8
そう決まってからは早かった。
――あぁ、いいよー
二つ返事で動画作りを引き受けてくれたのは、ロノさんというらしい。
俺はこういう動画サイトに詳しくないから、アヤカに言わせると「知る人ぞ知る」動画師らしい。というかアヤカの方がこういうのに詳しいとは思わなかった。
『クラスで流行ってんのよ!!』
まぁ今さら照れ隠ししなくてもいいじゃないか。
それにしても兄妹だから好みが似てるのか、ロノさんが作る動画はどれもこれもストライクなものばかりだった。
――じゃあ音源送りますんでよろしくお願いします。あと……
ちらりと画面の片隅に佇むアヤカを見た。俺はパソコンからスマホに切り替える。
『なに? なんでこっちで送んないのよー!』
「うっせ。男同士の話に割り込むな」
『ロノさん女の人かもしんないじゃん!』
俺は無視して文字を打ち込む。
――イメージ画像はこんな感じなんですが、よければ使ってください
これはまだアヤカには秘密だ。怒られるかもしんないし。
「さて、と。しばらく根詰めてたしちょっとのんっびりすっかー」
『出かけようよ! 久々に街行きたーい!』
「っつってもお前そっから出れないだろ」
『物は試しだよ! ちょっとそっちにメール送ってみる!』
「あっおい!!」
アヤカは止める間もなくメールの新規作成ボタンを押すと、俺のスマホのアドレスを入力して送ってしまった。しばらくすると手にしたスマホが震えた。
『せーいこーう!!』
小さな画面にアヤカが踊る。
「『せーいこーう!!』じゃねーだろアヤカ! もし失敗してたらどうしてたんだ!!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。アヤカがびくっと肩を竦める。しまった……。
「あーいや……。怒ってる訳じゃないんだ。ただ……またアヤカがいなくなったらどうしようかって……」
そうだ。こんなに短期間で二度も妹を失う羽目になったら、って俺は怖かったんだ。ここから出してやりたいって思うけど、もし失敗してアヤカを失ったら――。耐えられそうもなかった。
『ごめん……』
アヤカは小さく呟いた。その体は縮こまってしまっている。
「いや、いいんだ。結果オーライだったし。……さ、出かけるか!」
『うん!』
アヤカはようやく笑顔になった。