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画面の向こうのアヤカは仁王立ちしている。見れば見るほどアヤカにしか見えなくて。
「正直信じられない」
アヤカは黙って俺を見ていた。
「何の目的か知らないけど、アヤカのことを知ってるやつがわざわざこんなプログラムを作って送りつけたのかもしれないし」
そんなことをして得になる要素がまったく思いつかないけど。
「でも本物じゃなくても、また会えたなら嬉しい」
それが本音だった。どうしてもっと大事にできなかったんだろう、と何度も思った。それがやり直せるのなら。
「俺の元に来てくれてありがとう」
たとえ偽りだとしても。
『……やめてよね! 素直なお兄ちゃんなんて気持ち悪い!』
アヤカは照れくさそうにそっぽを向いた。そんな顔もアヤカそのもので、俺はやっぱり本物なんじゃないかと思ってしまう。
「でも本物だとしても戻ってきたのなら、その……」
言い淀んだのはアヤカの気持ちを思ったのと、俺のエゴだった。
『なに』
急かされて俺は仕方なく言った。
「……何か、未練があったんじゃないのか?」
アヤカは一瞬ぽかんとした表情を浮かべた。やっぱり言わない方が良かったか? 未練を残したまま死んだなんて不憫すぎる。
『あっはははは!! あたしが? 未練? そんなタマに見える?』
アヤカは笑い続けている。そんなアヤカを俺はじっと見つめた。
『なによ』
「そんな急に死んで未練がない方がおかしいだろうが。俺だったらいっぱいあるぞ。来々軒のラーメンももっかい食いたいし、クリアしてないゲームもあるし、学校のダチとまたサッカーしたいし、なにより……。家族に好きだって伝えたい」
アヤカは真剣な表情になった。やっぱり図星だったんだろう。
『そんなん……』
画面の向こうから小さな呟きが漏れる。
『そんなん言ったって誤魔化さなきゃやってらんないじゃん! こんな状態じゃなにもできないんだし……!』
アヤカの顔が歪む。あぁだから言いたくなかったんだ。アヤカを泣かせたいわけじゃない。
「言ってみろよ。何でも聞くから」
俺にできることなら叶えてやりたい。アヤカはしばらく黙っていた。
『……あたしの部屋に行ってもらってもいい?』