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妹が可愛いなんて幻想だ。
「もー! なんでもっと早く起こしてくんなかったのよ!」
「起こしたわよー。あんたが起きなかったんでしょ」
可愛く「お兄ちゃん」なんて呼ぶのは二次元の世界で終わってる。
「あっ今日ミカちゃんと遊んでくるから遅くなるから!」
繰り返す。可愛い妹なんて現実ではありえない。
「それからバカアニキ! 学校で話しかけてきたらコロスからね!」
現実の可愛くとも何ともないクソ生意気な妹は、一方的にそう言うとバタバタと出て行った。
「あんたも早く行かないと遅刻するわよ」
部活の朝練がある妹と違って、帰宅部の俺はまだ時間に余裕がある。でも母さんに急かされて、俺は家を出た。
まぁ可愛くないとは言っても家族だし? たった一人の妹だし? 別に嫌いな訳じゃなかったんだ。ちゃんと伝えていれば良かった。
まさかその日、妹が事故で帰らぬ人になるなんて思いもしなかったんだ。
*
飲酒運転、だったらしい。よくある話だ。飲酒運転のトラックが帰宅途中の妹に突っ込んできたという。それを聞いて、父さんはブチ切れて暴れて警察二人掛かりで止められていた。母さんはただ静かに泣き続けていた。俺は。
初七日が終わってもどこか別の世界の出来事のようにしか思えなかった。今に玄関を開けて「ただいまー」なんて帰ってくるんじゃないかって思ってしまう。もうそんなことはあり得ないのに。
俺は一人部屋に戻った。夕暮れ時の部屋は暗み掛かっていて、それでも俺は明かりを点けずにベッドに座った。隣の妹の部屋はしんと静まり返っている。もう友達と電話で話す声や、好きな音楽を掛けて歌っている声は聞こえてこないのか。急に妹の死が現実味を帯びてきた。
堰が切れる――と思った瞬間。
『お、にいちゃん……?』
俺ははっと顔を上げた。なんだこれ。妹のことを考えすぎて幻聴まで聞こえ始めたか。俺は目を閉じて首を振る。妹がいない分、これからは俺がしっかりしてかないといけないのに。
『お兄ちゃん……!』
今度ははっきりと聞こえた。声のする方を見るとパソコンの画面が明々と輝いていて。
『お兄ちゃん! やっと気付いてくれた!』
「アヤカ!?」
大分デフォルメされた妹がそこにはいた。