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アヤカの部屋は当たり前だけど静まり返っていた。ピンクを基調とした部屋は女子高生らしく、可愛らしいもので溢れていた。まだそこに誰かが暮らしていたという空気は残っている。
俺はアヤカに言われたとおり、パソコンの電源を入れた。
『うん、やっぱ回線繋がってると移動できるみたい』
そこには俺の部屋のパソコンにいた姿と同じアヤカがいた。
『リビングのパソコンにも行けたんだよね。お兄ちゃんのスマホにもメール添付とかで行けるかも』
何が起こるか分かんないんだからやめてくれ……。本当にデータみたいなものなんだな。
『このファイルなんだけど……』
そう言ってアヤカはひとつのフォルダを手にした。“無題”のそのフォルダをアヤカは大事そうに抱えていて、俺はそれを見るのに躊躇した。
『いいから開けてよ』
アヤカに急かされて俺はそれをダブルクリックした。
「これは……」
そこにあったのはいくつもの動画ファイルだった。スピーカーをオンにして、一番左上のフォルダを開いた。
軽快な流行りのJ-POPのイントロが流れた後、アヤカの澄み切った歌声が響いてきた。アヤカは昔から歌がうまかった。カラオケでも高得点を叩き出していたらしい。
二人は黙って歌を聞いていた。一曲終わって次のファイルを開こうとしたとき、たまらずアヤカが口を開いた。
『黙ってないで感想は!?』
「え、ごめん。他のも聞きたいと思って」
そう言うとアヤカはぐっと言葉を詰まらせた。
『……良かったってこと?』
「あぁ。ていうかお前の歌がうまいのは昔から知ってんじゃん。俺は好きだよ?」
その言葉にまた何も言えなくなっている。高校入ってツンツンしだしたけど、元々は素直な性格なんだよなぁ。
『あの、ね? あたしずっとなりたかったものがあるの』
そこで一旦切ると、もじもじと手をいじった。
『あたし……、ずっと歌手になりたかったの! あの歌……お兄ちゃんのあのファイルの歌で、あたしを歌手にして!』
その話は忘れろと言っただろうが!!