これ・・・」

 なんかおかしい流れになりだした。

「七実さんがヘドロみたいだと褒めてくれました」

「それって褒めてるのかな・・・」

 ヒメちゃんには事情を説明していないため、困惑している。これはバレるのも時間の問題だ。

「さぁ、はやく姫様の作ったヘドロを食べなさい」

「・・・・・」

 あんたそれすごいひどいこと言ってるからね。俺よりひどいから、それ。

「あーシキブちゃーん」

「愛ちゃん様」

 愛ちゃん様ってなんだ。しかし大家さんがシキブさんに近づく。よし、これで恐怖が取り除かれる。

「私ー、帯ぐるぐるーってやって脱がせるのやってみたかったの☆」

「はい?」

 シキブさんが何言ってんだ、こいつというニュアンスを含んだ返事をする。

「そーれ」

「ちょ・・・愛ちゃん様!?」

 着物の帯に手をかける。よく見ていなかったがちゃんと帯をまわしてきている着物は1枚だけらしく、その上に何枚もの着物を帯をつけずに羽織っている格好だったらしい。

 だからその1枚が脱がされるとまずいことになる。

「ちょっと、大家さん、それやりすぎじゃあ」

「えいやー」

「い、いやぁああああ!み、見ないでください!」

「え?」

 俺の頭をシキブさんが掴み、そして・・・・・・・。

「がばっ!」

 ヘドロへイン!

 おかげでほとんど口に含み飲むことができたが・・・これはやばい、意識が遠のく。

「希くん!大丈夫!?ってき、着物のお姉さん!」

「これで起きているのは女の子のみですね。脱いでも平気です」

「僕男だよ!」

「ノゾム、そんなにがっつかなくてもまだまだたくさんありますのに」

 ガチャリ。ドアの開く音がする。

「すみませーん、愛ちゃん。おすそわけしにきました・・・けど・・・」

 この声は猫ちゃん。たまたま来た時にこの惨状。

「し、失礼しました・・・」

 そしてドアが閉まる音。その後を追いかける大家さんの姿が見えたところで意識がシャットアウト。

 さようなら。







「はっ!」

 気付くと、ここはリビング。時計を見ると10時だ。

 布団の中に入っており、何をしていたのかを探る。

「ああ・・・」

 ワン太の料理を食べて、それで・・・。

「・・・・・」

 あたりを見渡すとまだみんないた。え・・・大丈夫か。もう10時だけど。ちなみに住人は朝まで帰ってこないのでリビングにいることは別にいい。でも親とかが・・・。

「大丈夫よ」

「神崎さん」

 後ろを見ると神埼さんが起きていた。

「みんなあなたよりはやく目が覚めて親に泊まる連絡をしていたわ」

「そう・・・か・・・って神埼さん、許可でたの?」

 一応男もいっぱいいるけど。

「ハルンさんの家に泊まるって言ったわ。あなたたちがいることなんて言えるわけないじゃない」

 あははと笑う。こうして見ると本当に普通の女の子だ。いや、普通じゃないわけじゃないけどさ。

「ごめんなさいね」

「え?」

「みんなで楽しみたかったのにあたしがいたからその・・・ぎくしゃくとか」

「いや、楽しかったよ。みんなも、もちろん」

 まわりを見るとみんな笑顔で寝ていた。ヒメちゃんの寝顔について事細かに描写したかったが、自重しよう。何時間あっても足りない。

「んー・・・ノゾム」

「お前も起きたか」

 ワン太が目を覚まし、起き上がる。俺と空人以外はきっと普通に寝てしまったんだろうな。ちなみに猫ちゃんもいた。親に連絡とかしたのだろうか・・・中学生。

「ハルンさん」

「神埼さん」

「ごめんなさい」

 神崎さんが謝る。

「宇宙人だのどうのこうのって迷惑かけちゃって・・・」

「え?いや、だ、大丈夫ですよ」

「ううん、謝らせて」

 そう言って頭をちょこんと下げる。やはりいい人で真面目な人なのだろう。

「いいんですって。人間だって信じてくれたみたいですしね」

「いいえ」

 あ、あれ・・・?不穏な空気が。

「あたしはまだ諦めないわ。でももしあなたが宇宙人だったとしても他の人に言うことはやめる。だってお友達だしね。あなたが侵略だなんてありえないわ」

「神埼さん・・・」

「でも諦めないからね」

 そこだけは譲れないのか強く言う。誤解が解けたみたいだ。侵略は確かに共存、という意味であったし、それを何も聞かないで分かったのはすごい。

「それに白木くん」

「はい?」

 いきなり俺にふられたので驚く。

「というわけでこれからよろしくね」

「どういうわけ・・・?」

 なぜだか分からないが奇妙な友情が生まれた瞬間だった。







 次の日。

 あわててみんなでうちから登校。全員分のお弁当を作ってくれた大家さんは本当にすごい。でもなぜか尊敬できないのはなぜだろうか。あれだからか。

「なんで俺昨日気を失ってたんだろう・・・」

「それすらも気のせいじゃないのか?」

「僕はなんであんなことになったのか見当もつかないよ」

「ハルンさんって何か趣味あったりする?」

「えーと・・・落語をきいたりですかね」

 クラスでは昨日まではなかったチームで集まっていた。俺、空人、ヒメちゃんはいいとしてもそこにワン太、神崎さんまでもが加わっていた。

 目立たないようにとあまり学校ではワン太と絡んでなかったのだが、これで自然に話せそうである。

 神崎さんにもワン太のことを話そうとはしたが自分で解明する!みたいな意志が見えたのでそれはやめた。何気にワン太のことを宇宙人だと思う人は他にもいるのかもしれない。だってテレポートって。

「そういえば学校祭の準備まであと1カ月だね」

 この学校は夏休み前の7月頭にやるらしく準備もそれなりにはやい。

「そういえば希は転校生なんだっけ?」

「なんで知らないんだよ・・・」

 そういえば最初いなかったからな、お前。







「姫様・・・・・・」

「どうしたの、シキブちゃん」

 アパートにて、私は悩んでいた。姫様はこの生活を楽しんでいる。無理やり連れて行くなんてできない。そう思ってしまった、昨日の夕食で。

「どうしたらいいのかが分からないのです。どうしたいのかも分かりません」

 自分の使命、教育係としてはこのままここにいさせるわけにはいかない。けれど私個人としてならどうであろうか。

「うーん・・・とりあえずおいしいもの食べる、とかかな」

「おいしいもの・・・」

「昨日の残りでいいかな?」

「はい」

 私はどうしたいのか。それはまずご飯を食べてから考えよう。

 

明日が投稿できなさそうなので今日中に。


今回は全部日常!といった感じです。これからも日常!って感じの方が主となると思います。


ではまた次回。



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