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「アヤとは以前から交流があったんだ」
ロノさんは窓の外を見ていた。俺はカップから視線を上げられずにいた。
何と言えばいいのだろう。実はそうなんです? そんな訳ないじゃないですか?
どちらにしてもアヤカとロノさんに不誠実だ。俺は何も言うことができず、膝をぎゅっと握った。
「いつも動画の感想くれてね。知人にしかいつも感想もらわないから、アヤのことはすぐ覚えたんだよ」
そんな俺に気づいてか気づかずか、ロノさんは淡々と話し続ける。俺はちらりと視線を上げた。ロノさんは相変わらず窓の外に目を向けていて、視線がぶつかることはなかった。
「雰囲気が変わったと思ったのは、私に動画を作ってほしいと言ってきたあたりかな」
そこでロノさんはぱっとこっちを向いた。吸い込まれそうな瞳に俺はドキっとする。最初に会ったときから思っていた。この目は何でも見通してしまいそうな気がする。
「なんてね」
その目がふっと弧を描いた。無邪気な笑みに俺は面食らう。
「まぁ元気にしてるならいいんだ。今日来れないなんて言うからいろいろ勘繰っちゃった」
そう言って目を伏せるロノさんは子を思う親のようで、覚えがあるその感情に俺は何も言えなくなってしまった。
「楽しく歌えてるなら、いいんだよ」
事情は知らずとも、ロノさんも同じ気持ちだったことに安堵して、俺は帰路についた。
帰り道、俺はロノさんとの会話を思い返していた。
ロノさんもアヤのことを気に掛けてくれている。もうそれでいいんじゃないだろうか?
母さんがいつも心ここにあらずでも、父さんが家に寄りつかなくても、もう誰も失わないですむなら現状を変えなくてもいいんじゃないだろうか。
『おかえりー。どうだった?』
部屋のドアを開けた俺に、明るい声が飛び込んできた。画面の向こうには、笑顔のアヤがいる。何も言わない俺に、首を傾げていた。
『えっなぁにー? ロノさんと何かあったの? あたしのロノさんに!』
いつも通りのアヤにほっと胸を撫で下ろす。俺は何を焦っているんだ。
「何が『あたしのロノさん』だ。ロノさん女の人だったよ」
やっぱり、とアヤは笑う。
もう失うなんてまっぴらだ。




