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それから俺たちは、定期的に動画を投稿していった。動画再生回数も徐々に増えてくる。
順調な日々が続いているかに見えた。
「ただいまー」
俺は靴を脱いで玄関を上がる。家の中から返事はなかった。無表情のまま廊下を進む。リビングのドアが少し開いていた。中がちらりと見える。
母さんがいた。ソファに座って、ぼんやりとどこかを見ている。このところ、ずっとこんな感じだ。――アヤカが死んでから。
父さんもいつも仕事で帰りが遅い。家族が、すれ違い始めていた。
俺はそれを見なかったことにして、二階の自分の部屋へ上がった。
『おかえりー。学校どうだった? 今日もぼっち?』
パソコンの中からアヤカがハイテンションに語りかけてくる。
俺は溜め息をつきながら鞄を置いた。
「アヤカ、何度も言うけど俺はぼっちじゃないし、お前が思うほど引きこもりじゃない」
『えー? ぼっちヒキニートキャラでいこうよー』
アヤカはけらけら笑う。その顔を見ていたら、さっきまでの沈んだ気分はどこかへ行ってしまった。
『そういやロノさんからメール着てたよ』
そう言ってアヤカは手紙を差し出してきた。
「おぉ、サンキュー」
渡されたメールを開いてみると、思いもよらないことが書いてあった。
*
待ち合わせには五分前に行った。しかし相手はもうすでに着いていて、俺は慌てて駆け寄った。
「ロノさん、ですよね?」
彼女は顔を上げた。そして小さく頷く。
「アニです。すみません。俺、時間間違えちゃいました?」
ロノさんの黒い瞳が俺を見上げる。
「いや、私が早く来すぎるクセがあるだけだよ」
俺はじっとロノさんを見つめる。ショートカットの黒髪は、ロノさんのイメージどおりだった。
「なに?」
きつい印象を覚える目に見上げられて、俺は一瞬どきっとする。
「あ、いや……。本当に言ったとおりだったなーって。全身真っ黒」
メールにあったとおり、ロノさんは上も下も黒の服だった。目印だと言ってはいたけど、ここまで黒いと本当に目立つ。その整った顔立ちのせいもあるが。
ロノさんは軽く目を伏せる。
「好きなんだよ、黒」
ロノさんは立ち上がる。
「ちょっと歩こうか」




