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日曜の昼下がりだけあって、街は賑わっていた。俺はスマホを片手に歩く。
『んー! やっぱもう夏物いっぱい出てるねぇ。あれとかかわいー!』
「似たようなのいっぱい持ってるだろが」
『全然違うよー!』
俺は片耳にイヤホンを付けている。こうしてりゃ一人で喋ってても変な人には見えないだろう。完璧だ。
『季節は移り変わっていくんだよねぇ』
俺はちらりとアヤカを見た。アヤカは街を見回していて、俺の視線に気付いていない。
その表情はどことなく沈んでいた。
そうだよな。いくら街に来たと言ってももう生身の体じゃないんだもんな。生きていた頃との違いに暗くなるのも仕方がない。
「アヤカ! 好きなモン買ってやるよ!」
その顔を見ていたくなくて、俺はそう言っていた。
「ほら何でもいいから。どれがいい?」
アヤカはポカンとする。目をぱちくりさせて俺を見ていた。
『なに、急に』
「なにって……。妹孝行?」
深い理由があった訳ではない。ただ、妹に悲しい顔をさせていなくて思わず口をついていた。
「いやほら、こうして一緒に出かけたことってなかったよなって思って……」
子どもの頃は親に連れられてデパートとかに行ったこともある。だけど大きくなってからはそんなこともなかった。普通の兄妹でも普通のことだろう。
それが今になって、深い後悔の種になった。
『本当に、いいんだよ。こうやって外を見られるだけで充分』
そう言ったアヤカの目はどこか大人びていた。
大人になったアヤカをこの先見られることはない。アヤカの時はもう止まってしまった。
それを、強く感じた瞬間だった。